著者
辻原 万規彦 岡本 孝美 今村 仁美
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.195-206, 2007 (Released:2018-01-31)

本研究では,まず,第二次世界大戦の終戦前の約30年間に亘って日本の統治下にあった旧南洋群島で,当時,日本人が建設した官舎と社宅の実態を,日本国内と米国で所蔵されている図面類と現地調査の結果を用いて,明らかにしようとした。次いで,同時代の旧植民地諸地域を含む日本国内の官舎や社宅に関する先行研究を網羅して比較することによって,南洋群島における官舎や社宅の特質を考察し,日本の住宅供給の歴史的な経緯の中での位置付けを行おうとした。その結果,熱帯性の気候に対処するための工夫を中心に,他の旧植民地諸地域を含む日本国内の官舎や社宅では見られない特質を指摘することができた。
著者
原田 陽子 北岡 直子 大森 直紀 石井 清己
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.405-416, 2007 (Released:2018-01-31)

本研究は,4つの初期大規模住宅団地(千種台団地,香里団地,千里NT,高蔵寺NT)を取り上げ,各地区の条件を整理しつつ,再生事業の内容や居住者属性について横断的視点から特性把握を行った。また,昭和40年代以降に開発され,既存住戸活用による再生事業に取り組んでいる高蔵寺NTを対象として,地区別の空き家状況と居住者特性の把握,住み替え世帯の類型化を行った。これらの結果をもとに,今後の大規模住宅団地の再生課題を整理し,その展開可能性を示した。
著者
小林 克 堀内 秀樹 岩下 哲典 金田 明美 小川 保
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.337-348, 2008 (Released:2018-01-31)

オランダ各都市・アユタヤ・ゼーランディア・平戸・長崎(出島)から出土した資料をサンプリングし,胎土分析を行った。この結果,黄色レンガは,オランダ地域からアジア各地にもたらされた可能性が高いこと。平戸・長崎(出島)出土の赤色レンガの多くは台南地域からもたらされた可能性が高いことが明らかになった。更に日本の瓦と同質のレンガが平戸と出島から確認され,日本人によりレンガが生産されていたと考えられる。オランダ式桟瓦も,タイ・アユタヤのオランダ人居住地と,インドネシア・バンテン遺跡からも発掘されていた。アユタヤで確認されたオランダ式桟瓦については,アムステルダム出土桟瓦との比較を行ったが,明確な差異は確認出来なかった。
著者
伊藤 瑞恵 藤井 恵介 藤原 重雄
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.207-216, 2005 (Released:2018-01-31)

南北朝期に編纂された,青蓮院流の記録集である『門葉記』は,中世建築指図を多数含む,中世建築史上重要な史料である。青蓮院に尊円親王自筆本を主とする原本州伝来しているが,流布している図版は写本によるものであるため,原本図版による指図集を作成し,指図研究の基礎史料とする。『門葉記』修法記録のデータベースを作成し,図版整理に活用する。同じく代々青蓬院門主に伝領されてきた『吉水蔵聖教』についても,指図を抽出し,図集を作成する。『吉水蔵聖教』指図と『門葉記』指図とを比較し,両者の書写関係を明らかにすることによって,『門葉書割の指図作成過程を考察し,『門葉記』の指図の特徴を多角的に論じる。
著者
大場 修 陳 雲連
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.423-434, 2010

本論は,上海租界の都市形成過程を踏まえつつ,近代上海における日本人居住地の形成過程と空間的特徴を,英,米,中との国際関係の中で明らかにした。まず,日本が独自の居留地を諦め,租界全域に渉る都市開発権を得た過程を辿った。日本は英米施設との立地関係,交通条件や地価等に応じた都市施設配置を進めたが,結果として上海の日本人居住地の確保は後回しにされた実態を明確にした。一方,日本人居住地では,英米が供給ずる里弄住宅を主体とする借家居住に終始したことを,租界外の北四川路地区の住宅遺構等の調査を通して示した。その住宅形式は洋風ではあったが,畳を持ち込む等の動向もそこに読み取った。
著者
長谷川 兼一 吉野 博 池田 耕一 柳 宇 熊谷 一清 三田村 輝章
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.345-357, 2009 (Released:2018-01-31)

児童のアレルギー性疾患の有症率が全国的に上昇していることを背景に,居住環境との関連性を明らかにするために,疫学的な調査デザインを行い,全国規模の調査を実施した。その結果,(1)全国的にアレルギー性疾患の有病率は高く50%前後であり,特に,アレルギー性鼻炎の有病率が最も高いこと,(2)アレルギー性疾患の原因として花粉,ダニ,ハウスダストの割合が高いこと,(3)児童のアレルギー性症状は室内環境要因に関連があり,特に,湿気が多い状態(ダンプネス)と各症状とに有意な関連性が示され,結露やカビの発生が結果として児童のアレルギー性疾患の発症に影響している可能性があること,などがわかった。
著者
梅宮 弘光 矢代 眞己 大川 三雄 土崎 紀子 野沢 正光 堀越 哲美 米山 真理子
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.265-276, 2007 (Released:2018-01-31)

