- 著者
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中出 捨次郎
- 出版者
- The Society of Practical Otolaryngology
- 雑誌
- 耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, no.2, pp.347-370_1, 1927
1. 口蓋扁桃腺ニ於ケル格子状纖維ハ胎生第三ヶ月初期ニ於テ既ニ發生シ, 規則正シキ網羅状ヲナシテ實質中平等ニ存在シ, 實質組織ヲ多數ノ小部分ニ分チ, ソノ各部ニハ一個若クハ數個ノ細胞ヲ容ル.<br>該纖維網眼ハ更ニ之ヨリ分岐シテ樹枝状又ハ不規則ナル網状ヲナセル甚ダ纖細ナル多數ル細纖維ニヨリテ充タサレ, 此等細纖維ハ前述ノ細胞間ニモ入リ, 之等ヲ纒絡スルモノノ如シ.<br>2. 口蓋扁桃腺ノ格子状纖維ハ胎生第三ヶ月初期ニ於テ既ニ主副纖維ノ別明瞭ナリ. 即, 該時期ニ於テハ主纖維ハ多數細纖維ノ集リテ成レルコト恰モ絹絲ノ多數細纖維ヨリ成ルニ酷似シ, 其後次第ニ成育スルニ從ヒ該細纖維ノ一部ハ尚依然之ヲ認メ得ルモ一部ハ融合シテ太キ一本ノ纖維トナリ胎生第六ヶ月ニ至レバ此ノ融合セル纖維部ハ甚ダ強靱トナル.<br>3. 胎生時ニ於ケル格子状纖維ハ胎生初期ニ於テハ尚甚ダ纖細ナリト雖モ網羅状ニ黒染シ, 成人ニ於ケルモノト全ク同一ナリ.<br>4. 格子状纖維ハ膠基纖維ト明ニ區別ス可キモノニシテ胎生期ニ於ケル口蓋扁桃腺ニ於テハ前者ノ後者ニ變性移行スルヲ認メズ.<br>5. 口蓋扁桃腺ニ於ケル格子状纖維ハ胎生第三ヶ月末期以後ニ於テ濾胞ニ一致シテ圓形, 紡〓形若クハ不整形ニ全ク缺如スルカ, 或ハ著シク乏少ニシテ僅ニ斷片状ニ存在スルニ過ギズ. 而テ該格子状纖維缺如部 (即, 濾胞) ハ胎生初期 (第三・四ヶ月) ニ於テハ紡〓形若クハ不整形ヲ呈スルモ, 漸次發育スルト共ニ類圓形ヲ呈シ, 第六ヶ月ニ至レバ生後ニ於ケルモノト大差ナキニ至ル.<br>6. 胎生第三ヶ月ニ於テ扁桃腺上皮組織下ニ之ニ沿ヒテ稍太キ格子状纖維ノ走行スルヲ認ムルモ扁桃腺被嚢内ニハ全ク之ヲ認メズ. 其後扁桃腺ノ發育ト共ニ該纖維モ亦, 發育増殖スト雖モ, 被嚢内ニハ特ニ強靱ナル該纖維ヲ認ムル事ナシ. 即, 格子状纖維ハ被嚢ノ形成ニ關與スル事少シ.<br>7. 彈力纖維ハ胎生第三ヶ月ニ於テ既ニ扁桃腺上皮組織下ニ, 第四ヶ月ニ於テ皮嚢内ニ, 實質ヲ包ミテ走行スルヲ認メ, 其後次第ニ發育スルモ, 第六ヶ月ニ至レバ甚ダ著明ナル發育ヲ遂ゲ強靭ナル該纖維ハ屈曲蛇行シテ扁桃腺組織ヲ包ムニ至ル.<br>8. 