著者
粕山 達也 坂本 雅昭 中澤 理恵 川越 誠 加藤 和夫
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.741-745, 2008 (Released:2009-01-28)
参考文献数
25
被引用文献数
1

[目的」本研究は足関節背屈可動性評価として使用されている4種類の測定方法について,その標準値の検討と測定方法間の相関分析を行った。[対象]対象は健常若年男性42名84脚とした。[方法]足関節背屈角度(膝伸展位・膝屈曲位),下腿傾斜角度,母指壁距離の4種類の足関節背屈可動性評価を行った。[結果]全ての測定方法で正規性が認められ,健常若年男性の足関節背屈可動性における基礎資料としての有用性が示された。また,4種類の足関節背屈可動性の測定方法について,いずれの組み合わせにおいても有意な相関が認められた(r=0.65-0.86,p<0.01)。[結語]臨床現場に応じて測定方法の選択が可能であると考えられた。
著者
宇賀 大祐 阿部 洋太 高橋 和宏 浅川 大地 遠藤 康裕 中川 和昌 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】群馬スポーツリハビリテーション研究会では,県内の各高校野球大会にて傷害に対するテーピングや応急処置,試合後のクーリングダウン等のメディカルサポートを実施している。筋痙攣は最も多い対応の一つであり,選手交代を余儀なくされることもある。本研究の目的は,メディカルサポートにおける筋痙攣の対応状況を明らかにし,適切な対応策について検討することである。【方法】対象は過去7年の全国高等学校野球選手権群馬大会とし,メディカルサポートの全対応人数・件数,筋痙攣の対応人数・件数,好発部位,各試合日の1試合当たりの発生件数(発生率),発生時間帯,発生イニング,プレー復帰状況を調査した。また,気候の影響を検討するため,気象庁発表の気象データを元に,気温及び湿度,日照時間と発生率について,ピアソンの積率相関係数を用いて検討した。【結果と考察】全対応数は199名・273件であり,そのうち筋痙攣は75名(37.7%)・146件(53.5%)であった。好発部位は下腿及び大腿後面であった。発生率は大会初期の1,2回戦が平均0.37件/試合と最多で,その後は徐々に減少した。時間帯による発生件数はほぼ同様で,イニングは各試合後半の7,8,9回が多かった。気象データと発生率は,いずれも相関は認められなかった。夏季大会の筋痙攣は熱中症症状の一つとして現れることが多いが,気象データとの関連はなく大会初期に多いことから,大会前の練習内容や体調管理等による体温調節能の調節不足が一要因として大きな影響を及ぼし,そこに疲労が加わることで試合後半に多発するのではないかと考えられる。また,プレー復帰状況は,36.8%の選手が選手交代を余儀なくされており,試合の勝敗に影響を与えかねない結果となった。発生予防が重要な課題であり,大会中の応急処置のみでなく,大会前のコンディショニングや試合前や試合中の水分補給方法等の暑さ対策を中心に指導することが重要と考える。
著者
森本 晃司 桜井 進一 内藤 慶 青柳 壮志 奥井 友香 加藤 大悟 遠藤 康裕 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C3O1119-C3O1119, 2010

【目的】<BR>ラグビーやアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツにおいて,脳震盪などの頭・頚部の外傷は時として重大な事故を引き起こすことから,安全対策上重要な問題として取り扱われる.国際ラグビー評議会の定款では,未成年のラグビープレイヤーは脳震盪を生じた場合,3週間の練習・試合を禁止するとされており,頭・頚部の外傷は頚部筋力を向上させることで予防可能との報告もある.本研究の目的は,高校生ラグビープレイヤーにおける頚部筋力と周径の関連,脳震盪と頚部筋力の関連について検討し,脳震盪予防の一助とすることである.<BR>【方法】 <BR>対象は全国大会レベルの群馬県N高校の高校生ラグビープレイヤー69名(1年生30名,2年生18名,3年生21名)とした.評価項目は経験年数,過去8カ月間の脳震盪の有無(1年生を除く),頚部周径,頚部筋力とした.頚部周径はメジャーを使用し直立位にて第7頸椎棘突起と,喉頭隆起直下を通るように測定した.頚部筋力の測定にはアニマ社製ハンドヘルドダイナモメーターμTasMF-01を使用した.測定肢位は臥位とし,両肩と大腿部を固定した.センサーはベッドに固定用ベルトを装着した状態で額,後頭部,側頭部の各部分に当て,頚部屈曲,伸展,左右側屈の等尺性筋力を3秒間測定した.各方向3回ずつ測定し,最大値を採用した.<BR>統計学的処理にはSPSS ver.13を用い,頚部筋力と周径,経験年数の関係にはspearmanの順位相関係数を用い,各学年間の頚部筋力,周径との関係には一元配値の分散分析後,Tukeyの多重比較検定を行った.また脳震盪経験の有無と頚部筋力・周径の関係には対応のないt-検定を用い有意水準は5%とした.<BR>【説明と同意】<BR>チーム指導者並びに対象者に対し本研究の主旨及び個人情報保護についての説明を十分に行い,署名による同意を得て実施した.<BR>【結果】<BR>2,3年生計39名のうち,脳震盪経験者は28名であり非経験者は11名であった.脳震盪経験の有無で頚部筋力を比較した結果,頚部筋力,周径ともに有意差は認められなかった.<BR>頚部筋力と周径では有意な相関関係が認められた(P<0.05,R=0.52~0.65)が,経験年数と頚部筋力及び周径との間には相関関係は認められなかった.<BR>学年間の頚部筋力の比較では全項目において有意差が認められ,また,学年間の周径においても有意な差が認められた(P<0.05).多重比較検定では,頚部筋力では1年生に対して2,3年生の筋力が有意に高く(P<0.05),2年生と3年生との間に有意な差は認められなかった.頚部周径では1年生と3年生にのみ差が認められ、3年生の周径が有意に大きかった(P<0.05).<BR> 【考察】<BR>本研究における脳震盪の有無と頚部筋力の検討では,両群で有意差は認められなかった.タックル動作において,脳震盪となる場面ではタックル時に頭部が下がる,飛び込むなどのスキル的な要素や,瞬間的に頚部を安定させる筋収縮の反応などの要素も関連していると考えられる.今回の研究ではそれらの要素は検討できていないため,両群で差が見られなかったものと考える.<BR>また,各学年と頚部筋力の検討では1年生と他学年との間に有意な差が認められたが,経験年数と頚部筋力との間に相関関係は認められなかった.群馬県では中学校の部活動としてラグビー部はなく,経験者も週1回程度のクラブチームの練習に参加する程度である.このため,1年生では経験者であっても十分な頚部筋力トレーニングが行えていない可能性が考えられる.また,頚部筋力と周径ではすべての項目で相関関係が認められたことから,選手のコンディショニング管理の一つとして,筋力測定器などがない場合には,頚部周径を確認しておくことの意義が示唆された.頚部筋力は脳震盪予防のための重要な一要因であるが,今回は頚部筋力と脳震盪経験の有無とに関連は見られなかった.今後はタックル動作のスキルや,筋の反応時間なども検討することが課題である.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>本研究の結果から,高校1年生と2・3年生の頚部筋力の違いが明らかとなり,新入生に対する早期からの筋力評価とトレーニングの重要性が示唆され,スポーツ障害予防のための基礎的資料となる.<BR>
著者
岡元 翔吾 宇賀 大祐 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.161-165, 2015

〔目的〕シャドーピッチング(以下,シャドー)の反復が肩関節回旋可動域と筋力に与える影響を明らかにすることとした.〔対象〕高校硬式野球部に所属する投手9名とした.〔方法〕連続した通常投球およびシャドーの前後で,投球側肩関節内外旋可動域,肩関節内外旋筋力および主観的疲労度を比較した.〔結果〕通常投球,シャドーともに肩関節内外旋筋力の低下が認められた.しかし,肩関節内旋可動域の減少は通常投球のみに認められ,シャドーでは肩関節外旋可動域の拡大が認められた.〔結語〕シャドーは,投球動作中の肩関節回旋運動における肩甲胸郭関節の関与が大きいことから,投球障害発生リスクを軽減させる可能性が示唆された. <br>
著者
