著者
山田 剛史
出版者
日本老年行動科学会
雑誌
高齢者のケアと行動科学 (ISSN:18803474)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.35-55, 2020 (Released:2021-01-01)

単一事例データの評価のため,様々な統計的方法が提案されている。本稿の目的は,単一事例データのために開発された効果量 (Effect Size) を解説することである。さらに,効果量を用いて行われる,複数の単一事例研究の統計的な統合の手法であるメタ分析についても紹介した。マルチレベルモデルを用いた単一事例研究のメタ分析,単一事例データへのベイズモデリングの適用についても述べた。
著者
山田 剛史
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.29, no.Suppl, pp.219-232, 2015-03-31 (Released:2017-06-28)

本稿の目的は、シングルケース研究(single-case research)のための統計的方法について簡潔なレビューを行うことである。具体的には、(1)シングルケース研究のデータ(以降これをシングルケースデータと呼ぶことにする)の特徴、(2)視覚的判断の精度に関する研究、(3)推測統計的方法(統計的検定)、(4)記述統計的方法(効果量)、(5)統計的方法について学ぶためのリソースの紹介、(6)統計的方法の現状と展望(考察)、からなる。
著者
山森 光陽 岡田 涼 山田 剛史 亘理 陽一 熊井 将太 岡田 謙介 澤田 英輔 石井 英真
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.192-214, 2021-03-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
93

この紙上討論の目的は,メタ分析や,メタ分析で得られた結果を多数収集し,メタ分析と同様の手続きでさらなる統合的見解を導く分析(スーパーシンセシス)といった,研究知見の統計的統合が,学術的な教育研究の持つ現象理解と理論形成,社会的要請への応答という二つの役割に対して果たしうる寄与を議論することである。日本の教育心理学におけるメタ分析の受容の経緯と最近の研究動向の概観を踏まえ,研究知見の統計的統合の普及が,個々の一次研究をサンプルと見なし,これらの積み重ねで結論を導こうとする態度の広まりといった,教育心理学および隣接領域での研究上の意義が示された。また,「エビデンスに基づく教育」を推進する動きとその是非に対する議論の活発化といったことも背景として,効果量のみに注目する単純化された見方がもたらされ,研究知見の拙速な利用が促されるといった社会的・政策的影響が見られることも示された。その上で,これらの意義や問題に対して議論がなされた。研究知見の統計的統合は現象理解と理論形成に一定の貢献をするものの,因果推論を行うためには個票データのメタ分析が必要となり,そのためのオープンサイエンスの推進の必要が指摘された。また,研究知見の統計的統合が,精度が高く確からしい知見をもたらし得るものと見なされ,その結果が平均効果量といった単純な指標で示されることから,教育の実践者が持つ判断の余地の縮小や,教師の仕事の自律性の弱化を招きうるといった危惧が表明された。これらの議論を通じて,研究知見の統計的統合は,現象理解と理論形成に対しては,知見群全体の外的妥当性を高めるための有効な手立てであることが示され,構成概念の再吟味や概念的妥当性の検証にも寄与する可能性があり,教育心理学の理論自体の精度と確からしさを高めることにつながる展開が期待できることが導かれた。社会的要請への応答に対しては「何が効果的か」を知りたい,明解でわかりやすい結論が欲しいという要望には応えていることが示された。一方,この討論で指摘された諸問題は,教育心理学が産出する研究知見そのものが研究分野外に与えるインパクトそのものを問うものであることも示された。最後に,研究知見の統計的統合が,現象理解と理論形成,社会的要請への応答という二つの役割をいっそう果たしていくためには,教育心理学の領域の内外で,合理的な知見を伝達し交わし合うことに対する意識が,これまで以上に求められることを論じた。
著者
山田 剛史
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.44-58, 1999-02-25 (Released:2017-06-28)

単一事例実1験計画(シングルケース研究法)で得られたデータの評価方法として、いくつがの統計的方法が提案されている。ランダマイゼーション検定は、(1) データの系列依存性を問題としない、(2) 時系列分析ほど多くのデータポイン1・を必要としない、(3) 様々なデザインに適した方法が考案されている、といった理由からシングルケースデータの分析方法として近年注目されてきている。本稿では、これまで多くの研究者によって提案されてきた、様々な単一事例実験データ分析のためのランダマイゼーション検定の方法を、(1) 測定時期への処理のランダム振り分け、(2) 介入ポイントのランダム振り分け、(3) フェーズへの処理のランダム振り分け、とランダム振り分けの方法の違いにより大別し、さらにそのカテゴリ下に分類される種々のランダマイゼーション検定の方法について概説するとともに、この検定を実際のデータに適用する際の問題点に関しての検討を行う。
著者
山田 剛史
出版者
日本青年心理学会
雑誌
青年心理学研究 (ISSN:09153349)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.15-35, 2004
被引用文献数
1

