著者
宮本 昌子 飯村 大智 深澤 菜月 趙 成河 園山 繁樹
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.227-239, 2021-03-31 (Released:2021-09-30)
参考文献数
22

本研究では、場面緘黙の症状を主訴として指導を受け、場面緘黙の改善後、吃音の問題が表面化した小学校2年生の男児を対象に、1年3か月間の吃音症状軽減を目指した指導介入を行った経過を報告する。セラピストとのLidcombe Programにおけるセラピー場面では、重症度評定と非流暢性頻度の明らかな低下はみられなかったが、母親との遊び場面での重症度評定は低下した。また、3文節以上の発話では1~2文節発話と比較して高頻度に非流暢性が生起していた。さらに、3文節以上の発話にのみ、語尾や句末の繰り返しが生起していた。今後は言語的側面を精査するとともに、母親との場面と同等の流暢性を維持できるよう、セラピー場面設定の調整が必要であることが示唆された。
著者
宮本 昌子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.30-42, 2019 (Released:2019-02-26)
参考文献数
30
被引用文献数
1

クラタリングの暫定的定義では発話速度の速さと不規則さ,正常範囲非流暢性頻度の高さ,調音結合が重視され,症例の多くは吃音と合併したクラタリング・スタタリングである.本研究では,クラタリング・スタタリング群9名,LD・AD/HD・ASD群10名,コントロール群24名を対象に絵の説明課題の構音速度と非流暢性頻度を測定した.構音速度において3群間に有意差は見られなかった.自由発話等を視野に入れ,より適切な測定対象場面を検討することの必要性が明らかになった.また,正常範囲非流暢性頻度の高さがクラタリング・スタタリング群と同等に高い者が,LD・AD/HD・ASD群のなかにも存在していたことがわかった.
著者
石田 修 勝二 博亮 飯村 大智 宮本 昌子
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2314si, (Released:2023-12-01)
参考文献数
25

発話の流暢性障害である吃音者は,遅延聴覚フィードバック(DAF)下では非流暢性発話が増加する場合や減少する場合があり,その個人差が生じる要因は明らかにされていない。本研究では,吃音者10名を対象にDAF下の音読と触覚・音声刺激への単純反応を求める二重課題の実験パラダイムを用い,NIRSを用いた脳血流計測の結果からDAF下の音読で発話が非流暢/流暢になる機序を検討した。その結果,DAF下で非流暢性が増加した非流暢性増加群8名と,減少した非流暢性減少群2名に分かれたが,群のサンプルサイズに偏りがみられたため,脳血流は非流暢性増加群を対象に分析した。非流暢性増加群は,触覚条件において能動的な注意の配分に関与する右上前頭回近傍と右上頭頂回近傍が活性化していた。そのため,触覚モダリティの標的に能動的に注意を配分し,逸脱刺激である遅延音声を無視しながら音読している可能性が推察された。これらの特異的な活動がDAF下における非流暢性発話の減少と関係しているものと考えられる。
著者
小林 宏明 宮本 昌子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.158-168, 2018 (Released:2018-06-05)
参考文献数
21
被引用文献数
3

吃音のある小学生73名に,国際生活機能分類(ICF)に基づく発話・コミュニケーション活動と小学校生活への参加の質問紙調査を実施した.質問紙は,授業,学級活動,学年・全校活動,教師や子どもとのコミュニケーションにおける発話・コミュニケーション活動と小学校生活への参加に関する計50項目が得意か苦手かを5件法で答えるものだった.その結果,(1)苦手の回答が多かった項目は,授業,学級活動,学年・全校活動に関するもので,そのほとんどは大人数への発話や,長くまとまった話が求められるものであった.ただし,すべての項目で,苦手と回答した者は,得意と回答した者よりも少なかった.(2)学級活動,学年・全校活動に関する項目のなかに,吃音の心理面の問題との中程度の相関のある項目がある一方で,吃音の言語症状との中程度以上の相関のある項目はなかった.(3)発話・コミュニケーション活動と小学校生活への参加とに中程度の相関があった.
著者
宮本 昌子 舘田 美弥子 深澤 菜月 飯村 大智
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.132-142, 2022 (Released:2022-05-17)
参考文献数
13

早口言語症の症状を示す10歳の男児を対象に,発話速度コントロールを目指した認知・行動アプローチによる介入を行った.認知・行動アプローチの方法に従い,最初にモニタリング機能に焦点を当てた指導を行ったうえで,発話速度を低下させた話し方の指導に移った.介入の6ヵ月間経過後に,「記憶した物語再生課題場面」で総非流暢性頻度が有意に低下したこと,開始時に実施した日本語版早口言語症チェックリストver. 2の得点が21点から9点へと低下したことから,指導の終結を判断した.発話をシンプルにすることで伝わりやすくなるという気づきのあった後,言語形式化が良好になり非流暢性頻度が低下したことが推測される.一方,発話速度低下が測定値からは認められず,その解釈については注意が必要である.本研究の結果からは,認知・行動アプローチに含まれるモニタリングスキル指導が非流暢性頻度低下に影響し,早口言語症改善に寄与した可能性があることが推測されるが,今後は,早口言語症のある発話において妥当な速度の測定法を検討したいと考える.
著者
宮本 昌子 仲本 なつ恵 安井 宏 寺田 容子 滝口 圭子 松為 信雄
出版者
目白大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

発達障害のある者の就労の困難さや離職率の高さなどの問題に注目し、彼らの就労に必要な学びを教育段階から少しずつ体系的に積み上げられる機会を提供するイベント体験型のキャリア教育プログラムを開発した。就労準備に必要な学習内容について調査した結果をプログラムに反映させ、小学生~高校生に実施した結果、コミュニケーションに関するスキルは向上するが、「自己理解(障害理解)」が向上しにくいことが明らかにされた。
著者
宮本 昌子 石倉 康子
出版者
目白大学
雑誌
目白大学健康科学研究 (ISSN:18827047)
巻号頁・発行日
no.1, pp.37-47, 2008

要求を表現する1語文での機能的発話を獲得したが、コミュニケーションに問題を持つ6歳の自閉症の男児1名を対象とし自分の感情や行動についての発話獲得を目標とした相互交渉型言語指導を行った。出来るだけ自然な文脈で、対象児の遊びや発話に沿ったことばのモデルと象徴遊びのモデルを提示するモデリングを用いた指導の結果、ことばのモデル導入直後に、未来の行動に対する発話の模倣率と発話頻度が増し、遊びのモデルを加えた後に、現在の行動に対する発話頻度の上昇が認められた。未来の行動についての発話は対象児にとって模倣と発話の獲得がより容易であったことが推測される。また、自分の感情や行動についての発語数の増加に伴い、指導室、保育園、家庭の3場面で乱暴な行動の頻度の低下が認められた。本事例においては、非構造的な場面でのモデリングによる感情や行動についての発話の獲得が可能であり、相互交渉型言語指導の有妨性が示唆された。