森本 晃司 桜井 進一 内藤 慶 青柳 壮志 奥井 友香 加藤 大悟 遠藤 康裕 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3O1119, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】ラグビーやアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツにおいて,脳震盪などの頭・頚部の外傷は時として重大な事故を引き起こすことから,安全対策上重要な問題として取り扱われる.国際ラグビー評議会の定款では,未成年のラグビープレイヤーは脳震盪を生じた場合,3週間の練習・試合を禁止するとされており,頭・頚部の外傷は頚部筋力を向上させることで予防可能との報告もある.本研究の目的は,高校生ラグビープレイヤーにおける頚部筋力と周径の関連,脳震盪と頚部筋力の関連について検討し,脳震盪予防の一助とすることである.【方法】 対象は全国大会レベルの群馬県N高校の高校生ラグビープレイヤー69名(1年生30名,2年生18名,3年生21名)とした.評価項目は経験年数,過去8カ月間の脳震盪の有無(1年生を除く),頚部周径,頚部筋力とした.頚部周径はメジャーを使用し直立位にて第7頸椎棘突起と,喉頭隆起直下を通るように測定した.頚部筋力の測定にはアニマ社製ハンドヘルドダイナモメーターμTasMF-01を使用した.測定肢位は臥位とし,両肩と大腿部を固定した.センサーはベッドに固定用ベルトを装着した状態で額,後頭部,側頭部の各部分に当て,頚部屈曲,伸展,左右側屈の等尺性筋力を3秒間測定した.各方向3回ずつ測定し,最大値を採用した.統計学的処理にはSPSS ver.13を用い,頚部筋力と周径,経験年数の関係にはspearmanの順位相関係数を用い,各学年間の頚部筋力,周径との関係には一元配値の分散分析後,Tukeyの多重比較検定を行った.また脳震盪経験の有無と頚部筋力・周径の関係には対応のないt-検定を用い有意水準は5%とした.【説明と同意】チーム指導者並びに対象者に対し本研究の主旨及び個人情報保護についての説明を十分に行い,署名による同意を得て実施した.【結果】2,3年生計39名のうち,脳震盪経験者は28名であり非経験者は11名であった.脳震盪経験の有無で頚部筋力を比較した結果,頚部筋力,周径ともに有意差は認められなかった.頚部筋力と周径では有意な相関関係が認められた(P<0.05,R=0.52~0.65)が,経験年数と頚部筋力及び周径との間には相関関係は認められなかった.学年間の頚部筋力の比較では全項目において有意差が認められ,また,学年間の周径においても有意な差が認められた(P<0.05).多重比較検定では,頚部筋力では1年生に対して2,3年生の筋力が有意に高く(P<0.05),2年生と3年生との間に有意な差は認められなかった.頚部周径では1年生と3年生にのみ差が認められ、3年生の周径が有意に大きかった(P<0.05). 【考察】本研究における脳震盪の有無と頚部筋力の検討では,両群で有意差は認められなかった.タックル動作において,脳震盪となる場面ではタックル時に頭部が下がる,飛び込むなどのスキル的な要素や,瞬間的に頚部を安定させる筋収縮の反応などの要素も関連していると考えられる.今回の研究ではそれらの要素は検討できていないため,両群で差が見られなかったものと考える.また,各学年と頚部筋力の検討では1年生と他学年との間に有意な差が認められたが,経験年数と頚部筋力との間に相関関係は認められなかった.群馬県では中学校の部活動としてラグビー部はなく,経験者も週1回程度のクラブチームの練習に参加する程度である.このため,1年生では経験者であっても十分な頚部筋力トレーニングが行えていない可能性が考えられる.また,頚部筋力と周径ではすべての項目で相関関係が認められたことから,選手のコンディショニング管理の一つとして,筋力測定器などがない場合には,頚部周径を確認しておくことの意義が示唆された.頚部筋力は脳震盪予防のための重要な一要因であるが,今回は頚部筋力と脳震盪経験の有無とに関連は見られなかった.今後はタックル動作のスキルや,筋の反応時間なども検討することが課題である.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,高校1年生と2・3年生の頚部筋力の違いが明らかとなり,新入生に対する早期からの筋力評価とトレーニングの重要性が示唆され,スポーツ障害予防のための基礎的資料となる.
著者
桜井 進一 猪股 伸晃 武井 健児 青柳 壮士 中澤 理恵 坂本 雅昭 富沢 渉
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会
巻号頁・発行日
vol.28, pp.99, 2009

【目的】<BR>群馬スポーツリハビリテーション研究会では,H14年の全国高等学校野球選手権群馬県大会(以下:夏季大会)から理学療法士(以下:PT)によるメディカルサポート(以下:サポート)を開始以降,サポート対象となる大会・内容を拡大し継続してきた。そこで,H14年からH20年までにサポートした計12大会における結果を整理し,必要とされているサポート内容とその経時的な変化の傾向について報告する。<BR>【対象・サポート内容】<BR>夏季大会はH14年度にベスト16以降16試合から開始,H15年度からベスト32以降31試合,H18年度以降は1回戦からの全66試合となった。またH18年から秋季関東地区高等学校野球大会県予選(以下:秋季大会),H19年から春季関東地区高等学校野球大会県予選(以下:春季大会)の準々決勝以降7試合のサポートも開始した。サポート内容は,試合前のコンディショニング及び試合中のアクシデントに対する対応を基本とし,夏季大会では4回戦以降で両チームの投手・野手に対する試合後のクーリングダウンを実施した。尚,上記規定試合以外の夏季大会1~3回戦,春季・秋季大会では監督からの依頼に応じた投手のクーリングダウンを実施した。<BR>【結果と考察】<BR> 過去12大会にサポートに参加したPTは延べ589名(実数158名)であり,内訳は夏季7大会で延べ308試合,523名,春季・秋季計5大会で延べ35試合,66名であった。夏季大会4回戦以降でのダウンは延べ202チーム,投手183名に実施した。ダウン実施の際に肩や肘に痛みの認められた投手は計49名,27%であった。全大会における応急処置やテーピング,依頼による投手クーリングダウン等の対応件数は延べ584件(287名)であり,対応内容はテーピング107件,アイシング65件,熱中症対応61件の順に多かった。傷害部位別では上肢が延べ128件,下肢が延べ153件,傷害内容別では打撲98件,筋痙攣78件,熱中症65件の順に多かったが,経時的変化はみられなかった。サポート内容の経時的変化として,H18年度までは規定試合以外での投手へのクーリングダウンの要請は0件であったが,H19年度12件、H20年度33件と急増しており,コンディショニングによる障害予防の重要性が各校へ浸透してきていると考えられた。 7年間でのサポート対応の増加を踏まえ,我々はマンパワーの確保,障害予防に必要とされる知識・技術の向上が必要と考えられた。
著者
宇賀 大祐 遠藤 康裕 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb1157, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 野球選手では,over useや運動連鎖の破綻,投球フォームの影響等により,肩関節や肘関節に障害が多く見られる.それらの原因追求や障害予防を目的とした数多くの研究がなされてきた.しかし,それらの分析は投手に着目しているものが多く,すべてのポジションの選手に当てはまるとは言い難い.特に,捕手は非常にポジション特性が高いにも関わらず,捕手に着目した研究は少ない.そこで今回,捕手の送球動作において肩関節と体幹に着目した動作分析をすることで,その特徴を明らかにすることを目的とした.【方法】 投球障害を有さない野球経験者14名(年齢20.9±2.0歳,身長170.8±5.7cm,体重65.4±11.2kg,野球経験9.6±2.8年)を対象とした.さらに捕手経験2年以上の捕手経験群7名(捕手経験3.7±1.4年)と,捕手経験なしの捕手非経験群7名に群分けした.セットポジションからの通常投球動作(以下,set条件)と,しゃがみ込んだ姿勢からの捕手送球動作(以下,catcher条件)の2条件の試技を行わせた.