著者
岡本 正明 水野 広祐 パトリシオN アビナーレス 本名 純 生方 史数 見市 建 日下 渉 相沢 伸広
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

冷戦崩壊後のアジア経済危機を克服した東南アジア諸国は今、グローバルなビジネス・ネットワークやイデオロギー・ネットワークの展開・拡大により急速な社会・政治・経済変容を遂げている。本研究で明らかになったのは、東南アジアの地方レベルで新しい政治経済アクター、或いは新しい政治スタイルを活用する政治アクターが台頭してきていることである。タイ、フィリピン、インドネシアでは、地方分権化が進展して地方首長の権限が拡大したことで、彼らはグローバル化、情報化の時代の中で獲得した新しい政治経済的リソース(情報も含む)を武器にして新しい、よりスマートな権力掌握・維持のスタイルを作り上げてきている。
著者
玉田 芳史 河原 祐馬 木村 幹 岡本 正明 横山 豪志 滝田 豪 左右田 直規
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は民主化以後に登場した新しいタイプの指導者について、(1)その登場の背景ならびに(2)登場が民主化に与える影響について分析した。具体的に取り上げたのは、韓国の盧武鉉大統領、中国の胡錦涛国家主席、タイのタックシン首相、マレーシアの与党青年部副部長カイリー、インドネシアのユドヨノ大統領とゴロンタロ州知事ファデル、インドのインド人民党(BJP)、ロシアのプーチンである。(1)背景 (a)民主化に伴い指導者が選挙を通じて選ばれるようになったことが新しいタイプの指導者の登場を可能にした。(b)1990年代に政治経済の激動を経験し(経済危機、長期政権の崩壊)、国民が危機からの脱却を可能にしてくれる強い指導者を待望した。(c)既存の政党組織よりも、個人的な人気によって、支持を調達している(自由で公平な選挙が実施されているとはいえない中国とマレーシアは例外)。(d)指導者は国民に直接訴えた。危機で傷ついた国民の自尊心の回復、危機の打撃を受けた経済再生とりわけ弱者の救済をスローガンとした。このいわゆるポピュリズムの側面は中国やインドにも共通していた。(c)(d)双方の背景には、放送メディアやインターネットの積極的な活用が宣伝を容易にしたという事情があった。2 影響 (a)強い指導力を発揮できた事例とそうではない事例がある。韓国とインドネシアでは期待外れに終わり、タイとロシアでは期待通りとなった。(b)強い指導力を制度化できるかどうかに違いが見られた。プーチンは成功したものの、タイでは強い指導者の登場を嫌う伝統的エリートの意向を受けたクーデタで民主主義が否定された。
著者
岡本 正明
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、分権化後のインドネシアの地方政治の構造と動態を、公共事業の立案、実施過程に焦点を当てて実証的に明らかにすることを目的とするものであった。最終年度に当たる今年度は、継続的な調査および口頭・論文発表を行った。当初は、ゴロンタロ州とバンカ・ビリトゥン州の二州において調査を行う予定であった。しかし、2006年にはゴロンタロ州に加えて、継続調査中のバンテン州でも州知事の直接選挙がインドネシア政治史上初めて行われたことから、ゴロンタロ州とバンテン州に調査の力点を置いた。ゴロンタロ州では、「企業家州知事」として社会的に知名度を上げた現職のファデル・ムハマドが州知事選史上最高の得票率80.2%で圧勝した。その背景には、「トウモロコシ100万トン計画」をぶちあげ、中央の関係省庁から巧みに予算ぶんどりに成功したこと、そして、その成功をすべて自分の功績に帰すかのような宣伝工作を行ったことなどがあげられる。そういう意味で、ゴロンタロ州においては、中央省庁の公共事業が現職州知事の政治権力基盤の確立につながった。中央省庁の公共事業が首長の政治権力基盤確立につながるという点ではスハルト権威主義体制時代と類似性がある。しかし、根本的に違うのは、彼は中央からの予算ぶんどりを広く住民にアピールするポピュリスト的手段を取ることで政治権力基盤の安定を実現したことである。一方のバンテン州でも現職が僅差で勝利を収めたが、それは州の予算を徹底的に分捕ったからであった。選挙運動資金の7割ともいわれる額を州の予算から充当したのである。州の公共事業配分は基本的に現職州知事勝利を導くために行われたともいえる状況が起きたのである。この二つの州を比較するだけでも、公共事業の持つ意味は政治的に大きいが性格が異なることが明瞭となった。本年度は、この成果を国際会議での発表(一回)、論文(一本)、編著本(一冊)で公表した。
著者
水野 広祐 白石 隆 本名 純 岡本 正明 見市 建 相沢 伸宏
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

インドネシアでは1998年のスハルト体制崩壊以降、民主化と分権化の進展によって、政治経済構造が大きく変容している。本研究はこうした地殻変動の実態を、特に地方政治に焦点を合わせて分析することを目的とした。地方政治を理解するにあたり、各研究者が各地の地方政治の特徴を分析するのみならず、インドネシア科学院(LIPI)政治学研究所との協力のもと、地方議会議員の社会学的プロフィールの収集にも努めた。2008年3月末までに、1州95県・市の地方議会議員合計3455人のデータ収集に成功した。2007年末時点でインドネシアには33州464県・市の自治体があることから、県・市については総議員数のうち約20.5%のデータを集めることができた。加えて、2004年から、地方議会議員が首長を選出する制度から直接公選制になり、候補者たちの社会学的プロフィールにも変化が見られている可能性があるとの判断から、地方首長選に出馬した正副首長候補者たちのプロフィール収集も行った。2008年初頭までに行われた297の首長選のうち、64の首長選に出馬した正副首長候補者のデータ収集に成功した。一つ明らかに言えることは、民主化後、都市部の若手中間層を基盤として台頭してきたイスラーム政党・福祉正義党が躍進していることである。ジャカルタ地方議会で第1党に躍り出たことに象徴されるように、イスラーム的倫理に基づく清廉潔白さを売りにして地方議会において着実に勢力を拡張し始めただけでなく、地方首長選では他政党同様に、選挙で勝てる俳優・女優などを擁立して「普通の政党」の様相をも見せ始めつつ、高い割合で正副首長の推薦候補を当選させることに成功している。