著者
田中 利彦 高橋 啓二 沖津 進
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.9-18, 1985-12-30

柏市内に島状に残存するスギ林の面積・構造と鳥類相の関係を繁殖期と越冬期に線センサス法(鳥類調査) , べルトトランセクト法(森林構造調査)で調査検討した。その結果,繁殖期には12種,越冬期には23種,合計26種が確認された。その中には都市域では比較的稀なルリビタキ,ヤマシギ,ヤマガラ,サンコウチョウも含まれている。鳥類種数は森林面積の増大に伴って増加するが繁殖期よりも越冬期に増加率が高い。また,森林構造や植物種が複雑なほど鳥類種数は増加する傾向が認められた。さらに各鳥種ごとに森林構造との結びつきを検討した結果,関連のあるものも認められ,鳥種ごとにその環境評価は異なっていた。
著者
安田 正次 大丸 裕武 沖津 進
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.13, pp.842-856, 2007-11-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
25
被引用文献数
7 7

近年, 群馬県と新潟県の境にある平ヶ岳頂上部の湿原が縮小しているとの報告がある. そこで, 平ヶ岳湿原の面積の変化を航空写真より検出した. 航空写真補正用ソフトおよびGISソフトを用い, 航空写真をオルソ画像化して歪みを取り除き, 面積の算出を行った. その結果, 1971年から2004年までの33年間で湿原面積は10%縮小していた. 湿原が顕著に縮小している部分において植生調査を行った結果, 湿原内部ではハイマツを中心としたパッチ状の群落が侵入し, 面積の変化が大きい湿原縁部ではチシマザサが優占する群落が侵入していた. ハイマツとチシマザサの湿原への侵入の様子とその生態的特性を検討したところ, ハイマツは湿原へ先駆的に侵入して植生変化のきっかけとなり, 面積の変化にはチシマザサがより大きく寄与していた. こうした植生の変化は, 湿原の生成, 維持に関わっている積雪量が減少したことが原因であると考えられた.
著者
安田 正次 沖津 進
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.10, pp.503-515, 2006-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
56
被引用文献数
2 1

近年,上越国境山岳域で積雪量が減少しているという報告がなされている.この地域中央にある平ヶ岳では積雪量の減少によると考えられる植生の変化が確認されている.しかし,この地域では気象観測がほとんど行われていなかったため,積雪量の経年的変動は明らかになっていない.そこで,平ヶ岳における過去から現在に至る積雪量の変動を,低標高域の観測点の観測記録より推測した.その結果,平ヶ岳における積雪量は長期的に減少傾向にあることが明らかとなった.積雪量変動の要因を各気象要素から検討した結果,各年の積雪量は日本付近における冬型気圧配置の出現頻度に応じて増減していることが明らかとなった.長期的には冬型気圧配置出現頻度は漸増しているが,現実には積雪は減少傾向にある.この原因として冬期の気温が上昇傾向にあることが挙げられた.そして,気温だけでなく,上空の寒気の温度も上昇していることが明らかとなったド以上より,積雪量が減少しているのは,冬期の気温および上空の寒気の温度が上昇しているためであると考えられた.
著者
沖津 進 百原 新
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.137-145, 1997-03-28
被引用文献数
5

1.我が国におけるチョウセンゴヨウの分布を既存資料に基づき整理し,北東アジア大陸部での分布と比較してその特徴を明らかにした.2.水平分布は本州中部地方にほぼ限られ,四国に僅かに隔離分布する.垂直分布は,標商1800m以上の亜高山帯に分布地点の73%が集中し,1800m以下の山地帯には少ない.3.同じような水平分布範囲を示すシラベやトウヒと比較して産地数はかなり少ない.また,ほとんど優占林を作らず,分布しても分布量は少ない.4.北東アジア大陸部では,チョウセンゴヨウは沿海州から中国東北地方,朝鮮半島北部にかけての広い範囲で量的に多く分布し,優占林を形成し,落葉広葉樹と混交してチョウセンゴヨウ-落葉広葉樹混交林を作るとともに,垂直分布の上からは常緑針葉樹林帯の下部の山地帯が分布の中心となってしいる.5.北東アジア大陸部での分布と比較すると,我が国のチョウセンゴヨウは,垂直分布域の下部を山地帯性の樹種に占拠された形になっており,そこでは分布が消えるか,ごく局限された状態で,亜高山域に追い上げられた形となっている.
著者
沖津 進
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.72, no.7, pp.444-455, 1999-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
50
被引用文献数
1 1

