著者
星野 義延 笠原 聡 奥富 清 亀井 裕幸
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.62-72, 1996-09-15 (Released:2017-04-03)
参考文献数
24
被引用文献数
4

建設残土によって造成された東京湾の臨海埋立地のひとつである大井埠頭の一角にある樹木侵入期の草原において,樹木の侵入と定着についての調査を1986年に行った。調査地はヨシ,セイタカアワダチソウ,チガヤ,オギなどの地下茎で繁殖する風散布型の多年生草本植物の優占する群落が形成されており,樹木はその中に点在していた。樹木個体の分布は電線の下や排水溝がある場所で多くなる傾向が認められ,これらの構造物の存在が調査地の樹木個体を多くしている要因と考えられた。樹高3m以上の樹木の位置は,調査地に設けられている排水溝の近くに分布する傾向が認められた。出現した樹木のほとんどはヤマザクラ,エノキ,マルバシャリンバイ,ネズミモチ,アカメガシワなどの動物被食散布型の樹木であり,調査地への樹木種子の供給は鳥散布によるものが多いと考えられた。電線は鳥類の休息場所となり,電線下は周辺の公園などの植栽樹の種子が多く供給されていた。このような種子供給は都市域の埋立地にみられる特徴と考えられる。また,排水溝の掘削は植物の生育に不適な埋立地の土壌の改良と,栄養繁殖によって広がる多年生草本植物群落の分布拡大を抑制し,樹木が定着し,生育できるサイトを提供するものと考えられた。埋立地に発達する初期の森林群落としては,エノキ林やアカメガシワ林が考えられた。
著者
野崎 玲児 奥富 清
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.57-69, 1990-08-30 (Released:2017-05-24)
被引用文献数
5

Based on a detailed survey of forest distribution, the vegetation structure of the temperate zone in eastern Japan was reexamined in relation to climatic factors, and the natural forest of this zone was divided into three principal types : (1) Fagus crenata forest ; (2) Intermediate-temperate forest (IMTF) ; (3) Upper-temperate forest (UTF). Under an oceanic climate Fagus crenata forest predominated throughout the temperate zone, whereas IMTF and UTF flourished under an inland climate. The geographical boundary between IMTF and UTF was located in the southern part of Hokkaido Island, and the vertical approximately in the middle of the temperate zone along an altitudinal gradient. The geographical differentiation between these two forest types is attributed to a differential response of their dominants to thermal climate, especially during the cold season. Therefore, although previously considered as intrazonal or ecotonal, IMTF and UTF were here recognized as having essentially a zonal character in the context of vegetation structure. In conclusion, the "Intermediate-temperate zone"shows no correspondence with the intermediate zone between the warm-temperate and the cool-temperate, but clearly corresponds to the "lower temperate zone".
著者
星野 義延 笠原 聡 奥富 清 亀井 裕幸
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.62-72, 1996
参考文献数
24
被引用文献数
1

建設残土によって造成された東京湾の臨海埋立地のひとつである大井埠頭の一角にある樹木侵入期の草原において,樹木の侵入と定着についての調査を1986年に行った。調査地はヨシ,セイタカアワダチソウ,チガヤ,オギなどの地下茎で繁殖する風散布型の多年生草本植物の優占する群落が形成されており,樹木はその中に点在していた。樹木個体の分布は電線の下や排水溝がある場所で多くなる傾向が認められ,これらの構造物の存在が調査地の樹木個体を多くしている要因と考えられた。樹高3m以上の樹木の位置は,調査地に設けられている排水溝の近くに分布する傾向が認められた。出現した樹木のほとんどはヤマザクラ,エノキ,マルバシャリンバイ,ネズミモチ,アカメガシワなどの動物被食散布型の樹木であり,調査地への樹木種子の供給は鳥散布によるものが多いと考えられた。電線は鳥類の休息場所となり,電線下は周辺の公園などの植栽樹の種子が多く供給されていた。このような種子供給は都市域の埋立地にみられる特徴と考えられる。また,排水溝の掘削は植物の生育に不適な埋立地の土壌の改良と,栄養繁殖によって広がる多年生草本植物群落の分布拡大を抑制し,樹木が定着し,生育できるサイトを提供するものと考えられた。埋立地に発達する初期の森林群落としては,エノキ林やアカメガシワ林が考えられた。
著者
奥富 清 亀井 裕幸
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.77-87, 1980-12

1. 近年異常に繁殖している自然教育園のシュロの開花・結実個体群, いわゆる成熟個体群の構成について調べた。またそれとの比較のため, 都下府中市栄町のヒノキ・シュロ混植林のシュロについても同じくその成熟個体群の構成を調べた。2. 1980年夏現在, 自然教育園に生育している幹高0.55m以上のシュロの総数は1,060本であった。このうち今までに開花歴のある成熟個体は186本(17.6%)で, それらは小は幹高1.5mクラスのものから大は現存個体中最大の5.2mクラスのものに及んでいる。また, シュロの総個体数に対する成熟個体数の割合は幹高の増大とともに増し, 4.1-4.5mクラスで80%を超える。3. 自然教育園での1980年夏の開花雌株は54本であった。これは各幹高にわたっているが, 幹高の増大に伴なう個体数の増減傾向はみとめられなかった。しかし総個体数に対する割合は幹高の増大に伴なって増加し, 4.1-4.5mクラスで通常の最大期待値である50%に達する。このことは, 自然教育園では今後, 幹高が4.5mを超えるシュロの約半数を種子供給源とみなしてよいことを示している。4. 自然教育園では, 各幹高クラスの成熟個体の割合, 当年開花雌株の割合とも, 林縁生のシュロの方が林内生のシュロよりも高い。5. 上記2〜5にあげた自然教育園のシュロ成熟個体群の構成上の諸傾向は, 府中市のヒノキ・シュロ混植林のシュロに対しても程度の差はあれ当てはまる。6. 1980年に自然教育園で開花した54本のシュロ雌株の種子生産量を概数10,000〜20,000粒と推定した。この数値は不作を示し, その原因として, この年の夏の日照不足・低温とともに, アオバハゴロモ幼虫のシュロ果穂への寄生があげられた。