The present study investigated about life history in adolescence through making life-history graph from dimension of important event, and impression and describing change of feelings and meanings about them on questionnaire. Furthermore, the purposes of this study were to understand self-development of adolescence in past-present-future and to investigate effects of reflection taken by graph making. Each time dimension were positioned as "meaning's re-construction toward affirmative vector for past life event", "affirmative meanings for present self", and "affirmative meanings for future". As a result, multiple aspects of self-development were shown by description-based qualitative analysis. Also, reflection effects such as "affirmative self-understanding", "eagerness to self-development", and "unfavorable self-understanding" was achieved. Furthermore practical significance was found. Throughout all discussion, possibility of "qualitative questionnaire method" by active usage of the life-history graph as adolescent psychological research method and descriptive data such as meanings and reflection was suggested.
著者
鳥居 朋子 岡田 有司 高橋 哲也 林 透 村上 正行 山田 剛史 串本 剛 大山 牧子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、4年間の研究期間において下記の5点を一体的に進める。(1)教育プログラムの評価と改善の好循環システムの先進事例を検討するため、米国・英国等の大学への訪問調査を行い、優れた循環システムの要件を抽出、(2)日本の大学の全国的な量的調査により、教育プログラムの評価と改善に関わる実態分析や主要な問題を特定、(3)学習成果測定や教育プログラムの評価を推進している日本の大学への訪問調査、(4)日本の大学において教育プログラムの評価と改善の好循環システムを形成する際に考慮すべき点やシステム構築上の要件等の抽出・整理、(5)好循環システムを組織的に構築するための具体的な手法をティップスの形式にまとめ公表。
著者
青木 多寿子 橋ヶ谷 佳正 宮崎 宏志 山田 剛史 新 茂之 川合 紀宗 井邑 智哉
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

よい行為の習慣形成を目指す品格教育(character education)は,小中連携の9年一貫で,学校・家庭・地域で連携して子どもの規範意識を育む生徒指導体制の確立を可能にする。本研究では,米国の品格教育優秀校の視察を通して,品格教育の実践に関わる具体的な手立てだけでなく,単なる徳の提示にとどまらない品格教育の本質について論考した。加えて,小中学校へのアンケート調査で,品格の構成要素を示した。さらに,品格教育は,1,2年くらいで成果が出るような教育でなく,5,6年目かかること,また特に中学生で大きな成果が見られることを示した。
著者
山田 剛史 YAMADA Tsuyoshi
出版者
名古屋大学高等研究教育センター
雑誌
名古屋高等教育研究 (ISSN:13482459)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.155-176, 2018-03

本稿の目的は、第1に、大きく変化する時代・社会的状況の中で、アウトカム基盤型カリキュラムの設計や多様な能力育成手段としてのアクティブラーニングの展開、多面的な学習成果の測定・評価(インスティテューショナル・リサーチ)および改善につなげる内部質保証システムの構築など、急速に進められる大学教育の質的転換の流れを概観することである。第2に、学生の学習(学び)と発達(成長)の双方を促し、大学から社会へのトランジション課題を乗り越えるために必要な視点・概念として、「学生エンゲージメント(StudentEngagement)」に着目し、理論的・実証的知見の整理を行うとともに、国内で実施した全国調査(社会人調査、大学生調査)に基づく検討、それらを通じた大学教育への実践的視座を得ることである。検討の結果、(1)アウトカム(成果)を左右する上でも学生エンゲージメント(プロセス)に着目し、それらを高めることが重要であること、(2)学生エンゲージメントを高めるためには、質保証の仕組みやツールを導入したり、教育方法としてアクティブラーニングを行ったりするだけではなく、教職員によるエンゲージメント(深い関与)が必要であることなどが示された。This paper aims first to outline the trend of rapid qualitative transformation in university education, for instance, design of outcome-based curriculum, promotion of active learning as a means to cultivate diverse abilities, and establishment of an internal quality assurance system that measures and assesses multifaceted learning outcomes (institutional research: IR) and leads to their improvement in drastically changing times and social situations. The second aim is to organize theories and empirical knowledge focusing on “student engagement” as a necessary viewpoint and concept to encourage both students’ learning and development so that they overcome transition problems from university to society. Furthermore, the paper aims to gain a practical perspective on university education through investigation based on national surveys (for university students and working adults, respectively) conducted in Japan. The investigation’s result shows: 1) It is important to focus on and enhance “student engagement (process),” which influences their learning outcomes; and 2) in addition to introduction of a quality assurance system, tools, and implementation of active learning as an educational method, faculty members’ engagement is also required to enhance student engagement.
著者
山田 剛史 杉澤 武俊 村井 潤一郎
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, no.Suppl., pp.53-56, 2008-02-10 (Released:2016-08-04)
参考文献数
8
被引用文献数
1