扁桃腺實質内ニ於テハ彈力纖維ハ甚ダ纖細ナレ共, 胎生第三ヶ月ニ於テ血管壁ノ外, 上皮組織ニ接近セル極メテ小部分ニ略, 之ニ並行シテ線状ニ走行シ, 第四ヶ月ニ於テハ被嚢ニ近キ部ニ於テモ同樣, 該纖維ヲ認メ,上皮組織ニ近キ部ニ於ケルモノハ互ニ吻合ヲ作リテ網状ヲナシ, 稍之ニ遠ザカリテ扁桃腺深部ニ入レノバ未ダ吻合ヲ作ルニ至ラズシテ線状ヲナシテ存ス. 第六ヶ月ニ至レバ該纖維ハ實質中平等ニ網状ヲナシテ存在スルニ至リソノ走行ハ上皮組織並ニ被嚢ニ近キ部ニ於テハ略, 之ニ並行シテ走行シ, 互ニ吻合ヲ作リテ網状ヲ呈シ, 稍, 之ヲ遠ザカリテ扁桃腺深部ニ入レバカクノ如ク一定セズシテ不規則ニ網羅状ヲナス. 其後益々發育スト雖, 扁桃腺被嚢或ハ周圍組織ニ於ケルモノニ比シ一般ニ甚ダ纖細ナリ.<br>9. 彈力纖維ハ腺窩ニ近接セル扁桃腺實質部ニ於テハ, 腺窩ヲ色ミテ之ト略並行ニ輪状ニ走行セル太キ纖維ト, 上皮組織ト略, 垂直ニ放線状ニ走行セルモノト及ビ腺窩上皮組織ニ並行ニ縦走セルモノトル略三種ヨリ成リ, 互ニ吻合シテ網羅状ヲナシ, 籠状ニ腺窩ヲ包ム.<br>10. 口蓋扁桃腺ニ於テハ彈力纖維ハ濾胞ニ一致セル部ニ略圓形ヲナシテ全ク缺如スルカ, 或ハ著シク乏少ナリ.<br>11. 膠基纖維ハ胎生第三ヶ月ニ於テ扁桃腺被嚢部並ニ上皮組織下ニ之ニ沿ヒ纖細ナル纖維トシテ走行シ, 其後次第ニ發育スト雖, 扁桃腺被嚢部ニ於ケルモノ特ニ著明ニシテ, 胎生第六ヶ月ニ至レバ強靱ナル該纖維ハ屈曲蛇行シテ扁桃腺實質ヲ包ム. 上皮組織下ニ於ケルモノハ胎生第十ヶ月ニ至レバ再ビ甚ダ纖細トナル.<br>12. 膠基纖維ハ扁桃腺實質中ニ於テハ胎生第三ヶ月, 第四ヶ月ニ於テ極メテ纖細且, 淡染セルモノ線状或ハ粗鬆ナル網状ヲナシテ細胞間ニ少量存シ, 第六ヶ月以後ニ於テハヨク發育シテ濃染シ, 全實質中ニ分布ス. 然レドモ濾胞ニ於テハ之ヲ缺如スルカ, 或ハ甚ダ乏少ナリ.<br>13. 胎生期ニ於テハ扁桃腺被嚢ハ主トシテ膠基纖維並ニ彈力纖維ヨリ成リ, 格子状纖維ハ之ニ與ル事少シ. 然ルニ扁桃腺實質組織内ニ於テハ間質組織ハ主トシテ格子状纖維ヨリ成リ, 膠基纖維, 彈力纖維亦存在スト雖, 彼ニ比スレバ甚ダ纖細ニシテ間質組織トシテハ前者ニ比シ意義少シ.<br>14. 胎兒口蓋扁桃腺ニ於テハ扁桃腺實質部タルト被嚢部タルトヲ問ハズ一般ニ格子状纖維ハ胎生初期 (第三ヶ月) ニ於テ既ニヨク發育分布セルニ反シ, 彈力纖維, 膠基纖維ハ胎生初期ニ於テ既ニ發生スレ共, 其發育極メテ微々タルノ顯著ナル相違アリ. 而テ胎生中期 (第五, 六ヶ月) 以後ニ至レバヨク發育分布サルルニ至ル.<br>15. 口蓋扁桃腺實質部ニ於ケル各纖維ハ, 扁桃腺周圍組織ニ於ケルモノニ比スレバ甚ダ繊細ニシテ, 彈力纖維, 膠基纖維ニ於テ殊ニ顯著ナリ.<br>16. 扁桃腺被嚢ハ胎生第三ヶ月ニ於テ既ニ其