著者
三納 正美 大原 圭太郎 山舩 晃太郎 市川 泰雅 木村 颯 片桐 昌弥 橘田 隆史 西尾 友之 大原 歳之 菅 浩伸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2023年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.248, 2023 (Released:2023-04-06)

1. はじめに 島根半島の東端に位置する地蔵埼から北東に30㎞以上離れた海域に、日本海軍の駆逐艦「蕨(わらび)」が沈んでいる.1927年の夜間演習中,軽巡洋艦「神通」と駆逐艦「蕨」,軽巡洋艦「那珂」と駆逐艦「葦」がそれぞれ衝突し,「蕨」は沈没,「葦」は大破(艦尾沈没)し,殉職者119名にも及ぶ大事故となり,美保関事件として後世に伝えられている.事故直後から掃海作業や救助作業は行われたが,沈没した正確な位置は不明であり,これまで詳細な調査は実施されていないことから,蕨の沈没位置を特定し,船体の状況を確認するため,本調査を行った.2. 探査方法と結果 既存資料を整理すると4箇所の沈没候補地が挙げられ,その位置も広範囲に分布していたことから,緯度経度情報があり「軍艦」「ワラビ」と呼ばれている漁礁地点を魚群探知機で調査し,反応があった地点周辺を2020年5月にマルチビーム測深機(SeabatT50-P)で詳細に探査した.その結果,漁礁「軍艦」は全長約54m,全高5.4m,最大幅8.3mの巨大な塊であることが判明した.マルチビーム測深で正確な地点,水深,形状等を把握できたため、本調査プロジェクトチームが開発した水中3Dスキャンロボット(天叢雲剣MURAKUMO)を投入し,2020年9月に水深約90mの海底に沈没した船体を確認することに成功した.この結果,船体前部のみであること,発見した水深は約90mであるが,事故直後に調査された時の水深値と島根県の水産試験船が発見した物体の水深値は約180mであったことから,残りの船体は別の場所に沈没している可能性が出てきた.そこで,2021年7月に「軍艦場」と呼ばれている地点を中心に約2.5㎞四方の海域をマルチビーム測深機(SeabatT50-P)で探査し,これまで1つだと認識されていた地形の高まりがいくつかあることがわかった.マルチビームで得られた詳細海底地図を用いて,改良した天叢雲剣MURAKUMOで探査した結果,水深180mを超える海底に沈む駆逐艦蕨後部を発見,撮影することに成功した.3. 考察 天叢雲剣MURAKUMOで取得した画像データを用いてフォトグラメトリによる3Dモデルを作成し,画像データと合わせて検証した結果,船体のサイズや船首形状が蕨に近似し,砲塔のような筒状の構造物,舷窓等が確認できたことから,蕨である可能性が高いと判断した.4. まとめ 蕨前部と後部は約15㎞も離れているが,既往資料や現地状況から,衝突現場は蕨船体後部が沈没している場所であり,船体前部は浮遊後現在の地点に沈没したと考えられる.蕨後部周辺にはその他いくつか地形の高まりが確認されている。今後これらを探査することで,美保関事件をより詳細に解明できるものと考える.参考文献大原 歳之2020. 海の八甲田山「美保関沖事件」伯耆文化研究 第二十一号(2020)抜粋改訂版.謝辞本研究は2021-2025年度科研費 基盤研究(A)JP21H04379および2021-2024年度科研費 基盤研究(C)JP21K00991の成果の一部です。
著者
海部 陽介 篠田 謙一 河野 礼子 米田 穣 後藤 明 小野 林太郎 野林 厚志 菅 浩伸 久保田 好美 國府方 吾郎 井原 泰雄
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、旧石器時代の琉球列島に現れた人々がどのように海を渡ってきたかについて、その理論的枠組みを定めるため、文理問わず多彩な分野の研究者が情報を共有して、総合的モデルをつくることを目指した。彼らは草・竹・木のいずれかを素材とした漕ぎ舟に乗り、男女を含む少なくとも10人程度の集団で、黒潮の流れる海を、漂流ではなく意図的に航海してきたと考えられる。このモデルを、現在進行中で連動して行なっている実験航海に反映して、当時の航海を再現してみれば、そのチャレンジがどれだけ困難なものであったのかが見えてくるであろう。
著者
関 有沙 横山 祐典 鈴木 淳 川久保 友太 菅 浩伸 宮入 陽介 岡井 貴司 松崎 浩之 浪崎 直子
出版者
日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2012