本研究では,心理統計のテスト項目データベースの開発を試みた.本システムはWebブラウザからアクセスでき,複数のキーによる項目検索が可能である.また,データベースに項目特性値の情報を持たせる場合の問題点として,これらの指標は集団依存性が非常に強い可能性が挙げられる.これを検討するため,複数の大学で共通のテストを実施し比較した.その結果,基礎的な問題については集団によらず類似した値を取るが,発展的な問題については受験者集団によりかなり異なる値となった.このことから,データベースに載せる情報として項目特性値のような量的な情報だけでなく,質的な情報についても検討すべきであることが示唆された.
著者
村井 潤一郎 山田 剛史 杉澤 武俊
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.33, no.Suppl., pp.9-12, 2009-12-20 (Released:2016-08-06)
参考文献数
3

心理学関連学科において,心理統計教育は重要な意味を持っている.そこで,心理統計教育の現状把握のため,質問紙を用いた全国調査を行った.調査票を全国の担当教員に送付し,授業の担当教員,その授業を受ける学生,双方からデータを収集し分析した.基本統計量に基づき考察した結果,学生が力がつくと思っている授業,教員が実際に行っている授業それぞれの特徴が明らかになった.これらの結果の,心理学以外の統計教育への適用可能性も示唆された.
著者
山田 剛史 森 朋子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.13-21, 2010
参考文献数
26
被引用文献数
7

本研究では,大学生の汎用的技能獲得における正課と正課外が果たす役割について学生の視点から検討することを目的として,卒業を目前に控えた大学生657名に調査を行った.主な結果は次の通りである.(1)大学生の汎用的技能を捉えるために精選した項目群に関する因子分析の結果,35項目8因子(F1批判的思考・問題解決力,F2社会的関係形成力,F3持続的学習・社会参画力,F4知識の体系的理解力,F5情報リテラシー,F6外国語運用力,F7母国語運用力,F8自己表現力)が抽出された.(2)正課・正課外の差異に関するt検定の結果,正課は正課外に比してF5とF6が,正課外は正課に比してF2,F3,F4,F8が有意に高い値を示した.(3)学部系統別の正課・正課外による差異に関する分散分析の結果,正課と正課外は汎用的技能獲得において異なる役割を果たしていることが示され,目的養成学部やGPプログラム取得による効果が示唆された.
著者
高橋 智子 山田 剛史 小笠原 恵
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.49-60, 2009-05-30
被引用文献数
1

本研究では、過去40年にわたって「特殊教育学研究」に掲載された一事例実験の研究を対象に、各研究で用いられた処遇の効果についての総括的なレビューを行うことを目的とした。第1巻から第43巻より51の論文を抽出し、3種類の効果量(PND,Busk and Serlin(1992)の効果量、Center,Skiba,and Casey(1985-86)の効果量)を用いて、年齢、障碍種、標的行動ごとに研究結果の統合を行った。その結果、年齢、障碍種、標的行動によって効果の大きさが異なる可能性が示された。年齢においては13〜18歳で、障碍種では自閉症カテゴリで、標的行動では対人スキル・机上学習で処遇の効果が全体的に大きいことが示唆された。
著者
石井 志昂 山田 剛史 中原 敬広 村井 潤一郎 杉澤 武俊 寺尾 敦
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S45033, (Released:2021-09-27)
参考文献数
1

