著者
菅 浩伸 木村 颯 堀 信行 浦田 健作 市原 季彦 鈴木 淳 藤田 喜久 中島 洋典 片桐 千亜紀 中西 裕見子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.114, 2020 (Released:2020-03-30)

1. はじめに 「海底では陸上のように風化侵食が進まないため,地形はその形成過程をそのまま反映していることが多い」(『海洋底科学の基礎』 共立出版 p.10)。しかし遠洋深海域と異なり、沿岸浅海域では波浪や流れにともなう海底砂州の変化や海底の侵食が発生する。日本の海底地形研究は1950年代以降に格段に進歩した。地理学者であった茂木昭夫は広く日本沿岸や北西太平洋の海底地形研究を行い、浅海域における現在の侵食・堆積作用についても多くの記述を残している1)。また、豊島吉則は波食棚や海食洞・波食台について、素潜りの潜水調査によって詳しい記載を残した2)。しかし1980年代以降、日本および世界の海洋研究は遠洋深海を舞台にした調査と資源探査に力が注がれていき、浅海底の地形研究は中断期を迎える。40年の時を経た今、浅海底の地形・地理学研究を再び前へ進める一歩を踏み出したい。2.研究方法 琉球列島・与那国島において、2017年12月に南岸域、2018年7月に北岸域を対象として、ワイドバンドマルチビーム測深機(R2 Sonic 2022)を用いた測深調査を行い、島の全周にわたる海底地形測量を行った。また、2013年および2016年以降にSCUBAを用いた潜水調査を行い、海底地形や堆積物などの観察を行った。2. 与那国島の海底地形 与那国島では主に北西−南東、北東−南西、東−西の3方向で正断層が発達しており、北側の地塊がそれぞれ南へ傾動しながら沈む傾向にある3)。海底地形にも北西−南東、北東−南西、東−西の3方向で大小多くの崖や溝地形が認められる。 与那国島西端の西崎および東海岸(東崎〜新川鼻)は中新統八重山層群の砂岩泥岩互層が海岸を構成する。これらの海岸の沖では頂部が平坦で側面が崖や溝で区切られた台状の地形が多く認められる。また、海底では現成の侵食作用が顕著に認められる。水中にて、岩盤の剥離、削磨作用、円礫の生成などの侵食過程や、様々な形状・大きさのポットホールなどの侵食地形がみられた。観察した中で最大のポットホールは水深16mを底とし、径20m 深さ12mのもので、径2〜3mの円礫が十数個入る。南東岸では水深31mで径50cm〜1mの円礫が堆積し、新しい人工物上に径50cmの円礫が載る場面も観察された。海底の堆積物移動と削磨・侵食作用が深くまで及んでいることが推定できる。 南岸の石灰岩地域の沖でも海岸に接した水深10〜15mに現成の海食洞がみられる。また、水深26mにも海食洞様の地形が認められ、底部の円礫は時折移動し壁面を研磨しているようであることが付着物の状況から推定できる。 南岸ではこのような大規模な侵食地形(海底・海岸)とともに,サンゴ礁地形においても他島ではあまりみられない地形(リーフトンネル群や縁溝陸側端部のポットホールなど)があるなど,強波浪環境下でつくられる地形が顕著にみられる沿岸域といえよう。 北岸沖(中干瀬沖,ウマバナ沖)にも、水深20m以深の海底に崖地形が発達するなど、侵食地形がみられる。一方、北岸の沿岸域には比較的穏やかな海域でみられるタイプのサンゴ礁地形が発達する。島の北岸・南岸ともサンゴ礁域における造礁サンゴやソフトコーラル・有孔虫などの生育状況はきわめてよい。謝辞:本研究は科研費 基盤研究(S) 16H06309(H28〜R2年度, 代表者:菅 浩伸)および与那国町—九州大学浅海底フロンティア研究センター間の受託研究(H29〜31年度)の成果の一部です。引用文献: 1) 茂木昭夫 (1958) 地理学評論, 31(1), 15-23.など 2) 豊島吉則 (1965) 鳥取大学学芸学部研究報告, 16, 1-14.など 3) Kuramoto, S., Konishi, K. (1989) Techtonophysics, 163, 75-91.
著者
下山 正一 木下 裕子 宮原 百々 田中 ゆか里 市原 季彦 竹村 恵二
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.105, no.5, pp.311-331, 1999-05-15 (Released:2008-04-11)
参考文献数
57
被引用文献数
7 9

従来の第四紀地殻運動論では, 九州のほぼ全域を隆起地域と解釈してきた.最近, 九州北部各地に沈降域があることが明らかになったので, 堆積相・貝化石群集・生痕化石などの古水深指標と広域テフラに基づいて九州各地の最終間氷期最高海面期(ステージ5e)の旧汀線高度を比較し, 過去約12.5万年間の九州の地殻運動を見直す作業を行った.その結果, 過去12.5万年間の動きは別府~島原地溝帯を境に, 九州北部は全て沈降地域である.また, 九州南西部にも沈降地域があることが判明した.特に佐伯から川内にかけて九州を北東-南西に横切る1本の顕著な沈降軸(佐伯~川内沈降軸)が存在する.九州南東部は顕著な隆起地域であることを再確認した.沈降地域や隆起地域の隣接分布は, 現在の九州の海岸地形と極めて調和的である.中期から後期更新世にかけて地殻運動が逆転したと考えられる地域が存在する.これは九州の複雑な地殻運動史を示している.