完新世の短期的な気候変動のメカニズムを明らかにする上で、古気候復元データの不足は深刻な問題である。本研究では、完新世の寒冷化イベントの古気候データが不足している東シナ海に位置する沖縄県久米島の化石サンゴ骨格のSr/Ca比と放射性炭素年代の分析を行い、完新世中期の表層海水温の復元を行った。その結果、PME(Pulleniatina Minimum Event)と呼ばれる寒冷化イベントにおいて、夏と冬の水温低下幅が異なることが明らかになった。今後、本手法でPMEの際の表層海水温復元をより多くの年代で行うことによりPMEの古水温変動を時系列で復元し、寒冷化メカニズムの解明に寄与することが期待される。発表では、新たに採取した化石サンゴの放射性炭素年代測定の結果を示し、その年代分布から、今後の研究の展望についても紹介する。
著者
菅 浩伸 長尾 正之 片桐 千亜紀 吉崎 伸 中西 裕見子 小野 林太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

1.はじめに <br> 陸上の地形や遺跡では,従来の航空写真や大縮尺地形図を用いたマッピングに加えて,小型無人航空機(UAV)とSfM多視点ステレオ写真測量(SfM)ソフトウェアの発達によって,高精密な地図の作成や三次元モデル化が可能になってきた。また,衛星を用いた高精度測量(RTK測量など)も可能である。しかし,水中では衛星を用いた測位を直接用いることができない。水中遺跡では,あらかじめダイバーによって海底に格子状に基線を張った上で写真を撮影し,SfMソフトウェアを用いて三次元モデルを作成する例が報告されている。しかし,これらは一般には正確な地理座標をもたず,より大深度の地形や遺物ではダイバーによる基線の設置作業が難しくなることが難点である。<br> 我々は高解像度のマルチビーム測深によってきわめて高精度で地形を可視化し地形研究を行っている。しかし, SfMはより精緻な地形を構築することができ,テクスチャーも表現することが可能である。本研究では高解像度マルチビーム測深とSfMによる三次元モデル構築をあわせて,水中の微地形および文化遺産を高精度で可視化することを試みた。<br><br>&nbsp;2.調査方法と調査地域<br> 本研究では,水中で撮影した写真を基にSfMソフトウェアで構築した三次元モデルに,マルチビーム測深によって得られた座標を参照点として与え,地理座標を持った三次元モデルを作成した。<br> 第一の調査対象は,沖縄・古宇利島の北東海域の水深40mに沈む全長100mの米国軍艦エモンズ(USS Emmons)である。エモンズは第二次大戦末期の沖縄戦において、日本軍特攻機の攻撃によって航行不能となり沈められた。船体の近くには日本軍機の残骸も認められる。特攻によって攻撃され沈められた軍艦が,そのままの姿で海底に沈んでいる遺跡は,現在のところエモンズしか報告されていない。まず,マルチビーム測深を用いて船体周辺部及び周辺海域の地形を高精度で測量した。これとともに,SCUBA潜水にて全長約100mの船体を撮影した1716枚の高解像度写真(7360&times;4912ピクセル)を用いてSfMソフトPhotoScanを用いた三次元モデルを作成した。三次元モデルにはマルチビームデータを基に位置と深度の基準点(Ground Control Point)を与え,120 m &times; 30 m の範囲について約0.1mの高精密DEMデータを作成することに成功した。<br> 第二の調査対象は,沖縄・八重山諸島の嘉弥真島北方のサンゴ礁礁縁部の縁脚と周辺の縁溝地形(水深14~18m,約20m&times;30mのエリア)である。SCUBA潜水にて撮影した約1600枚の写真を用いて,同様の作業を行った。 <br><br>3.本研究の成果とその波及効果<br> 本研究では,世界ではじめてSfMにマルチビーム測深を組み合わせて三次元モデルを作成することに成功した。今後の海底地形研究や水中遺跡研究に応用可能である。<br> なお,本研究では激戦地の沈没戦艦の可視化に成功したが,これによって当事者の証言や戦争記録で構築されてきた戦艦の破損状況や特攻に関する歴史的事実について,物的証拠から検証することが可能となった。今後は戦艦の保存状況についての詳細なモニタリングや国際的な情報共有を行うことが可能となる。本研究の成果は水中文化遺産保護条約によって2045年前後に正式に文化遺産となる第二次世界大戦の水中戦争遺跡の保存・活用方法を検討する上でも,重要な事例を提供するであろう。
著者
