- 著者
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桐村 喬
峪口 有香子
岸江 信介
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2014, 2014
<b>I はじめに</b><br> ツイッター(Twitter)は,140文字までの短文をウェブに投稿し,情報を発信・共有できる,代表的なマイクロブログサービスである.日本で投稿される1日7千万件以上(2013年12月)の投稿データの一部は,ツイッターのユーザーに対して無料で公開されている.投稿データには位置情報も含まれ,様々な空間分析も試みられている.<br> ところでツイッターは,ユーザー同士のコミュニケーションにも用いられる.そのため,投稿データには様々な文体で記述された文章が含まれ,方言もそこに含まれているはずであり,投稿データに付与された位置情報を利用して,特定の方言の使用/不使用の状況を地図化できる.すなわち,ツイッターの投稿データは,方言の地理的な分布を分析するための研究資源として活用できるものと考えられる.<br> そこで,本研究では,代表的なマイクロブログサービスであるツイッターの投稿データを,方言の地理的分析のための資料として活用することを目指す.まず,その予備的分析として,方言に関するアンケート調査の結果と,方言を含むツイッターの投稿データの地理的分布との整合性を検証することを目的とする.<br> <b>II 分析資料と方言の選定</b><br> 方言に関するアンケート調査の結果データとして,2007年に岸江が実施した「新方言調査」(以下,方言アンケートと呼ぶ)の結果データを利用する.この調査は,大学生を中心とする全国の1,847名の回答者を対象として行なわれたものであり,回答者の出身地は関東以西の地域に多いものの,全国に散らばっている.ライフメディアによる2013年の調査によれば,若年層ほどツイッターの利用者が多く,方言アンケート回答者の主要な年齢層と一致しており,比較に適している.一方,ツイッターの投稿データについては,2012年2月から2013年11月に投稿された,日本国内の位置情報をもつ約8,700万件を分析対象にする.<br> 方言アンケートの調査票は67項目からなり,地域差が表れやすいと思われるものについて,くつろいだ場面で親しい友人と話す際の言い方を回答させている.ここでは,利用頻度が比較的高いと考えられる,「だから」に注目し,方言アンケートの結果データとツイッターの投稿データを比較する.<br> <b>III 方言アンケートとツイッター投稿データの整合性</b><br> 方言アンケートからは,「だから」についての各方言形式(表1)を使用する回答者を都道府県単位で集計し,都道府県ごとの回答者数に占める割合を求めた.都道府県を比較の空間単位として用いるのは,方言アンケートの回答数が少ないためである.一方,ツイッター投稿データからは,それぞれの形式を含む投稿を抽出し,その位置に基づいて都道府県単位に集計し,都道府県ごとに1,000投稿あたりの投稿数を求めた.<br> 各形式についての方言アンケート回答者の割合と1,000投稿あたりの投稿数との相関係数は1%水準で有意であり,正の相関を示していることから,都道府県単位でみた場合には,方言アンケートの結果とツイッターの投稿データとの整合性はおおむね高いと考えられる.ただし,「だで」の相関係数は,他の形式と比較して小さく,方言アンケートの回答が愛知県に集中しているのに対し,ツイッターの投稿データの場合は愛知県だけでなく,鳥取県でも投稿が多くなっている.国立国語研究所の『方言文法全国地図』(1989)によれば,「だで」は,主に岐阜・愛知県を中心とした地域と,兵庫県北部から鳥取県にかけての地域で使用されており,方言アンケートよりもツイッターの投稿データのほうが伝統方言(高齢者が使用する方言)によく一致している.<br> <b>IV まとめと今後の課題</b><br> マイクロブログの一種であるツイッターの投稿データと,方言アンケートの結果データとの相関関係は正に強く,大規模な方言の調査に一般的に用いられてきたアンケートによって得られる結果と,ツイッターの投稿データから方言を抽出した結果との整合性は十分に高いと考えられる.ツイッターのユーザーに関する詳細な属性を得ることはできないが,22か月分のデータからユーザーの主な生活圏や,会話の相手を知ることができる.これらの情報を総合しながら,方言のアクセサリー化などの方言を取り巻く現代の状況を,広範囲で解明していくこともできよう.<br> 方言の分析資料としての今後の積極的な活用を図るためには,どのような表現がツイッターをはじめとするマイクロブログにおいて使用されやすいのかを,明らかにしていく必要がある.多くは話し言葉主体であるものと思われるが,親しい相手や仕事上の相手,あるいは不特定多数を相手とするのかによって,その文体は異なると考えられ,使用する方言の語彙や頻度も変化してくると予想される.