投球および送球距離は,本塁から2塁(約39m)とし,各条件3回ずつ撮影した.3回の投球および送球の中で,ボールリリース(以下,BR)後のボール初速度が最も速い1回を代表値として解析した.投球および送球動作は,2台の高速度カメラ(SportsCamTM,FASTEC IMAGING社製)をサンプリング周期250Hz,シャッタースピード1250Hzで同期させ撮影した.反射マーカは両肩峰,両上前腸骨棘,右肘頭,両足先端に貼付した.撮影した動画を,画像解析処理ソフトImageJにてマーカの2次元座標を読み取り,Direct Linear Transformation 法を用いてマーカの3次元座標を算出した.各部位の3次元座標から「ボール初速度」「TOP時肩水平外転角度」「BR時肩水平内転角度」「体幹回旋角度」「推進運動率」を求めた.なお,TOPとは肘を最も後方に引いた肢位(肩最大水平外転時)と定義した.統計処理はSPSS statistics 17.0を用い,各条件での群間比較は対応のないt検定,各群内での条件間比較は対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の主旨を十分に説明した上で同意を得た.【結果】 「TOP時肩水平外転角度」は,捕手経験群では条件間での有意差はなかったが,捕手非経験群はset条件38.3±11.0°,catcher条件26.0±9.0°と有意差を認めた(p<0.05).また,肩水平外転角度は両条件とも群間での有意差はなかった.「体幹回旋角度」は,捕手非経験群でset条件55.3±9.0°,catcher条件44.9±10.3°と有意差を認めた(p<0.05).また,catcher条件での群間比較は,捕手経験群が63.6±16.4°であり有意に高値を示した(p<0.05).set条件においても有意差はないものの,捕手経験群が高値を示す傾向にあった.「ボール初速度」,「BR時肩水平内転角度」,「推進運動率」には群間,条件間いずれも有意差を認めなかった.【考察】 投球動作は,投球方向かつ,踏み出した足への重心移動や,股関節を中心とした骨盤回旋,体幹回旋,上肢の動きと運動連鎖が正確かつスムーズに行われることで,必要十分なエネルギーをボールに効率良く伝えることが出来る.また,投球動作における体幹の役割は,身体重心の移動や下肢筋力によって発生したエネルギーを,円滑に上肢に伝えることであり,体幹の機能不全により運動連鎖が破綻し,上肢への負担が大きくなる.今回の結果では,捕手経験群は,条件の違いによる変化は認められなかったのに対し,捕手非経験群はcatcher条件においてTOP時肩水平外転角度および体幹回旋角度が減少した.catcher条件では,set条件よりも素早い動作が求められるため,捕手非経験群は動作時間の短縮がTOP時肩水平外転角度および体幹回旋角度の減少に影響している可能性がある.それに対し,捕手経験群は,素早い動作が求められても角度に変化はなく,捕手非経験群よりも両条件で体幹回旋角度が高値を示した.本研究からは,この体幹回旋角度の変化が運動連鎖にどのような影響を及ぼすのかということまで言及することはできないが,捕手送球動作の特性といえるかもしれない.このことから,捕手経験年数により,障害が発生しやすい部位が異なるのではないかと考える.臨床において,今回着目した捕手に限らず,ポジションの聴取だけでなく,経験年数も考慮する必要性がある.今後は,捕手経験年数や練習量と障害の関係性について追求していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 これまで投球障害に関する研究としては投手が中心に行われてきた.しかし,投手以外の選手には,送球の正確さに加え,動作の素早さが求められる.そのため,ポジションの特異性やそのポジションの経験年数を考慮した評価・介入を行うことの重要性が示されたと考える.
著者
遠藤 康裕 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0937, 2012

【はじめに、目的】 中学生年代の野球選手では,骨端線の存在や骨の成長が筋・腱に比べ早いといった特徴があり,身体が解剖学的に未熟で成人より脆弱である.これらの特徴より,Little leaguer's shoulder,Little leaguer's elbowなど上肢の障害が多くみられる.また,投球肩障害の評価項目の一つとして,座位での徒手的肘関節伸展筋力の評価が行われており,これにより体幹・肩甲帯のインナーとアウターの筋機能バランスを評価することができると考えられている.臨床でも肩甲帯,体幹の機能低下により肘関節伸展時,脱力現象がみられるものが少なくない.そこで今回は,姿勢による等尺性肘関節伸展筋力の違いと体幹機能との関連を検討し,体幹機能評価としての肘関節伸展筋力測定の有用性を明らかにすることを目的とした.【方法】 対象は中学校軟式野球部に在籍する男子中学生1・2年生23名(年齢:13.2±0.8歳,身長:157.3±8.6cm,体重:49.6±9.9kg)とした. 測定項目は,等尺性肘関節伸展筋力,体幹stability endurance test(以下,stability test)とし,等尺性肘関節伸展筋力については椅子座位,立位の2条件で測定を行った.等尺性肘関節伸展筋力の測定肢位は壁に正対し,肩関節屈曲90度,肘関節屈曲90度位とし,前腕遠位部の高さに合わせて壁に設置した等尺性筋力測定機器μ-tas(ANIMA社製)に5秒間最大努力で肘関節伸展運動を行った.測定された筋力(N)を体重で除し,肘伸展筋力体重比(以下,肘伸展筋力)を算出した.尚,体幹・下肢の固定は行わなかった.Stability testはサイド右・左,体幹伸展・屈曲の4項目とした.サイド右(左)は右(左)側臥位にて右(左)on elbow,体幹伸展はpuppy positionを開始肢位とし,肩関節・股関節・膝関節・足関節が一直線となるように保持させた.体幹屈曲は,膝立て位から体幹と床面が45度となる姿勢を保持させた.全ての項目で姿勢が保持できなくなった時点の時間を計測した. 統計学的解析においては,肘伸展筋力について各条件内の投球側と非投球側間,および各条件間での比較をWilcoxonの符号付順位検定により検討した.また,各条件の肘伸展筋力とstability test間の関連性の検討のために,Spearmanの積率相関係数を求めて,相関分析を行った.危険率5%未満を有意差ありとした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者全員およびチーム責任者に本研究内容,対象者の有する権利について十分に説明を行い参加の同意を得た.【結果】 肘伸展筋力の測定結果は,座位において,投球側172.7±28.7(N/kg),非投球側164.9±24.9(N/kg),立位において投球側142.1±31.3(N/kg),非投球側133.8±22.9(N/kg)であった.Stability testの結果,サイド右は52.5±23.9 sec,サイド左は55.7±31.4 sec,体幹伸展は103.3±44.1 sec,体幹屈曲は35.5±23.1 secであった.各条件内での投球側・非投球側間の肘伸展筋力の比較では,両条件とも投球側が有意に大きかった.2条件間での肘伸展筋力の比較では,投球側・非投球側とも座位が有意に大きかった.肘伸展筋力とstability testの相関関係は,座位の投球側肘伸展筋力とサイド右,体幹伸展,および非投球側肘伸展筋力とサイド右で有意な正の相関が認められた.【考察】 投球動作の運動連鎖について,先行研究では全身を使って投げた場合に比べ,腕だけで投げる場合約50%の速度しか出ないとされおり,下肢・体幹から上肢への効率のよいエネルギーの伝達が重要であると考えられている.しかし,今回肘伸展筋力については,立位よりも座位の方が大きな結果となった.立位では,肘伸展運動時にエネルギーが放散され,座位に比べ筋力が小さくなったと考えらえる.また,肘伸展筋力と体幹stabilityの関連では座位でのみ有意な相関が認められた.立位時には,下肢・骨盤帯が影響するため,体幹stabilityと相関が認められなかったと考える.本研究より,座位での肘伸展筋力の測定により体幹機能の評価が可能であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 肘伸展筋力の評価が体幹機能の評価として有効であることが示唆された点,中学生野球選手では下肢・骨盤帯の機能低下が上肢機能発揮低下の要因となることが示唆された点で,成長期の投球障害に対する理学療法評価,アプローチにおける提言として大変意義のあるものであると考える.