佐野 亘 藤田 和彦 平林 頌子 横山 祐典 宮入 陽介 ローレン トス リチャード アロンソン 菅 浩伸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p><b>はじめに</b></p><p> サンゴ礁の海浜沖には海草帯と呼ばれる生物・地形分帯がある.海草帯は海草類の群落であり,底質は砂礫質の堆積物で構成され,低潮位でも干出しない汀線付近から水深4mを超える場所にも形成されることがある.また海草帯は魚類や底生生物の生息・産卵の場,ウミガメやジュゴンなどの海草を摂食する貴重な生物種を支える場であるとともに,沿岸浅海域における炭素循環に大きな役割を担っていることも報告されている(Unsworth et al., 2019;Fourqurean et al., 2012;Nellemann et al., 2009).このようなサンゴ礁における海草帯の役割が注目される一方,サンゴ礁に現成のような海草帯が具体的にいつから形成されていたのかという時間的な検証が行われた研究例は少ない.</p><p></p><p>研究対象地域の一つである久米島のサンゴ礁地形は約8300年前から発達し始め,約5700年前に礁嶺が海面に到達.さらに礁嶺の海面到達後,外洋と分断されたラグーンが未固結堆積物で埋積されるということが明らかになっている(Kan et al., 1991).しかし、これらの先行研究は主に固結した礁石灰岩コアを用いて礁嶺の形成過程に焦点が当てられものであり,海草帯に代表される未固結堆積物で構成された沿岸域に関しては,その地形発達プロセスに関する科学的知見が少ない状況である.</p><p></p><p>そこで本研究では現成海草帯において採取された未固結堆積物コア試料を用いてその堆積物と年代を検討するとともに,現成海草帯の現地調査を行い,海草帯の地形発達過程とそれに伴う海草帯の形成時期を明らかにした.</p><p><b>現地調査と分析手法</b></p><p> 本研究では,琉球列島久米島の東部と沖縄島の備瀬崎の2地域において採取した海草帯の未固結堆積物コア試料(最大掘削深度4.2 m)を用いた.コア採取地点の底質は枝サンゴ礫を多く含む砂泥質の堆積物であり,リュウキュウアマモ(<i>Cymodocea serrulata</i>),リュウキュウスガモ(<i>Thalassia hemprichii</i>),またウミジグサ(<i>Halodule uninervis</i>)や,ウミヒルモ(<i>Halophila ovalis</i>)などの海草類が卓越した場所である.またコア試料採取地点および周辺地域における現地調査を行い,<i>Amphisorus hemprichii</i>,<i>Calcarina calcarinoides</i>などの大型底生有孔虫が現生の海草葉上に生息していることを確認した.コア試料は九州大学にてサブサンプリングを行い,東京大学大気海洋研究所にてサンゴ礫や有孔虫化石の放射性炭素年代測定を行った.さらに堆積物中の大型底生有孔虫の群集解析を行い,現生有孔虫の生息分布との比較から海草帯の堆積環境の復元を行った.</p><p><b>海草帯の堆積過程と形成年代</b></p><p> 久米島東部の海草帯における現地調査では,現生の海草葉上に優占的に生息する大型底生有孔虫(<i>Calcarina calcarinoides</i>)を発見した.<i>Calcarina calcarinoides</i>は先行研究においても海草葉上において優占的に生息することが明らかにされている(藤田他, 1999)ことから,この有孔虫化石を海草帯形成の指標として堆積物中に含まれる有孔虫の群集解析を行った結果,3.9 Ka BP以降(水深3m以浅)に海草帯形成を指示する結果が得られた.また沖縄島備瀬崎においては現地調査と堆積物試料の分析の結果,大型底生有孔虫である<i>Amphisorus hemprichii</i>(通称;ゼニ石)が古海草帯指標となることが示唆された.</p><p></p><p><b>謝辞:</b>本研究はH28〜32年度科研費 基盤研究(S) 16H06309「浅海底地形学を基にした沿岸域の先進的学際研究 −三次元海底地形で開くパラダイム−」(代表者:菅 浩伸)の成果の一部です.</p><p></p><p><b>参考文献</b></p><p></p><p>Fourqurean et al. (2012). <i>Nature Geoscience</i>, Vol. 5, pp.505-509</p><p></p><p>藤田和彦 他 (1999). 化石, No. 66, pp.16-33</p><p></p><p>Kan et al. (1991). <i>Geographical Review of Japan</i>, 64, 2, 114-131</p><p></p><p>Nellemann et al. (2009). Blue carbon: the role of healthy oceans in binding carbon, pp.35-44</p><p></p><p>Unsworth et al. (2018b). <i>Conservation Letters</i>, Vol. 12. pp.1-8</p>