八ヶ岳西岳の南西斜面標高1,900m付近にはミズナラ,チョウセンゴヨウ,カラマツの3種が混交する,日本列島では特異な樹種構成の森林が分布している.ここでは,その林分構造を紹介し,日本列島の森林植生変遷史を理解する上でこの混交林が重要な位置にあることを指摘する。胸高断面積比ではミズナラが最も優占し,チョウセンゴヨウは小径木が多い.カラマツは大径木が主体だが,小径木もある程度存在する.この混交林では優占3樹種がほぼ順調に更新している.このタイプの森林は日本列島ではほかには分布しない.一方,北東アジア大陸部ではこれと類似の森林が分布する.最終氷期の寒冷,乾燥気候条件下では中部日本にもこの混交林と類似する森林が分布していたと考えられる.その後の温暖,湿潤化に伴い,現在の位置に限定分布するに至ったと推察される.八ヶ岳西岳の南西斜面は現在でも比較的寒冷,乾燥気候下にあり,大陸型森林のレフュジーアとなり得る地域である.
著者
小川 滋之 沖津 進
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.74-84, 2011-01-01 (Released:2015-01-16)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

日本列島のヤエガワカンバ林は本州中部と北海道の一部に分布するが,分布を規定する要因には未解明な点が多い.本研究では,埼玉県外秩父山地において地すべり地の微地形と表層土壌に着目してヤエガワカンバ林の分布要因を検討した.ヤエガワカンバは,地すべりにより形成された緩斜面に多く,この中でも礫質土となる区域に集中して分布していた.礫質土区域は,数十年周期で発生する地すべりに由来する土砂礫が堆積した区域であり,外秩父山地で主要優占種となるコナラやミズナラの侵入が少なく抑えられている.地すべり地におけるヤエガワカンバの分布は,地すべりで緩斜面が形成されることにより,種子や実生が流失することなく定着しやすいことや,数十年周期で発生する地すべりにより開放地が形成されることが要因として考えられる.ヤエガワカンバは,この開放地にいち早く侵入して生長速度の速さから林分を形成していると結論付けた.
著者
小林 真生子 齊藤 毅 沖津 進
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.117, no.11, pp.632-636, 2011-11-15 (Released:2012-03-18)
参考文献数
18
被引用文献数
1 2

埼玉県の松山層群に属する中新世の楊井層は大型植物化石を多く産出する.楊井層の年代を明らかにすることは,同時代の植物化石フロラを比較し,日本の中新世の古植生を復元するうえで重要である.そこで,楊井層の2つの凝灰岩の中に含まれるジルコンでフィッショントラック年代を測定した.その結果,楊井層の最下部凝灰岩(Y-1凝灰岩)のフィッショントラック年代は9.1±0.7 Ma,最上部凝灰岩(Y-9凝灰岩)のフィッショントラック年代は9.6±1.3 Maであった.これらの結果から,楊井層は後期中新世の地層であると考えられる.楊井層の植物化石フロラは群馬県の上部板鼻層の植物化石フロラに年代が近いと考えられる.両植物化石フロラを比較すると,楊井層には山地に生育する植物種の化石は含まれていなかったが,上部板鼻層の植物化石群には山地の植生を構成する種が含まれていた.楊井層の植物化石は板鼻層よりも山地から遠い場所で堆積したと考えられる.
著者
小林 真生子 那須 智子 Greenthumb B. 沖津 進
出版者
千葉大学園芸学部
雑誌
食と緑の科学 (ISSN:18808824)
巻号頁・発行日
no.67, pp.35-42, 2013-03