本研究は,ベイズ統計学に基づくデータ分析を学習可能な,統計ソフトR を用いた心理統計の自習用Web 教材の試作,及び評価を行った.教材評価は,(1)学習者の教材学習状況,(2)R,及びベイズ統計学に対するイメージの変化,(3)学習後のインタビュー調査から行った.結果より,本研究で試作したWeb 教材の学習によりR を身近に感じるようになるとともに,コードを書きながら学習可能な点に対し肯定的な意見が得られた.一方,学習を行った参加者の約半数が教材の最後まで学習を終えることができず,教材の導入部分や章ごとの問題量について課題が示唆された.
著者
山田 剛史 村井 潤一郎 杉澤 武俊 寺尾 敦
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,心理統計担当教員間で共有できるテスト問題の項目データベースの開発を行うことであった。具体的な成果は,(1)これまでの研究成果(基盤研究(C)課題番号:17530478)を発展させ改良を加えた,心理統計テスト項目データベースの開発,(2)データベースのユーザビリティについて,全国の心理統計の講義を担当する大学教員を対象にした試験的運用,基礎データの収集を計画した,といったことをあげることができる。
著者
山森光陽 岡田涼 納富涼子 山田剛史 亘理陽一# 熊井将太# 岡田謙介 澤田英輔# 石井英真#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

