著者
藤本 宏明 宮井 一郎
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.724-729, 2018-09-18 (Released:2018-10-29)
参考文献数
33
被引用文献数
1

ヒトの二足歩行では,大脳皮質や基底核,脳幹,小脳,脊髄などの複数の中枢神経領域が階層的に制御している.障害物などの外部環境への応対を要する随意的な歩行運動には大脳皮質や基底核などの上位中枢の関与が大きく,繰り返すリズミカルで自動的な歩行運動の生成には,脳幹や脊髄などの下位中枢が重要と考えられている.中枢神経損傷後の歩行やバランス機能の回復に伴って神経活動の変化がみられるが,逆に標的とする神経活動を調整すること(neuromodulation)によって機能回復が促進される可能性が検証されている.双方向での検証の蓄積が,歩行や姿勢制御障害の回復と神経活動変化との因果関係の解明へとつながることが期待される.
著者
高松 賢司 平松 佑一 藤田 暢一 木瀬 憲司 荒木 和子 宮井 一郎
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.153-157, 2022 (Released:2022-04-20)
参考文献数
15
被引用文献数
1

〔目的〕回復期リハビリテーション病棟を退院した後の在宅生活におけるFunctional Independence Measure(FIM)運動下位項目の経時的変化を明らかにする.〔対象と方法〕対象は,退院直後から訪問リハビリを開始した41名の脳卒中患者とした.診療録から抽出したFIM運動項目合計と,その下位項目の点数を各時期(退院時,退院直後,退院後3ヵ月)で比較した.〔結果〕退院直後は排泄(排便)が向上,移動(歩行)が低下した.退院後3ヵ月はセルフケア(食事,清拭,更衣下半身,トイレ動作),排泄(排尿,排便),移乗(ベッド,トイレ,浴槽),移動(階段)が向上したが,整容,更衣上半身,歩行は変化しなかった.〔結語〕退院後3ヵ月におけるFIM運動下位項目の変化は,生活段階で異なることが示唆された.
著者
藤田 暢一 服部 憲明 森 正志 工藤 俊介 宮井 一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0102, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】歩行障害を有する患者を対象にしたリハビリテーション治療において,どのタイミングで問題が生じているかなど,歩行能力を詳細に評価することは重要である。しかし,従来の計測装置は高価で,空間的制約が大きいため臨床での利用には制約がある。そこで,今回我々は,安価で簡単に客観的な歩行周期を計測できる①スプリット型フットスイッチ(Split foot switch:SFS)を作製し,②加速度センサー(Accelerometer:AM),③圧センサー(Pressure sensor:PS)との歩行周期計測の比較検討を行った。【方法】対象は健常成人男性9名,年齢は27.1±2.7歳であった。測定課題は,被験者の主観的快適速度での歩行とした。測定機器と取り付け位置は,①SFS:マットセンサー(竹中エンジニアリングM-68)を用いて,踵部と爪先部の2つのセンサーを作製し,本人持ちの右側靴底の踵と爪先部に両面テープにて貼り付けた。②AM:小型無線多機能センサー(ATR-Promotions社製TSND121)を背面第3腰椎部にホワイトテープと軟性バンドで固定し,体幹の三軸方向(上下・左右・前後)の加速度を計測した。③PS:Flexiforce(ニッタ社製A201-100)を右足の踵と母趾球部にホワイトテープで固定した。これらの機器を同時に,サンプリング周波数100Hzで計測を行い,歩行が定常状態となった区間の立脚期のデータを10周期分採用した。各機器の踵接地・爪先離地の決定基準は,①SFS:踵接地は踵センサーのON,爪先離地は爪先センサーのOFF,②AM:踵接地は加速度前後成分上方ピーク,爪先離地は加速度上下成分下方ピーク,③PS:踵接地は踵センサーの上昇開始点,爪先離地は爪先センサーの上昇ピークとした。この基準より一歩行周期の時間,一歩行周期に対する立脚期の割合を計算した。解析は,被験者毎に,機器間の計測値の差に関しては,計測値に正規性・等分散性が認められた場合,一元配置分散分析で比較し,Tukey法にて多重比較を実施,認められなかった場合はfriedman検定後,Bonferroni補正されたWilcoxon検定を実施した。また,機器間の計測値の相関に関しては,Spearman順位相関係数を用いて計算した。更に,これらと同様の解析を各被験者の計測値の平均値を元にグループレベルでも行った。解析にはR version 2.8.1を使用し,有意水準を5%に設定した。【倫理的配慮,説明と同意】当院の倫理委員会により承認を得て,被験者には十分な説明の後,同意を得た後に実施した。【結果】9名全体の一歩行周期(秒)に関しては,平均時間±標準偏差(変動係数)はSFSが1.08±0.27(2.53),AMが1.08±0.27(2.54),PSが1.08±0.25(2.29)であった。立脚期の割合(%)はSFSが58.8±0.91(0.015),AMが68.4±1.8(0.026),PSが49.2±2.8(0.059)であった。計測値の差の検定では,一歩行周期の時間は,全ての被験者およびグループレベルで,機器間の有意差は認められなかったが,立脚期の割合ではSFS<AMと有意差を認めた者が9名中7名,SFS>PSと有意差を認めた者が8名であり,グループレベルでもPS<SFS<AMと有意差を認めた。相関の検定では,一歩行周期でSFS-AM間の有意な相関関係を示した者が7名,SFS-PS間では9名であり,グループレベルでもSFS-AM間でr=0.996,SFS-PS間でr=0.997,AM-PS間でr=0.997と強い相関を認めたが,立脚期の割合ではSFS-AM間の有意な相関関係を示した者が1名のみ,SFS-PS間では0名であり,グループレベルでも有意な相関関係は認められなかった。【考察】一歩行周期では機器間で計測値に差が無く,相関も高かった事から,いずれの機器も高い精度で歩行周期を計測できていると考えられた。一方,立脚期の割合では,多くの被験者で機器間に共通した差が認められ,また機器間で有意な相関を示しているものは少なかった。差が認められたことに関しては,AMの加速度波形から踵接地・爪先離地を決定する方法の特性とPSの接地面積の少なさなどが影響していると考えられた。相関が認められなかったことに関しては,立脚期の割合の変動係数が,SFSに比べAMやPSで大きいことが影響していると考えられた。一見より変動係数の小さいSFSが歩行計測には有効と考えられる。しかし,歩行時の体幹や下肢の運動は毎回僅かに異なっており,SFSで直接計測できる床接地時間という時間因子を維持するため,毎回運動学的な微調整が行われる機序をAMやPSの計測値の変動は反映していると考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,SFSによる歩行計測は変動が小さく,臨床での計測に適当と思われたが,AM・PSの変動の原因も考慮する必要があると考えられた。これらを組み合わせることで,歩行の多様な情報を収集することが可能になると考えられた。
著者
宮井 一郎
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.931-933, 2013-11-01 (Released:2013-11-29)
参考文献数
9
被引用文献数
1

運動学習の首座である小脳が障害された脊髄小脳変性症(SCD)では,脳卒中のように,use-dependent plasticityに基づいた,練習量にある程度依存した機能改善が得られるかどうかは十分に検証されていない.また介入による機能改善は病変の拡大や病状の進行による機能低下とのトレードの上に成立することにも留意する必要がある.ドイツおよび本邦の介入研究から,SCD患者に対する短期集中リハにより,短期効果として小脳性運動失調,日常生活動作,歩行が有意に改善することが示され,長期的には半年から1年程度の効果の持続が観察されている.効果の持続には,家庭での自主練習量の確保をふくめ,生活活動の向上が重要であると考えられる.