著者
菅 浩伸 木村 颯 堀 信行 浦田 健作 市原 季彦 鈴木 淳 藤田 喜久 中島 洋典 片桐 千亜紀 中西 裕見子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.114, 2020 (Released:2020-03-30)

1. はじめに 「海底では陸上のように風化侵食が進まないため,地形はその形成過程をそのまま反映していることが多い」(『海洋底科学の基礎』 共立出版 p.10)。しかし遠洋深海域と異なり、沿岸浅海域では波浪や流れにともなう海底砂州の変化や海底の侵食が発生する。日本の海底地形研究は1950年代以降に格段に進歩した。地理学者であった茂木昭夫は広く日本沿岸や北西太平洋の海底地形研究を行い、浅海域における現在の侵食・堆積作用についても多くの記述を残している1)。また、豊島吉則は波食棚や海食洞・波食台について、素潜りの潜水調査によって詳しい記載を残した2)。しかし1980年代以降、日本および世界の海洋研究は遠洋深海を舞台にした調査と資源探査に力が注がれていき、浅海底の地形研究は中断期を迎える。40年の時を経た今、浅海底の地形・地理学研究を再び前へ進める一歩を踏み出したい。2.研究方法 琉球列島・与那国島において、2017年12月に南岸域、2018年7月に北岸域を対象として、ワイドバンドマルチビーム測深機(R2 Sonic 2022)を用いた測深調査を行い、島の全周にわたる海底地形測量を行った。また、2013年および2016年以降にSCUBAを用いた潜水調査を行い、海底地形や堆積物などの観察を行った。2. 与那国島の海底地形 与那国島では主に北西−南東、北東−南西、東−西の3方向で正断層が発達しており、北側の地塊がそれぞれ南へ傾動しながら沈む傾向にある3)。海底地形にも北西−南東、北東−南西、東−西の3方向で大小多くの崖や溝地形が認められる。 与那国島西端の西崎および東海岸(東崎〜新川鼻)は中新統八重山層群の砂岩泥岩互層が海岸を構成する。これらの海岸の沖では頂部が平坦で側面が崖や溝で区切られた台状の地形が多く認められる。また、海底では現成の侵食作用が顕著に認められる。水中にて、岩盤の剥離、削磨作用、円礫の生成などの侵食過程や、様々な形状・大きさのポットホールなどの侵食地形がみられた。観察した中で最大のポットホールは水深16mを底とし、径20m 深さ12mのもので、径2〜3mの円礫が十数個入る。南東岸では水深31mで径50cm〜1mの円礫が堆積し、新しい人工物上に径50cmの円礫が載る場面も観察された。海底の堆積物移動と削磨・侵食作用が深くまで及んでいることが推定できる。 南岸の石灰岩地域の沖でも海岸に接した水深10〜15mに現成の海食洞がみられる。また、水深26mにも海食洞様の地形が認められ、底部の円礫は時折移動し壁面を研磨しているようであることが付着物の状況から推定できる。 南岸ではこのような大規模な侵食地形(海底・海岸)とともに,サンゴ礁地形においても他島ではあまりみられない地形(リーフトンネル群や縁溝陸側端部のポットホールなど)があるなど,強波浪環境下でつくられる地形が顕著にみられる沿岸域といえよう。 北岸沖(中干瀬沖,ウマバナ沖)にも、水深20m以深の海底に崖地形が発達するなど、侵食地形がみられる。一方、北岸の沿岸域には比較的穏やかな海域でみられるタイプのサンゴ礁地形が発達する。島の北岸・南岸ともサンゴ礁域における造礁サンゴやソフトコーラル・有孔虫などの生育状況はきわめてよい。謝辞:本研究は科研費 基盤研究(S) 16H06309(H28〜R2年度, 代表者:菅 浩伸)および与那国町—九州大学浅海底フロンティア研究センター間の受託研究(H29〜31年度)の成果の一部です。引用文献: 1) 茂木昭夫 (1958) 地理学評論, 31(1), 15-23.など 2) 豊島吉則 (1965) 鳥取大学学芸学部研究報告, 16, 1-14.など 3) Kuramoto, S., Konishi, K. (1989) Techtonophysics, 163, 75-91.
