著者
前山 智弘 北出 理 松本 忠夫
出版者
日本熱帯生態学会
雑誌
Tropics (ISSN:0917415X)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1+2, pp.93-103, 1997 (Released:2009-04-25)
参考文献数
22
被引用文献数
2 3

アリ植物に住みつくアリ以外の生物についての詳細かっ定量的な調査報告はほとんどないが,アリ植物と動物との共生関係を解明するためには,アリ植物内の全動物相の調査が必要である。我々はパプア·ニューギニアのマングローブ林において,着生性アリ植物Hydnophytum moseleyanumの483個体を対象に,その塊茎部の空洞に住みつく全動物相を調査した。その結果,11種のアリに加え39種の動物(昆虫などの節足動物と,ある種のトカゲ)が見いだされた。必ずアリのいる空洞で見つかる種が7種,アリがいる空洞·いない空洞の双方で見つかる種が6種みられたが,その他の全ての種はアリが住みついていない空洞内においてのみ見いだされた。ほとんどの動物種は着生性アリ植物を偏利共生的に利用し,捕食者や乾燥から身を守る隠れ家として使っていると思われる。着生性アリ植物の存在によって,多様で複雑な空間構造が提供され,樹上の動物相の多様性が維持されていると考えられた。
著者
前山 智宏 前川 清人 松本 忠夫
出版者
日本熱帯生態学会
雑誌
Tropics (ISSN:0917415X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.509-517, 2001 (Released:2009-01-31)
参考文献数
21

アカネ科アリノスダマ亜科に属するアリノスダマ類(5属88種)は,ニューギニア島を中心に分布する着生性のアリ植物であり,共生するアリ類との間に緊密な相利共生関係をもつものから共生関係の弱いものまで,様々なな共生関係を示すことが知られている。本研究では,アリノスダマ類の系統関係を明らかにした上で,その進化プロセスの推定を行うことを目的とし,アリノスダマ類4属に属する6種のク口口プラストDNA·atpB-rbcL intergene の塩基配列を決定し,分子系統樹の構築を試みた。その結果,アリとの高度な共生関係をもつMyrmecodia属やMyrmephytum属は偽系統群となり,アリとの共生関係が弱く,また乾性適応が進んだHydnophytum属が派生的分類群である可能性が示唆された。従って,アリノスダマ類の進化を考えると,多雨林で祖先型の着生性植物が,まずアリ類との共生関係を進化させ,その後一部が乾燥地へと進出し,乾燥適応型の形態を持つ種が出てきたと考察される。
著者
松本 忠夫
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