山越邦彦は,1930年代に設計した2つの実験住宅において,次のような当時における新しい技術を導入した。1)将来の生活変化に対応可能な住宅建築のための乾式構造(トロッケンバウ),2)生理学に基づいた快適環境を実現する輻射熱暖房(床暖房),3)住人を生態系に位置づける循環型住宅諸設備(浄化槽,メタンガス発生装置等)。これらは,生活の快適性を介して人間の生命現象に密接に関係するものであり,その試みは,人間疎外につながる近代化に対してオルタナティブな近代建築像を提示しようとするものだったと考えられる。ここに,山越のアヴァンギャルドとしての姿勢をみることができよう。それはまた,今日さまざまな環境問題に直面している私たちにとって示唆に富む。
著者
小沢 朝江 波多野 純 黒津 高行 須田 英一 野口 健治 石丸 悠介
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.159-170, 2007 (Released:2018-01-31)

本研究は,南関東・東海・中部地方の土蔵造町家の普及実態を明らかにするとともに,その特徴の差異や導入背景の検討により,土蔵造町家の平面・意匠と導入形態の関連を明らかにすることを目的とする。土蔵造町家は,従来「江戸型」とも呼ばれ,江戸(東京)から各地に伝播したとされるが,近代には松本(長野)等で都市防火政策による計画的な土蔵造の導入が行われる一方,下田(静岡)のように在来の町家等を母体に地元独自の工夫によって,独特の土蔵造町家が生み出された。また,江戸(東京)からの影響で普及する場合も,その導入時期により手本とすべき江戸(東京)での形式が異なるため,結果として土蔵造町家の形式に差異が生じた。
著者
藤田 朗 後藤 武 藤井 正昭 百武 ひろ子 久米 由美 豊田 晶子 岡田 曜子 高 美玲
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.67-77, 2005 (Released:2018-01-31)

本研究は,固有の地域文化を活用して地域再活性化を図るには,どのようなアプローチが有効であるかを考察することを目的としている。筆者らは,典型的な密集市街地である墨田区京島および横浜市鶴見区において,地域文化の使い方に関わる「まちの家」および「鶴見スタジオ」プロジェクトを実践してきた。それらを調査対象とし,そのプロセスや成果を「文化政策」「空間化」の観点から分析することを研究の方法としている。地域資源として見出された「長屋」「レストラン」「公共空間」「社会関係資本」といった要素を文化政策として扱っていくには,「空間の読解可能性」が重要な要件であることがわかった。
著者
石垣 文 本間 敏行 徳川 直人 米川 文雄 藤田 毅
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.231-242, 2008

要養護児童のためのグループホームにおける住環境と地域化を考察した結果,1.GHの家屋選定は,室面積や本体施設との距離,周辺環境や住民の顔ぶれ等が考慮されていたものの,様々な制約の中で選択余地のないホームも確認された。2.職員の築いてきた社会関係をもとに,GHは近隣住民等からの理解・支援をうけており,3.GH入所児は本体施設入所児に比べて,施設外の子どもや大人との関わりが活発である傾向がみられた。一方で,4.関係構築には数年程度の歳月と職員の多大な努力,良き理解者を必要とし,また職員の年齢や勤務体制の影響が大きいこと,などが明らかとなった。
著者
道上 真有 田端 理一 中村 勝之
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.259-268, 2010

本研究は,ロシア政府が2006年から実施した住宅政策の効果に関する中間的評価を行っている。ここでは,住宅政策が国民の住宅購入可能性(affordability)にどのような影響を与えたのかという問題を中心に,ロシア連邦と3つの主要都市,およびモスクワ市の9行政区におけるaffordabilityを計測した。その主要な結果は,2007年のロシアで住宅ローンを利用して住宅を購入できる人口割合は住宅政策実施の前後で2割程度とあまり変化しなかった。また,住宅ローン融資目標額や住宅弱者に対する補助受給世帯数も目標値を下回っていた。他方,モスクワ市行政区におけるaffordability値の計測,およびaffordabilityを規定する要素と人口流入との相関を推計した結果,行政区によっては価格高騰地域でも住宅政策実施後にaffordabilityの値が向上し,さらにドーナツ化現象の影響が加わっている可能性が示唆された。
著者
長沼 さやか 塚田 誠之 浅川 滋男 張 漢賢 山形 真理子
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.65-76, 2008

The purpose of this study is to identify the land settlement process and the changing of dwelling system of boat people in the river basin and the coast of Guangdong,Guangxi provinces of China and Northern Vietnam. Like "Danmin"in China, there are still a lot of people dwelling on the water in Southeast Asian countries. However, in Southern China, boat people have already moved on the land under the state policies. Some cases of land settlement have been progressed by the boat people themselves independently but it can be read that most of it occurred under the rapid and compulsorily enforcement of state power.
著者
宮田 裕章 大久保 豪 望月 美栄子 蓑輪 裕子
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.213-223, 2010