著者
宇賀 大祐 遠藤 康裕 森本 晃司 福原 隆志 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101342, 2013

【はじめに、目的】 野球選手において,肩関節障害はパフォーマンス低下や選手生命を左右する問題であり,その予防が重要となる.障害発生要因の一つとして,肩関節内外旋筋力バランスの不良があり,特に肩関節外旋筋力低下が問題になる.また,回旋筋腱板の付着部位である肩甲骨の安定化が重要視されているが,肩甲骨周囲筋の筋活動を報告したものは上肢挙上運動時のものがほとんどであり,外旋運動時の筋活動を報告したものは少ない.さらには,異なる上肢挙上角度における肩関節外旋運動時の肩甲骨周囲筋や棘下筋の筋活動特性を報告したものはほとんどないため,本研究では,表面筋電図を用いて,それらを明確にすることを目的とした.【方法】 肩関節に整形外科的疾患を有さない健常男性20名(年齢22.4±1.5歳,身長172.9±4.4cm,体重67.1±5.8kg)40肩を対象とした.表面筋電図の記録および解析は,能動電極(DL-141, S&ME Inc.),データ収録システム(Powerlab 16/35, AD Instruments),解析ソフトウェア(LabChart7,AD Instruments)を使用し,サンプリング周波数1,000Hz,デジタルフィルタは10-500Hzの帯域通過とした.被検筋は棘下筋,僧帽筋上部線維,僧帽筋中部線維,僧帽筋下部線維,前鋸筋の5筋とした.測定課題は,肩関節最大等尺性外旋運動とし,上肢下垂位,肩甲骨面45度,90度,135度挙上位の4肢位で実施した.体幹部をベルトで固定した椅座位にて,肘関節90度屈曲位,肩関節内外旋中間位とし,上腕遠位部は安定した台の上に設置させた.測定は5秒間実施し,中3秒間の各筋の波形の実効値を算出し,肩関節外旋運動時の筋活動量を求めた.筋活動量は,最大等尺性随意収縮(Maximum Voluntary Contraction:MVC)時の筋活動量で正規化し,%MVCとした.各肢位3回ずつ測定し,その平均値を算出した.算出項目は,各肢位における5筋の筋活動量および棘下筋の筋活動量に対する各肩甲骨周囲筋の筋活動量(以下,筋活動比)とした.統計学的処理は,IBM SPSS Statistics 21.0を使用し,各肢位における同筋の筋活動量および筋活動比の比較を,Friedman検定を行った後, Bonferroniの方法に基づいて有意確率を調節したWilcoxonの符号付き順位検定を用いて多重比較を行った.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の目的および内容, 対象者の有する権利について十分な説明を行い, 参加の同意を得た上で測定を実施した.【結果】 各肢位における筋活動量の比較では,棘下筋は97.3~64.8%MVCと挙上角度増加に伴い有意に筋活動が減少した.僧帽筋上部線維は,いずれの肢位においても有意差は認められなかった.僧帽筋中部線維および僧帽筋下部線維は,それぞれ59.1~41.0%MVC,70.9~54.7%MVCと,挙上角度増加に伴い筋活動が緩やかな減少傾向を示した.前鋸筋は,22.7~59.4%MVCと挙上角度増加に伴い筋活動が増加傾向を示した.各肢位における筋活動比の比較では,僧帽筋中部線維および僧帽筋下部線維は,それぞれ0.63~0.78,0.81~0.93と全挙上角度においてほぼ一定した筋活動比を示したが,僧帽筋上部線維および前鋸筋はそれぞれ0.31~0.65,0.24~0.99と挙上角度増加に伴い筋活動比が増加した.【考察】 肩関節外旋筋である棘下筋の効率的な外旋トルク発生のためには,付着部位である肩甲骨の安定化が重要であり,肩甲骨周囲筋の協調的な作用が重要となる.今回の結果から,僧帽筋中部線維および下部線維は,全挙上角度において,棘下筋に対し中等度以上の一定した活動をすることが分かった.また,挙上角度増加に伴い前鋸筋の貢献度が大きくなった.僧帽筋中部線維および下部線維は,棘下筋や前鋸筋による肩甲骨外側偏位力に抗して常に内側に引きつける作用として重要と考える.今回の測定方法では,挙上角度増加に伴いゼロポジションに近似した肢位となる.ゼロポジション肢位は,筋線維の配列から,本来上腕骨の回旋が生じないとされているため,外旋トルク発生には肩甲骨の後傾運動も必要となる.前鋸筋は肩甲骨後傾作用を有する唯一の筋であるため,挙上角度増大に伴い筋活動が増加したと考えられ,肩甲骨安定化,外旋トルク発生の両方の働きを担ったと考えられる.肩関節は可動範囲が大きく,特に野球などのオーバーヘッドスポーツにおいては,挙上位での動作が要求される.このような対象者のより動作を想定した評価およびトレーニングを実施するためには,一定の角度のみでなく,様々な挙上角度で実施することが重要であると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 肩甲骨安定化には多数の筋が貢献するが,上肢挙上角度の変化に伴いそれらの筋の貢献度が異なり,また回旋トルクの力源にもなりうるため,様々な上肢挙上角度での評価の重要性や,目的動作に応じた挙上角度を設定してトレーニングすることの重要性が示された.
著者
浅川 大地 河内 淳介 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101999, 2013

【はじめに、目的】足関節は可動性が高く動的バランスに大きく関与しており,投球動作での片脚立位時のアライメントにも関与していると考えられる.そのため足関節捻挫などによる足関節背屈制限が投球動作時のアライメントに影響し,肩・肘などの投球障害に結びついているのではないかと考えた.そこで本研究の目的は,足関節背屈制限によるアライメントの変化が投球動作時の上肢関節へ及ぼす影響について検討することとした.【方法】対象は健常成人男性8名(右投げ5名・左投げ3名,年齢19.9±2.0歳,身長178.8±6.3cm,体重68.8±5.4kg)とし,野球経験6年以上で投球障害がなく,足関節傷害の既往のないものとした.投球開始肢位をセットポジションとし,通常投球と軸足の足関節背屈可動域を制限した投球(以下,制限投球)の2条件の試技を行った.足関節背屈制限角度は膝伸展位で10°とし,非伸縮性テーピングによって固定した。尚,投球前後での足関節背屈制限角度に有意差は認められなかった.投球距離はマウンドから本塁間(18.4m)とし,側方・後方から2台の高速度カメラ(SportsCamTM,FASTEC IMAGING社製)をサンプリング周期250Hzで同期させ,各条件3回の試技を撮影した.また,反射マーカーを両肩峰,投球側肘頭,投球側手関節背側中央に貼付し,得られた画像から反射マーカー部位の3次元座標(DLT法)を算出した.各部位の3次元座標から球速,足部接地(FP)時及びボールリリース(BR)時の肩水平外転角度,肩外転角度,肘屈曲角度を求めた.統計学的分析は表計算ソフト(Excel,Microsoft社)上で,2条件間の比較において対応のあるt検定を行い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の目的,危険性について口頭及び書面にて十分に説明し同意を得た.【結果】球速およびFP時の各関節角度において,2条件間に有意差は認められなかった. BR時では制限投球の肩外転角度は72.2±4.8°であり,通常投球時(73.6±6.2°)と比較して有意に減少していた(p<0.05).また,BR時の肩水平外転角度は3.36±2.5°,肘屈曲角度は69.5±17.3°であり,通常投球時の肩水平外転角度(1.85±2.2°),肘屈曲角度(62.5±20.7°)と比較して有意に増加していた(p<0.05).【考察】制限投球は通常投球に比べて肩外転角度が有意に減少し,肩水平外転角度・肘屈曲角度が有意に増加した。このことから,制限投球では投球動作時の肩・肘へのストレスが増加していると考える.投球動作時に体幹・骨盤が後傾する選手は,上半身・上肢・肩甲帯が動員されバランスをとろうとし,体幹の回旋不足が起こる可能性があり,その補正のため肩が過度に水平外転をとるとされている.本調査の制限投球においては,ワインドアップ時に足関節の背屈が制限されたため後方重心となり,体幹の回旋不足が生じ,BR時の肩の水平外転角度が有意に増加したと考える。BR時に肩が水平外転位にあると肩に加わる前方負荷が増大するとされているため,制限投球では肩関節へのストレスが増大すると推察する.また,先行研究においてBR時の肩水平外転角度の増加,肩外転角度の減少は,ゼロポジションと比べて肩関節にかかる負荷が有意に大きいとされており,今回も同様の結果となった.このことから,制限投球でのBRは肩関節へのストレスを増加させていると考える.また,投球動作の加速期における上腕の加速運動は肩関節内旋運動と肘関節伸展運動が中心に担っており,この2つの運動のどちらか一方が強調されることなく投球動作を行う必要がある。しかし,制限投球では肘屈曲角度の増加も認められたことから,肩内旋運動が強調されていた可能性が考えられ,肘関節への外反ストレスも増大する可能性が推察される.投球における運動連鎖は,下肢・体幹・上肢へと全身の各関節が効率良く連動することが必要であり,運動連鎖の破綻は肩や肘の外傷発生やパフォーマンスの低下につながる.制限投球条件でのBR時の各関節角度には有意な差が認められており,運動連鎖の破綻があったと考えられる.しかし,球速について有意な差は認められなかったため,パフォーマンスは低下していなかったと考える.パフォーマンスを維持するために,上肢に大きなストレスをかけているか,骨盤・体幹などに何らかの代償が起きていたと推察する.【理学療法学研究としての意義】投球動作において後期コッキング期から加速期にかけて肩や肘に痛みを生じやすいが,この位相での動作修正は容易でない.そのため,それ以前の位相からの影響について検討することで投球障害のリスクを減少することが可能と考える.その一要因として足関節が投球動作に与える影響についても考慮することも必要であると考える.
