著者
末永 統 小笠原 恵
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.391-400, 2015 (Released:2015-11-19)
参考文献数
19
被引用文献数
3 1

本研究では、行動問題を示す発達障害児に対して行動支援計画を実施し、計画を立案・実行する手続きにおいて実行に係る要因を分析することを目的とした。まず、機能的行動アセスメントに基づき、実行者である教員と保護者に対して立案した支援計画を示した。立案段階において、実行者が支援計画のアプローチを実行可能か否かに関する回答を得た上で、可能であるとされたものを計画に導入した。計画の実行に伴い、対象児の行動問題のうち、自傷行動については実行前よりも低減がみられた。また、実行度の高かったアプローチが、立案段階でどのような理由から導入に至ったのかに関する回答を、実行に係る要因として分析した。その結果、「対象児の特性や好み」「資源(教材)」「実行者の負担」「構成員への影響」が推察された。今後の課題として、支援計画の修正手続きや、本研究で示された要因について、複数の事例を通して検討を重ねる必要が残された。
著者
高橋 智子 山田 剛史 小笠原 恵
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.49-60, 2009-05-30
被引用文献数
1

本研究では、過去40年にわたって「特殊教育学研究」に掲載された一事例実験の研究を対象に、各研究で用いられた処遇の効果についての総括的なレビューを行うことを目的とした。第1巻から第43巻より51の論文を抽出し、3種類の効果量(PND,Busk and Serlin(1992)の効果量、Center,Skiba,and Casey(1985-86)の効果量)を用いて、年齢、障碍種、標的行動ごとに研究結果の統合を行った。その結果、年齢、障碍種、標的行動によって効果の大きさが異なる可能性が示された。年齢においては13〜18歳で、障碍種では自閉症カテゴリで、標的行動では対人スキル・机上学習で処遇の効果が全体的に大きいことが示唆された。
著者
平澤 紀子 小笠原 恵
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.157-166, 2010-07-31 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
8

本研究は、行動問題を示す人々への支援アプローチである積極的行動支援の進展と課題について、生活の向上という観点から検討した。Journal of Positive Behavior Interventionsの1999年から2008年までに掲載された支援研究65件について、積極的行動支援の目指す10のテーマをもとに分析した。その結果、発達障害のある個人だけでなく、児童生徒集団も含み、生活場面において適応行動を支援することで、行動問題の解決や予防をねらう研究が多く取り組まれ、その効果評価は適応行動が中心であった。一方、こうした支援はおもに行動問題の行動随伴性に基づいており、生活場面の文脈に基づく支援の開発や支援がもたらす生活の向上および環境の改善に関する評価は少なかった。結果から、支援対象となる新たな適応行動の行動随伴性への焦点が不足していることを指摘した。今後の研究として、新たな適応行動の行動随伴性が生じるための環境条件や環境構築の分析に基づいた支援の開発、生活場面を構成する人々に関する行動随伴性の開発、循環的な環境の拡大に関する検討を挙げた。
著者
小笠原 恵 広野 みゆき 加藤 慎吾
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.41-49, 2013 (Released:2015-02-18)
参考文献数
14
被引用文献数
5 2

本研究では、行動問題を示すことによって授業における課題従事が困難になっている自閉症児1名に対して、トークン・エコノミー法を用いて課題従事を支援し、その効果を課題従事の促進および行動問題の低減から検討することを目的とした。支援開始前、授業中の本児の要求が拒否された場合に行動問題が生起し、課題従事をせずにその場から離されるという随伴性が成立していた。本研究では、この行動問題が生起する環境に、トークン・エコノミー法を用いて課題従事すれば本児の要求が満たされるという新たな随伴性を組み込んだ。その結果、課題の従事率は80%を超えた。しかし、行動問題は半減するにとどまった。これらの結果より、本研究で用いたトークン・エコノミー法は課題従事を促進することと、一部の行動問題の低減に有効であることが示唆された。また、残存する行動問題について、経時的にその機能を分析する必要性が課題として残された。
著者
小笠原 恵
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.31-39, 1999-09-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1

本研究で対象とされた自閉症児は、本研究開始以前に即時性エコラリアと機能的に等価な援助要求語が形成され、エコラリアの消失には成功した。しかし、援助要求語が過剰般化し、不適切な場面でも高頻度で出現した。これは、質問が提示されたとき、その内容に自分の知識が対応するか点検した上で、援助が必要であるのか否かを決定する、モニターを本児が行っていなかったためであると考えられた。本児の場合、(1)モニタースキルはもっているが、指導者から質問されると援助を要求するという行動連鎖が強固であったために、モニターする機会が剥奪されていたか、(2)モニタースキルに障害があったか、このいずれかが援助要求語の不適切な場面への過剰般化の原因として仮定された。そこで、指導1において援助要求語が出現した際に、モニターする機会を新たに設定した。しかしながら、この手続きでは、援助要求語は機能的に使用されなかった。指導2において、課題の難易度によって、出現した援助要求語の強化の随伴性に差をつけ、本児がわかるものとわからないものを識別するための手がかりを提示した。その結果、本児は適切な場面で援助を要求することが可能となった。これらの結果より、本研究の手続きが、機能等価性を再構成したことが示唆された。
著者
加藤 慎吾 小笠原 恵
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.283-291, 2016 (Released:2019-02-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本研究では、知的障害特別支援学校教員が機能的アセスメントに基づいた行動問題支援を行う際に、直面する困難について調査した。行動問題支援に関する研修に、自主的に参加した17人の教員を対象とした。研修は、講義と演習から構成された。演習では、参加者がそれぞれの学校で実際に支援をしている児童生徒を対象として、機能的アセスメントに基づた支援計画の作成、実行を行った。(1)アセスメント、(2)観察・記録、(3)支援計画の作成、(4)支援計画の実行、の各段階において難しかったことを質問紙により問い、回答を得た。質問紙は、全24項目の困難を5段階で問うリッカート尺度と自由記述法を採用した。結果として、(a)問題となる行動についての情報収集、(b)行動の記録、(c)計画の実行に関する具体的な困難が示された。知識やスキルの不足を要因とする技術的な課題と他の教員の理解や協力といった支援体制の課題が示唆された。
著者
小笠原 恵 末永 統
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.147-156, 2013 (Released:2015-02-18)
参考文献数
15