近年,海岸部の埋め立て地域は工場や港湾施設の他に,千葉県千葉市の海浜幕張地区や千葉県浦安市,東京都品川区のように,住宅地としても利用されている。これらの地域は高層住宅や商業施設が建設され,人口が密集する地域でもある。人工的な埋立地では,樹木を植栽しなければ緑がなく,街路樹の重要性は,斜面林や社寺林や屋敷林などが残る内陸部の非埋立地よりも大きいといえる。海岸部の街路樹は,潮風を緩和したり,埋立地の景観を改善したりするうえで重要である。本研究では,千葉県千葉市の海岸部埋め立て地域に植栽された針葉樹1種と広葉樹9種の街路樹の10年間の生育状態の調査結果を報告し,関東地方の海岸部埋め立て地域の街路樹種として適する樹種を考察した。
著者
杉村 康司 沖津 進
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.33-48, 2009-06-25 (Released:2017-01-06)
参考文献数
51

1. 茨城県筑波山のスギ・ヒノキ人工林を対象に,コケ植物の分布と微地形との関係を明らかにするため,植生調査を行った.コケ植物の分布と顕花植物ならびにシダ植物の分布を比較し,それらをもとにスギ・ヒノキ人工林内におけるコケ植物の地形分布と種多様性における微地形の生態的意義を検討した.  2. 微地形条件に対応した種の割合は,コケ植物,シダ植物,顕花植物の順に多かった.特に,谷底面のみに出現した種はコケ植物が多かった.微地形との対応関係はコケ植物,シダ植物,顕花植物の順に明瞭であった.  3. 各微地形のコケ植物,シダ植物,顕花植物の平均出現種数は,頂部平坦面,頂部斜面,上部谷壁斜面,下部谷壁斜面,麓部斜面,谷底面の順に増加していた.各微地形間における有意差は,コケ植物,シダ植物,顕花植物の順に明瞭であった.  4. コケ植物の地形分布は,顕花植物よりもシダ植物の地形分布と類似していた.5.スギ・ヒノキ人工林における植物の分布は,流路からの距離の違いに伴って谷底面,麓部斜面,下部谷壁斜面,上部谷壁斜面,頂部斜面,頂部平坦面と変化する微地形条件を反映していると考えられた.  6. スギ・ヒノキ人工林における種多様性の維持にとって,谷底面が最も重要性が高く,谷底面のみに出現するコケ植物種群の役割が大きいことが明らかになった.
著者
沖津 進
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.791-802, 1984-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
63
被引用文献数
5 3

There has been a discrepancy between the European view of the term “alpine” zone and the Japanese one. European researchers consider orthodoxically the alpine zone as a tree-less area covered with ericaceous dwarf shrubby cushion plants between the timberline at its lower limit and the climatic snow line at its upper limit. Japanese researchers have traditionally reckoned the alpine zone as an area covered with the extension of the Pinus pumila thickets admixing many alpine-boreal elements above the forest limit. Japanese phytosociologists have recently payed attention to such a traditional Japanese view of the alpine zone. The author is much interested in this problematic usage of the term “alpine”; in the present study, an approach is made to this subject through his own research on the ecology of the P. pumila thickets carried out in Mts. Taisetsu, Central Hokkaido. Compared with the European alpine communities with those of Japan, it is clear that the latter is fundamentally different from the former because of the well-establishment of the P. pumila thickets rich in boreal forest elements and the high productivity of P. pumila itself which is nearly equal to that of the Abies-Picea forest. Thermally, WI of the area occupied by the P. pumila thickets is no less than WI=15 that has been considered to coincide with the northern forest limits. Further, P. purnila thickets differ fundamentally from the conifer krummholz which is highly popular to the European high mountains though the thickets look like the krummholz forms. The latter forms the component of the forest while the former never forms the forest. The author concluded that the traditional definition of the “alpine” zone in Japan should be abandoned, and that the P. pumila thicket belongs essentially to the upper part of the forest zone in the vertical distribution. Another conclusion is that the so-called alpine zone occupied with the extension of the P. pumila thickets in Japanese high mountains as well as at Mts. Taisetsu does not strictly correspond to the krummholz zone at the upper part of the forest zone in European high mountains The Japanese alpine zone is a unique and independent vegetational zone, and it is not the fragment of the forest zone such as the conifer krummholz zone in Europe.
著者
沖津 進
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.129-139, 1997
参考文献数
32
被引用文献数
9