著者
岡元 翔吾 齊藤 竜太 遠藤 康裕 阿部 洋太 菅谷 知明 宇賀 大祐 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】投球障害後のリハビリテーションでは,病態の中心である肩甲上腕関節への負担を最小限に抑えることが不可欠であり,肩甲胸郭関節や胸椎の動きを十分に引き出し良い投球フォームを獲得する練習として,シャドーピッチング(以下,シャドー)が頻用される。しかし,硬式球を用いた投球(以下,通常投球)時の肩甲胸郭関節と胸椎の角度については過去に報告されているが,シャドーに関しては明らかにされていない。本研究では,シャドー時の肩関節最大外旋位における肩甲上腕関節,肩甲骨および胸椎の角度を明らかにし,運動学的観点より通常投球との相違を検証することを目的とした。【方法】対象は投手経験のある健常男性13名(年齢24.9±4.8歳,身長173.9±4.3cm,体重72.1±7.3kg,投手経験11.2±5.2年)とした。測定条件は通常投球とタオルを用いたシャドーの2条件とし,いずれも全力動作とした。動作解析には三次元動作解析装置(VICON Motion Systems社製,VICON 612)を使用し,サンプリング周波数は250Hzとした。反射マーカーはC7,Th7,Th8,L1,胸骨上切痕,剣状突起に貼付した。また,投球側の肩峰,上腕遠位端背側面,前腕遠位端背側面に桧工作材を貼付し,その両端にも反射マーカーを貼付した。得られた三次元座標値から肩関節最大外旋位(以下,MER)時の肩関節外旋角度(肩全体の外旋角度),肩甲上腕関節外旋角度,肩甲骨後傾角度,胸椎伸展角度を算出した。また,非投球側足部接地(FP)~MERまでの時間と各関節の角度変化量を算出した。尚,各条件とも2回の動作の平均値を代表値とした。統計学的解析にはIBM SPSS Statistics ver. 22.0を使用し,対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした。【結果】肩関節最大外旋角度は,通常投球145.4±14.2°,シャドー136.4±16.8°と有意にシャドーが小さかった(p<0.01)。その際の肩甲上腕関節外旋角度は,通常投球98.4±16.7°,シャドー91.8±13.1°と有意にシャドーが小さかった(p<0.01)が,肩甲骨後傾角度と胸椎伸展角度は有意差を認めなかった。FP~MERの時間は,通常投球0.152±0.030秒,シャドー0.167±0.040秒と有意にシャドーが長かった(p<0.05)が,角度変化量は有意差を認めなかった。【結論】シャドーは通常投球に比して,MER時の肩甲骨後傾角度や胸椎伸展角度に差はないが,肩甲上腕関節外旋角度が小さくなったことから,関節窩-上腕骨頭間での回旋ストレスが軽減する可能性が示唆された。また通常投球では,重量のあるボールを使用する上,短時間に同程度の肩甲上腕関節での外旋運動を求められるため,上腕骨回旋ストレスが大きくなる可能性が考えられる。投球障害後のリハビリテーションにおいて,シャドーは肩甲胸郭関節や胸椎の動きが確保され障害部位への負担が少ない動作となることから,ボールを使った投球動作へ移行する前段階での練習方法として有用であると考える。
著者
福原 隆志 坂本 雅昭 中澤 理恵 川越 誠 加藤 和夫(MD)
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101862, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】足関節底背屈運動時には,腓骨の回旋運動が伴うとされている.しかしながら,回旋方向についての報告は一定の見解を得ていない.また,先行研究は屍体下肢を用いての報告がほとんどであり,生体を対象にした報告はほとんど行われていない.本研究の目的は,Bモード超音波画像を用い,足関節底背屈運動時の腓骨外果の回旋運動について検討するものである.【方法】対象は,足関節に既往のない健常成人男女5名(24.6±2.5歳)の足関節10肢とした.測定姿位は,長坐位にて膝30°屈曲位とした.超音波画像診断装置(LOGIQ e,GEヘルスケア,リニア型プローブ)を用い,腓骨外果最下端より3cm近位部にて足関節前外方よりプローブを当て,短軸像にて脛腓関節を観察した.被験者は自動運動にて足関節背屈及び底屈運動を行った.足関節最大背屈時及び足関節最大底屈時において,脛骨及び腓骨の運動方向を画像上にて確認した.また脛骨及び腓骨間の距離を画像上にて0.01cm単位で測定した.さらに脛骨及び腓骨の接線を描画し,両者の成す角を0.1°単位で測定した.なお,測定は1肢につき3回行い平均値を測定値とした.なお,測定はすべて同一検者1名で行った.統計学的解析方法として,足関節背屈時と底屈時に得られた測定値についてWilcoxonの符号付順位和検定を用い検討した.解析にはSPSS ver.17を使用し,有意水準を5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者全員に対し,研究の趣旨について十分に説明し,書面にて同意を得た.【結果】全ての被験者において,関節背屈時に腓骨の外旋が観察された.また,足関節底屈時には腓骨の内旋が確認された.脛骨及び脛骨間の距離は,底屈時では0.27±0.08cm,背屈時では0.36±0.13cmであり,底屈時と比べ背屈時では有意に距離は開大していた(p<0.01).脛骨及び腓骨の接線の成す角は,底屈時では4.8±5.8°,背屈時では10.0±6.42°であり,底屈時と比べ背屈時では有意に角度は増加していた(p<0.01).【考察】足関節の運動学は理学療法実施上,注目すべき重要なポイントであると考えられる.しかしながら足関節底背屈運動時における腓骨の運動方向について,これまで一定の見解を得ていなかった.今回の結果から足関節の自動運動時において,背屈時には腓骨は脛骨に対し外旋し,底屈時には内旋することが明らかとなった.今回の知見を活かすことで,足関節に対する理学療法実施の際,より適切なアプローチを実施することが可能となると思われる.【理学療法学研究としての意義】本研究は足関節底背屈運動に伴う脛腓関節の運動について明らかにし,適切な理学療法実施のための一助となる研究である.
