著者
高橋 知音
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.172-188, 2022-03-30 (Released:2022-11-11)
参考文献数
66

発達障害のある大学生(入試の受験者を含む)の能力をテストで適切に評価するために,実施方法の変更・調整(テスト・アコモデーション)が必要になる場合がある。本稿では,発達障害のある大学生へのテスト・アコモデーションにおいて,エビデンスに基づいて適切な判断を行えるようにするための資料を提供することを目的とする。そして,より適切な判断ができるように,今後さらにどのような研究が必要か,近年の研究動向をふまえて提言する。国内外の関連研究をレビューした結果,試験時間延長は発達障害のある学生に効果的であることが示された。記述試験におけるパソコンを使った解答は,タイピングに習熟すれば有効である。文字の拡大等,問題提示方法の変更は,発達障害のある学生対象の研究ではないものの,解答時間が長くなる可能性が示されている。別室受験は,有効性のみられる人がいる一方,LD,ADHDのある学生全体としては効果がみられず,むしろ成績を低下させる場合もある。発達障害のある学生は個人差が大きいことから,個別ケースにおける判断においても,研究においても,診断名ではなく,機能障害の状態の評価結果を重視することが求められる。
著者
石島恵太郎 高橋知音
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

問題と目的 数唱は臨床現場で頻繁に使われる認知機能検査課題であり,ワーキングメモリを測定するとされている。しかし,数唱を構成する順唱と逆唱のそれぞれの検査がどのような認知機能を測っているのかについて,ワーキングメモリ理論に基づいた見解が,知能検査の理論・解釈マニュアルには示されてはいない。 順唱が音韻ループの機能を反映しているのに対し,逆唱では,視空間スケッチパッドの機能を反映しているという考え方がある(St Clair-Thompson & Allen, 2013)。逆唱において,構音リハーサルだけでは数字を逆の順番で再生するのは難しい。効率的に数字を並び替えるために,数字の視覚イメージが使用されていると考えられている。この仮説を踏まえると,刺激の提示モダリティを変えると,順唱,逆唱において使用される認知機能の差が顕著になると考えられる。たとえば,視覚提示の課題は,視覚処理を促すと考えられる。 本研究では,提示モダリティの影響を個人差の要因も含めて検討することで,順唱で主に音韻処理,逆唱では音韻処理に加えて視覚処理が行われている,という視覚イメージ仮説を検証することを目的とする。実験1 方法 参加者 大学生30名(男性15名,女性15名)が参加した。平均年齢は21.8歳(SD=1.8)であった。 手続き 2(モダリティ)×2(再生方向)の被験者内計画であった。順唱,逆唱の順に実施され,提示モダリティの実施順はカウンターバランスされた。順唱は数字3個,逆唱は2個から開始し,参加者が正答すると数字系列の長さは1増加し,同じ長さの数字系列に2連続で失敗した場合,系列の長さを1減少させた。1つの条件では10試行,全条件で40試行を行った。 採点方法 それぞれの長さの数字リストでの正答率を算出し,順唱では2.5,逆唱では1.5を足して得点とした。結果と考察 課題得点に対して因子分析を行い(主因子法, バリマクス回転),2因子を抽出した(Table 1)。音韻的処理と相性の良い二つの順唱課題と聴覚提示された逆唱課題の得点への負荷量が高いことから因子1は音韻処理を反映していると考えられる。成人を対象にした研究では,逆唱における視覚イメージの使用は効率的な方略であることが示唆されている(St Clair-Thompson & Allen, 2013)。イメージ方略と相性が良い2つの逆唱課題において負荷量が高い因子2は視覚処理を反映していると考えられる。以上から,それぞれの因子を音韻処理因子,視覚処理因子と命名する。実験2 目的 因子負荷の差が顕著な視覚提示順唱と視覚提示逆唱での視覚妨害の影響の程度から,因子2が視覚処理を反映するかどうかを検討する。第1実験で得られたデータから視覚処理因子の因子得点が0以上を高群,0未満を低群とする。視覚処理因子の高い高群では,逆唱において視覚妨害の影響を強く受けるはずである。方法 参加者 第1実験に参加した実験協力者24名(男性13名,女性11名)が再び参加した。 材料 視覚妨害刺激として,Quinn & McConnel (1996)によって開発されたダイナミック・ビジュアル・ノイズ(以下,DVN)を使用した。 手続き 再生段階にDVNが提示される以外は,第1実験の視覚提示条件と同様であった。結果 因子得点高低を被験者間要因,視覚妨害有無と再生方向を被験者内要因とする3要因分散分析を行った。 分析の結果2次の交互作用が有意だった(F (1, 22)=8.31, MSE= 0.54, p=.01, ηp2=.27)。単純交互作用検定を行ったところ,視覚妨害なしにおける因子得点×再生方向の交互作用が有意だった(F(1, 22)=16.53, p=.00)。単純・単純主効果は,因子得点高群の順唱,低群の順唱,因低群の逆唱において,それぞれで有意に視覚妨害ありの方が高かった(F (1, 22)=14.19, p=.00,ηp2=.392;F (1, 22)=6.44, p=.02, ηp2=.23;F (1, 22)=6.93, p=.02, ηp2=.24)(Figure 1)。一方,因子得点高群の逆唱においては有意ではなかった(F (1, 22)=1.02, p=.32, ηp2=.04)。妨害ありにおいてはこの交互作用は有意でなかった(F (1, 22)=0.04, ,p=.84)。考察 課題得点に関して視覚処理低群では順唱,逆唱ともに視覚妨害条件では得点が有意に高くなっていた。一方,視覚処理高群では順唱のみ有意に得点が高くなっており,逆唱では差は認められなかった。視覚妨害ありにおける成績向上は,あり条件が全てなし条件の後に実施されたために,実験参加者が課題の手続きや遂行に慣れたことが考えられる。しかし,視覚処理高群における逆唱課題では向上せず,DVNによって視覚処理が妨害されたことが示唆された。因子2が視空間スケッチパッドの機能を反映していることが示唆された。
著者
長谷川 彩香 高橋 知音
出版者
信州大学大学院教育学研究科心理教育相談室
雑誌
信州心理臨床紀要 = Annual letters of clinical psychology in Shinshu (ISSN:13480340)
巻号頁・発行日
no.19, pp.95-106, 2020-06

