著者
草野 佑介 粟屋 智就 齊藤 景子 吉田 健司 井手 見名子 加藤 竹雄 平家 俊男 加藤 寿宏
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.445-448, 2015 (Released:2015-11-20)
参考文献数
9

Irlen症候群は視知覚の異常が原因とされる読字障害の特殊型である. 特定の遮光レンズ眼鏡やカラーフィルムにより症状が改善することが特徴とされているが, それらの効果には懐疑的な意見も多くIrlen症候群の存在自体にも議論がある. 今回, 我々は羞明などの視覚過敏症状を呈し, 遮光レンズ眼鏡の有無により読字能力が大幅に左右された読字障害の8歳女児を経験した. 遮光レンズ眼鏡がプラセボ効果である心因性視力障害の可能性は完全には否定できないものの, その症状や経過はIrlen症候群の特徴に非常によく合致していた. 本症例では, 遮光レンズ眼鏡非装用下では全く本が読めない状態から, 遮光レンズ眼鏡装用下では年齢相応の読字能力を示し, 何らかの光学的な情報処理の異常が読字に影響を与えていると推察された. Irlen症候群は現在では読字障害, 学習障害全般や一般人口を対照に曖昧にその概念を拡げているが, その科学的な意味付けには本症例のような特徴的な症例を集積する必要がある. 同時に, 遮光レンズ眼鏡という簡便な手法により容易に矯正されうる点で, 学習障害に携わる医療関係者や支援者が記憶しておくべき概念であると考えられる.
著者
長谷川 浩二 尾野 亘 森崎 隆幸 米田 正始 平家 俊男 森崎 隆幸 米田 正始 平家 俊男
出版者
独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

心不全のより根本的治療を確立するためには、心筋細胞情報伝達の最終到達点である核内の共通経路を標的とした治療法を確立する必要がある。我々は内因性ヒストンアセチル化酵素(HAT)活性を有するp300とGATA帳写因子群の窃力(p3O0/GATA経路)が心不全発症における遺伝子発現調節に極めて重要であることを示した(Mol Cell Biol 2003; 23: 3593-606、Circulation 2006: 113: 679-90)。本研究においては、p300によるGATA4のアセチル化部位を同定し(J Biol Chem. 2008;283:9828-35)し、またp300の特異的アセチル化阻害作用を持つクルクミンが心不全の進行を抑制することを高血圧性心疾患ならびに心筋梗塞後の2つの慢性心不全ラットモデルにおいて証明した(J Clin Invest 2008;118:868-878)。一方、心筋細胞の脱落が激しい末期心不全の根本的な治療には心筋再生療法が必須である。我々は、多分化能と無限増殖能を持つ胚性幹(ES)細胞において、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)による刺激が、ヒストンや転写因子GATA4をアセチル化し、心筋分化効率を著名に上昇させることを見出した(J Biol Chcm 2005; 280: 19682-8)。本研究においては、マウス胚性幹(ES)細胞においてCyclin dependent kinase (CDK) 9が転写調節因子GATA4と結合し、その分化に関与していること(2007年11月, American Heart Association にて発表)、ES細胞の分化過程で発現が上昇するmiRNA-1がCDK9の翻訳抑制を通じて心筋分化を負に制御しているという新たな知見を得た(Circ J in press)。ES細胞と同様の多分化能と無限増殖能を持つ人工多能性幹(iPS)細胞において心筋分化システムを確立し、iPS細胞の株間には大きな分化効率の差異が存在すること、心筋分化効率が極めて低いiPS細胞株でもTSAにより、著明に心筋分化が亢進することを見川した(2008年Rcgenerative Medicine & Stom Collで発表)