著者
小松 伸一
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.182-188, 1998 (Released:2006-04-26)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

エピソード記憶と意味記憶間の区分に焦点を当て,記憶システムを区分する研究アプローチの意義を論じた。まず,記憶モデルの中での両記憶の位置づけを検討した。近年の記憶モデルにおいては,長期記憶は宣言記憶と手続き記憶に二分され,エピソード記憶と意味記憶は宣言記憶を下位区分する概念であるとみなされている。しかし,手続き記憶とエピソード記憶,意味記憶間の関係,さらに,潜在/顕在記憶の位置づけに関しては研究者間で食い違いが認められることを明らかにした。次に,エピソード記憶と意味記憶間の区分をめぐる論点について展望した。両記憶をシステムの相違とみなすか,あるいは,想起モードの相違とみなすかに関してはいまだに結論が出ていないこと,事象間の階層的包含関係を的確に表現する概念としてエピソード記憶ではなく自伝的記憶が用いられるようになったこと,エピソード記憶を経由しなくても意味記憶内での知識獲得が起こりうることを論じた。
著者
今田 里佳 小松 伸一
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.91-101, 2009-07-30
被引用文献数
1

ADHDと診断を受けた子ども48名およびPDDと診断を受けた子ども13名の認知的特徴について、今田・小松・高橋(2003)により開発された集団式注意機能検査と日本版WISC-IIIを用い検討した。ADHD群では、WISC-IIIの比較において、標準得点や、PDD群と比較しても、数唱において顕著に低い成績をおさめ、注意機能検査では標準得点、対照群、PDD群とのいずれの比較においても持続的注意の反映と考えられる音数えにおいて特徴的な低下がみられた。PDD群では、WISC-IIIの比較において、標準得点との間に有意な差が認められず、ADHD群との比較においては、語彙に関する知識や即時的な暗記再生、空間の走査に関しての強さが確認できたものの、標準得点との関連から考えてPDD群における固有に強い能力とは言い切れなかった。また、注意機能は比較的保たれていることがわかった。これらの比較から、ADHD群とPDD群の鑑別で決め手となるのは聴覚的な短期記憶と持続的注意機能が保たれているかどうかに注目することであると示唆された。
著者
小松 伸一 太田 信夫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.155-168, 1999-03-30

記憶研究において近年話題になっているトピックとして, 作業記憶, 潜在記憶, 展望記憶, 記憶の歪み, 自伝的記憶を取り上げ, それぞれのトピックにおける研究動向を展望した。作業記憶研究においては, 中枢実行系の機能を解明していくことがこれからの研究の焦点となっていた。潜在記憶研究では, 無意識的記憶過程との対比によって意識的記憶過程の解明が試みられ, 意図的な想起, 検索結果のモニタリング, 主観的意識経験, という3つの特徴が明示された。これら3つの特徴は, 生態学的妥当性を指向した研究の中で, より詳細な分析が積み重ねられてきた。まず展望記憶は, 回想記憶と比較した場合, 自己始動型検索に依存している点が特徴となっていたが, この特徴は実行機能の反映とみなされた。次に, 検索過程のモニタリングも実行機能の反映と考えられ, その失敗は記憶の歪みや誤りを引き起こすことが指摘された。さらに, 自伝的記憶の想起には, 自己概念が密接に関わり合っていることが示された。実行機能の解明は, 今後の記憶研究にとって重要な課題であることを示唆した。
著者
田巻 義孝 小松 伸一 永松 裕希 原田 謙 今田 里佳 高橋 知音
出版者
信州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

Manly, Robertson, Anderson, & Nimmo-Smith(1999)が開発したTest of Everyday Attention for Children(以下,TEA-Chと略す)を参考とし,(1)注意が単一ではなく複数の機能から構成されているとみなす理論的枠組みに立脚し,(2)児童・生徒に親しみやすい刺激材料や課題を使用し,検査の生態学的妥当性に配慮している集団式注意機能検査バッテリーを作成した。検査バッテリーは,4種の下位検査(地図探し,音数え,指示動作,二重課題)から成っており,それぞれ異なる注意機能(つまり,選択的注意,持続的注意,反応抑制,注意分割)の査定を意図している。この検査バッテリーを小集団トレーニングプログラムに参加を希望したADHD児童に実施したところ、どの児童にも共通して平均より劣っているのは持続的注意の指標であった。このことから,小集団トレーニングプログラムでは,持続的な注意の改善を基本の目標に据え、行動管理の原則を用いるとととした。バークレー(2002)では、AD/HDを有する子どもの行動管理の原則として、即時的で頻繁なフィードバックと目立つ結果、否定の前の肯定、一貫性の保持を挙げている。このプログラムでも、これらの行動管理の原則を守り,子どもが学習や遊びの場面でつまずいた時に担当者がすぐに対応し、できないことを叱るのではなくできたことを誉めるようにし、がんばってシールをためると誉めてもらってご褒美がもらえるよう設定した。小集団トレーニング開始時と終了時の行動観察(生起頻度の評定)から,児童の立ち歩く回数が減り衝動的に発話することが減っていったことが確認された。また開始時と終了時および終了後2ヶ月の保護者の行動評定から,話し合いの態度や協調性,望まない状況での対処や決めたことへの取り組みが以前よりできるようになり効果が維持されたことが明らかになった。