著者
林 美佳 神田 隆善 佐藤 直美 岩井 恵美 棟方 哲
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.229-234, 2008 (Released:2008-09-27)
参考文献数
13

成熟嚢胞性奇形腫は外胚葉,中胚葉,内胚葉の成分を有し,卵巣良性腫瘍のうちでもっとも一般的な疾患である.しかし,その1型である胎児型奇形腫は非常にまれな疾患であり,文献的にも本例を含め28例の報告しかない.われわれは成熟嚢胞性奇形腫の診断で手術を施行したが,手術後に胎児型奇形腫と診断された症例を経験したので報告する.症例は22歳の未妊婦で月経過少を主訴に外来を受診した.初診時超音波画像で径2.0cm大の卵巣腫瘍を認めた.成熟嚢胞性奇形腫と卵巣機能不全の診断で3ヵ月毎に経過観察およびホルモン療法を施行していた.4年間で腫瘍が径5.0cm大としだいに増大し,さらにその3ヵ月後径7.0cm大と急激に増大してきたため腹腔鏡手術を施行した.摘出標本は径5.0cm×7.0cm大の嚢胞性腫瘤で,内部に充実性部分を有していた.充実性部分は頭部,体幹,四肢様構造をもち胎児に類似していた.組織学的には脳,脊椎,皮膚,毛髪,歯牙,骨,気管,消化管さらに骨格筋などを認めた.胎児型奇形腫の診断で現在外来で経過観察中である.また胎児型奇形腫と類似した形態を示す封入奇形腫,卵巣妊娠との相違点,胎児型奇形腫の発生についても文献的考察を加えた.〔産婦の進歩60(3):229-234,2008(平成20年8月)〕
著者
本田 真也 神田 隆
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.207-209, 2019 (Released:2019-12-27)
参考文献数
8

ニューロパチーは疾患特異的に運動神経,感覚神経,自律神経のいずれかにアクセントを置いた臨床症状を呈するが,多くのニューロパチーの障害は大径有髄線維,小径有髄線維,無髄線維の順番で進行する.つまり,一般的に自律神経障害を呈するような無髄神経の障害は末梢神経障害としては末期の状態のことが多く,自律神経障害が初期から主症状であるニューロパチーは少ない.糖尿病やアミロイドーシス,一部の免疫介在性ニューロパチーでは自律神経障害が前景に出る場合がある.自律神経障害は患者の生命予後や機能予後に関与しうる病態であり,正確な診断や症状把握が求められる.
著者
神田 隆
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.8, pp.1517-1523, 2019-08-10 (Released:2020-08-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1

血管炎性ニューロパチーは,末梢神経軸索の虚血による梗塞が本態である.生命予後には直結しない血管炎合併症であるため,不当に軽視される傾向がみられるが,一旦,梗塞に陥った末梢神経は容易には再生できず,治療の遅れた患者はADLの低下を一生負い続ける結果となる.的確な診断と速やかな治療開始のためには,まず本症であることを疑うこと,次いで,詳細な神経学的診察によって多発性単神経炎の存在を明らかにすることが重要である.
著者
神田 隆
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.47-50, 2014 (Released:2014-07-11)
参考文献数
10

BBBは脳微小血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイトの3種類の細胞と2枚の基底膜から構成されている。BBB機能の主役は最内層を構成する内皮細胞であり、病的状態でのBBBの破壊は、(1)液性因子の漏出と(2)炎症性単核細胞の神経実質内侵入、のそれぞれ分子的に全く独立した2種類のメカニズムからなっている。このBBB破綻・修復メカニズムの制御は、中枢神経疾患新規治療のkeyである。たとえば、多発性硬化症をはじめとする自己免疫性中枢神経疾患や神経感染症では、破綻したBBBを経て単核球や炎症性サイトカインが炎症部位へ大量に動員される。したがって、BBBの破綻防止やその修復は炎症性神経疾患の治療に向けての重要な戦略になり得るが、本稿では脳梗塞、ALSなど非炎症性中枢神経疾患に重点を置いてBBBの重要性を概説する。BBBを越える脳内へのdrug deliveryシステムの開発は、各種神経変性疾患の新規治療法の確立に道を開くものである。
著者
神田 隆
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.11, pp.2439-2445, 2017-11-10 (Released:2018-11-10)
参考文献数
10

