著者
小野田 尚佳 伊藤 康弘 岡本 高宏
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.24-27, 2019 (Released:2019-04-24)
参考文献数
13

甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018年版では,乳頭癌に対してリスク分類や進行度,予後因子に応じた標準的対処を求めており影響を注視したい。他方,中リスク乳頭癌・低分化癌・未分化癌へ対処,気管合併切除など拡大手術の意義,分子標的薬治療の予後改善効果については,さらなるエビデンス蓄積が待たれる。髄様癌の遺伝子診療,予防的手術には,様々な角度からの議論が欠かせず,RI療法の分類に則した成績の提示も必要である。ガイドライン公開後も英文論文作成,随時の更新が行われ,治療標準化や患者の健康アウトカムについての調査が開始されるが,加えて3年後の次期改訂に向けて新規CQをリストアップし,解決のための研究奨励などを着実に行うよう提案したい。さらに,他学会との連携,汎用性を高める公開法,大規模データベースやAI,SNSの活用,女性委員と患者の参画などの検討が必要と考えられる。
著者
岡本 高宏 小野田 尚佳 伊藤 康弘
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.8-11, 2019 (Released:2019-04-24)
参考文献数
12

甲状腺腫瘍診療ガイドラインを改訂した。甲状腺腫瘍に悩む患者の健康アウトカムを高めるには知識,技術の向上と心の涵養が不可欠である。エビデンスの創出,診療ガイドライン開発法の工夫に終わりはない。専門職による不断の貢献が未来を拓く。
著者
矢下 博輝 楠 由希奈 小野田 尚佳 野田 諭 田内 幸枝 三木 祐哉 大澤 政彦 大平 雅一
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.80, no.6, pp.1239-1243, 2019 (Released:2019-12-30)
参考文献数
7

症例は28歳,女性.1年間の無月経を主訴に近医を受診,テストステロン高値のため当院内科に紹介.165cm,55.2kg.陰核は軽度肥大,Cushing症候群を示す身体所見はなかった.血液検査では遊離テストステロン,dehydroepiandrosterone sulfateの異常高値を認めた.腹部造影CT検査で9×9×7.5cmの球状で境界明瞭な左副腎腫瘤を確認,内部は不均一な低吸収域を示した.リンパ節腫大や肺,肝転移は認めなかった.テストステロン産生左副腎癌疑いと診断し,開腹手術を行った.腫瘍は境界明瞭,周囲浸潤はなく被膜血流は豊富であった.剥離は容易で,中心静脈を結紮切離し,腫瘍を摘出した.病理組織では,核腫大や多核を伴う異型細胞が索状に増殖し,Weiss分類8/9,副腎皮質癌と診断した.経過良好で術後7日目に退院.退院後は明らかな転移再発はなく経過観察中である.
著者
北原 直人 小野田 尚佳 石川 哲郎 日月 亜紀子 小川 佳成 平川 弘聖
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.1518-1521, 2001-06-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
18

腎不全を合併した原発性アルドステロン症の外科的治験例に関する報告は少ない.われわれは,腹腔鏡下副腎摘出術によって,血圧,電解質異常の管理が容易となった1例を経験したので報告する.症例は49歳,男性.腎不全,高血圧にて加療中に低カリウム血症を認め,精査にて原発性アルドステロン症と診断された.腎機能の悪化により,透析導入となっていたが,血圧,電解質の管理が困難であった.腹腔鏡下に左副腎摘出術を施行し,術後透析のみで血圧,電解質はコントロール良好となった.透析導入例にみられた本症の治療に対する一致した見解は得られていないが,自験例では低侵襲の腹腔鏡下手術により,高血圧,電解質が改善したことから,今後同様の例での治療方針を決定するうえで示唆に富む症例と考えられた.
著者
小野田 尚佳
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.160, 2016

