著者
平 篤志
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.28-47, 2005-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
133
被引用文献数
1 1

本稿は,主として日本語および英語で公表された多国籍企業に関する地理学的な研究の動向を分析し,今後の課題を提示することを目的とする.多国籍企業に関する研究は,経済学・経営学分野において先行したが,近年,地理学的なアプローチからの研究が増加しつつある.その視点は,多国籍企業の分布パターンや直接投資の空間パターンから,多国籍企業の企業内・企業間連関,多国籍企業の進出と地域経済との関係,多国籍企業の経営手法と技術移転,多国籍企業と国家・地方政治権力との関係などへ多角的に拡大・深化している.また,業種別では,製造業企業を対象にしたものが大半を占めてきたが,サービス業企業の動向を分析したものも現れるようになった.分析のための空間スケールは,国家スケールが中心であったが,近年,ローカルな場所・空間の持つ意味が注目される中で,多国籍企業研究においてもローカルな立地動態に関する研究が増加しつつある.今後は,先行研究の研究結果を踏まえてそれらをさらに深化させるとともに,多国籍企業の企業文化の考察など企業論的な観点に立った研究を蓄積していくことが求められる.
著者
平 篤志
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.173-182, 1993-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

本研究は,アメリカ合衆国シカゴ都市圏における日本企業の立地パターンとその属性,およびイリノイ州と州内の現在地に立地した理由を明らかにすることを目的とする。シカゴ都市圏の日本企業は,1960年代に増加を始めた。日本企業の分布には,2っの集中パターンがある。すなわち,1っは金融業に代表される業務集中地区での集中分布であり,いま1つは一般機械工業に代表されるシカゴ市近郊の北西部,特にオヘア国際空港周辺での集中分布である。現在,日本企業の郊外への移転・新規立地が,日本人従業員の居住地の郊外化を伴って進行している。114社の日本企業に対するアンケート調査の結果を分析すると,シカゴ都市圏の日本企業は,第1にアメリカ合衆国における地理的中心性からイリノイ州を立地場所として選択していることが明らかになった。そして,より地域的なレベルでは,シカゴ市の近郊に立地する場合は,オヘア国際空港への近接性が,またシカゴ市内に立地する場合は,シカゴ市への近接性が重要な要因となっていることが判明した。同時に,シカゴ都市圏の日本企業は,雇用機会を増加させることによって地域経済に貢献していることが明らかになった。
著者
平 篤志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.20, 2003

本稿の目的は,フランス・ドイツ・スイス国境地帯に位置するアルザス地域における多国籍企業の立地展開の特徴を地域経済の動向と関連づけながら解明することである.まず,当該地域における多国籍企業の立地パターンと属性について説明し,次に多国籍企業による直接投資と当該地域の社会経済的変化との関係について分析を試みる.研究方法として,既存の資料・文献類を分析したほか,聞き取り調査と資料収集を中心とした現地調査を2002年7月に実施した. アルザス地域は,西側で接するロレーヌ地域とともに,古くから交通・交易の要衝であり,また近代工業の成長とともにカリに代表される地下資源の存在が注目されるにおよび,過去において仏独間で当該地域獲得のための戦争が繰り返されてきたところである.アルザス地域は,農畜産物によっても知られるが,18世紀にヴォージュ地方で興った綿工業が端緒となり,フランス有数の繊維工業地帯となった.さらに,ライン川沿岸には,金属,化学,機械,電機などの工業が立地し,製造業は今日においても地域経済の中で重要な地位を占めている.アルザス地域は現在,EU統合が進行する中,EU中軸地帯としての地理的位置を獲得し,国境を接するドイツ・スイス側地域との連携を強めながらさらなる発展を目指している. アルザス地域のこのような地理的位置と工業的基礎および高水準の労働力の存在は,多くの多国籍企業の立地をもたらした.当該地域における多国籍企業の立地は,1950年代のドイツ系企業に始まる.1999年時点において,当該地域には482社(全国比率5.3%)の多国籍企業(外資出資比率50%超)が進出している.その過半数(63%)が,ストラスブールを中心とする北部のバ・ラン県に立地している.業種別にみると,機械および化学工業を主体とする製造業が直接投資の中心であるが,サービス業に従事する多国籍企業も増加しつつある. これら多国籍企業は,地域内の雇用創出に貢献している.多国籍企業の全従業員数は,アルザス地域の民間企業従業員総数の4割を超え,雇用創出数ではフランス国内地域別で第3位である.多国籍企業の中では,EU系の,中でもドイツ系企業が多くの労働者(2.2万人,39%)を雇用している.つづいて,アメリカ合衆国系企業(1.4万人),そしてスイス系企業(8,000人)が重要な雇用者である.日系企業は,自動車,電気機器関連の企業が進出しており,全体の雇用者数は約3,000人である. アルザス地域のこれからの課題は,国境をまたいだドイツおよびスイスの周辺地域との連携をさらに密接なものとしつつ,EU圏外からも外資導入を積極的に進めながら,EU中軸地帯に位置する地理的優位性を最大限に生かした成長戦略を策定し,実行に移していくことである.
著者
平 篤志
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.196-214, 2001-09-30
被引用文献数
1

本研究は, ソウル大都市圏における日本系企業の立地展開の特徴を立地パターンと企業属性から明らかにし, 立地戦略を説明することを目的とする.韓国に対する日本からの直接投資は, 1960年代後半以降増加したが, 日本系企業の過半数は円高が進行した1985年以降に設立された.1999年現在, 韓国の日本系企業の大部分はソウル大都市圏に立地し, そのうち72%はソウル市内に存在する.ソウル市内では, ハンガン南岸域, 特にカンナム, ソチョ区が立地の中心地域となりつつある.業種別では, 製造業はソウル市内と郊外地域の双方に展開しているのに対して, 1990年代に入って企業数が急増したサービス業はそのほとんどがソウル市内に立地している.主要な立地要因は, 当該都市圏における取引先企業の存在と販路拡大である.取引先企業は, 製造業, サービス業ともその過半数が現地韓国企業で占められ, 取引の現地化はかなりの程度進行している.一方で, 最高責任者の現地化は, 韓国政府による規制緩和政策を受けた設立形態の変化, すなわち日本側100%出資形態の増加に影響されて進んでいない.従業員数は1990年代後半に入って, 製造業において減少, サービス業において増加傾向にある.従業員の大部分は現地採用の韓国人である.事務所の運営に関しては, 日本側100%出資企業と比較して, 合弁企業では日本統括本社の域外支配は弱く, 企業としての自立性が高い.総体的に, ソウル大都市圏の日本企業は, 現地企業の立地変化に敏感に反応しながら選択的に現地化戦略を導入している.
著者
髙平 篤志 信田 卓男 圓尾 拓也 斑目 広郎
出版者
日本獣医がん学会
雑誌
日本獣医がん学会雑誌 (ISSN:18843344)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.9-12, 2012-11-28 (Released:2012-11-28)
参考文献数
11
被引用文献数
2

雑種猫、避妊雌、15歳齢が低血糖性痙攣で来院した。インスリノーマが疑われ、試験開腹を行った。膵左葉に2か所の腫瘍が確認され、膵左葉部分切除を行った。病理にてインスリノーマと診断した。術後2年以上、無治療にて経過は良好であったが、術後30カ月目に低血糖性痙攣を再び発症した。試験開腹にて膵臓や他の腹腔臓器に多数の白色結節が認められたが、病理にて過形成と診断された。その3日後に痙攣が再発したため、安楽死処置となった。インスリノーマの転移が疑われた。