著者
鬼塚 俊明 中村 一太 平野 昭吾 平野 羊嗣
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.73-78, 2019 (Released:2019-12-28)
参考文献数
5

幻聴が起こるメカニズムは単純なものではないが,症状と関連のある脳構造・脳機能研究を行うことは重要と思われる。本稿では我々が行った研究で,幻聴の重症度と関連のあった脳部位・脳機能研究での結果を紹介する。脳構造研究では,外側側頭葉の亜区域を手書き法にて測定し,体積を測定した。幻聴のある患者群で左の上側頭回は著明に小さく,左中側頭回,左下側頭回でも有意に小さいという結果が得られた。すなわち,幻聴のある患者群は幻覚のない患者群に比べ,左半球優位(特に上側頭回)に体積減少があることが示唆された。 声に対するP50mの研究では,左半球の抑制度と幻聴のスコアに有意な正の相関を認めた(ρ=0.44,p=0.04)。つまり,人の声に対するフィルタリング機構の障害が強い統合失調症者ほど,幻聴の程度が重度であるということが示唆された。さらに,聴覚定常状態反応の研究では,80 Hzのクリックに対する左半球のASSRパワー値と幻聴の重症度に有意な負の相関を認めた(ρ=‐0.50,p=0.04)。つまり,左半球の80 Hz‐ASSRの障害が強い統合失調症者ほど幻聴の程度が重度であるということが示唆された。 今後,脳構造・脳生理学的研究は統合失調症の病態解明のアプローチとして一層重要になっていくと思われる。
著者
平野 羊嗣
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.199-203, 2015 (Released:2017-02-16)
参考文献数
29

最近の,脳波や脳磁図,光遺伝学といった電気生理学的研究の進歩や,死後脳研究の知見により,皮質の周期的神経活動(neural oscillation)の異常が,精神疾患の病態生理に深くかかわっていることがわかってきた。神経活動の中でも主にγ帯域の周期的皮質活動(γ band oscillation)が,認知や知覚,または意識に関連していることが知られているが,認知機能や知覚処理の障害,自我意識障害を有する統合失調症患者では,特にこのγ band oscillation が障害されていることが明らかになってきた。γ band oscillation の障害は,神経回路内のリズムメーカーとしての機能を担う GABA 作動性の抑制性介在ニューロンの機能低下と,興奮性ニューロンの障害(NMDA 受容体の機能低下)ならびに,この両者のバランス(E/I バランス)が破綻することにより生じるとされている。さらに,これらの現象は種を問わず認められ,統合失調症のモデル動物でも同様の結果が得られるため,統合失調症の新たな病態モデル,治療ターゲットとして注目されている。
著者
内田 由紀子 平野 羊嗣 神庭 重信
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

研究の目的は、ネガティブ感情の制御についての文化差を、脳波計で測定される脳誘発電位を用いて測定し、検討することであった。参加者は脳波計を装着し、実験室で脳波を用いた感情制御の課題を遂行した。「注意条件」では、不快あるいはニュートラルな画像刺激をみて、自然に生じる感情反応に注意を払うように教示した。「抑制条件」では同様の画像を見て自然に生じる感情反応を「抑え、隠すよう」に教示した(これらの条件は被験者内要因で実施された)。解析の結果、抑制条件では不快刺激においてもニュートラル刺激と同様の脳波(LPP)の反応が得られ、日本人参加者におけるネガティブな感情制御が示された。
著者
平河 則明 平野 羊嗣 鬼塚 俊明
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.55-62, 2018-08-15 (Released:2020-03-26)
参考文献数
23
被引用文献数
1

近年の神経生理学的検査の技術進歩に伴い,精神疾患においても新たな知見が次々と報告されている。本稿では主に,脳波や脳磁図を用いた統合失調症の神経生理学的な知見について概観した。例えば,統合失調症者では,感覚フィルタリング機能を反映しているとされる聴覚P50の抑制機構の障害や,前注意過程の指標とされる聴覚ミスマッチ陰性電位の振幅低下が報告されている。さらに,最新の研究では,統合失調症における高周波ガンマ帯域の神経同期活動の障害が多く報告されており,これは統合失調症の脳内における興奮性ニューロンと抑制性介在ニューロンの相互バランスの破綻を反映していると考えられている。精神現象を神経生理学的にとらえようとするこの試みは“神経現象学”という新たな分野にも通じる。最後に,これらの知見をもとに,今後の統合失調症研究の展望について考えてみたいと思う。
著者
神庭 重信 牧之段 学 平野 羊嗣 加藤 隆弘
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

統合失調症は重篤な社会機能の障害を来す難治性精神疾患であり、神経シナプスの伝達異常仮説を元にして様々な研究がなされてきたが、未だ病態生理は十分には解明されていない。近年、神経系異常に加えて、脳内炎症をはじめとする免疫異常が統合失調症ばかりではなく気分障害・発達障害など様々な精神疾患で示唆され、我々は神経活動異常仮説に加えて、精神疾患ミクログリア仮説を先駆けて提唱してきた。本研究ではこれまで我々が提唱し報告してきた、精神疾患の脳波異常(特にガンマオシレーション異常)と神経免疫異常(特にミクログリアの活動性異常)に関して両仮説の解明とその両者をつなぐ橋渡し研究の成果を論文として報告してきた。