本研究では,評価懸念が強く自分の本一音を我慢して相手を気遣う傾向があると,親しい友人への援助要請に消極的な態度や抵抗感が高まるかどうか検討することを目的とした。大学生183名を対象に無記名の質問紙調査を実施した。調査では「親しい友人」を一人想起させ,その友人に対する被援助志向性と気遣いを測定した。その結果,評価懸念が高く自分の気持ちを我慢してまで相手を気遣う傾向にある人は,相手が親しい友人であっても援助要請に抵抗感をもつことが明らかになった。
著者
高橋 知音 荻澤 歩 茂原 明里 辻井 正次 手塚 千佳 戸田 まり 仲島 光比古 橋本 しぐね 藤岡 徹 藤田 知加子 森光 晃子 山本 奈都実 吉橋 由香
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では感情認知能力、社会的文脈と感情や意図を読み取る能力、社会的適切さや暗黙のルールの理解を多面的に評価する「社会的情報処理能力検査バッテリー」を開発した。それぞれの課題について信頼性、妥当性についてある程度の根拠が得られた。これは、自閉症スペクトラム障害のある人の社会性を評価することができる我が国初めての検査バッテリーと言える。報告書として音声刺激CDを含む実施マニュアルも作成した。
著者
鈴木 比香乃 高橋 知音
出版者
信州大学大学院教育学研究科心理教育相談室
雑誌
信州心理臨床紀要 (ISSN:13480340)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.63-75, 2018-06-01

本研究では、過敏型自己愛の攻撃表出に至るプロセスを解明するために,自我脅威場面において喚起される恥や不安が攻撃表出に与える影響を,過敏型と誇大型の高低を組み合わせた4タイプごとに比較検討した。大学生266名を対象に無記名の質問紙調査を実施した結果、過敏型と誇大型の傾向がともに高いと,恥や不安は攻撃表出の抑制としづ適応的な働きをするが,過敏型の傾向のみが高い場合は,恥や不安が攻撃表出を促進するという不適応的な働きをすることが示された。
著者
北津 加純 高橋 知音
出版者
信州大学大学院教育学研究科心理教育相談室
雑誌
信州心理臨床紀要 (ISSN:13480340)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.39-49, 2017-06-01

感情のラベリングの方法の違いが,感情変化や認知的負荷に及ぼす影響について検討した。その結果,感情のラベリングを行う際に,自分自身で、ラベルを生成するよりも選択肢をもとに感情をラベリングした方が,画像による不快度や覚醒度が低下した。また,認知的負荷については自分で、ラベルを生成する条件が最も高かった。感情ラベルを選択肢から選ぶことで,自身の感情状態との距離化が生じ,不快度,覚醒度が小さくなる可能性が示唆された。認知的負荷がかからず感情制御効果も高い,選択肢を用いたラベリングは,今後カウンセリングなどの臨床場面での応用が期待される。
著者
西 くるみ 高橋 知音
出版者
信州大学大学院教育学研究科心理教育相談室
雑誌
信州心理臨床紀要 (ISSN:13480340)
巻号頁・発行日
no.19, pp.57-70, 2020-06-01