著者
菅 浩伸 高橋 達郎 木庭 元晴
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.114-131, 1991-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
37
被引用文献数
11 12

本研究の目的は,琉球列島・久米島西銘崎の完新世離水サンゴ礁で行った9本の掘削試料をもとに,完新世の各時相における礁原の形成過程の時空間関係を明らかにし,それに関わった地形形成環境を明らかにすることである。試料の解析は,礁の地形構成における掘削地点の水平的な位置関係と掘削試料の放射性炭素年代とその試料の垂直的な位置関係にとくに留意して行い,次のような結果を得た。 7500-2000年前の期間における相対的海水準変化は,海面上昇速度から以下の3っの時相に区分される。 1. 約7500-6500年前:約10m/1000年と急速な海水準の上昇期 2. 6500-5000年前: 3m/1000年以下の海水準の上昇期 3. 5000-2000年前:海面安定期現礁原にあたる部分の礁地形の形成過程は, 3つの形成段階に分けられる。 1. 初期成長期:礁形成の開始は約7500年前である。初期成長段階における礁形成は,完新世サンゴ礁の基盤地形における波の進入方向と斜面の方向との関係と,水深の違いを反映した成長構造の差異が認められる。 2. 礁嶺成長期: 6500-6000年前の海水準面の上昇速度の低下に対応して原地性卓状サンゴによる活発な造礁活動が認められ,礁嶺が海面に達する。この段階において礁嶺頂部がもっとも速く海面に達したのは,前段階までに形成された礁地形の深度が浅く,波の影響を強く受ける位置にあった部分である。 3. 礁原形成期:海面上昇速度の低下とそれに続く海面安定期に対応して,約6000年前に礁原の形成が始まる。まず,礁嶺中央部が海面に達し,続いて礁嶺の外洋側と礁湖側が海面に達して礁原が形成される。礁湖側の上方成長速度にっいては礁嶺中央部の上方成長が遅く,かっ水平的な連続性が悪いところほど速い。 完新世サンゴ礁形成に関わる諸要因については,主に海面上昇速度と波の進入方向がサンゴ礁形成過程に作用している。サンゴ礁形成の結果つくられた地形は,次の礁形成に作用する要因となっている。
著者
菅 浩伸 浦田 健作 長尾 正之 堀 信行 大橋 倫也 中島 洋典 後藤 和久 横山 祐典 鈴木 淳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

海底地形図や空中写真から沈水カルストの存在は指摘されていた。しかし,多くは陸上の露出部によって沈水カルストであると認識されており,海底の地形図は提示されていない。浅海域の地形を具体的に可視化することは難しく,地形の広がりについて議論されることは世界的にもなかった。本研究では石垣島名蔵湾中央部の1.85km&times;2.7kmの範囲でワイドバンドマルチビーム測深機R2 Sonic 2022を用いた三次元地形測量を行い,沈水カルスト地形を見いだした。本発表では測深によって作成した1mメッシュの詳細地形図を基に,潜水調査結果などをあわせて,大規模かつ多様な形態をもつ名蔵湾の沈水カルストについて報告する。<BR><br> 測深域では多数の閉じた等高線をもつ地形が可視化された。類似の地形はサンゴ礁地形など海面下で形成される地形になく,スケールもサンゴ礁の微地形より大きい。このため閉じた集水域より,地下水系によってつくられた地形,すなわちカルスト地形と判断できる。ここでは以下の5つのカルスト地形が認められ,これらがブロックごとに異なったカルスト発達過程を反映しているようである。 1) ドリーネカルスト,2) 複合ドリーネおよびメガドリーネ,3) コックピットカルスト,4) ポリゴナルカルスト,5) 河川カルストである。名蔵湾ではこれらのカルスト地形が現成の礁性堆積物によって覆われ,海底の被覆カルストを形成する。この過程で「カレン」のような規模の小さなカルスト地形は埋積されたとみられる。礁性堆積物の被覆により,水中の露頭で母岩を観察するには至っていない。名蔵湾でみられるような比高30mに達する凹凸の大きいカルスト地形は一般に透水性が低い石灰岩の弱線に沿って発達する。琉球石灰岩は透水性が高く,このようなカルスト地形を形成しにくい。名蔵湾の地形が頂部および旧谷底部に定高性をもつことから,母岩は陸棚で発達した第三紀宮良石灰岩ではないかと推定される。<BR><br> 本研究では名蔵湾の中央部で沈水カルスト地形が確認された。空中写真で視認できる沿岸域の地形とあわせて,名蔵湾のほぼ全域が沈水カルスト地形の可能性が高いといえる。名蔵湾は南北6km,東西5kmの広がりをもつ。この範囲は南大東島や平尾台とほぼ同じ大きさであり,日本最大の沈水カルスト地形の存在が示唆できる。