精神障害者グループホームの現状と開設・運営の困難とそれに対する取り組みを明らかにするため,インタビュー調査の結果を踏まえて,全国の運営法人に対する質問紙調査(N=453)を行った。全グループホームの87%が1人部屋である一方,77%が玄関を共有するタイプであった。グループホームの継続運営や新規開設に,大きな影響を与えていたのは,開設・運営資金の確保,入居者の確保,及び地域との友好的な関係作りであった。これらの課題に対して自治体の補助金を活用や,入居者募集の広報,地区の行事への参加など様々な取り組みが行われていた。今後は取り組みの有効性を確認するとともに,ノウハウを広く共有することが有用である。
著者
竹内 孝治 小川 英明 小田 達郎 今村 太朗
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.177-188, 2010

本研究は,戦時期日本において活躍した建築家内田祥文の「國民主宅」構想を対象として,設計提案および,思想内容の読解を通して歴史的意義を明らかにするものである。まず,内田の経歴および建築活動を概観し,内田が建築競技設計において提案した「國民住宅」案の内容を整理した。次に,「國民住宅」案に関連して発表された諸論考の内容読解により,科学性・合理性と日本精神の称揚が併存した内田の思想内容を明らかにした。また,計画案の図面内容の検討およびCADによる3次元復元により,内田の「國民住宅」提案にみられる,モダニズムの手法と日本文化の融合がもたらした歴史的意義を明らかにした。
著者
河邊 聰 内藤 郁子 野村 正樹 畑 正一郎 大森 靖子 平家 直美 林 茂 吉田 光一 木村 忠紀 堀 榮二 遠藤 康雄 志村 公夫 冨家 裕久
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.433-443, 2008

京都の都心部には,平成12年の調査で3万戸の伝統町家があることが分かっていた。その後年々数は減少しているといわれる。町家では日々の生活が営まれ,その上で都市的・文化的価値の高さが語られる。(財)京都市景観・まちづくりセンターは,京町家居住者からの様々な相談に応じる町家相談会「京町家なんでも相談」を平成13年度に立ち上げた。本稿は,この相談会に寄せられた町家居住者からの相談内容をヒアリング形式で間接的に学習し,それを参考資料とした。資料から居住にかかわる不満・不安を抽出・分析し,問題点の把握と理解をした上で,今後居住不安解消の具体案を策定し,居住者への居住支援方策を提示したいと考える。このことから京町家の保全・継承の環境づくりに寄与したいと考えるものである。
著者
竹内 孝治 小川 英明 小田 達郎 今村 太朗
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.177-188, 2010 (Released:2018-01-31)

本研究は,戦時期日本において活躍した建築家内田祥文の「國民主宅」構想を対象として,設計提案および,思想内容の読解を通して歴史的意義を明らかにするものである。まず,内田の経歴および建築活動を概観し,内田が建築競技設計において提案した「國民住宅」案の内容を整理した。次に,「國民住宅」案に関連して発表された諸論考の内容読解により,科学性・合理性と日本精神の称揚が併存した内田の思想内容を明らかにした。また,計画案の図面内容の検討およびCADによる3次元復元により,内田の「國民住宅」提案にみられる,モダニズムの手法と日本文化の融合がもたらした歴史的意義を明らかにした。
著者
鎌田 紀彦
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.21-32, 2011 (Released:2018-01-31)

北海道から始まった高断熱住宅は,日本の住宅に大きな影響を及ぼしてきた。しかし,その普及は遅く,日本の住宅におけるエネルギー消費は,増え続けている。そして,住宅の室内環境は,住宅の性能が不十分なため低いレベルにとどまっている。高断熱住宅の技術開発の経緯を振り返り,整理した上で,これからの日本の住宅が 向かうべき方向と具体的な方策について考察する。
著者
木方 十根 福島 綾子 高尾 忠志 柴田 久
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.71-82, 2010 (Released:2018-01-31)
被引用文献数
1

本研究では,九州離島(五島・奈留町,奄美大島・龍郷町)のキリスト教系集落を研究対象とし,カトリック信者,一般集落住民らによる集落維持管理活動の実態を解明し,その特質と課題を明らかにした。また,それらの比較考察を通じて,維持管理の持続可能性における課題は,1)維持管理活動の「主体」と「領域」の可変性の確保にあること,2)その可変性は維持管理の対象領域が公益性,共有性を帯びた場合に確認できること,3)教会の社会的意義が認識される場合にはその敷地も公益性,共有性を帯びる場合があること,といったキリスト教系集落の維持管理活動の課題を抽出し,それらを踏まえ集落景観の継承手法の確立に向けた展望を示した。