著者
福原 隆志 坂本 雅昭 中澤 理恵 川越 誠 加藤 和夫(MD)
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101862, 2013

【はじめに、目的】足関節底背屈運動時には,腓骨の回旋運動が伴うとされている.しかしながら,回旋方向についての報告は一定の見解を得ていない.また,先行研究は屍体下肢を用いての報告がほとんどであり,生体を対象にした報告はほとんど行われていない.本研究の目的は,Bモード超音波画像を用い,足関節底背屈運動時の腓骨外果の回旋運動について検討するものである.【方法】対象は,足関節に既往のない健常成人男女5名(24.6±2.5歳)の足関節10肢とした.測定姿位は,長坐位にて膝30°屈曲位とした.超音波画像診断装置(LOGIQ e,GEヘルスケア,リニア型プローブ)を用い,腓骨外果最下端より3cm近位部にて足関節前外方よりプローブを当て,短軸像にて脛腓関節を観察した.被験者は自動運動にて足関節背屈及び底屈運動を行った.足関節最大背屈時及び足関節最大底屈時において,脛骨及び腓骨の運動方向を画像上にて確認した.また脛骨及び腓骨間の距離を画像上にて0.01cm単位で測定した.さらに脛骨及び腓骨の接線を描画し,両者の成す角を0.1°単位で測定した.なお,測定は1肢につき3回行い平均値を測定値とした.なお,測定はすべて同一検者1名で行った.統計学的解析方法として,足関節背屈時と底屈時に得られた測定値についてWilcoxonの符号付順位和検定を用い検討した.解析にはSPSS ver.17を使用し,有意水準を5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者全員に対し,研究の趣旨について十分に説明し,書面にて同意を得た.【結果】全ての被験者において,関節背屈時に腓骨の外旋が観察された.また,足関節底屈時には腓骨の内旋が確認された.脛骨及び脛骨間の距離は,底屈時では0.27±0.08cm,背屈時では0.36±0.13cmであり,底屈時と比べ背屈時では有意に距離は開大していた(p<0.01).脛骨及び腓骨の接線の成す角は,底屈時では4.8±5.8°,背屈時では10.0±6.42°であり,底屈時と比べ背屈時では有意に角度は増加していた(p<0.01).【考察】足関節の運動学は理学療法実施上,注目すべき重要なポイントであると考えられる.しかしながら足関節底背屈運動時における腓骨の運動方向について,これまで一定の見解を得ていなかった.今回の結果から足関節の自動運動時において,背屈時には腓骨は脛骨に対し外旋し,底屈時には内旋することが明らかとなった.今回の知見を活かすことで,足関節に対する理学療法実施の際,より適切なアプローチを実施することが可能となると思われる.【理学療法学研究としての意義】本研究は足関節底背屈運動に伴う脛腓関節の運動について明らかにし,適切な理学療法実施のための一助となる研究である.
著者
岡元 翔吾 宇賀 大祐 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.161-165, 2015 (Released:2015-06-24)
参考文献数
17
被引用文献数
1

〔目的〕シャドーピッチング(以下,シャドー)の反復が肩関節回旋可動域と筋力に与える影響を明らかにすることとした.〔対象〕高校硬式野球部に所属する投手9名とした.〔方法〕連続した通常投球およびシャドーの前後で,投球側肩関節内外旋可動域,肩関節内外旋筋力および主観的疲労度を比較した.〔結果〕通常投球,シャドーともに肩関節内外旋筋力の低下が認められた.しかし,肩関節内旋可動域の減少は通常投球のみに認められ,シャドーでは肩関節外旋可動域の拡大が認められた.〔結語〕シャドーは,投球動作中の肩関節回旋運動における肩甲胸郭関節の関与が大きいことから,投球障害発生リスクを軽減させる可能性が示唆された.
著者
岩崎 和樹 浅川 大地 中川 和昌 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0078, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】重量物持ち上げ動作(以下,リフティング動作)は,腰痛受傷率が最も高い動作であるとされており,腰痛の一因とされる体幹表層筋の過剰な筋活動を伴いやすい。また,体幹深層筋の機能低下は代償的戦略として体幹表層筋の筋活動を増加させることが推測されている。本研究では,体幹深層筋に対する継続的な運動が体幹表層筋の筋活動量に及ぼす影響を検証することを目的とした。【方法】対象は腰痛の既往のない健常男性10名(年齢20.7±0.7歳,身長171.2±4.2cm,体重62.4±5.2kg)とし,継続的な運動の実施が可能であった7名を分析対象とした。介入内容は体幹深層筋に対して3種類の運動を4週間にわたり可能な限り毎日実施してもらい,その前後で腹横筋機能評価とリフティング動作時の筋活動量を測定した。腹横筋機能評価には,圧バイオフィードバックユニット(CHATTANOOGA社製)を使用し,腹臥位でのDraw-inによる腹圧の変化を計測した。リフティング動作時の筋活動量の測定には表面筋電図計(酒井医療社製マイオリサーチXPテレマイオG2 EM-601 EM-602)を使用し,両側腹直筋,外腹斜筋,広背筋,胸部および腰部脊柱起立筋の筋活動量を測定した。動作課題は体重の30%の重量物のリフティング動作とした。開始肢位は足底が全面接地した膝関節最大屈曲位の時点とし,終了肢位はリフティング動作後,体幹と下肢が完全伸展位をとった時点とした。筋電図計測は,計測開始2秒後に検者の合図で動作を開始し,終了肢位から2秒経過した時点で計測終了とした。動作は3回試行し,全3回の筋活動量の平均値を代表値とした。運動方法は①腹臥位・背臥位でのDraw-in保持,②四つ這い姿勢から対側上下肢の挙上,③背臥位で臀部を挙上し体幹と大腿を一直線に保持する運動の3種類とした。統計学的解析は,エクセル統計Statcel Ver.3を使用し,介入前後の各代表値をWilcoxonの符号付順位和検定にて比較検討した。尚,有意水準は5%とした。【結果】腹横筋機能評価は,介入前-5.0±9.0mmHg,介入後-7.1±3.4mmHgであり,介入後に圧の減少傾向を認めた。リフティング動作時の筋活動量は,右広背筋では30.4±10.3μVから24.1±9.1μV,左広背筋では34.4±10.3μVから22.7±8.5μVと両広背筋で介入後有意な減少(p=0.018)を認め,有意差はないものの右外腹斜筋以外の全筋で減少傾向がみられた。【結論】体幹深層筋に対する4週間の運動介入により,体幹表層筋の活動量は抑制されることが示唆された。体幹深層筋機能向上により,リフティング動作時に動員されていた体幹表層筋の筋活動が減少したことが推測される。これらより,今回実施した運動はリフティング動作時の腰痛予防プログラムの一助になる可能性が示された。
著者
金城 拓人 粕山 達也 中川 和昌 猪股 伸晃 岡田 みゆき 中澤 理恵 坂本 雅昭 渋澤 克利 渡辺 英輔
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.74, 2009

【目的】<BR>我々は,群馬県高等学校体育連盟バスケットボール専門部との連携により,高校バスケットボール競技に対してメディカルサポート活動(以下,サポート)を行った.我々は,以前より高校野球競技,中学・高校サッカー競技にサポートを行っているが,初めて女子の競技も対象となった.今回,その内容をまとめ,傷害傾向を把握し,今後の方向性を検討した.<BR>【方法】<BR>サポートは,全国高等学校選抜優勝大会群馬県予選会(以下,選抜大会)の準々決勝以降(出場16校,14試合),群馬県高等学校バスケットボール新人大会(以下,新人大会)の決勝リーグ(出場8校,12試合)に行った.スタッフは,理学療法士をボランティアとして参加を募り,会場に4名以上配置した.<BR> サポート内容は,理学療法ブースを開設し,再発予防や疼痛等の症状軽減目的の処置,応急処置を行った.また,コート内にもスタッフが待機した.<BR>【結果】<BR>参加したスタッフは,選抜大会延べ8名,新人大会延べ10名であった.<BR>サポートを依頼した学校数は,選抜大会5校,新人大会6校であった.<BR>依頼件数は総件数52件のうち,選抜大会21件(男子11件,女子10件),新人大会31件(男子19件,女子12件)であった.<BR>対応部位は総件数52件のうち,足関節19件,膝関節14件,手指10件であった.傷害内容は捻挫20件,靭帯損傷9件,突き指9件であった.男女の内訳は,男子の総件数30件のうち,足関節14件,手指10件であった.女子は総件数22件のうち,膝関節13件,足関節5件であった.傷害内容は男子が捻挫15件,突き指7件であった.女子は靭帯損傷7件,捻挫5件であった.応急処置依頼は9件で,うち2件(全て女子)は膝関節靭帯損傷の疑いにて,医療機関への受診につなげた.<BR>対応内容は,テーピング34件,ストレッチング4件,止血処置3件,アイシング3件であった.<BR>【考察】<BR>初めての試みだったが,依頼件数は大会毎に増えていることから,選手や指導者の潜在的なニーズは存在し,今後も増加することが考えられた.<BR>対応部位は下肢関節に多く,ジャンプやカッティング動作の多い競技特性を示した結果となった.対応内容は足関節捻挫に対する,再発予防や症状軽減目的の依頼が大半を占め,不安感や疼痛を抱えている選手が多いことが感じられた.今後のサポートでは,単にテーピング等の技術提供にとどまらず,エクササイズやケアの方法等を積極的に指導することも必要と考えられた.また女子においては,膝関節への対応が多く,靭帯損傷を疑う傷害も高頻度で発生しており,発生予防策の検討も今後の課題と考える.