野外調査:昭和62年6月15日から6月21にかけて, 沖縄県の西表島・石垣島・沖縄本島に出かけ, クチキゴキブリ及びオオゴキブリの生息状況調査を行った. 調査項目は, コロニー組成, 天敵相, 巣構造, 生息地の環境条件などであった. この調査には研究補助者として大学院生1名を同行させた. クチキゴキブリのコロニーについては約100ユニット, オオゴキブリのコロニーについては約20コロニーを採取し, その組成を詳細に調べることができた.飼育実験: 現地より採取して実験室に持ち帰った昆虫に関して下記のような行動実験を行った.(1)成虫と子虫の間の行動上の関係:クチキゴキブリの初齢幼虫は自分の親の回りに集まるが, オオゴキブリではそのような傾向を持たない事が分った.(2)成虫の防〓行動/捕食者のムカデに対拠させたところ, クチゴキブリの成虫は積極的に子虫をまもる行動に出るが, オオゴキブリにはそのような性質を持たない事が分った.(3)雌雄の配偶行動/クチキゴキブリ類の〓成虫の雌と雄がペアーを作ったところ, 相互に翅を食い合うという大変特異な行動様式が観察された.(4)子虫の成長/両種とも成虫に至るまで7齢を経る事が分った. また, クチキゴキブリの初齢幼虫は親より隔離すると充分成長できない事が分った
著者
安部 琢哉 KIRTIBUTR N SLAYTOR M KAMBHAMPATI S THORNE B BIGNELL D.E HOLT J 杉本 敦子 武田 博清 山村 則男 東 正彦 松本 忠夫 SLAYTOR Michael THOME Barbara L HOLT John A SLAYTOR M. KIRTIBUTR N. KAMBHAMPATI エス THORNE B. BIGNELL D.E. HOLT J. GRIMARDI D.
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究は、熱帯陸上生態系で植物遺体の分解に大きな役割を果たしてシロアリが、地球規模で適応放散による多様化を遂げた道筋と機構を明らかにすることを目的とする。シロアリにおける(1)微生物との共生による植物遺体の利用、(2)社会性の発達、(3)食物貯蔵・加工の3過程に注目し、これらに系統進化(DNA解析による分子系統や形態や共生微生物に基づく系統進化)および生物地理に重ね、それに理論的な検討を加えた。特にシロアリの多様化の鍵を握る(1)下等シロアリから高等シロアリへの進化、(2)キノコを栽培するシロアリの起源、(3)社会性の進化と多様性について仮説を提出すると共に、(1)空中窒素固定とセルロース・ヘミセルロース分解、(2)土を食べるシロアリの適応放散、(3)シロアリが地球上でのメタン生成に果たす役割について質の高いデータの提出を目指した。(1)下等シロアリから高等シロアリへの進化中生代白亜紀の遺存森林であるオーストラリアのクイーンスランドの熱帯林とそれに隣接する、第三紀に発達したサバンナにおいてシロアリ種組成を比較した。その結果、前者では下等シロアリが、後者では高等シロアリが卓越していた。このことから、高等シロアリが森林でなくサバンナで進化して熱帯林とサバンナで適応放散を遂げたとの新しい仮説の提出しつつある。(2)キノコを栽培するシロアリの起源シロアリ主要グループの分子系統樹を作成して、キノコシロアリが高等シロアリの中で最も古い時代に分化し、下等シロアリのミゾガシラシロアリ科と近縁であることを明らかにすると共に、キノコシロアリ巣内のキノコ培養基とミゾガシラシロアリ科のイエシロアリの巣内構造物の化学組成を特にリグニン含量を比較することにより、シロアリにおける糞食とキノコ栽培の起源に迫りつつある。(3)シロアリにおける社会性の進化と多様性シロアリ地球規模での多様化を微生物との共生と社会性の進化に注目して検討し,これをT.Abe,S.A.Levin & M.Higashi編(1997):Biodiversity(Springer)中で展開した。(4)空中窒素固定、セルロース・ヘミセルロース分解材を食べるコウシュンシロアリでは体を構成する窒素の50%が空中窒素起源であること、しかし土を食べるシロアリでは空中窒素固定能が低いこと、また下等シロアリでも共生原生動物だけでなくシロアリ自身もセルロースやヘミセルロースを分解する酵素を作ることなど、これまでの常識をくつがえすデータを次々を提出した。(5)土を食べるシロアリの適応放散過程カメルーンの熱帯林で土壌食シロアリの安定同位体分析と腸内容物分析を行い、土食いへの指標として安定同位体比が有効であることを明らかにした。次いでオーストラリアでシロアリ亜科のシロアリの土食いへの進化過程を安定同位体分析、セルロースが分解酵素の活性分析、ミトコンドリアDNAを用いた系統解析から解明し、Termesグループで土食いへの進化が一回起こったことを示した。またTermesグループがアメーバと共生関係を持つことを明らかにした。(6)生態系におけるシロアリの役割シロアリの代表的なグループにおけるメタン生成のデータを実験室で集めると共に、タイの森林で野外調査を行った。シロアリが地球上でのメタン生成に果たす役割についての精度の高い答えを出しつつある。(7)「シロアリの多様化プロセス」ワークショップ世界中の関連分野の研究者を招き、シロアリ研究の現在までの成果をまとめた教科書を編集する目的で国際ワークショップを1997年3月に開催した。