著者
杉浦 晋
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.187-197, 2022

偽書は、事実(ファクト)もしくは現実(リアル)と虚構(フィクション)とのあいだに位置づけられる、もう一つの虚構(フェイク)であり、独特の事実=現実らしさ(リアリティ)を虚構(フィクション)に与える。芥川龍之介「奉教人の死」、谷崎潤一郎「春琴抄」、石川淳「喜寿童女」といった偽書の趣向に基づく近代以降の小説は、現実を拒絶して虚構に向かう指向とあわせて、近代以前の諸テクストによって自らを根拠づけようとする、いわばインターテクスチュアリティへの指向を有する。森鷗外の歴史小説や史伝はその先例とみなされ、たとえば「喜寿童女」は「渋江抽斎」にならった可能性がある。偽書をめぐる考察は、文学の想像力の本質にかかわる。
著者
杉浦 晋
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.259-273, 2020

石川淳の短篇「山桜」(一九三六)に死んだ女性の幻影があらわれるのは、「わたし」が「ネルヴァルのマント」を想起したことをきっかけ=入口としている。それはテオフィル・ゴーチェらの回想や、唯物史観に照応したアーサー・シモンズの文学史から石川が受け取った、ジェラール・ド・ネルヴァルの「文学的形象」に基づく。それは自殺、狂気、夢というロマン的なシニフィエをはらみ、象徴主義につらなる一九世紀の文学を表象し、フランス革命後の小市民共和主義者によるロマン主義文学運動を想起させるものであり、長篇「普賢」(一九三六)にも投影され、小林秀雄、坂口安吾なども共有していた。そして、物語の最後で幻影は消滅し、あとに立ちすくむ「わたし」が残される。その姿は、こうした「文学的形象」を克服し、二〇世紀の新しい文学にむかう決意のあらわれとみなされる。石川は、そのためのきっかけ=出口を、まずポール・ヴァレリーに、また近世文学史の見取図をふまえて上田秋成に認めていた。
著者
明星 聖子 高畑 悠介 井出 新 松原 良輔 松田 隆美 中谷 崇 納富 信留 矢羽々 崇 伊藤 博明 Pekar Thomas 黒田 彰 近藤 成一 宗像 和重 杉浦 晋 武井 和人 北島 玲子
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

昨年度の検討を受けて、今年度は昨年度のテーマに若干変更を加えた以下のAからEの5つのテーマについて、さらに今年度からは総合的なFのテーマも加えて研究を進めた。A.ドイツ文献学の成立の事情とその日本における受容および明治/大正期の文学研究の確立をめぐる検討、B.日本文学における現在の文献学的状況を探るケーススタディ、C.再評価の機運が高まっているイタリアの文献学者S.Timpanaroの代表著作の 読解と翻訳、D.英文学研究および教育における編集文献学的方法論の実践、E.独文学研究および教育における編集文献学的方法論の実践、F.人文学テクスト全般における「信頼性」および「正統性」をめぐる総合的な編集文献学的考察。テーマごとの班活動以外に、全体としての研究会も3回、2019年6月16日に慶應義塾大学で、7月31日に放送大学で、また2020年1月26日に慶應義塾大学で開催した。第1回での研究発表は、「編集文献学の可能性」(明星聖子)、第2回は、「古典文献学の可能性」(納富信留)、「注釈の編集文献学」(松田隆美)、第3回は、「南朝公卿補任の真贋判断をめぐって」(武井和人)、「偽書という虚構ー近代日本の小説3つをめぐって」(杉浦晋)。なお、こうした活動が実を結び、2019年9月に刊行された雑誌『書物学』(勉誠出版)で、特集「編集文献学への誘い」が組まれ、そこでプロジェクトメンバーの論考6本がまとめて掲載されたことは、特筆に値するだろう。
著者
槙山 和秀 藤浪 潔 鈴木 康太郎 杉浦 晋平 寺西 淳一 佐野 太 斎藤 和男 野口 和美 窪田 吉信
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.95, no.4, pp.669-674, 2004-05-20
参考文献数
12
被引用文献数
2

(目的) 横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター泌尿器科では後腹膜鏡下根治的腎摘除術を2002年5月から開始した. 当院で採用した術式により3名の術者が安全に後腹膜鏡手術を施行可能であったので, その手術成績を検討した.<br>(対象と方法) 2002年5月から2003年6月までに当院で腎細胞癌の診断で後腹膜鏡下根治的腎摘除術を施行した14例を対象とした. 術式は側臥位で, 6cmの腰部斜切開で後腹膜腔にアプローチ. 円錐外側筋膜を腎下極レベルまで切開, 尿管を確保し, Gerota 筋膜と腹膜, Gerota 筋膜と腸腰筋の間を鏡視下でメルクマールになるように剥離したうえで, 小切開に hand port device を装着し12mmトロッカーを3本留置し, 気腹して後腹膜鏡下に根治的腎摘除術を施行. 先の6cmの切開創から腎を摘出する. 本術式の手術成績を検討した.<br>(結果) 平均手術時間は244.4分, 平均出血量は, 217.9mlだった. 1例は出血のため, 1例は小動脈の処理が不十分と思われたために開放手術に移行したが, 輸血を施行した症例はなかった. 大きな合併症も認めなかった.<br>(結論) 本術式で3名の術者が安全に後腹膜鏡下根治的腎摘除術を施行し得た.
著者
船橋 亮 槙山 和秀 土屋 ふとし 杉浦 晋平 三好 康秀 岸田 健 小川 毅彦 上村 博司 矢尾 正祐 窪田 吉信
出版者
泌尿器科紀要刊行会
雑誌
泌尿器科紀要 (ISSN:00181994)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.133-137, 2005-02

症例1(42歳男性).患者は他院で左精巣腫瘍(seminoma)の高位除精術を受け,その3年後にseminoma縦隔転移で化学療法を施行した.腫瘤は縮小したが,肝機能障害およびAFP高値(40ng/ml)遷延し,今回紹介入院となった.C型肝炎の活動性上昇からAFPのLCA分画測定を行い,化学療法による肝機能障害でC型肝炎の活動性が惹起されAFPが上昇したとの判断で経過観察とした.その結果,10ヵ月経過現在,AFPは13.4ng/mlまで下降した.症例2(30歳男性).患者は左精巣腫大で紹介入院となり,AFPは45ng/mlであった.左高位除精術を行なったところ,病理診断ではceminomaであった.化学療法後もAFPは29.1ng/mlで,LCA分画測定結果から更に化学療法を追加した結果,AFPに変化なかったものの,化学療法休薬中にもAFPは上昇せず経過観察となった.2年経過現在,AFPは20ng/ml台で推移しており,再発は認められていない