四肢末梢のしびれ感や感覚・筋力低下を主症状とするニューロパチーは,日常診療で頻繁に遭遇する病態であるが,診断や治療に難渋することが多く,苦手とする先生方も多い疾患群である.本稿では,近年,病態の解明や治療法の開発で進歩がめざましい自己免疫性ニューロパチーを取り上げ,急性3疾患・慢性4疾患に焦点を絞って概説する.本症は,基本的には治療介入可能な病態である.従来の副腎皮質ステロイド,免疫グロブリン大量静注療法(intravenous immunoglobulin:IVIg),血漿浄化療法の3つに加えて,各種免疫抑制薬や生物学的製剤の有効性に関する知識が蓄積されており,治療の選択肢はかつてない広がりをみせている.しかし,末梢神経軸索は一旦障害を受けて軸索変性に陥ると,その再生には長期間を必要とし,軸索変性から神経細胞体の破壊に至れば,不可逆的な機能脱落に至る.治療オプションが広がった今こそ,免疫性ニューロパチーに関する知識を最新のものとし,早期診断から治療に結び付けていただきたいと念願する.
著者
大瀧 慈 神田 隆至 藤越 康祝 佐藤 健一 越智 義道
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1)SIRによる有効射影縮約空間の次元選択のための統計規準の構築正準判別関数法において使われているモデル選択基準を基に、SIRでのEDR空間の次元の推定のための統計的選択基準を構築し、数値実験によりその性能を検証した。(シンポジューム「多次元データ構造の探索」において発表、現在論文投稿準備中)2)SIRアルゴリズムの改良回帰関係が対称的構造を伴う有効射影方向に対して、SIRのオリジナル版のアルゴリズムが上手く働かない問題に対して、主要点解析法を組み込みその性能の向上を試みた。(Symposium on"Statistics,Combinatorics and Related Areas",Bombay(India),2000にて発表、現在投稿準備中)3)B-スプライン法による散布図平滑化アルゴリムの改良B-スプラインの基底関数の結節点の配置を調整することで、スプライン曲線モデルの適合度を向上させるように平滑化アルゴリズムの改良を行った。(現在、論文投稿中)。4)低次多項式によるパラメトリックモデルとB-スプラインモデルによるノンパラメトリックモデルの選択における統計的規準の構築(現在、投稿準備中)5)ノンパラメトリック回帰モデルによる一戸建て住宅データ解析(広島女学院大学生活科学部紀要,2000にて論文を掲載済)6)ノンパラメトリック回帰モデルによる日本の市区町村別肺がん死亡危険度データの解析(Jpn J Clinical Oncology,2000に論文を掲載済)
著者
神田 隆
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.9, pp.1821-1825, 2017-09-10 (Released:2018-09-10)
参考文献数
10
著者
熊谷 広治 佐藤 菜乙美 岩井 恵美 植木 健 神田 隆善
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.691-695, 2000-09-01 (Released:2010-09-27)
参考文献数
8

