- 著者
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平 篤志
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2003, pp.20, 2003
本稿の目的は,フランス・ドイツ・スイス国境地帯に位置するアルザス地域における多国籍企業の立地展開の特徴を地域経済の動向と関連づけながら解明することである.まず,当該地域における多国籍企業の立地パターンと属性について説明し,次に多国籍企業による直接投資と当該地域の社会経済的変化との関係について分析を試みる.研究方法として,既存の資料・文献類を分析したほか,聞き取り調査と資料収集を中心とした現地調査を2002年7月に実施した. アルザス地域は,西側で接するロレーヌ地域とともに,古くから交通・交易の要衝であり,また近代工業の成長とともにカリに代表される地下資源の存在が注目されるにおよび,過去において仏独間で当該地域獲得のための戦争が繰り返されてきたところである.アルザス地域は,農畜産物によっても知られるが,18世紀にヴォージュ地方で興った綿工業が端緒となり,フランス有数の繊維工業地帯となった.さらに,ライン川沿岸には,金属,化学,機械,電機などの工業が立地し,製造業は今日においても地域経済の中で重要な地位を占めている.アルザス地域は現在,EU統合が進行する中,EU中軸地帯としての地理的位置を獲得し,国境を接するドイツ・スイス側地域との連携を強めながらさらなる発展を目指している. アルザス地域のこのような地理的位置と工業的基礎および高水準の労働力の存在は,多くの多国籍企業の立地をもたらした.当該地域における多国籍企業の立地は,1950年代のドイツ系企業に始まる.1999年時点において,当該地域には482社(全国比率5.3%)の多国籍企業(外資出資比率50%超)が進出している.その過半数(63%)が,ストラスブールを中心とする北部のバ・ラン県に立地している.業種別にみると,機械および化学工業を主体とする製造業が直接投資の中心であるが,サービス業に従事する多国籍企業も増加しつつある. これら多国籍企業は,地域内の雇用創出に貢献している.多国籍企業の全従業員数は,アルザス地域の民間企業従業員総数の4割を超え,雇用創出数ではフランス国内地域別で第3位である.多国籍企業の中では,EU系の,中でもドイツ系企業が多くの労働者(2.2万人,39%)を雇用している.つづいて,アメリカ合衆国系企業(1.4万人),そしてスイス系企業(8,000人)が重要な雇用者である.日系企業は,自動車,電気機器関連の企業が進出しており,全体の雇用者数は約3,000人である. アルザス地域のこれからの課題は,国境をまたいだドイツおよびスイスの周辺地域との連携をさらに密接なものとしつつ,EU圏外からも外資導入を積極的に進めながら,EU中軸地帯に位置する地理的優位性を最大限に生かした成長戦略を策定し,実行に移していくことである.