著者
可知 悠子 井上 真智子 川田 智之
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.214-218, 2016 (Released:2016-12-26)
参考文献数
18

目的:近年, 低所得層が増加し, 受診抑制による健康悪化が懸念されている.本研究では, 経済的理由による受診抑制に関する医師の認識ならびに, 受診抑制を防ぐ工夫をより多く行っている医師の特徴を明らかにすることを目的とした.方法:都内10区2市の全内科診療所1989箇所の医師各1名に郵送調査を実施し, 患者の受診抑制の経験, 受診抑制を防ぐ工夫, 基本属性などの約60項目を尋ねた.結果:回答の得られた617名のうち(回収率31%), 550名(男性454名)を分析対象とした.約9割の医師が患者の受診抑制を認識しており, 「安価な薬を選択する」といった受診抑制を防ぐ工夫を行っていた.こうした工夫をより多く行う医師は40・50歳代, 総合診療の立場, 患者同意・参加型の治療の意思決定の実践, 受診抑制をより多く経験という特徴を持っていた.結論:総合的診療や患者参加型の治療の意思決定といったプライマリ・ケア機能を重視する医師ほど, 受診抑制を防ぐための診療上の工夫をより多く行っていることが示唆された.
著者
川田 智之 新明 ローザ怜美 鈴木 庄亮
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.57-63, 1994-03-20
被引用文献数
2

Breslowの7つの健康に関連する好ましい行動あるいは状態として,喫煙しない・ほどほどの飲酒・定期的運動・適正体重の維持・適度な睡眠時間・朝食の摂取・間食しない,が挙げられ,これら7項目を守ることの重要性は西洋諸国で広く認められ,またそれらに対する保健対策も計画実施されつつある.これらの提言は,米合衆国で行われたコホート調査を基に策定されたものであるが,もともと死亡や疾病発症に対する危険度に関しての結果であるため,予防医学あるいは健康増進の視点から,身体的精神的不具合の主観的愁訴と健康習慣との関連性については十分な検討がなされているとは言えない.著者らは東大式健康調査票(THI)の130項目の質問中に,Breslowの7つの健康習慣が含まれていることを確認し,しかも本調査票が近年広く国内で使用されていることを踏まえて,主観的精神身体愁訴への良い健康習慣の影響を断面調査として実施した.対象は東京都北区の某製造会社の男子工員および事務員とその妻各115人で,夫婦共に回答した各95人(80.5%)を解析対象者とした.夫妻に別居者はなく,居住地は北区,川口市,越谷市等である.自記式健康調査票THIは,心身の主観的健康度を12の尺度とそこから計算される心身症および神経症判別値で数量的に把握できる三択式(はい・ときどき・いいえ)質問紙である.Breslowの健康習慣がTHI質問項目に含まれているので,心身症と神経症の判別値に健康習慣に対する回答結果が影響を与えるため,今回は12尺度について健康習慣との関連性を検討した.調査は1991年3〜4月に実施し,個人結果は自宅に郵送した.なお,統計解析にはMann-Whitney U検定,共分散分析,および林の数量化I類を用いた.また,各健康習慣の有無については,定期性のある場合(はい)を習慣ありとし,それ以外は習慣のない者とした.夫の平均年齢は41.5歳,妻のそれは38.4歳である.Breslowの7つの健康習慣の最頻値は,夫婦共に5個であるが,飲酒と喫煙習慣の違いから,妻の頻度が夫よりも高頻度方向に移動していた.健康習慣の有無で2群に分けた場合,夫では喫煙しないほうが直情怪行性および生活不規則性の両尺度得点が低く,適度な睡眠時間の確保により多愁訴,呼吸器,および口腔肛門の各尺度得点が低く,間食しないほうが多愁訴および直情径行性の両尺度得点が低かった.妻では喫煙しないほうが生活不規則性尺度得点が低く,定期的運動が多愁訴,目と皮膚,および口腔肛門の各尺度得点を下げ,適正体重を維持するほうが呼吸器尺度得点は低く,間食しないほうが呼吸器および口腔肛門の両尺度得点は低下した.7つの健康習慣のうち6つ以上に気をつけているものは3つ以下のものに比べて,夫では多愁訴と直情径行性,妻では呼吸器の各尺度得点が有意に小さかった.林の数量化I類による健康習慣とTHI各尺度得点の関連性では,偏相関係数0.3以上の生活習慣は妻の多愁訴に及ぼす定期的運動のみであり,年齢は夫で虚構性と情緒不安定性両尺度得点に,妻で直情径行性尺度得点に関連が大きかった.断面調査の結果であるため因果関係は確定できないが,健康習慣と自覚的健康との関連性には大きな性差があるものの,上記のような関連性を認めた.
著者
李 卿 川田 智之
出版者
一般社団法人日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.117-121, 2014
被引用文献数
13

