著者
崎村 建司
出版者
新潟大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

胚性幹細胞(ES cell)は、胚盤胞の内部細胞塊を起源とする株化細胞で、多分化能を持ち遺伝子組換えマウスの作成に必須である。現在ノックアウトマウス作成に利用されているES細胞株のほとんどは、株化が容易で生殖系列遺伝するキメラが得やすい129系統由来のものである。しかし、129系統は脳に奇形があり脳の機能解析には不向きであるため、膨大な時間と手間をかけて他の系統のマウスに戻し交配する必要があった。そのため129系統以外の系統由来のES細胞が世界的に求められているが、他のマウス系統由来の高効率で生殖系列遺伝するES細胞株はほとんどないのが現状である。本研究の目的は、様々な系統のマウスからES細胞株を系統的に樹立する方法を開発し、今後の発生工学を利用した研究に供することである。まずC57BL/6系統マウスより再現性良くES細胞株を樹立する方法を確立するために、細胞を採取する胚の培養条件と多分化能を持つ細胞の採取の時期と方法を詳細に検討した。その結果、特定の時期に物理的な方法で内部細胞塊を分離することが、ES細胞株樹立に重要であることが明らかになった。この方法を用いてC57BL/6N由来ES細胞株「RENKA」を樹立することに成功した。さらにこのES細胞株から生殖系列遺伝をするキメラマウスを効率的に作成する方法を検討した。その結果、ES細胞を導入する胚の成長時期と導入するES細胞の数が重要な要素であることが明らかになった。これらの研究成果は、「近交系C57BL/6由来ES細胞株RENKA及びこの細胞を用いたキメラマウス作製法」として特許出願中である。
著者
狩野 方伸 崎村 建司 少作 隆子 岸本 泰司
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

これまでの研究を継続・発展させ、平成25年度に以下の研究を行った。脳スライス及びin vivoの個体脳の解析は狩野が、培養海馬ニューロンの解析は少作が、行動学的解析は岸本と狩野が担当した。また、遺伝子改変マウスの維持は崎村が担当した。1. 内因性カンナビノイド(eCB)系によるNMDA受容体機能調節のメカニズム: 逆行性シナプス伝達を担うeCBである2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)の合成酵素DGLαの欠損マウスと、2-AGの受容体であるCB1の欠損マウスの側坐核中型有棘ニューロンの興奮性シナプスにおいて、NMDA受容体機能の低下が認められた。その原因として、NR2Bサブユニットを含むNMDA受容体の寄与が低下していることを示す電気生理学的所見を得た。2.大脳基底核の運動学習におけるeCB系の役割: 3レバーオペラント課題のマウスへの適用について、平成24年度に引き続き検討した。3.分界条床核の抑制性シナプス伝達の2-AGによる逆行性伝達抑圧のメカニズム:分界条床核の抑制性シナプスの逆行性伝達抑圧が、eCB系遺伝子改変マウスにおいてどのように変化しているかについて、継続して電気生理学的解析を行った。4.eCB系の海馬機能における役割: eCB系遺伝子改変マウスにおいて、瞬目反射条件付けのLI (latent inhibition)課題に関する解析を継続した。5.eCB系の抗炎症作用:U87-MGヒト悪性グリオーマ細胞における、NF-kBシグナルを介する炎症作用に注目し、グリアのeCB系による抗炎症作用のメカニズムを調べるための条件検討を行った。
著者
夏目 里恵 阿部 学 菅井 智昭 葉山 文恵 崎村 建司
出版者
新潟大学
雑誌
新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.119, no.12, pp.730-734, 2005-12-10

