著者
塩川 奈々美 峪口 有香子 岸江 信介
出版者
徳島大学総合科学部
雑誌
言語文化研究 = Journal of language and literature (ISSN:13405632)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.109-126, 2016-12

Though it is said that the usage of considerate expression "tsumaranaimonodesuga (small gift)" has been a traditional language behavior in the gift giving situation, some people nowadays tend not to use this expression. Accordingly this study aims at investigating the characteristics of considerate expression "tsumaranaimonodesuga (small gift)" in the gift-giving situation on the basis of analysis of data collected by interviewing the people in Osaka City and conducting questionnaire survey through correspondence in all over Japan.The outcome of the interview at Osaka city shows that the people, especially women,like to use positive expressions for conveying the humility expression and gift-giving expression (P<0.01). In addition, the outcome derived through the questionnaire survey throughout Japan revealed a distribution of the usage of tsumaranaimonodesuga which shows that the usages of this expression are concentrated in West Japan surrounding around the Kinki region. Hence it can be assumed that there likely exists a regional difference in the usage of this very expression.Thus this study reveals that there exist a variation in gender and generation of the respondents with regard to the usage of considerate expression given that there prevailssome discrepancy in the respondent selection and questionnaire patterns.
著者
峪口 有香子 岸江 信介 桐村 喬
出版者
計量国語学会
雑誌
計量国語学 (ISSN:04534611)
巻号頁・発行日
vol.31, no.8, pp.537-554, 2019-03-20 (Released:2020-03-20)
参考文献数
33

本稿では,Twitterからの方言語形抽出結果と,全国の高年層を対象に実施した方言調査の結果および全国の大学生を対象に実施した方言アンケート調査結果等との比較を行い,どのような違いがみられるかについて検討を行った.その結果,全国の高年層で使用される方言がTwitter上で忠実に反映されているとは言い難いが,Twitterデータの結果と大学生を対象としたアンケート調査結果とは,概ね一致した.この点で,Twitterデータをことばの地域差を見出すための資料として十分活用できる可能性があることが判明した.Twitterから得られた言語資料は,伝統方言の地域差の解明とまでは必ずしもいかないにしても,若者世代を中心に用いられる新しい方言や表現形式の分布のほか,「気づかない方言」などの地域差を知る手がかりとして,今後,有効活用が期待される.
著者
岸江 信介 西尾 純二 峪口 有香子
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、主に関西と関東における無敬語地域の配慮表現に注目し、無敬語地域が有敬語地域とは異なるウチ社会を基盤とした言語共同体を形成しているという仮説のもとに配慮表現の研究を進めている。関西地域においては、すでに有敬語地域である京都・大阪をはじめ、無敬語地域である熊野・新宮地方などで多人数の調査を実施し、有敬語地域における配慮表現の運用状況のみならず、無敬語地域における配慮表現の実態についても把握することにつとめてきた。現代日本語の待遇表現や配慮表現の使い分けの目安とされてきた目上/目下,ウチ/ソト,心理的・社会的距離の遠近,親疎関係,恩恵の有無といった敬語地域では成り立つが,無敬語地域にもこの軸を当てはめ,有敬語地域と比較することはできるのであろうか。無敬語地域では,地域を構成する成員間の関係が都市部と比較してより緊密であり,ウチ/ソトといった関係も,都市部とは異なり,ウチ社会のみをベースとして形成されていると考えられる。無敬語地域では一般的に敬意表現や配慮表現が有敬語地域と比較して希薄に見えるのは,このような要因が大きく関与しており,ウチ社会独特の言語行動の規範となるメカニズムが存在するという仮説を立てることができる。この仮説検証のため,本年度はおもに無敬語地域とされる北関東地域の茨城県の漁村地域を中心に調査を実施した。この調査を進めるなかで次第に明らかになったことは,無敬語地域といえども都市化が急速に進みつつあり,従来、無敬語地域とされてきた地域の有敬語化が起きており、この変化はかなり進行しているということであった。これに伴い、配慮表現の運用についても、有敬語地域とほとんど変わらない実態が明らかとなった。
著者
桐村 喬 峪口 有香子 岸江 信介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