Since 2004, we have conducted a series of studies of the effect of forest therapy on human health and established forest therapy as a new preventive strategy. We have found that forest therapy has many beneficial effects on human health. However, there is almost no study dealing with the possibility of clinical applications of forest therapy. In this review, we discuss the possibility of clinical applications of forest therapy from the following viewpoints: 1. Forest therapy can decrease blood pressure, heart rate, sympathetic nerve activity, and levels of stress hormones, such as urinary adrenaline and noradrenaline, and can increase parasympathetic nerve activity, suggesting its preventive effect on hypertension. 2. Forest therapy can also decreace the scores for anxiety, depression, anger, fatigue, and confusion and increase the score for vigor in the Profile of Mood States (POMS) test, suggesting its preventive effect on mental depression. 3. Forest therapy can increase the activity and number of human natural killer (NK) cells and the intracellular levels of anticancer proteins, suggesting its preventive effect on cancers. 4. These findings suggest that forest therapy may have preventive effects on lifestyle-related diseases. However, the above preventive effects of forest therapy should be confirmed in clinical research.
著者
李 卿 川田 智之
出版者
一般社団法人日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.117-121, 2014 (Released:2014-05-24)
参考文献数
26
被引用文献数
2 13

Since 2004, we have conducted a series of studies of the effect of forest therapy on human health and established forest therapy as a new preventive strategy. We have found that forest therapy has many beneficial effects on human health. However, there is almost no study dealing with the possibility of clinical applications of forest therapy. In this review, we discuss the possibility of clinical applications of forest therapy from the following viewpoints: 1. Forest therapy can decrease blood pressure, heart rate, sympathetic nerve activity, and levels of stress hormones, such as urinary adrenaline and noradrenaline, and can increase parasympathetic nerve activity, suggesting its preventive effect on hypertension. 2. Forest therapy can also decreace the scores for anxiety, depression, anger, fatigue, and confusion and increase the score for vigor in the Profile of Mood States (POMS) test, suggesting its preventive effect on mental depression. 3. Forest therapy can increase the activity and number of human natural killer (NK) cells and the intracellular levels of anticancer proteins, suggesting its preventive effect on cancers. 4. These findings suggest that forest therapy may have preventive effects on lifestyle-related diseases. However, the above preventive effects of forest therapy should be confirmed in clinical research.
著者
大塚 俊昭 川田 智之 矢内 美雪 北川 裕子 菅 裕彦
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.78-78, 2011 (Released:2011-06-04)
参考文献数
30
被引用文献数
10 13

一職域男性集団におけるメタボリックシンドロームの発症率およびメタボリックシンドローム発症に関連する生活習慣因子の検討:大塚俊昭ほか.日本医科大学衛生学・公衆衛生学講座―目的:メタボリックシンドローム(MetS)の予防は職域健康増進活動における主要課題の一つである.そこで今回,我々は一職域男性集団におけるMetSの発症率およびMetS発症に関連する生活習慣因子の検討を行った. 対象と方法:対象は,神奈川県内の精密機器開発事業所における2005年度定期健康診断を受診し,本邦におけるMetSの診断に非該当であった男性社員948名(平均44歳)である.対象者の2006年度から2009年度の定期健康診断データを追跡し,MetSの新規発症の有無を調査した.2005年度の健康診断結果から,対象集団を腹部肥満の有無とその他のMetS構成因子(血圧高値,脂質代謝異常,空腹時血糖高値)保有数の組み合わせで分類し,各群におけるMetS発症率を算出した.また,生活習慣因子(食事内容,喫煙,睡眠,運動,飲酒)の相違によるMetS発症率を比較した.コックス比例ハザードモデルを用い,上記各因子からMetS発症リスク上昇を規定する因子を求めた. 結果:平均3.7年の追跡において,76人にMetS新規発症を認めた.MetSの年間発症率は2.2/100人年,カプラン・マイヤー法による4年発症率は8.5%であった.対象を腹部肥満の有無とその他のMetS構成因子保有数の組み合わせで分類すると,腹部肥満を認めずその他の構成因子を二つ以上保有する群で最も高い発症率(37.9%)を示し,これに腹部肥満を認めその他の構成因子を一つ保有する群が続いた(24.6%).年齢で調整したコックス比例ハザードモデルでは,「腹部肥満の保有」および「その他の構成因子数の1増加」はともにMetS発症に対する有意なハザード比の上昇を示した(5.23および4.79,ともに p<0.001).同様に,睡眠時間5時間以下,現在喫煙,およびエタノール摂取量300 g/週以上がMetS発症に対する有意なハザード比の上昇を示した.結論:本検討においては,腹部肥満を有する者のみならず,腹部肥満を有さずともその他のMetS構成因子を複数認める者においてMetS発症率は高率であった.また,睡眠不足,喫煙,および過剰飲酒がMetS発症リスク上昇に関わっていた.職域におけるハイリスク・ストラテジーに基づいたMetS発症予防対策を行うにあたっては,これらの病状や生活習慣を有する者を優先した活動の有用性が期待される. (産衛誌2011; 53: 78-86)