本研究では,援助要請先の対象を大学の学生相談室と想定し,援助要請をしやすくする際に必要とされる情報は何かを分類すること,相談室へ援助要請するために必要とされる情報は人によって異なるかどうか検言すするととを目的に研究を進めた。必要な情報は「相談室の実績」「相談相手」「相談室のシステム」に分類できることが示された。実際の介入には不気味イメージを払拭できるような情報提供が効果的であること示唆された。スティグマについてはこちらから介入できる効果的な情報は得られなかった。また,「情報があれば行く」という状態になるためには,少なくとも不利益イメージが低くなることが必要であるということが示された。
著者
長谷川 彩香 高橋 知音
出版者
信州大学大学院教育学研究科心理教育相談室
雑誌
信州心理臨床紀要 (ISSN:13480340)
巻号頁・発行日
no.19, pp.95-106, 2020-06-01

本研究では,評価懸念が強く自分の本一音を我慢して相手を気遣う傾向があると,親しい友人への援助要請に消極的な態度や抵抗感が高まるかどうか検討することを目的とした。大学生183名を対象に無記名の質問紙調査を実施した。調査では「親しい友人」を一人想起させ,その友人に対する被援助志向性と気遣いを測定した。その結果,評価懸念が高く自分の気持ちを我慢してまで相手を気遣う傾向にある人は,相手が親しい友人であっても援助要請に抵抗感をもつことが明らかになった。
著者
山口 恒夫 高橋 知音 鷲塚 伸介 上村 惠津子 森光 晃子 小田 佳代子
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

自閉症スペクトラム障害(以下ASD)と注意欠陥多動性障害(以下ADHD)の傾向に関わる困り感と支援ニーズを把握するための質問紙を実施し、その特徴及び信頼性、妥当性を検討した。ASD困り感質問紙ADHD困り感質問紙は、既存の自己評価質問紙の項目に加え、事例報告論文、当事者の手記等から行動特徴、困難経験を表す記述を抜き出したものを項目化し、それらの困り感を4段階評定で問う質問紙であった。分析の結果、十分な信頼性が示され、外的変数との関連から妥当性に関する証拠も得られた。
著者
田巻 義孝 小松 伸一 永松 裕希 原田 謙 今田 里佳 高橋 知音
出版者
信州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

Manly, Robertson, Anderson, & Nimmo-Smith(1999)が開発したTest of Everyday Attention for Children(以下,TEA-Chと略す)を参考とし,(1)注意が単一ではなく複数の機能から構成されているとみなす理論的枠組みに立脚し,(2)児童・生徒に親しみやすい刺激材料や課題を使用し,検査の生態学的妥当性に配慮している集団式注意機能検査バッテリーを作成した。検査バッテリーは,4種の下位検査(地図探し,音数え,指示動作,二重課題)から成っており,それぞれ異なる注意機能(つまり,選択的注意,持続的注意,反応抑制,注意分割)の査定を意図している。この検査バッテリーを小集団トレーニングプログラムに参加を希望したADHD児童に実施したところ、どの児童にも共通して平均より劣っているのは持続的注意の指標であった。このことから,小集団トレーニングプログラムでは,持続的な注意の改善を基本の目標に据え、行動管理の原則を用いるとととした。バークレー(2002)では、AD/HDを有する子どもの行動管理の原則として、即時的で頻繁なフィードバックと目立つ結果、否定の前の肯定、一貫性の保持を挙げている。このプログラムでも、これらの行動管理の原則を守り,子どもが学習や遊びの場面でつまずいた時に担当者がすぐに対応し、できないことを叱るのではなくできたことを誉めるようにし、がんばってシールをためると誉めてもらってご褒美がもらえるよう設定した。小集団トレーニング開始時と終了時の行動観察(生起頻度の評定)から,児童の立ち歩く回数が減り衝動的に発話することが減っていったことが確認された。また開始時と終了時および終了後2ヶ月の保護者の行動評定から,話し合いの態度や協調性,望まない状況での対処や決めたことへの取り組みが以前よりできるようになり効果が維持されたことが明らかになった。