妊婦外来においてdehydroepiandrosteronesulfate(DHA-S)膣坐剤投与と卵膜剥離操作を組み合わせて施行し,その陣痛誘発の効果について検討した.正期に達した妊婦56例(初産婦28例,1回経産婦28例)を対象とし,以下の4群に分類した.A群=卵膜剥離操作のみ(4例),B群:DHAS膣坐剤投与のみ(18例),C群:DHA-S膣坐剤投与と同時に卵膜剥離操作(16例),D群:DHA-S膣坐剤投与の3~4日後に卵膜剥離操作(18例).これらはおおむね妊娠39週で開始し,陣痛発来まで3~4日ごとに繰り返した.4群間において妊婦年齢,初産婦比率,妊娠期間,分娩時出血量,児体重,Apgarscoreに有意差は認めなかった.B,C,Dの3群間の膣坐剤投与開始から陣痛発来までの日数はそれぞれ,6.2±3.6,4.5±2.8,7.3±2.2で,有意差は認めなかった.A,C,Dの3群間の剥離操作開始から陣痛発来までに要した日数はそれぞれ,6.5±3.2,4.5±2.8,1.5±1.3で,D群が有意に短かかった.またD群ではすべて剥離施行1回で陣痛が発来した.以上より,DHA-S膣坐剤投与から3~4日後の卵膜剥離操作は,外来で簡便にかつ安全に施行できる陣痛誘発法となり得る.〔産婦の進歩52(5):691-695,2000(平成12年9月)〕
著者
神田 隆
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.Suppl, pp.110b-111a, 2015-02-20 (Released:2018-02-20)
著者
林 美佳 神田 隆善 佐藤 直美 岩井 恵美 棟方 哲
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.229-234, 2008

成熟嚢胞性奇形腫は外胚葉,中胚葉,内胚葉の成分を有し,卵巣良性腫瘍のうちでもっとも一般的な疾患である.しかし,その1型である胎児型奇形腫は非常にまれな疾患であり,文献的にも本例を含め28例の報告しかない.われわれは成熟嚢胞性奇形腫の診断で手術を施行したが,手術後に胎児型奇形腫と診断された症例を経験したので報告する.症例は22歳の未妊婦で月経過少を主訴に外来を受診した.初診時超音波画像で径2.0cm大の卵巣腫瘍を認めた.成熟嚢胞性奇形腫と卵巣機能不全の診断で3ヵ月毎に経過観察およびホルモン療法を施行していた.4年間で腫瘍が径5.0cm大としだいに増大し,さらにその3ヵ月後径7.0cm大と急激に増大してきたため腹腔鏡手術を施行した.摘出標本は径5.0cm×7.0cm大の嚢胞性腫瘤で,内部に充実性部分を有していた.充実性部分は頭部,体幹,四肢様構造をもち胎児に類似していた.組織学的には脳,脊椎,皮膚,毛髪,歯牙,骨,気管,消化管さらに骨格筋などを認めた.胎児型奇形腫の診断で現在外来で経過観察中である.また胎児型奇形腫と類似した形態を示す封入奇形腫,卵巣妊娠との相違点,胎児型奇形腫の発生についても文献的考察を加えた.〔産婦の進歩60(3):229-234,2008(平成20年8月)〕
著者
神田 隆 寺崎 哲也
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

研究代表者の教室で世界に先駆けて樹立したヒト血液神経関門構成細胞株を用い、ヒト末梢神経疾患での血液神経関門(BNB)破壊メカニズムを検討した。ヒト免疫性末梢神経疾患患者の一部では、血清成分にBNBを破綻させる因子が含まれることが証明された。また、糖尿病性ニューロパチーで血清に高値となるAGEは、VEGFとTGFを介してBNBを破壊することが明らかとなった。バリアー構成内皮細胞膜に局在するトランスポーターは、新規治療の標的となり得ることが示唆された。
著者
大石 真莉子 川井 元晴 小笠原 淳一 古賀 道明 神田 隆
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.744-749, 2012 (Released:2012-10-15)
参考文献数
25
被引用文献数
2 2

