著者
櫻田 忍 溝口 広一 寺崎 哲也
出版者
東北薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

約30種類のμ受容体スプライスバリアントのうち、MOR-1、MOR-1A、MOR-1C、MOR-1Eをクローニングしてその安定的発現細胞株を作製し、種々のμ受容体作動薬を用いその機能解析を行った。μ受容体の基準作動薬であるDAMGOは、上記4種類のμ受容体スプライスバリアントのいずれに対しても高い親和性を示し、またそれらを介した強力なG蛋白活性化作用を発現した。一方、内因性オピオイドペプチドを遊離する選択的μ受容体作動薬amidino-TAPAも、DAMGOと同様に上記4種類のμ受容体スプライスバリアントを介した強力なG蛋白活性化作用を発現したことから、これらのスプライスバリアントは内因性オピオイドペプチドの遊離を誘導するμ受容体サブクラスでは無い事が明らかとなった。そこで、μ受容体遺伝子のexon選択的アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを用いた行動薬理学的研究により、amidino-TAPA感受性DAMGO非感受性のμ受容体スプライスバリアントの検出を行った。その結果、MOR-1J、MOR-1K、MOR-1Lが、amidino-TAPA感受性DAMGO非感受性μ受容体スプライスバリアントであり、内因性オピオイドペプチドの遊離に関与している事が明らかとなった。そこで研究対象をMOR-1J、MOR-1K、MOR-1Lに絞り、そのクローニングならびに安定的発現細胞株の作製を試みた。その結果、これら3種のμ受容体スプライスバリアントのクローニングには成功したが、その遺伝子を導入した細胞において、μ受容体を介した生理機能を検出することはできなかった。これら3種のμ受容体スプライスバリアントは極めてサイズが小さく、他のスプライスバリアントとは著しく構造が異なっている。おそらく単体では機能することができず、他の7回膜貫通型スプライスバリアントと異種重合体を形成することにより特異的機能を発現する可能性が考えられる。本研究課題を継続遂行するには、μ受容体スプライスバリアント異種重合体の機能解析といった、極めて複雑難解な機能解析が必要と考えられる。本研究課題でクローニングした遺伝子は、研究計画最終前応により採択された研究課題で用いられる予定である。
著者
辻 彰 寺崎 哲也
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究は、「種々の栄養物質およびその構造類似薬物の小腸、腎臓、肝臓、脳組織における細胞膜輸送機構」を解明し、「担体輸送系の基質認識特性」を検討することによって「組織選択的ドラッグデリバリ-システムの確立」を目指すことを目的とした。小腸上皮細胞膜輸送にはラット、ウサギ刷子縁膜小胞を、腎尿細管上皮細胞膜輸送にはラット側底膜小胞および刷子縁膜小胞の他にラット腎、肝組織抽出法を、血液脳関門輸送には、ウシ単離脳毛細血管、脳毛細血管内皮培養細胞および脳組織抽出法を、それぞれの目的に応じて用い、以下に示すように薬物の担体介在輸送を明らかにした。1)リン酸系薬物:リン酸構造を有するfosfomycinは、既に報告したfoscarnetと同様に、細胞内に向けられたNa^+勾配を駆動力として小腸刷子縁膜リン酸輸送系を介して二次性能動輸送される。2)モノカルボン酸系薬物:本系薬物の消化管吸収や脳移行は従来よりpHー分配仮説に従って単純拡散で進行すると解釈されてきた。これに対して本研究では、酢酸が小腸刷子縁膜をH^+との共輸送系あるいはHCO_3ーとの交換輸送系を介して二次性能動輸送される。いずれの輸送においても酢酸の取り込みはpH依存的であり、管腔側酸性環境で促進される。血液脳関門においても酢酸はH_+と共輸送系を介してpH依存的に脳内に取り込まれる。これらのモノカルボン酸輸送系はnicotinic acid,salicylic acid,valproic acidなどのモノカルボン酸構造を有する薬物のみを立体選択的に認識し、輸送する。3)塩基性薬物:thiamine,scopolamine,eperizoneなどの塩基性薬物は脳毛細血管内皮細胞コリン輸送系を介して脳内に取り込まれる。βーラクタム系抗生物質:腎臓と肝臓の血液側細胞膜および肝胆管腔側膜をprobenecidと共通の有機アニオン輸送系を介して取り込まれる。以上の知見は、生体膜輸送系の構造認識輸送特性を利用することによって、薬物を特定の組織にタ-ゲッティングし、または逆に移行性を回避させるなど、創薬に貢献するものと期待される。
著者
神田 隆 寺崎 哲也
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

研究代表者の教室で世界に先駆けて樹立したヒト血液神経関門構成細胞株を用い、ヒト末梢神経疾患での血液神経関門(BNB)破壊メカニズムを検討した。ヒト免疫性末梢神経疾患患者の一部では、血清成分にBNBを破綻させる因子が含まれることが証明された。また、糖尿病性ニューロパチーで血清に高値となるAGEは、VEGFとTGFを介してBNBを破壊することが明らかとなった。バリアー構成内皮細胞膜に局在するトランスポーターは、新規治療の標的となり得ることが示唆された。
著者
寺崎 哲也
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.447, 2020

帝京大学の出口芳春氏が「<i>In vitro</i>血液脳関門モデルおよびマイクロダイアリシス法を用いた薬物の血液脳関門輸送機構解析」の業績で,このたび日本薬学会学術貢献賞を受賞した.出口氏は独自の方法論と解析法を展開し,血液脳関門薬物輸送研究を通して薬剤学・薬物動態学の発展に貢献した.
著者
大槻 純男 堀 里子 寺崎 哲也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.55-64, 2003 (Released:2003-06-24)
参考文献数
50
被引用文献数
7 12

血液脳関門(blood-brain barrier: BBB)は,血液と脳を隔てる関門組織として存在し薬物の脳への透過性を制限していることは,古くから認識されていた.近年のBBB研究の成果によって,BBBには栄養物質を脳へ供給する輸送系だけではなく,脳から血液方向の排出(efflux)輸送系の存在が明らかになり,それら輸送系の機能が薬物の脳移行性に大きな影響を与えていることが明らかになりつつある.血液から脳への輸送を行うinflux輸送系は,薬物を脳へ移行する通り道となる.BBBに発現するアミノ酸輸送系の一つであるsystem Lによって,L-DOPAは脳内に輸送される.また,一部の塩基性のµ-opioid peptide analogueは,BBBと電荷的相互作用を介したtranscytosisによって脳内に移行する.一方,排出輸送系によって排出されてしまうために脳内分布が低下してしまうケースも存在する.排出輸送に関わる分子としてATP-binding cassette(ABC)トランスポーターのABCB1(MDR1)が存在する.この輸送系は,ATP水解エネルギーを利用して,比較的脂溶性の高い薬物を血中に排出する.また,内因性物質の排出輸送系によっても薬物が脳から排出される.ドパミンの代謝物であるhomovanillic acidは,organic anion transporter 3(OAT3)が関与する排出輸送系によって脳から排出される.このOAT3が関与する排出輸送系によって6-mercaptopurineやacyclovir等が排出され脳への移行が制限されている可能性が示唆されている.また,BBBにはシナプスと同様にセロトニンやノルエピネフリンのトランスポーターが発現していることから,これらトランスポーターを阻害する抗うつ薬による相互作用が考えられる.現在,血液脳関門に発現し薬物の輸送に関わる輸送系や,薬物と相互作用する輸送系が徐々に明らかになりつつある.今後,このようなBBBの輸送系の解明は中枢作動薬の開発や中枢疾患の病因解明に重要な知見となるであろう.