- 著者
-
市川 銀一郎
- 出版者
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
- 雑誌
- 日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
- 巻号頁・発行日
- vol.75, no.1, pp.65-84, 1972-01-20 (Released:2010-10-22)
- 参考文献数
- 34
骨導音を頭蓋半球の或る部位に与えると, その音を反対側の耳で知覚することがある.この現象を骨導における交叉感覚といい, 1864年にLucaeにより始めて明らかにされた現象である. この交叉感覚について, 臨床的に正常聴力を有する症例, また, 一側性, あるいは両側性に伝音障害のある症例等につき, いかなる状態にあるかを検討した. さらに, 動物実験的に, 蝸牛電位を指標としてこの現象を客観的にとらえてみた.方法: まづ臨床的に, 被検者67名について, 各頭蓋半球を一定の基線のもとに, 各々54に区分し, 各々の部位に250Hz, 800Hz共域値上10dB, 20dB, 時に30dBの骨導音を与え, その音を左右いずれの耳にて知覚するかを調べ, 交叉感覚を示す頭蓋骨上の部位を検討した.また, 動物実験においては, 成熟描を用い, 正円窓窩より, 一側性または両側性に蝸牛電位を導出しつつ, 頭蓋骨上の各部位に与えた骨導音刺激に対する蝸牛電位の変化を観察記録した.結果: 臨床的には, 両側聴力正常者では, 左右半球いずれにも交叉感覚を有する部位が一定の範囲に認められること, 個人差がかなり有ること. また, 左右半球にて必ずしも対称的でないこと, 周波数により交叉感覚を有する部位が異ること, などを認めた. 次に, 一側または両側の伝音障害が認められる症例にては, 原則として聴力良好なる半球ではほとんどの部位で交叉感覚が認められるのに対し, 聴力の悪い半球では交叉感覚を有する部位はあまり認められなかった.動物実験では, 両側伝音器が正常な場合, 両側耳介後上部に蝸牛電位上の交叉現象陽性部位が認められた. また, 鼓膜, 耳小骨を順次破壊することにより伝音器障害を起させると, 伝音器の正常側から障害側えの交叉が, より大きな電位差として現われ, 障害側から正常側えの交叉は認められなくなった.