&nbsp;&nbsp;1.シホテーアリニ山脈北部を西流するアニュイ川流域の森林植生を,主要林冠優占種の変化に着目して,上流部から下流部にかけて300kmに渡ってゴムボートで川下りしながら観察した.アニュイ川流域はこれまで詳しい植生状況がほとんど知られていなかった地域である. <BR>&nbsp;&nbsp;2.林冠優占種に基づいて区分すると,移行帯も含めて以下の4タイプの森林帯が上流から下流に向かって識別できた : グイマツ優占林帯,エゾマツ優占林帯,チョウセンゴヨウ-エゾマツ-トウシラベ林帯,チョウセンゴヨウ-落葉広葉樹混交林帯.樹木分布の上での大きな特徴はチョウセンゴヨウが広い範囲に渡って量的に多く分布し,最も主要な森林構成種となっていることである. <BR>&nbsp;&nbsp;3.北東アジアの水平分布と対応させると,アニュイ川流域の森林垂直分布の特徴は,水平的には接しているチョウセンゴヨウ-落葉広葉樹混交林とグイマツ優占林との間に,エゾマツ優占林が割り込んでいることである.このことの背景として,アニュイ川が流れるシホテ-アリニ山脈の西側は地勢的に大陸部の平地から沿岸部の山岳域に移り変わる地域に当たり,大陸部では欠けているエゾマツが現れ出すことが挙げられる. <BR>&nbsp;&nbsp;4.アニュイ川流域の森林分布を北海道の森林分布と比較すると,エゾマツ優占林が共通する以外は,両者はかなり異なり,北海道の方がより複雑である.これは,北海道が海洋性気候の影響を受けていることによるものと推察される. <BR>&nbsp;&nbsp;5.アニュイ川流域のチョウセンゴヨウ-落葉広葉樹混交林は我が国における最終氷期以来の植生変遷を理解する重要な鍵となるものである. <BR>&nbsp;&nbsp;6.最後に,アニュイ川流域の森林を慎重に保護することの重要性を指摘した.
著者
安田 正次 沖津 進
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.12, pp.709-719, 2001-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1 4

上越山地平ヶ岳頂上部の湿原において乾燥化に伴う非湿原植物の侵入を明らかにするため,湿原とその周囲の植生分布を調査した.湿原の境界域にはハイマッとチシマザサが分布し,それらは湿原に侵入していた.まずハイマッが湿原内に侵入し,それがその後にチシマザサが侵入可能な環境を形成すると推察された.チシマザサは湿原の乾燥化を助長させていると考えられた.以上から,湿原に侵入したハイマッは後にチシマザサなどの植物に生育場所を奪われる先駆的植物と推定された.同時にチシマザサの侵入により非湿原植物の侵入がさらに進むと推測された.
著者
沖津 進
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.555-573, 1993
被引用文献数
8

チョウセンゴヨウ-落葉広葉樹混交林は北東アジアに広く分布するにもかかわらず,これまで日本ではあまり着目されていなかった.ここでは,その分布や構造をシホテ・アリニ山脈での観察と文献資料に基づき紹介し,植物地理的な位置づけを議論した.その結果をもとに,北海道の針広混交林の成立と位置づけを展望した.<br> チョウセンゴヨウ-落葉広葉樹混交林は,北海道と樺太南部を除く汎針広混交林帯(Tatewaki, 1958)のほぼ全域に普遍的に分布し,針広混交林の代表的なタイプとなっている.この林はマツ属樹木が主体であるにもかかわらず構造的に安定しており,極相林タイプである.チョウセンゴヨウ-落葉広葉樹混交林は移行帯的性格ではなく,独立した森林タイプとみなせる.一方,北海道の針広混交林はトドマツ,エゾマツと落葉広葉樹の混生から成り立っており,チョウセンゴヨウが欠落したかたちとなっている.北海道の針広混交林の成立は後氷期以後のきわめて新しい時代であり,またそれは落葉広葉樹林帯と針葉樹林帯との間を覆う移行帯的性格の強い森林であると考えられる.
著者
百原 新 工藤 雄一郎 沖津 進
出版者
千葉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