<b>I はじめに</b><br> ツイッター(Twitter)は,140文字までの短文をウェブに投稿し,情報を発信・共有できる,代表的なマイクロブログサービスである.日本で投稿される1日7千万件以上(2013年12月)の投稿データの一部は,ツイッターのユーザーに対して無料で公開されている.投稿データには位置情報も含まれ,様々な空間分析も試みられている.<br> ところでツイッターは,ユーザー同士のコミュニケーションにも用いられる.そのため,投稿データには様々な文体で記述された文章が含まれ,方言もそこに含まれているはずであり,投稿データに付与された位置情報を利用して,特定の方言の使用/不使用の状況を地図化できる.すなわち,ツイッターの投稿データは,方言の地理的な分布を分析するための研究資源として活用できるものと考えられる.<br> そこで,本研究では,代表的なマイクロブログサービスであるツイッターの投稿データを,方言の地理的分析のための資料として活用することを目指す.まず,その予備的分析として,方言に関するアンケート調査の結果と,方言を含むツイッターの投稿データの地理的分布との整合性を検証することを目的とする.<br> <b>II 分析資料と方言の選定</b><br> 方言に関するアンケート調査の結果データとして,2007年に岸江が実施した「新方言調査」(以下,方言アンケートと呼ぶ)の結果データを利用する.この調査は,大学生を中心とする全国の1,847名の回答者を対象として行なわれたものであり,回答者の出身地は関東以西の地域に多いものの,全国に散らばっている.ライフメディアによる2013年の調査によれば,若年層ほどツイッターの利用者が多く,方言アンケート回答者の主要な年齢層と一致しており,比較に適している.一方,ツイッターの投稿データについては,2012年2月から2013年11月に投稿された,日本国内の位置情報をもつ約8,700万件を分析対象にする.<br> 方言アンケートの調査票は67項目からなり,地域差が表れやすいと思われるものについて,くつろいだ場面で親しい友人と話す際の言い方を回答させている.ここでは,利用頻度が比較的高いと考えられる,「だから」に注目し,方言アンケートの結果データとツイッターの投稿データを比較する.<br> <b>III 方言アンケートとツイッター投稿データの整合性</b><br> 方言アンケートからは,「だから」についての各方言形式(表1)を使用する回答者を都道府県単位で集計し,都道府県ごとの回答者数に占める割合を求めた.都道府県を比較の空間単位として用いるのは,方言アンケートの回答数が少ないためである.一方,ツイッター投稿データからは,それぞれの形式を含む投稿を抽出し,その位置に基づいて都道府県単位に集計し,都道府県ごとに1,000投稿あたりの投稿数を求めた.<br> 各形式についての方言アンケート回答者の割合と1,000投稿あたりの投稿数との相関係数は1%水準で有意であり,正の相関を示していることから,都道府県単位でみた場合には,方言アンケートの結果とツイッターの投稿データとの整合性はおおむね高いと考えられる.ただし,「だで」の相関係数は,他の形式と比較して小さく,方言アンケートの回答が愛知県に集中しているのに対し,ツイッターの投稿データの場合は愛知県だけでなく,鳥取県でも投稿が多くなっている.国立国語研究所の『方言文法全国地図』(1989)によれば,「だで」は,主に岐阜・愛知県を中心とした地域と,兵庫県北部から鳥取県にかけての地域で使用されており,方言アンケートよりもツイッターの投稿データのほうが伝統方言(高齢者が使用する方言)によく一致している.<br> <b>IV まとめと今後の課題</b><br> マイクロブログの一種であるツイッターの投稿データと,方言アンケートの結果データとの相関関係は正に強く,大規模な方言の調査に一般的に用いられてきたアンケートによって得られる結果と,ツイッターの投稿データから方言を抽出した結果との整合性は十分に高いと考えられる.ツイッターのユーザーに関する詳細な属性を得ることはできないが,22か月分のデータからユーザーの主な生活圏や,会話の相手を知ることができる.これらの情報を総合しながら,方言のアクセサリー化などの方言を取り巻く現代の状況を,広範囲で解明していくこともできよう.<br> 方言の分析資料としての今後の積極的な活用を図るためには,どのような表現がツイッターをはじめとするマイクロブログにおいて使用されやすいのかを,明らかにしていく必要がある.多くは話し言葉主体であるものと思われるが,親しい相手や仕事上の相手,あるいは不特定多数を相手とするのかによって,その文体は異なると考えられ,使用する方言の語彙や頻度も変化してくると予想される.
著者
峪口 有香子
出版者
四国大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、瀬戸内海域をフィールドとした方言研究の先駆的な業績である藤原与一・広島方言研究所編(1974)『瀬戸内海言語図巻』のデータベース構築を目指し、総計241のデジタル言語地図を完成させる。また、実時間上の言語変容を解明するため、申請者が実施した瀬戸内海域での追跡調査結果のデジタル言語地図化を併せて行う。大量の方言データを包括的に分析できるツールとして、地理情報システムの分野で開発されたGISを導入し、空間的補間の方法を時空間にまで拡張することによって言語変化の状況を探る。方言の衰退の実態や共通語化の進行状況を把握するとともに、瀬戸内海域言語伝播のパターンを解明する。