本研究は、日常生活において、他者に対する暴力・暴言や物壊し行動を頻繁に示す広汎性発達障害児1名を対象として、自己記録を中心とした介入パッケージを導入した。介入パッケージには、(1) 行動問題の生起を自身で記録すること、(2) 適応行動の生起に他者が言葉をかけることによる強化を行い、その回数を自身で記録すること、(3) 記録内容から得点を算出し、バックアップ強化子と交換するトークン・エコノミー法およびレスポンスコスト、の3つを含んだ。対象児の行動の生起は、母親が記録した。介入開始後、標的行動は増減を繰り返しながら消失した。本児の標的行動の記録数は、母親の記録数に比べ少なかった。適応行動に対して他者がかけた言葉による強化の記録数は維持された。記録行動の維持には、記録方法とバックアップ強化子が影響した。また、適応行動の生起に対して他者がかけた言葉による強化数を本児が記録したことが、標的行動の生起に影響を与えた可能性が示された。
著者
三好 茂樹 河野 純大 白澤 麻弓 磯田 恭子 蓮池 通子 小林 正幸 小笠原 恵美子 梅原 みどり 金澤 貴之 中野 聡子 伊福部 達
出版者
The Society of Life Support Engineering
雑誌
ライフサポート = / the Society of Life Support Technology [編] (ISSN:13419455)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.146-151, 2010-12-30
参考文献数
7
被引用文献数
1 4

Deaf or hard-of-hearing people need support services such as real-time captioning. It is fairly common for captionists to be unable to perform captioning services. In order to address this problem, we proposed a Mobile-type Remote-captioning System. The main characteristic of our system is to use two functions of one mobile phone (e.g. the iPhone 3G/3GS, Apple Computer, Inc.) at the same time. The two functions are to display the captions input by the captionists (data communications) and to call the captionists to transmit the speaker's speech to the captionists (telephone call). The purpose of our research was to make clear the differences with the existing system, and to discover the advantages and faults of our system. In this study, we investigated these issues using a questionnaire for captionists who had used our system. As a result, we found that our system is suitable for a situation in which the speaker and the deaf or hard-of-hearing person are communicating while walking together (e.g. excursions, plant tours), whether indoors or outdoors. In addition, it reduces the stress that can be caused to deaf or hard-of-hearing children by having adults (captionists) other than teachers in the classroom.
著者
平澤 紀子 小笠原 恵
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.157-166, 2010
被引用文献数
3

本研究は、行動問題を示す人々への支援アプローチである積極的行動支援の進展と課題について、生活の向上という観点から検討した。Journal of Positive Behavior Interventionsの1999年から2008年までに掲載された支援研究65件について、積極的行動支援の目指す10のテーマをもとに分析した。その結果、発達障害のある個人だけでなく、児童生徒集団も含み、生活場面において適応行動を支援することで、行動問題の解決や予防をねらう研究が多く取り組まれ、その効果評価は適応行動が中心であった。一方、こうした支援はおもに行動問題の行動随伴性に基づいており、生活場面の文脈に基づく支援の開発や支援がもたらす生活の向上および環境の改善に関する評価は少なかった。結果から、支援対象となる新たな適応行動の行動随伴性への焦点が不足していることを指摘した。今後の研究として、新たな適応行動の行動随伴性が生じるための環境条件や環境構築の分析に基づいた支援の開発、生活場面を構成する人々に関する行動随伴性の開発、循環的な環境の拡大に関する検討を挙げた。
著者
小笠原 恵 氏森 英亜
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.45-56, 1990-09-30

本研究では、重度の精神発達遅滞児の要求言語形成のために、機会利用型指導法にマンド・モデル法を付け加えた指導法を導入した。本児のマンド発現を促すために、強い強化機能をもつと推測される遊具を導入し、その効果を検討した。また、指導者からの言語的手掛りや言語モデルを除去していく手続きの検討を加えることを目的とした。そのために本児がベースライン期に最も長い時間遊んでいたことから、強化機能が強いと推測されるブランコを本児が一人では乗ることの出来ない高さまで上げた。そのうえで、本児がブランコに触った時に、指導者は「なーに」という言語的手掛りを与え、反応が無いときには「やって」という言語モデルを示した。介入期1では言語モデルを、介入期2では言語的手掛りを固定遅延呈示し、介入期2で言語モデルを、フォローアップ期で言語的手掛りを除去した。その結果、介入期1では、マンド・モデル法を導入することにより、反応型を形成できた。介入期2では言語的手掛りに反応するという日常場面でよくみられる自然な形での反応へと移行した。さらに、言語的手掛りも除去し、ブランコという物理的刺激および指導者の存在という対人的刺激のみにしたフォローアップ期でも、一定水準の要求語の自発がみられた。