<p>2010年のガイドライン発刊以降にいくつかの注目すべき論文が発表されている。とくに,National Cancer Database[1]による信頼性の高い調査は,甲状腺未分化癌の臨床像を具体的な数値で示すことができている。一方で,生命予後は過去20年全く改善が認められていないと報告されている[2]。今までの治療法は意義がなかったのだろうか?これまで行われてきた集学的治療をレビューし,今後の課題を示していただいた。</p><p>探索的に行われていた化学療法の成果は,不明のままであった。甲状腺未分化癌患者を対象として国内で実施されたweekly paclitaxelによる化学療法の臨床試験[3]は,現時点での標準治療の成績を客観的に提示したものと考えられ,新規治療開発の基準となるデータとしてご紹介いただいた。</p><p>話題の中心ともいえる甲状腺未分化癌に対する最新の分子標的治療については,本号の別特集を参照されたい。</p><p>治療成績の改善を目指す上において,発症や進展に関わる基礎的研究成果の理解は重要であるが,技術の進歩によって臨床所見の裏付けとなる遺伝子異常が確認できるようになってきている。新たな治療法の創生に向けての多数のヒントが隠されている大変興味深い基礎的分野の知見をご紹介いただいた。</p><p>いずれの文章でも,難治性の希少疾患である甲状腺未分化癌の診断,治療,研究には,多施設での連携や登録制度の確立,臨床試験の充実が必要であることが述べられており,甲状腺癌診療における現在の重要課題のひとつとしてこれらの課題を読者と共有できることを希望する。</p>
著者
野田 諭 松谷 慎治 浅野 有香 倉田 研人 柏木 伸一郎 川尻 成美 高島 勉 小野田 尚佳 大澤 雅彦 平川 弘聖
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.139-143, 2014 (Released:2014-08-07)
参考文献数
15

症例は66歳女性。高CEA血症の精査にて甲状腺腫瘍を指摘され当院紹介。右葉に18mm大の腫瘤を認め,穿刺吸引細胞診で濾胞性腫瘍と診断された。濾胞性腫瘍として1年6カ月超音波のみで経過観察され変化を認めなかった。2年6カ月後,他院PET検査で甲状腺への異常集積を指摘され,再受診した。CEAの上昇,腫瘤の増大傾向を認め,カルシトニンが高値であり,手術を施行,術中組織検査にて髄様癌と診断,非機能性の副甲状腺過形成を伴っており,甲状腺全摘術,頸部リンパ節郭清と副甲状腺全摘術および自家移植を施行した。病期はpT2N0M0 StageⅡであった。初診時の画像および細胞診結果から濾胞性腫瘍と診断,長期超音波で経過観察された髄様癌の1例を経験した。初診時診断に反省すべき点は多いが,経過を追えた点で貴重な経験と考え,文献的考察を加えて報告する。
著者
小野田 尚佳 神森 眞 岡本 高宏 中島 範昭 伊藤 研一 宮崎 眞和 吉田 明
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.110-114, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
9

甲状腺乳頭癌(PTC)に対する放射性ヨウ素内用療法の現状を把握し,意義を見出すため,多施設共同の後ろ向き研究を行った。ʼ03~ʼ12年に初発のPTCに対し全摘術を受けた患者1,324例のデータを7施設から集積した。全摘,内用療法施行とも増加傾向にありʼ12年には全初発PTC手術例の60%,25%を越えた。内用療法は480例に施行され全摘例の36%に相当,M1,Stage ⅣB,ⅣC症例の2/3に施行されていた。疾患特異的生存率は内用療法施行群で有意に不良であった。予後リスクによって層別化すると内用療法施行により生命予後に差は認めなかったが,中間リスクの施行例は非施行例に比し術後診断の進行度が有意に高かった。本研究により内用療法の現状が明らかとなり,中間リスク患者での効果が示唆されたが,適応や治療法の問題点も確認され,内用療法の意義を見出すためにはさらなる症例集積研究が必要と考えられた。