最終氷期から現在までの栽培植物を含む植物群の分布域変遷におよぼした人為的影響を明らかにすることを目的に,全国の遺跡調査報告書に記載されている種実類や葉などの大型植物遺体出土記録をデータベース化した.国立歴史民俗博物館に収蔵されている,全国の遺跡発掘報告書を閲覧・入力し,約63,000件の大型植物遺体データが得られた.その結果,カジノキなどの栽培植物やコナギなどの雑草類の大陸から日本への伝播時期や,スギやイチイガシ等の有用樹種の日本の中での地理分布変遷が明らかになった.
著者
杉村 康司 沖津 進
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.113-124, 2002
被引用文献数
2

&nbsp;&nbsp;1.茨城県筑波山の森林を対象に,落葉と岩の被覆率の違いに着目して設定した調査地点ごとに林床蘇苔類の分布状況を調査し,上層植生,落葉,岩と蘇苔類の分布様式との関係を総合的に検討した. <BR>&nbsp;&nbsp;2.低山帯の林床に出現する蘇苔類の種類や種数は,高木層まで発違した森林植生であれば,高木層の高さや植被率あるいは森林タイプの違いにより大きく変化することはなかった. <BR>&nbsp;&nbsp;3.落葉の被覆率が低く,岩の被覆率が高い林床では,蘇苔類の出現種数が多かった.逆に落葉の被覆率が高く,岩の被覆率が小さい林床では,出現種数が少なかった. <BR>&nbsp;&nbsp;4.落葉に被われにくい岩は,林床蘇苔類にとって最も重要な生育環境を提供していた.特に大きな岩が存在することが,林床蘇苔類の分布にとって重要な条件となっていた. <BR>&nbsp;&nbsp;5.低山帯における岩上においても,大きな岩では生育形数が増加し,階層構造が複雑化していた. <BR>&nbsp;&nbsp;6.低山帯における林床蘇苔類の種多様性は,岩の分布量,特に大きな岩の分布量により規定されていた.
著者
野手 啓行 沖津 進 百原 新
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.236-244, 1999-08-16
被引用文献数
2

ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの生育立地の特性を, それらと混生する樹種の立地と比較することにより明らかにした。赤石山脈北西部巫女淵山中(標高1,300〜1,800m)の64地点で, 四分法調査, 斜面傾斜と露岩被度の計測, 実生調査を行った。64地点全体における胸高断面積合計比ではコメツガが25%で最も優占し, ウラジロモミが続いた。ヤツガタケトウヒとヒメバラモミは, いずれも14%程度を占めるにすぎず, 分布が斜面傾斜36°以上, 露岩被度31%以上の岩塊急斜面にほぼ限られた。これに対し, コメツガの分布は斜面傾斜, 露岩被度に関係なく一様であった。ウラジロモミは露岩被度20%以下の腐植土が被覆する立地に集中した。一方, 実生についてみると, ヤツガタケトウヒとヒメバラモミは母樹周辺の露岩面上に集中した。コメツガは腐朽倒木・根株上に, ウラジロモミは腐植土面上にそれぞれ多かった。以上より, ヤツガタケトウヒとヒメバラモミは, 種子散布が母樹周辺に限られることと実生の定着が露岩面上にほぼ限られることによって, 岩塊急斜面以外の地形では個体群の維持が困難であると考えられた。
著者
沖津 進
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.25-35, 1996
被引用文献数
7