著者
芹澤 志保 中澤 理恵 白倉 賢二 大沢 敏久 高岸 憲二 山路 雄彦 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.483, 2003

【目的】我々は、群馬県高校野球連盟(県高野連)からの依頼により第84回全国高校野球選手権群馬県大会においてメディカルサポートを行った。以前より高校野球全国大会ではメディカルサポートによる傷害予防がなされているが、本県では今回が初の取り組みとなった。本研究の目的は、メディカルサポートの内容を紹介すると共に今後の課題を検討することである。【対象及び方法】対象は、第84回高校野球選手権群馬県大会4回戦(ベスト16)以降に出場した延べ32チームとした。メディカルサポートを行うため、群馬県スポーツリハビリテーション研究会を通じ、本県内の理学療法士にボランティア参加を募った。県高野連から依頼のあったメディカルサポートの内容は、投手及び野手別のクーリングダウン(ストレッチング)指導であり、これら指導内容を統一するため事前に3回の講習会を行った。また、高校野球における投手では連投となることが多いため、投球イニング、肩および肘関節の痛みの有無、疲労感等に関するチェック表を作成した。準決勝・決勝戦を除き試合会場は2球場であり、各球場に理学療法士は投手担当2名、野手担当4名以上、医師は1名以上が常駐するよう配置した。【結果及び考察】メディカルサポート参加者は、理学療法士延べ64名(実数40名)、医師9名(実数5名)であった。その内訳は、投手担当が延べ19名、野手担当が延べ46名であった。メディカルサポート内容は、クーリングダウン、試合前および試合中のアクシデントに対するテーピング、熱中症対策であった。準々決勝の1チームと決勝の1チームを除く30チームに対してクーリングダウンを行った。投手は延べ37名であった。投手の肩および肘の痛みについては、肩外転位での外旋で痛みを訴えたもの0名(0%)、水平内転で痛みを訴えたもの1名(2.7%)、肘に痛みを訴えたもの11名(29.7%)であり、肘痛が最も多かった。また、テーピングは延べ13名(実数6名)に実施し、その全員が野手であった。さらに、熱中症に対する応急処置として理学療法士・医師が相当数救護にあたり、過呼吸に対する応急処置の依頼もあった。これらクーリングダウン以外のサポートは、当初県高校野球連盟より依頼されていなかったものであるが、現場では外傷・熱中症などの応急処置は必要不可欠であったためすべてに対応した。今後の課題として、メディカルサポートの内容について県高野連と調整すると共にテーピングを含めた応急処置に関する技術の確認などの必要性が示唆された。
著者
本間 佑介 宇賀 大祐 菅谷 智明 阿部 洋太 遠藤 康裕 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1033, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】日本臨床スポーツ医学会は,1995年に少年野球による重篤な障害を防止する為の提言を行っている。少年野球において,選手自身の投球数や練習時間等の自己管理を徹底するのは困難であり,チームの監督・コーチや保護者に委ねる部分が多いと考える。本研究の目的は,少年野球チームの指導者に対し,投球障害予防に関連するアンケート調査を実施することで,指導者の障害予防に対する認識を明らかとすることである。【方法】2014年6月にT市の野球連盟学童部に所属した48チームの監督48名,コーチ89名の計137名に対し,集合調査法にてアンケート調査を実施した。アンケート内容は年齢,指導年数,少年野球指導者講習会参加の有無,予防教室の参加回数,野球経験の有無と経験年数,部員数,指導者数,1週間の練習日数・練習時間,投手数,1日の投球数,一人の投手が投げる連続試合数,年間試合数,ウォーミングアップ・クールダウンの実施状況・必要性,臨床スポーツ医学会による練習日数と練習時間の制限および投球制限についての認識,練習日数と練習時間の制限の必要性,投球障害予防教室の必要性,指導者の医学的知識の必要性とした。【結果】全回答者数131名(回収率95.6%)中,有効回答者数は101名(回収率77.1%)であった。内訳は監督30名,コーチ71名であった。対象者の平均年齢は41.3±5.6年指導年数は4.2±3.6年であった。部員数は,「15名以下」が36名(36%),「16名~30名以下」が65名(64%)であった。投手数は「3人」という回答が最も多く43名(42%)で,「1人」という回答は1名(1%)であった。92名(92%)の指導者に野球経験があり,そのうち高校野球経験者が64名(70%)であった。ウォーミングアップの実施率は101名(100%)で実施時間は30.1±12.3分であった。クールダウンの実施率は101名(99%)で実施時間は13.8±5.7分であった。1週間の練習日数は3.9±0.6日であった。練習時間は,平日2.3±0.8時間,休日6.2±1.4時間であった。練習日数と練習時間の制限の提言について,48名(48%)が知らなかったと回答した。練習日数と練習時間の制限の必要性は,7名(7%)が「必ず必要だと思う」,61名(60%)が「必要だと思う」,32名(32%)が「あまり必要ないと思う」,1名(1%)が「全く必要ないと思う」と回答した。投球数は,全体の60%が「51~100球」であった。投球制限の提言について94名(93%)が「知っている」と回答した。投球制限の必要性について,48名(48%)が「必ず必要だと思う」,51名(50%)が「必要だと思う」,2名(2%)が「あまり必要ないと思う」と回答した。指導者の医学的知識の必要性は,14名(14%)が「必ず必要だと思う」,83名(82%)が「必要だと思う」と回答した。【考察】船越ら(2001)は,小学生の1週間の練習日数の平均は4.6日であり,提言で推奨する1日の投球数50球未満を守っているのは20%程度と報告している。本研究において,1週間の練習日数は3.9±0.6日で,提言で推奨する週3日以内を上回る結果となった。練習時間は,平日2.3±0.8時間,休日6.2±1.4時間で,提言で推奨する1日2時間以内を上回る結果となった。現在,1日の練習時間や練習日数の管理は各チームに委ねているのが現状である。今回の結果を踏まえ,傷害予防の観点から1日の練習時間や練習日数について,野球連盟スタッフ主導のもと指導者が適切に管理する体制を構築し,指導者に啓発していく必要があると考える。投球制限の提言について94名(93%)が「知っている」と回答し,投球制限の必要性については殆どが必要性を感じていた。背景には,T市野球連盟学童部が大会にもよるが,投球制限やイニング制限を設けている為このような結果になったと考える。一方で,投球数について,61名(60%)が「51~100球」と規定数を超える傾向にあり,認識と実際の指導に乖離が認められた。具体的な投球内容等について詳細な聞き取り,分析が必要と考える。投球数については船越らの報告と同程度の結果であった。指導者の医学的知識の必要性について,9割以上の指導者が必要と回答している。指導者の多くは選手の父親であり,指導年数は4.2±3.6年であることから,一定期間で指導者が入れ替わることが予想される。以上より,指導者ライセンス制度の導入やメディカルスタッフとして理学療法士の介入の必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】少年野球指導者の投球障害に対する認識を把握し,理学療法士として障害予防の観点から指導者の投球障害に対する認識向上を図ることで,学童期の少年少女の健康・安全の一助となる。
著者