企画趣旨 2010年代に入って,教育心理学の分野でもメタ分析に対する関心が高まっている。日本では深谷 (2010),岡田 (2010),小塩他 (2014)によって,メタ分析による研究知見の統合が行われている。海外の教育心理学関係主要雑誌(Br. J. Educ. Psychol., Child Dev., Contemp. Educ. Psychol., Educational Psychologist, Educ. Psychol. Rev., J. Educ. Psychol., Learning and Individual Differences, Learning and Instruction)でも,2010年以降メタ分析を用いた論文数が急増しており,2018年では10月時点で28本にのぼっている。メタ分析による知見の統合には,ある介入の平均的な効果の提示が可能であることや,研究間差異を検討することで対象や条件による効果の違いを検討できることといった利点が認められる。 系統的レビューと呼ばれるメタ分析による知見の統合は,記述的レビューと異なり,統合対象とする研究文献探索の方法と分類基準を明示することが求められるなど,その手続きが精緻であることも関係し,レベルの高いエビデンスと捉えられ,その知見が流通することが多い。What works (U.S. Department of Education, 1986) に代表される,研究知見に基づく推奨される教育的介入のガイドラインは,1980-90年代は記述的レビューに基づいた内容であるのに対して,2000年代以降は系統的レビューの結果が反映されるようになってきた。さらに,2010年代には複数の系統的レビューのメタ分析(メタ・メタ分析,スーパーシンセシス)によるガイドラインが示されるようになってきている。 教育研究における複数の系統的レビューのメタ分析として広く知られているものに,Visible learning (Hattie, 2009)がある。学習者,家庭,学校,教師,教育課程,指導方法の各要因の下位138項目について,学力に与える影響のメタ分析の結果のスーパーシンセシスを行い,各々が学力に与える平均的な効果を効果量dによって示し,その効果の大小に対して理論的説明を行った。このスーパーシンセシスの対象一次研究数は延べ52,450本,延べ対象者数は8,800万人以上である。そして,スーパーシンセシスの方法やその内容は,イギリスやドイツをはじめとした諸国で,社会的な影響が大きいことが報告されている。 メタ分析による研究知見の統合の影響は,教育心理学をはじめとした教育研究の分野内に対してのみならず,教育政策,学校経営にまで及ぶと考えられる。国内では最近,平明に読めるメタ分析の入門書が複数出版されたことも契機となり,メタ分析による知見の統合を行う研究の本数が今後増加することが見込まれる。そして,研究知見の統合に取り組むに当たっては,研究分野内への影響のみならず,研究分野外への波及効果にも関心を払う必要があるだろう。このような現況を踏まえ,研究分野の内外に対して,「知見の統合は何をもたらすのか」を議論する。教育心理学におけるメタ分析研究の概況岡田 涼 教育心理学では,学力や動機づけ等の学習成果に影響を及ぼす要因やその先行要因を明らかにすることを目指すことが多い。得られた知見を教育実践や教育政策に反映させようとする場合,研究知見の信頼性や一般化可能性が重要となる。従来,研究知見の一般化を図るために行われてきた記述的レビューに比して,メタ分析は,複数の研究知見をもとに効果の程度を推定することで,より精度の高いエビデンスを得ることができる。同時に,個々の研究知見がもつ特徴を分析対象とすることで,平均的な効果だけでなく,効果の程度に影響する要因を検討することも可能となる。 このような特徴に鑑み,様々な研究テーマに関するメタ分析研究が増えてきている。国内でも,その報告数は増えてきており,注目度が高まっているといえる。学会によっては,執筆要項にメタ分析研究に特化した記載方法の指示が加えられたり,投稿の手引きでメタ分析研究の引用を推奨する記載をしている例もあり,メタ分析を受け入れる素地ができつつある。 一方で,メタ分析には,公表バイアスや一般化の水準の問題など,伝統的に指摘されてきた課題もある。また,メタ分析を行うためには,一次研究のレベルで必要な情報が報告されていることや,データベースが整備されていることなど,いくつかの前提条件もある。国内においてメタ分析研究が増えるに伴って,メタ分析研究の質が問われるようになることが予想される。 本発表では,まずメタ分析の考え方について簡単に触れ,メタ分析を用いた近年の教育心理学研究の動向を紹介する。その後,メタ分析の利点と限界を提示し,以降の発表につなげていきたい。一事例実験のためのメタ分析 山田剛史 様々な学会誌で特集号が組まれるなど(例えば, Developmental Neurorehabilitation, Vol.21(4), 2018; Research in Developmental Disabilities, Vol.79,2018; Journal of School Psychology, Vol.52(2),2014),近年,一事例実験(single-case experimental design)のメタ分析に注目が集まっている。一事例実験のメタ分析では,研究結果の統合の手続きとして,1)データの重なりの程度に基づく効果量(PND, NAP, Tau-Uなど)を利用する方法,2)平均値差に基づく効果量を利用する方法,3)ノンパラメトリック手法を利用する方法(randomization testsなど),4)マルチレベルモデルを利用する方法,など様々な方法が提案されている。こうした様々な提案がなされているが,メタ分析の手続きとしてスタンダードとなるものは未だ確立されていないのが現状である。 本報告では,平均値差に基づく効果量として,Hedges, Pustejovsky, & Shadish(2012)により提案され,Pustejovsky, Hedges, & Shadish(2014)で拡張された,ケース間標準化平均値差BC-SMD(Between-Case Standardized Mean Difference Effect Size,PHS-dとも呼ばれる)に注目する。 近年,BC-SMDを効果量として用いた一事例実験のメタ分析が数多く報告されるようになってきた。BC-SMDは,一事例実験研究の結果と群比較実験研究の結果を比較できる効果量として注目されている。Remedial and Special Education, Vol.38(2017年)の特集号を紹介しながら,BC-SMDを用いた一事例実験のメタ分析の実際について紹介する。教育研究的含意のある調整変数を推しはかる—外国語学習における明示的文法指導の効果—亘理陽一 言語形式に焦点を当てた文法指導の効果は,習得のメカニズムを研究する立場のみならず,教室での実践的課題としても長く議論が交わされてきた。Norris & Ortega (2000)は,1980年から98年までに出版された250超の論文の内,基準を満たす40研究の明示的指導(k = 71)の効果量の平均(d = 1.13)が,19研究の暗示的指導(k = 29, d = 0.54)を上回ることを示し,第二言語習得・外国語教育研究におけるメタ分析研究の嚆矢となった。 一方この研究では「明示的」と定義される範囲が漠然としており,その中身に関する意味のある調整変数は,後継のメタ分析においても明らかになっているとは言い難い。Watari & Mizushima (2016)は,Norris and Ortega (2000)を含む4メタ分析研究および日本の主要学会誌を対象とするメタ分析研究2本の182論文を対象とする再分析を行い,直後テストの結果において,暗示的指導との直接比較を行った45研究の明示的指導(k = 79)の効果量がg = 0.43 [0.28, 0.57]であり,形態論的・統語論的側面よりも,音韻論的側面や語用論的側面をターゲットとし(Q(3) = 8.68, p < .05),意味論的・機能的側面までを解説内容とする方が効果が大きいこと(Q(2) = 6.36, p < .05),さらに総括的な規則提示が高い効果をもたらしうる可能性などを示した。 しかし因果推論という観点で見れば,ここには説明変数・結果変数の関係や共変量の調整に問題の多い一次研究が多数含まれている。実験デザイン・測定法の異なる研究が混在し,メタ分析に必要な記述統計の報告不備すら依然指摘される現状(Plonsky, 2014)にあっては,知見の統合のメリットは限定的にならざるを得ない。今後は,関連他分野の研究者の協力も得て,共通尺度の開発も含め,統合に耐えうる一次研究の蓄積が求められることになると考えられる。エビデンスに基づく教育研究の社会的・学術的影響熊井将太 「エビデンス」という言葉が教育研究の領域でも存在感を高めてきている。実証的な知見に依拠した「授業の科学化」という要求は何も目新しいものではないが,今日の「エビデンス」運動の特殊性は,一方ではRCTやそのメタ分析といった特定の研究方法を頂点として学問的知見を階層化しようとする方向性に,他方では事象のあり方を客観的に明らかにする「説明科学」を超えて,そこで得られた因果的な知見をより直接的に利用可能なものにしようとする方向性に見出すことができる。このような「エビデンス」運動の特質は,必然的に従来の教育実践研究を担ってきたアクターと競合関係を作り,相互批判を生み出すこととなる。その中では,教育研究におけるメタ分析の有効性や課題とは何か,あるいはメタ分析から得られた知見の活用可能性と危険性とはいかなるものかが問われている(例えば,杉田・熊井(印刷中)など)。 本発表では,世界的に大きな反響を巻き起こしたJohn HattieによるVisible learning (Hattie, 2009)およびVisible learning for teachers (Hattie, 2012)を素材に上記の問題を考えてみたい。Hattieの研究をめぐる議論で興味深いのは,元来規範的なアプローチを主流としてきたドイツ語圏の国々において英語圏以上に議論が活性化していることである。加えて,Hattieの研究は,例えばバイエルン州のように,学校の質保障や外部評価の基準として政策的に受容されているところもある(熊井, 2016)。ドイツ語圏の議論と日本における教育実践研究の動向を見渡しながら,教育実践の複雑性の軽視や教育目標・内容論の欠如といった課題を指摘しつつ,他方で批判者側の「閉じこもり」の問題に言及したい。付 記このシンポジウムはJSPS科研費(基盤研究A:17H01012)の助成を受けた。
著者
山田 剛史
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.87-98, 2000-02-29 (Released:2017-06-28)

