著者
豊田 将也 吉野 純 小林 智尚
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.I_319-I_324, 2019

<p> 2018年に発生した台風24号は,強い勢力を維持した状態で上陸し,名古屋港への最接近時刻が満潮時刻と重なると予報されたため,高潮に対する最大級の警戒(最大潮位偏差3.45m)が呼びかけられた.しかし,実際の台風進路が,当時の上陸直前の予報から大幅に逸れたために大規模な高潮災害には至らなかった.このような予報誤差の要因を解明することは,今後の沿岸災害予報の改善のためにも極めて重要な課題となる.本研究では,高解像度台風-高潮結合モデルによる進路アンサンブル実験を行い,台風24号による高潮に対する予報誤差の要因を分析するとともに,本事例において起こり得た最悪の高潮についても評価した.台風24号は最大風速半径が約120kmと大きく,予報の進路よりも南側を通過することで,名古屋港が最大風速域から外れ,潮位上昇が抑制されていたことが明らかとなった.また,本事例における名古屋港での最悪の高潮は最大潮位偏差2.24 mであり,実際よりも約1.3°北の進路を通った場合に発生することが明らかとなった.</p>
著者
吉野 純 岩崎 大也 小林 智尚
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.I_1081-I_1086, 2020 (Released:2020-11-04)
参考文献数
12

本研究では,2014年12月の北海道東岸に高潮をもたらした爆弾低気圧を対象として,力学的気象モデルと高潮モデルによる擬似温暖化実験を実施することで高潮の将来変化を評価し,また,それらに基づき高潮の進路アンサンブル実験を実施することで過去・現在・将来における可能最大高潮を評価した.擬似温暖化実験の結果,将来気候下(RCP8.5の2080~2099年を想定)の爆弾低気圧はより強化される傾向にあり,特に,気温と海水面温度の両者の上昇により台風のような発達特性を示すことが明らかとなった.また,高潮の進路アンサンブル実験の結果,将来気候下の爆弾低気圧に伴い,根室港における可能最大高潮は,2014年12月の爆弾低気圧による高潮(潮位偏差1.42m)に比べて約1m近く上昇することが明らかとなった.
著者
吉野 純 中田 勇輝 古田 教彦 小林 智尚
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.I_493-I_498, 2017 (Released:2017-10-17)
参考文献数
6
被引用文献数
1

台風1610号は,2016年8月30日午後6時頃に北西進することで統計開始(1951年)以降初めて東北地方太平洋側に上陸した.本研究では,このような特異な進路をとった台風1610号の進路形成メカニズムを解明することを目的として,渦位部分的逆変換法に基づいて,台風周辺の擾乱が励起する指向流ベクトルを渦位偏差毎に分解することで推定した.台風1610号が岩手県大船渡市付近に上陸した時間帯には,台風の西側に位置した上層の寒冷渦が作り出す南東風に加えて,それに伴う積乱雲活動(非断熱加熱)により発達した下層低気圧(湿った正渦位偏差)が作る南風や上層高気圧(湿った負渦位偏差)が作り出す東風が同時に作用することで,約20 m/sの南東風の指向流ベクトルにより北西進したことが明らかとなった.
著者
山下 隆男 塚本 修 大澤 輝夫 永井 晴康 間瀬 肇 小林 智尚
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では,地球温暖化による気候変動に伴い巨大化する台風,ハリケーン,サイクロンを対象として,わが国の主要湾(大阪湾,伊勢湾,有明海・八代海),メキシコ湾およびベンガル湾における,高潮,高波,強風,豪雨、洪水に関する災害外力の上限値を評価することを目的とする。このため,以下の3研究課題について,各々のサブテーマを分担課題として研究を進め,災害外力の上限値解析を行った。(1)スーパー台風(ハリケーン・サイクロン)の数値モデル(2)台風と海洋との相互作用(3)スーパー台風による災害外力の上限値解析。最終年度に得られた成果をまとめると、以下のようである。1.海水温の上昇により、熱帯性低気圧がどの程度巨大化するかを、地上風速、降雨量とについて数値的に検討した。海面水温の2度の上昇は海面風速(せん断応力)降水量(陸上および海上)に極めて甚大な影響を及ぼすことを示した。2.台風と海洋の相互作用では、台風による海水混合で台風が弱体化する機構を示した。さらに、海上の降水量、河川からの出水により海洋表層の淡水成分が増加すれば、成層構造が強化され、台風による海水の混合過程が弱まれば、台風が減衰しにくくなる可能性を示した。3.災害外力の評価では、沖縄県において台風の巨大化を考慮した高潮ハザードマップを作成し公表した。4.気候変動の捉え方として、地球の平均気温のように指数関数的に増加するトレンドとしての上昇以外にも、太平洋、大西洋、インド洋等の海洋振動の影響による数十年周期の変動(ゆらぎ)を、適応策において考慮することの重要性を指摘した。