著者
安田 正次 大丸 裕武 沖津 進
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.13, pp.842-856, 2007-11-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
25
被引用文献数
7 7

近年, 群馬県と新潟県の境にある平ヶ岳頂上部の湿原が縮小しているとの報告がある. そこで, 平ヶ岳湿原の面積の変化を航空写真より検出した. 航空写真補正用ソフトおよびGISソフトを用い, 航空写真をオルソ画像化して歪みを取り除き, 面積の算出を行った. その結果, 1971年から2004年までの33年間で湿原面積は10%縮小していた. 湿原が顕著に縮小している部分において植生調査を行った結果, 湿原内部ではハイマツを中心としたパッチ状の群落が侵入し, 面積の変化が大きい湿原縁部ではチシマザサが優占する群落が侵入していた. ハイマツとチシマザサの湿原への侵入の様子とその生態的特性を検討したところ, ハイマツは湿原へ先駆的に侵入して植生変化のきっかけとなり, 面積の変化にはチシマザサがより大きく寄与していた. こうした植生の変化は, 湿原の生成, 維持に関わっている積雪量が減少したことが原因であると考えられた.
著者
安田 正次 沖津 進
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.10, pp.503-515, 2006-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
56
被引用文献数
2 1

近年,上越国境山岳域で積雪量が減少しているという報告がなされている.この地域中央にある平ヶ岳では積雪量の減少によると考えられる植生の変化が確認されている.しかし,この地域では気象観測がほとんど行われていなかったため,積雪量の経年的変動は明らかになっていない.そこで,平ヶ岳における過去から現在に至る積雪量の変動を,低標高域の観測点の観測記録より推測した.その結果,平ヶ岳における積雪量は長期的に減少傾向にあることが明らかとなった.積雪量変動の要因を各気象要素から検討した結果,各年の積雪量は日本付近における冬型気圧配置の出現頻度に応じて増減していることが明らかとなった.長期的には冬型気圧配置出現頻度は漸増しているが,現実には積雪は減少傾向にある.この原因として冬期の気温が上昇傾向にあることが挙げられた.そして,気温だけでなく,上空の寒気の温度も上昇していることが明らかとなったド以上より,積雪量が減少しているのは,冬期の気温および上空の寒気の温度が上昇しているためであると考えられた.
著者
安田 正次 大丸 裕武
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.1, pp.1-16, 2014-01-01 (Released:2018-03-22)
参考文献数
25

奥利根・奥只見の中央に位置する平ヶ岳の山頂周辺に分布する湿原は,多雪による多湿化によって成立したとされてきた.しかし,実際の調査データに基づいて湿原の成立を検討した研究はなく,湿原の形成要因は不明瞭なままであった.本研究では,湿原の分布と夏期の積雪の分布との対応を,衛星写真および現地調査によって詳細に検討した.また,積雪の分布に影響を与える冬季の風向を,偏形樹と雪庇から調査した.これらの調査の結果,積雪と湿原の分布は一致しており,積雪による日光の遮断や低温・湿潤な環境のために,樹木が生育できず湿原となっていることが確かめられた.湿原の一部では乾燥地に適応した植物種が認められたが,それらは冬季の強い風によって積雪が吹き飛ばされて積雪が消失するのが早い場所に成立していることが明らかとなった.こういった場所では,冬期に積雪による保護効果が得られないために乾燥害が起きて樹木が生育できないと考えられる.
著者
安田 正次 沖津 進
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.12, pp.709-719, 2001-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1 3

上越山地平ヶ岳頂上部の湿原において乾燥化に伴う非湿原植物の侵入を明らかにするため,湿原とその周囲の植生分布を調査した.湿原の境界域にはハイマッとチシマザサが分布し,それらは湿原に侵入していた.まずハイマッが湿原内に侵入し,それがその後にチシマザサが侵入可能な環境を形成すると推察された.チシマザサは湿原の乾燥化を助長させていると考えられた.以上から,湿原に侵入したハイマッは後にチシマザサなどの植物に生育場所を奪われる先駆的植物と推定された.同時にチシマザサの侵入により非湿原植物の侵入がさらに進むと推測された.
著者
安田 正次 沖津 進
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.43-47, 2001-03-31
被引用文献数
5

群馬・新潟県境に位置する平ヶ岳湿原が乾燥化していることが近年報告されている.その原因を探るため,現地に近い十日町・水上・片品の3地点の積雪深の経年変動を比較検討した.その結果,1970年代後半から片品の積雪深が減少していることが明らかになった.冬季の季節風の向きから,平ヶ岳は片品の風上にあり,積雪状況が片品と連動していると考えられるので,平ヶ岳も片品と同様に積雪深が減少していると推測された.一方,片品の積雪深の減少と同じ時期から水上の積雪深の増加が認められた.積雪深の減少の原因は,降雪をもたらす雪雲が水上方面に偏在したために,片品方面で降雪が少なくなったためと解釈された.この降雪量の減少が原因となり,平ヶ岳の湿原の乾燥化が起こっていると考えられた.