著者
宗像 和重 十重田 裕一
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、出版書肆金星堂を中心として、大正・昭和期の出版と文学の動向を総合的に把握しようとする試みである。福岡益雄が大正半ばに設立したこの出版社は、大正期の特色ある叢書類や、雑誌「文藝時代」の発行などを通して、同時代の文学や作家と深いかかわりをもった。その実態を把握するために、まず金星堂の出版物についての基礎的データを蓄積し、図書館や古書店等を通して調査と収集の作業に従事した。そして、その書誌データを集約して、「金星堂出版物目録データベース」を作成した。もとより未定稿の状態で、今後引き続き増補訂正を必要とするが、金星堂の出版活動の輪郭を明らかにし、今後研究を継続するための基礎資料としての意味を有すると考える。またこれと並行して、創業者の福岡益雄と金星堂の出版活動に関する同時代の消息や評価等を、できるだけ収集することに務めた。出版物のデータベースとあわせて、金星堂の足跡を総合的・多角的に検討する新しい材料を発掘することで、その実態をより明らかにすることができた。こうした調査の集約の一方で、金星堂や大正・昭和期の出版と文学をめぐる論考を積極的に発表することに務めた。とくに大正から昭和期にかけての「文壇」と文芸時評をめぐる諸問題や、横光利一らのいわゆる新感覚派と金星堂を中心とするメディアの問題については大きな収穫があり、このテーマの有効性を再認識させられた。今後は、未定稿の書誌データベースを充実させるとともに、金星堂社史・福岡益雄伝をとりまとめることで、金星堂と同時代の文学・作家との関係をより明らかにする一方、同時代の出版社・出版人へと調査・研究を広げていくことが、重要な課題であると考えている。
著者
明星 聖子 高畑 悠介 井出 新 松原 良輔 松田 隆美 中谷 崇 納富 信留 矢羽々 崇 伊藤 博明 Pekar Thomas 黒田 彰 近藤 成一 宗像 和重 杉浦 晋 武井 和人 北島 玲子
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

昨年度の検討を受けて、今年度は昨年度のテーマに若干変更を加えた以下のAからEの5つのテーマについて、さらに今年度からは総合的なFのテーマも加えて研究を進めた。A.ドイツ文献学の成立の事情とその日本における受容および明治/大正期の文学研究の確立をめぐる検討、B.日本文学における現在の文献学的状況を探るケーススタディ、C.再評価の機運が高まっているイタリアの文献学者S.Timpanaroの代表著作の 読解と翻訳、D.英文学研究および教育における編集文献学的方法論の実践、E.独文学研究および教育における編集文献学的方法論の実践、F.人文学テクスト全般における「信頼性」および「正統性」をめぐる総合的な編集文献学的考察。テーマごとの班活動以外に、全体としての研究会も3回、2019年6月16日に慶應義塾大学で、7月31日に放送大学で、また2020年1月26日に慶應義塾大学で開催した。第1回での研究発表は、「編集文献学の可能性」(明星聖子)、第2回は、「古典文献学の可能性」(納富信留)、「注釈の編集文献学」(松田隆美)、第3回は、「南朝公卿補任の真贋判断をめぐって」(武井和人)、「偽書という虚構ー近代日本の小説3つをめぐって」(杉浦晋)。なお、こうした活動が実を結び、2019年9月に刊行された雑誌『書物学』(勉誠出版)で、特集「編集文献学への誘い」が組まれ、そこでプロジェクトメンバーの論考6本がまとめて掲載されたことは、特筆に値するだろう。