&nbsp;&nbsp;1.サハリン南部に分布するエゾマツ-トドマツ林に焦点を当て,その量構成や組成,植生地理学的位置づけ,成立機構を,現地調査結果に既存の文献資料を併せて考察した. <BR>&nbsp;&nbsp;2.サハリン南部では針広混交林が主体と従来から言われてきたが,実際には,エゾマツ-トドマツ林が優占し,落葉広葉樹はわずかに点在するのみである.エゾマツ-トドマツ林の量的構成や組成は北海道のものとよく類似する. <BR>&nbsp;&nbsp;3.シュミット緑はフロラの境界としては重要で,それ以南のサハリン南部は植物区系的には北海道と同様である.しかし,森林相観の面からは,サハリン南部は低地から常緑針葉樹林が優占することが特徴で,このことが北海道とは大きく異なる.なお,シュミット線以北のサハリン北部は南部とはフロラ,森林相観ともに異質の地域で,グイマツ林が優占することで特徴づけられる. <BR>&nbsp;&nbsp;4.サハリン南部のエゾマツ-トドマツ林は北東アジアでは珍しい,低地に広がる常緑針葉樹林で,北半球に広がる常緑性の亜寒帯針葉樹林と相同の植生と見なすことができる.いっぽう,北東アジアでは,基本的には,低地の亜寒帯針葉樹林は落葉性のカラマツ林が主体である.そのため,北東アジアの亜寒帯は,北米大陸やヨーロッパの北部や西シベリアの低地と植生地理学的に全く相同とはいえない. <BR>&nbsp;&nbsp;5.サハリン南部のエゾマツ-トドマツ林は,宗谷海峡における落葉広葉樹の衰退,および,シュミット線以北におけるトドマツの衰退に対して,エゾマツが一定の生長量を確保していることが重なり合った結果,成立したものである.北東アジアに限っていえば,北に分布するグイマツ優占林と南に分布する針広混交林との間に現れたものである.
著者
沖津 進
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.113-121, 1985-03-30
被引用文献数
5

OKITSU Susumu (Dept. Biosystem Management, Div. Env. Conservation, Grad. School of Env. Sci., Hokkaido Univ., Sapporo). 1985. Consideration on vegetational zonation based on the establishment process of a Pinus pumila zone in Hokkaido, northern Japan. Jap. J. Ecool., 35 : 113-121. The characteristic features and process of establishment of the Pinus pumila zone in Japanese high mountains were explained, and their ecological significance was discussed in relation to that of the vegetational zones, including both vertical and horizontal ones. The P. pumila zone is a unique vegetational zone which is not an extension of the forest zone regarded as the timberline ecotone, nor is it dependent on the Kira's Warmth Index 15. The P. pumila community invades into high mountain areas, which are forest areas under thermal conditions but become deforested by strong winds and heavy snows in winter, and finally, extends into the areas and forms the P. pumila zone there. The horizontal counterpart of this zone is the Larix dahurica forest zone in eastern Siberia, and P. pumila is presumed to have been a remnant element of L. dahurica forest in the Last Ice Age, and to have established its own vertical zone in high mountain areas of Japan after the last Ice Age.
著者
沖津 進 高橋 啓二 池竹 則夫
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.149-155, 1985-12-25
被引用文献数
1

東京都西郊の多摩ニュータウン付近で,落葉広葉樹二次林中のコナラの種子生産を,16本を伐倒し,着果種子を直接数えることによって調査した.1.伐倒木のD. B. H.は8cmから37cmで調査地付近の林冠構成木のほぼ最小から最大までを含んでいた.これらの総健全果数はゼロから878個におよんだ.2.総健全果数は個体ごとに大きく異なり,また,D. B. H.,幹長,樹齢,樹冠投影面積とは明瞭な相関関係は認められなかった.樹冠投影面積1m^2当りの着果数はゼロから54.2個であったが,同じく個体間の差異は大きかった.3.個体ごとの総健全果数は年平均直径成長と大まかながら相関関係が認められ,直径成長の良い個体ほど着果数が多くなる傾向がある.4.枝ごとの着果も枝ごとに差異がみられたが,相対枝順位と枝直径との組み合わせである程度の傾向がみられた:同一順位の枝では太い枝のほうが着果が良かった;直径8cm以下の枝では同程度の直径の枝の場合上位の枝のほうが着果が良かった;直径8cm以上の大枝ではむしろ下位の枝のほうが着果が良くなる傾向にあった.5.枝方位別では南や西向きのものが,北や東向きのものに比べてやや着果が良かった.6.以上のようにコナラ種子生産は個体間や同一個体の枝間で大きく異なるため,小数の種子トラップからの種子生産量の推定は危険であると考えられる.