症例は38歳男性である.実子のポリオ生ワクチン経口投与の1カ月後に左上肢と右下肢の筋力低下が出現した.同部位の針筋電図で異常所見なく,筋力低下は一旦自然軽快したが針筋電図の2週間後に再増悪した.MRIでは頸髄前角と腰髄前根にT2高信号域があり,ペア血清で抗ポリオ2型中和抗体価の有意な上昇をみとめたためワクチン関連麻痺性ポリオ(VAPP)と診断した.γ-グロブリン大量静注療法を施行したが筋力改善はなかった.VAPPは通常一相性の経過をたどるが,本例はポリオウイルスの曝露期間中に施行した針筋電図による骨格筋障害がウイルスの感染経路を活性化したため,被検筋を中心とした二相性の症状増悪をきたしたと考えられた.
著者
神田 隆
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.407-410, 2018 (Released:2019-04-22)
参考文献数
19

Neuropathy is a common disease. Recent progress of neurotherapeutics enabled us to treat and cure some intractable neuropathies ; this means that neurologists are required to diagnose and pick–up “treatable neuropathy” patients properly, and to catch–up the recent progress of neuropathy treatment. In this article, I briefly present practical points of diagnosis and treatment in representative treatable neuropathies. In Guillain–Barré syndrome (GBS), first line treatments (plasmapheresis and IVIg) were established in 1980s and 1990s, respectively, and no novel therapeutic regimen has been proposed in these 25 years. However, because a substantial number of patients, especially with severe disease, showed poor recovery and residual deficits, a breakthrough therapeutic strategy has eagerly been awaited. In 2016, Japanese neurologists completed a prospective, multi–center, placebo–controlled double–blinded, randomized phase–II study to evaluate the efficacy of eculizumab in GBS and got favorable results. Future phase–III trials are expected. In chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy (CIDP), three first line treatments (corticosteroids, plasmapheresis, and IVIg) were already established. However, nobody knows which therapeutic regimen is most appropriate in individual patient. Recent discovery of autoantibodies in CIDP (e.g. anti–neurofascin 155) may subdivide CIDP patients, and enable us to choose best therapy in each patient. Vasculitic neuropathy needs prompt diagnosis and rapid commencement of immunotherapy. Pathological confirmation of vasculitis is most important in the diagnosis of this disorder and most of the patients show multiple mononeuropathy, but patients presenting polyneuropathy are not rare. Neuropathy due to vitamin B1 deficiency (beriberi) shows motor–dominant acute polyneuropathy and sometimes misdiagnosed as GBS.
著者
神田 隆
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.5-11, 2005 (Released:2006-02-09)
参考文献数
22
被引用文献数
1

中枢神経では血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB),末梢神経では血液神経関門(Blood-nerve barrier, BNB)が神経系の内外を隔てるバリアーの実体であるが,現在ではBBB,BNBは物質交換を妨げる単なる壁ではなく,現在では神経系に対する物質透過を選択する能動的なシステムであると考えられている.臨床的な立場からは,BBB,BNBは炎症細胞や各種液性因子が神経実質内へと侵入する際の窓口であると共に,難治性神経疾患治療薬が神経細胞・神経軸索へと到達するのを阻む最大の障壁ともとらえることが可能で,BBB,BNBの人為的な操作は各種神経疾患の新たな治療法開発へ新たな地平線を開くものである.
著者
古賀 道明 神田 隆
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.8, pp.1958-1964, 2013-08-10 (Released:2014-08-10)
参考文献数
12

脳炎の代表格であるヘルペス脳炎は,脳炎の一般的な特徴(発熱や髄膜刺激徴候,脳脊髄液異常)に加え,辺縁系脳炎としての臨床像(記憶障害や精神症状,大脳辺縁系にみられるCT・MRI病変分布)が特徴的である.本症を疑った時点でアシクロビル投与を開始するが,同時に他の辺縁系脳炎(HHV-6脳炎や自己抗体介在性脳炎)の可能性を想定しておくべきである.プリオン病はいまだに有効な治療法はなく感染予防が重要で,厚生労働省研究班の感染予防ガイドラインに基づき診療することが推奨される.