岡元 翔吾 齊藤 竜太 遠藤 康裕 阿部 洋太 菅谷 知明 宇賀 大祐 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1237, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】投球障害後のリハビリテーションでは,病態の中心である肩甲上腕関節への負担を最小限に抑えることが不可欠であり,肩甲胸郭関節や胸椎の動きを十分に引き出し良い投球フォームを獲得する練習として,シャドーピッチング(以下,シャドー)が頻用される。しかし,硬式球を用いた投球(以下,通常投球)時の肩甲胸郭関節と胸椎の角度については過去に報告されているが,シャドーに関しては明らかにされていない。本研究では,シャドー時の肩関節最大外旋位における肩甲上腕関節,肩甲骨および胸椎の角度を明らかにし,運動学的観点より通常投球との相違を検証することを目的とした。【方法】対象は投手経験のある健常男性13名(年齢24.9±4.8歳,身長173.9±4.3cm,体重72.1±7.3kg,投手経験11.2±5.2年)とした。測定条件は通常投球とタオルを用いたシャドーの2条件とし,いずれも全力動作とした。動作解析には三次元動作解析装置(VICON Motion Systems社製,VICON 612)を使用し,サンプリング周波数は250Hzとした。反射マーカーはC7,Th7,Th8,L1,胸骨上切痕,剣状突起に貼付した。また,投球側の肩峰,上腕遠位端背側面,前腕遠位端背側面に桧工作材を貼付し,その両端にも反射マーカーを貼付した。得られた三次元座標値から肩関節最大外旋位(以下,MER)時の肩関節外旋角度(肩全体の外旋角度),肩甲上腕関節外旋角度,肩甲骨後傾角度,胸椎伸展角度を算出した。また,非投球側足部接地(FP)~MERまでの時間と各関節の角度変化量を算出した。尚,各条件とも2回の動作の平均値を代表値とした。統計学的解析にはIBM SPSS Statistics ver. 22.0を使用し,対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした。【結果】肩関節最大外旋角度は,通常投球145.4±14.2°,シャドー136.4±16.8°と有意にシャドーが小さかった(p<0.01)。その際の肩甲上腕関節外旋角度は,通常投球98.4±16.7°,シャドー91.8±13.1°と有意にシャドーが小さかった(p<0.01)が,肩甲骨後傾角度と胸椎伸展角度は有意差を認めなかった。FP~MERの時間は,通常投球0.152±0.030秒,シャドー0.167±0.040秒と有意にシャドーが長かった(p<0.05)が,角度変化量は有意差を認めなかった。【結論】シャドーは通常投球に比して,MER時の肩甲骨後傾角度や胸椎伸展角度に差はないが,肩甲上腕関節外旋角度が小さくなったことから,関節窩-上腕骨頭間での回旋ストレスが軽減する可能性が示唆された。また通常投球では,重量のあるボールを使用する上,短時間に同程度の肩甲上腕関節での外旋運動を求められるため,上腕骨回旋ストレスが大きくなる可能性が考えられる。投球障害後のリハビリテーションにおいて,シャドーは肩甲胸郭関節や胸椎の動きが確保され障害部位への負担が少ない動作となることから,ボールを使った投球動作へ移行する前段階での練習方法として有用であると考える。
著者
浅川 大地 河内 淳介 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101999, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】足関節は可動性が高く動的バランスに大きく関与しており,投球動作での片脚立位時のアライメントにも関与していると考えられる.そのため足関節捻挫などによる足関節背屈制限が投球動作時のアライメントに影響し,肩・肘などの投球障害に結びついているのではないかと考えた.そこで本研究の目的は,足関節背屈制限によるアライメントの変化が投球動作時の上肢関節へ及ぼす影響について検討することとした.【方法】対象は健常成人男性8名(右投げ5名・左投げ3名,年齢19.9±2.0歳,身長178.8±6.3cm,体重68.8±5.4kg)とし,野球経験6年以上で投球障害がなく,足関節傷害の既往のないものとした.投球開始肢位をセットポジションとし,通常投球と軸足の足関節背屈可動域を制限した投球(以下,制限投球)の2条件の試技を行った.足関節背屈制限角度は膝伸展位で10°とし,非伸縮性テーピングによって固定した。尚,投球前後での足関節背屈制限角度に有意差は認められなかった.投球距離はマウンドから本塁間(18.4m)とし,側方・後方から2台の高速度カメラ(SportsCamTM,FASTEC IMAGING社製)をサンプリング周期250Hzで同期させ,各条件3回の試技を撮影した.また,反射マーカーを両肩峰,投球側肘頭,投球側手関節背側中央に貼付し,得られた画像から反射マーカー部位の3次元座標(DLT法)を算出した.各部位の3次元座標から球速,足部接地(FP)時及びボールリリース(BR)時の肩水平外転角度,肩外転角度,肘屈曲角度を求めた.統計学的分析は表計算ソフト(Excel,Microsoft社)上で,2条件間の比較において対応のあるt検定を行い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の目的,危険性について口頭及び書面にて十分に説明し同意を得た.【結果】球速およびFP時の各関節角度において,2条件間に有意差は認められなかった. BR時では制限投球の肩外転角度は72.2±4.8°であり,通常投球時(73.6±6.2°)と比較して有意に減少していた(p<0.05).また,BR時の肩水平外転角度は3.36±2.5°,肘屈曲角度は69.5±17.3°であり,通常投球時の肩水平外転角度(1.85±2.2°),肘屈曲角度(62.5±20.7°)と比較して有意に増加していた(p<0.05).【考察】制限投球は通常投球に比べて肩外転角度が有意に減少し,肩水平外転角度・肘屈曲角度が有意に増加した。このことから,制限投球では投球動作時の肩・肘へのストレスが増加していると考える.投球動作時に体幹・骨盤が後傾する選手は,上半身・上肢・肩甲帯が動員されバランスをとろうとし,体幹の回旋不足が起こる可能性があり,その補正のため肩が過度に水平外転をとるとされている.本調査の制限投球においては,ワインドアップ時に足関節の背屈が制限されたため後方重心となり,体幹の回旋不足が生じ,BR時の肩の水平外転角度が有意に増加したと考える。BR時に肩が水平外転位にあると肩に加わる前方負荷が増大するとされているため,制限投球では肩関節へのストレスが増大すると推察する.また,先行研究においてBR時の肩水平外転角度の増加,肩外転角度の減少は,ゼロポジションと比べて肩関節にかかる負荷が有意に大きいとされており,今回も同様の結果となった.このことから,制限投球でのBRは肩関節へのストレスを増加させていると考える.また,投球動作の加速期における上腕の加速運動は肩関節内旋運動と肘関節伸展運動が中心に担っており,この2つの運動のどちらか一方が強調されることなく投球動作を行う必要がある。しかし,制限投球では肘屈曲角度の増加も認められたことから,肩内旋運動が強調されていた可能性が考えられ,肘関節への外反ストレスも増大する可能性が推察される.投球における運動連鎖は,下肢・体幹・上肢へと全身の各関節が効率良く連動することが必要であり,運動連鎖の破綻は肩や肘の外傷発生やパフォーマンスの低下につながる.制限投球条件でのBR時の各関節角度には有意な差が認められており,運動連鎖の破綻があったと考えられる.しかし,球速について有意な差は認められなかったため,パフォーマンスは低下していなかったと考える.パフォーマンスを維持するために,上肢に大きなストレスをかけているか,骨盤・体幹などに何らかの代償が起きていたと推察する.【理学療法学研究としての意義】投球動作において後期コッキング期から加速期にかけて肩や肘に痛みを生じやすいが,この位相での動作修正は容易でない.そのため,それ以前の位相からの影響について検討することで投球障害のリスクを減少することが可能と考える.その一要因として足関節が投球動作に与える影響についても考慮することも必要であると考える.