- 著者
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佐々木 沙織
奥井 友香
川越 誠
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.1012, 2015 (Released:2015-04-30)
【はじめに,目的】膝関節前十字靭帯(以下,ACL)は,膝関節安定性において重要な役割を担っており,ACL損傷時には安定性が低下し,合併症を生じることが多い。合併症の有無は,受傷機転解明の一助となったり,再建術後の治療経過に影響を及ぼすと考えられ,ACL損傷時の合併症について認識しておくことが重要である。そこで,本研究の目的は,ACL損傷時の合併症について調査することとした。さらに,合併症の種類や合併症に対して行った観血的治療内容の相違が,その後の治療経過に与える影響について調査することとした。【方法】対象は,2007年4月から2013年8月までに,当院にてACL再建術を施行した,中学生から大学生までの103件とした。手術記録から,術中に確認された合併症,半月板の損傷部位について調査し,割合を求めた。また,再建術後スポーツ復帰に至るまで経過観察が可能であった70件を対象に,合併症の種類と合併症に対して行った観血的治療内容について群分けした。合併症の種類は,外側半月板(以下,LM)単独損傷群,内側半月板(以下,MM)単独損傷群,LMとMMの合併損傷群,膝関節内側側副靭帯(以下,MCL)損傷群,合併損傷なし群の5群とした。また合併症に対して行った観血的治療内容は,縫合群,切除群,処置なし群の3群とした。診療記録から,各群における再建術施行からジョギング開始までの日数,再建術施行からリハビリテーション終了までの日数を調査し比較した。統計学的解析にはSPSS ver.21.0 for Windowsを使用し,クラスカル・ウォリスの検定を用いて各群の比較を行った。有意水準は5%とした。【結果】ACL再建術中に確認された合併症は,LM単独損傷が55件(53%),MM単独損傷が12件(12%),LMとMMの合併損傷が6件(6%),LMとMCLの合併損傷が1件(1%),合併損傷なしが29件(28%)であった。半月板の損傷部位は,LM損傷では全62件中,後節損傷が50件(81%),中節~後節損傷が9件(14%),中節損傷が2件(3%),前節~後節損傷が1件(2%)であった。MM損傷では全17件中,後節損傷が12件(71%),中節~後節損傷が4件(24%),前節損傷が1件(5%)であった。また,各合併症の再建術施行からジョギング開始までの日数は,LM単独損傷群が99.9±28.3日,MM単独損傷群が105.6±12.9日,LMとMMの合併損傷群が86.7±17.6日,MCL損傷群が95日,合併損傷なし群が116.7±32.1日であり有意差はみられなかった。さらに,再建術施行からリハビリテーション終了までの日数は,LM単独損傷群が268.1±57.2日,MM単独損傷群が270.2±49.4日,LMとMMの合併損傷群が252.0±39.2日,MCL損傷群が275日,合併損傷なし群が282.6±68.7日であり有意差はみられなかった。合併症に対して行った観血的治療内容で群分けした各群の再建術施行からジョギング開始までの日数は,縫合群が102.5±16.1日,切除群が103.1±39.5日,処置なし群が106.3±30.5日であり有意差はみられなかった。さらに,再建術施行からリハビリテーション終了までの日数は,縫合群が274.6±62.0日,切除群が270.0±51.8日,処置なし群が273.5±61.6日で有意差はみられなかった。【考察】ACL損傷時の合併症については,LMの後節損傷が最も多い結果となった。これは,ACL損傷の受傷肢位は膝関節外反損傷が多く,受傷時外反ストレスにより外側関節面が圧迫されるためLM損傷が生じやすいと考えられる。先行研究からもACL損傷後3ヶ月以内ではLM損傷の方が多いと報告されており,同様の結果となった。また,合併症の有無や合併症に対する観血的治療内容によってスポーツ復帰時期の遅延を予想していたが,いずれの比較においても有意差はみられなかった。これは,ACL再建術後の後療法が,半月板切除,縫合などの後療法よりも時間を要するものであり,スポーツ復帰時期には合併症の影響は出にくかったものと考える。ACL再建術後の理学療法において,合併症を考慮した対応が必要だが,スポーツ復帰時期に大きな影響を与えないため,術後の経過不良例は,合併症以外の要因について検討することが重要である。【理学療法学研究としての意義】本研究結果から,ACL損傷に伴う合併症は,術後の治療経過に大きな影響を与えないことが示唆された。本研究の結果は,ACL再建術後の理学療法において,有益な資料となり得ると考える。