著者
井出 政芳 山本 玲子 宇野 智江 鈴木 祥子 伊藤 優子 早川 富博 加藤 憲 天野 寛 宮治 眞
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.726-744, 2014 (Released:2014-03-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

過疎の進行する中山間地に住まう高齢者の<この場所>に係わる愛着を評価するために, 質問票による調査を行なった。質問票は, 高齢者の主観的幸福感測定のために汎用される古谷野による生活満足度尺度K (9項目)と, 今回独自に作成したトポフィリア (場所愛) に係わる質問項目 (6項目) の計15項目から成る。僻地巡回検診において, 調査主旨を説明し了解を得た有効回答者120名 (平均年齢: 74.5±9.5歳) の回答について因子分析を行ない以下の結果を得た。 ①居住地別愛着度得点には有意差を認めなかったが, 居住地別生活満足度得点には有意差を認めた (p<0.001; ANOVA)。一方, 年齢と生活満足度との間には有意な相関を認めなかったが, 年齢と愛着度得点との間には有意な正の相関を認めた (r=0.234, p<0.01)。生活満足度, すなわち主観的幸福感は年齢によらず居住地の影響を受けるが,逆に場所への愛着度は居住地によらず年齢の影響を受けることが示唆された。 ②トポフィリアに係わる質問6項目の因子分析により, 2因子が抽出された。一つの因子は<この場所>から離れたくないパブリックな感情を, もう一つの因子は<この場所>が好きとは言えないプライベートな感情を意味している, と解釈できた。 ③ (a) 生活満足度尺度, (b) トポフィリア, および (c) 「<この場所>を離れて仕事をしたいと思ったことがあるかどうか」の質問の三つ組を指標として, 居住地別に対象者の心情を評価すると, 主観的幸福感 (a) も, <この場所>に対する愛着度 (b, c) も, ともに低い地域が同定された。これらの地域は, 通院困難性の甚大な地域内に存在し, 通院介助・在宅介護・施設入所など高齢者の医療福祉に係わる対応において, 心情面についての配慮が特に必要であると考えられた。
著者
宮治 眞 長尾 正崇 藤原 奈佳子
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

次の視点より検討した。1.判例データベースを用いて、35年間の最高裁判決から医療訴訟における事例を17例(医療側勝訴3例、医療側敗訴14例)抽出した。これを今回考案した1事例1頁の一覧性をもつフォーマットに要約し、事故防止を考慮した類型化を試みた。その結果、病状の進行が凡そ1ヶ月未満で比較的急性に進展する病態においては、慢性に経過した病態とくらべて、診療早期の「観察」による誤りや、その当時の医療慣行に従って診療することが、判断の誤りに基づく誤行為を招きやすい傾向であった。2.患者側の真摯な訴えはコメディカルスタッフにもインフォームドコンセントが適応されるべき課題か否かを検討した。その結果、コメディカルスタッフをどこまでの職種とするかについて、大きな差がみられた。3.病院の立地条件やコメディカルスタッフのインフォームドコンセントまで広げると、地域医療における医療管理も視野に入れる必要が考慮された。NPO法人「たすけあい」名古屋が地域に根付く過程を検討した。4.地域医療連携を視野にいれて、病院医療の立場から患者の安全をどのように担保していくかについて、本院の電子カルテシステムを日本医療機能評価機構の自己調査評価票に基づいて検討した。その結果、患者の安全医療の観点から電子カルテシステムをもっと見直すべきであること、システムの機能を拡大していくことが確認できた。以上を総括すると、「安全の医療」「安心の医療」「満足の医療」を「安全の生活」「安心の生活」「満足の生活」へ還元すべきことが示された。このことの基準は最終的には法律によって規定されるべきであると思われた。しかし、患者の真摯な訴えに代表される患者側の要請は、価値観を包含しており、法律と倫理の狭間の問題ともいえる。したがって、医療管理からみた場合、医療側が患者側の求める「満足の医療」「満足の生活」の垣根をどこまで共有できるかは、次の課題である。
著者
三田 勝己 宮治 眞 赤滝 久美
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

「重症心身障害児」(以下,重症児と略す)とは重度の知的障害と重度の肢体不自由が重複した人たちである。全国の重症児数は約36,000名と推計されており,そのうち2/3の約24,000名が居宅で家族によってケアされている。本研究は,重症児施設と居宅を通信回線で接続し,在宅ケアを支援するITシステムを開発し,その有用性を実証することを目指した。本年度は,在宅重症児の実態調査結果を踏まえて在宅支援システムの機能を決定し,これを実現できるシステムのハードおよびソフト開発を行い,さらに,主として技術的問題を明らかにするための試験運用を行った。本在宅支援システムは以下の7つの機能から構成された:音声情報機能,画像情報機能,バイタル情報機能,モニタリング機能,遠隔操作機能,自動収集機能,データベース機能。試験運用フィールドにはIT利用の有効性が高い地域として,北海道旭川市にある北海道療育園(重症児施設)が在宅支援を行っている地域を選んだ。運用のプロトコルとしては,居宅システムのみでのバイタル測定を1日1回実施した。測定項目は血中酸素飽和度,脈拍数,呼吸数,体温,血圧,心電図の6項目であった。これらは6時間毎にセンターシステムから自動収集された。また,週1回,センター(北海道療育園)からの接続により医師の電話診療を行った。その内容は健康状態や疾患の診察,日々測定されたバイタルデータに関する診断,生活に関する指導・相談を行った。以下,明らかとなった技術的問題の概要を述べる。(1)もっとも大きな問題はバイタルデータの自動収集機能がほとんど稼働せず,また,電話診療が時々できないことがあった。(2)居宅システムの電源ケーブル,接続ケーブルが多く,居宅内でのトラブルの原因になりやすいとの意見がでた。(3)ISDN回線が有線接続のため,特に居宅システムを居室間ですら移動できなかった。無線LANや携帯電話を利用したモバイル化の必要性が示唆された。(4)居宅からセンター(重症児施設)へ接続するためのセンター側の受け入れ体制がなく,特に急変時を考えると是非とも整備を要請される課題であった。