グルタミン酸興奮毒性は,脳虚血やてんかんなどの急性疾患ばかりでなく,長い過程を経る神経変性疾患による神経細胞死の原因としても注目されている.グルタミン酸受容体チャネルは,興奮毒性発現機序において中心的な役割を果たしていると考えられてきた.とりわけ,高いCaイオンの透過性を持つNMDA型グルタミン酸受容体はその鍵を握る分子として注目されてきた.この受容体の機能特性を決定する4種類のGluRεサブユニットノックアウトマウスを用いて,カイニン酸急性毒性におけるNMDA型受容体の関与を検証した.その結果,GluRε1サブユニットがカイニン酸による興奮毒性発現に最も重要な役割を果たしていることが明らかになった.さらに,小脳顆粒細胞に有意に発現するGluRε3や幼者期に主な発現があるGluRε4にも毒性発現への影響力が有ることから,NMDA型受容体は様々な機序で興奮毒性に関与していることが示唆された.
著者
崎村 建司 夏目 里恵 阿部 学 山崎 真弥 渡辺 雅彦 狩野 方伸
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、グルタミン酸受容体の発現と安定性、さらにシナプスへの移行と除去が細胞の種類や脳部位により異なった様式で調節され、このことが単純な入力を多様な出力に変換し、複雑な神経機能発現の基礎課程となるという作業仮説を証明することである。この解析ために、4種類のAMPA型グルタミン酸受容体、4種類のNMDA型受容体はじめとして複数のfloxed型標的マウスを樹立した。また、GAD67-Creマウスなど幾つかのCreドライバーマウスを樹立した。これらのマウスを交配させ解析した結果、海馬CA3では、GluN2BがシナプスでのNMDA型受容体の機能発現に必須であることを明らかにした。また、小脳TARPγ-2とγ-7がAMPA型受容体の発現に必須であることを見出した。さらに発達期のシナプスにおいて、GluN2AとGluN2Bが異なった様式でAMPA型受容体を抑制することを単一神経細胞でのノックアウトを用いて示した。
著者
崎村 建司
出版者
新潟大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、脳の特定な部位や細胞に限定した標的遺伝子の欠損が出来るCreリコンビネース発現マウスを系統的に作出し、脳機能を分子レベルで解明するリソースを開発することである。このために、我々は本年度新たな方法を開発した。第1に迅速遺伝子改変ベクター作成法である。構築の迅速化を図るために、ES細胞での相同組換えに必要な薬剤耐性カセットやネガティブ選択に用いるジフテリア毒素遺伝子カセットなどをあらかじめ組み込んだ汎用ベクターを用いて、BACクローンでのRED/ET組み換え法、さらにラムダファージの組み換え系を利用して多種類のDNA断片を一時に結合して相同組換えベクターを作成する。この方法の特徴は、これまでベクター作成時に問題になっていたDNAライゲーションのステップを用いないので、特別な訓練を受けていない学生や技官にも出来るところにある。第2に、ES細胞での相同組換え効率を高めるために薬剤耐性カセットを改良した。UPA-trap型ターゲティングベクターを用いることで、薬剤耐性コロニーの中に占める相同組換え体の割合を上げることができた。これらの技術改良は、遺伝子改変マウスを迅速かつ安価に作成する上できわめて重要なものである。また、本研究では各種細胞選択的にCreリコンビナーゼ発現するマウスを作製した。海馬CA3錐体細胞で特異性高く組替えが惹起できるGRg1Creの他、海馬CA1錐体細胞選択的なCP14、小脳プルキンエ細胞のD2CRE、小脳顆粒細胞に選択性の高いGRe3iCre、ほぼ全ての顆粒細胞にCreを発現するTiam1Creである。これらCre発現マウスは特定研究「統合脳」の班員のみならず広く脳研究をおこなう研究者に提供する予定である。
著者
崎村 建司
出版者
新潟大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

神経細胞壊死の機構解明を目的として、2つのテーマで研究を進めてきた。第一に、一過性の脳虚血負荷後の遅発性神経細胞壊死や、カイニン酸などの薬物投与による急性神経細胞壊死に、NMDA受容体チャネルがどのように関与しているかを検討した。カイニン酸投与による急性中毒では、4種類のNMDA受容体チャネルεサブユニットをノックアウトしたマウスはいずれも耐性を示したが、とりわけε1サブユニットノックアウトマウスは高い耐性を示した。また、眼圧上昇による一過性虚血負荷により発生する遅発性神経細胞壊死が、NMDA受容体チャネルサブユニットε1-4失損マウスでどのように起こるかを経時的な組織学的検索により検討した。その結果、一過性虚血負荷により発生する視神経細胞及びアマクリン細胞の遅発性の壊死が、ε1サブユニットノックアウトマウスではほとんど起こらないことが明らかになった。以上のことから、これらの神経細胞壊死の過程にNMDA受容体チャネルを介する過程が存在することが示唆された。一方、ヒト疾患モデル動物を作成するために、ヒト家族性パーキンソン病、脊髄小脳変性症、歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症の原因遺伝子であるα-Synuclein、SCA1およびDRPLAのマウスカウンターパートをノックアウトした動物の作成を進めている。現在、それぞれの遺伝子のマウスカウンターパートを得るために、プローブ用のマウスcDNAクローンを検索している。