- 著者
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小泉 尚嗣
渋谷 拓郎
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 萌芽的研究
- 巻号頁・発行日
- 1996
研究対象である鳥取県の湯谷温泉は,少なくとも3つの温度の異なる帯水層(上から中温・低温・高温の帯水層)から供給される水で形成されていることがわかっている.地球潮汐や気圧変化によって地殻の体積が縮むとき,湧水量が増大し水温が低下することから,低温の帯水層から供給される水の量が,地殻の体積歪変化に対して最も敏感に対応して変化していることが判明した.平成8年8月から湯谷温泉において,水温2チャンネル(深さ2.1mと低温の帯水層直上の深さ24m)と湧水量2チャンネル(低感度と高感度)の計4チャンネルのデータを,5Hzのサンプリングレートで(科学研究費で購入した)ディジタルデータレコーダに収録し始めた.収録チャンネルが増えたので,当初予定していた10Hzのサンプリングレートを5Hzに落として収録している.1996年10月19日の23時44分48秒頃に発生した日向灘の地震(M6.6)の際,従来の1時間値で見る限りでは,深さ2.1mと24mの所の水温が地震後に50〜70m℃上昇したということが分かるにすぎなかった.しかし,5Hzサンプリング値で見ると,深さ2.1mの水温で23時47分7秒頃から23時47分22秒頃から23時47分48秒頃の間に3m℃の低下、深さ24mの水温で23時47分29秒頃の間に5〜6m℃の低下があり,その後上昇に転じていることが判明した.他方,京都大学鳥取観測所の超高性能地震計の記録によれば,P波立ち上がりが23時45分50秒前後、表面波の立ち上がりは23時46分45秒前後、表面波の大きなピークは23時47分前後である.現状では変化の全体を説明することはできないが,変化の開始時間のみに着目すると,表面波によって低温の帯水層の湧水量が変化し,それが水温の変化となって井戸上部に伝わっているように見える.これが事実とすれば,地震時の水温の変化が,地震の表面波によってもたらされるケースがあることを観測によって示した最初の事例となる.