単一事例実験計画は、教育の幅広い領域で利用されている実験計画の手法である。そこで得られたデータの分析は主に視覚的判断(visual inspection)によって行われる。しかし、この方法の客観性、評定の信頼性といった問題から、単一事例実験データの評価に統計的方法を適用することが提案されるようになった。その中でも、ランダマイゼーション検定とC統計による処理効果の検定は、日米で多くの研究者からその利用が推奨されてきた。本研究では、この2種類の方法間の比較を検定力という視点から行う。モンテカルロ法によるコンピュータシミュレーション実験を行い、2つの方法の検定力を推定した。SAS / IMLによって1次の自己相関を持つ単一事例実験データ(35個のデータを持つABデザイン)を生成し、4種類の自己相関、6つの効果量のもとでそれぞれの方法の検定力を算出した。その結果、ランダマイゼーション検定は検定力が十分に高いとはいえないが、第1種の誤りの統制は良くできていることがわかった。一方、C統計による検定では、正の自己相関のあるデータでは第1種の誤りの統制ができず、逆に、負の自己相関のあるデータでは検定力が低すぎるということがわかった。これより、系列依存性がある単一事例実験データの分析にC統計による検定を用いるのはふさわしくないことがわかった。
著者
青木 多寿子 橋ヶ谷 佳正 宮崎 宏志 山田 剛史 新 茂之
出版者
広島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

東京都のA区が取り組み始めた人格の完全を目指した品性・品格教育を、研究者で支援するのが本研究の目的である。本研究の3年間の目的は、(1)品性・品格教育の全国初の実践に向けて、取り組みの理念や教育的意義を、教員や保護者に向けて正確に伝えるため、教育委員会の活動を支援すること、(2)品性に関する教育の成果を、well-beingとの関係を中心にアンケートで調査し、この取り組みをエビデンス・ベースの展開にすること、(3)アメリカで教員達に品性・品格教育を教え、全米で学校を支援しているボストン大学の先生をお招きし、A区の品性・品格教育にコメントしていただき、旧来の教育と違った新しい視点を取り入れることである。本年度はまとめの年なので、(1)、(2)を中心に行った。(1) 地域の保護者向け講演会、校内研修会、教育委員会主催の研修会等で、交通費、講演料なしの講演を行い、全区実施に向けて教員研修等のお手伝いをした。また、教育委員会は、全学区で使用する教師用手引き書を作成したが、これを作成する際、知識提供、翻訳した資料の提供を行った。(2) アンケート調査は、A区が取り組みを始める前の段階から毎年、2月に調査を行っている。今回で4回目のアンケートを実施した。3回目までのまとめは、アンケートに協力してくださった学校と教育委員会にお伝えした。この分析の結果、規範意識は確かにwell-beingと関わっているが、その教育の成果の様相は内容(根気、活力、寛容など)によって多様であることが窺えた。(3) 昨年のボストン大学の教授による講演の逐語録をまとめ、多くの方に配布できるようにした。