著者
徳田 良英
出版者
一般社団法人日本福祉のまちづくり学会
雑誌
福祉のまちづくり研究 (ISSN:13458973)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.40-47, 2009-07-15

現行のスロープ勾配を自走車いすの下り走行の観点から評価する目的で、官能評価、動作筋電図計測および走行速度測定を行った。被験者は健常な大学生で、実験装置は上下の踊り場間の垂直距離が約750mmで途中に水平部分のない屋外の実験用木製スロープ(勾配は1/24、1/21、1/18、1/15、1/12、1/9、1/7の7種類)で、自走用標準型車いすによる両手駆動および片手片足駆動を検討した。結果は以下の通りであった。1)わが国のバリアフリー新法における勾配基準の1/20に近い勾配1/24、1/21および1/18に関して、官能評価、動作筋電図、走行速度の評価で問題は認められなかった。2)わが国の公共建築物に多い勾配1/12〜1/15に関して、官能評価において勾配1/15で両手駆動の85.7%、片手片足駆動の75.0%が「楽」であるのに対して、勾配1/12では両手駆動の57.1%、片手片足駆動の83.3%が「ややきつい」であった。特に片手片足駆動では大腿四頭筋が勾配1/15に比べ勾配1/12の筋活動率が大きかった。走行速度は勾配1/15に比べ勾配1/12が遅かった。以上のことから勾配1/12は利用者にはやや負担のかかる基準であることが示唆された。3)わが国の建築基準法の勾配基準の1/8に近い、勾配1/9および1/7では官能評価、動作筋電図、速度評価から車いす下り走行は相当にきつい状況が伺えた。このことから住宅改修等の個別案件でスロープをやむを得ず急勾配にせざるを得ない場合にはスロープ下り時の身体負担や安全性に対しても慎重に検討が必要と考える。
著者
徳田 良英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100108, 2013

【目的】バランスや歩行の観点で婦人靴のヒールの高さの許容範囲を身体運動学的に評価し明らかにする.【方法】動的バランスの解析 対象:健常な女子大学生7名(年齢:21.4±0.8歳,身長:157.0±3.1cm,BMI:20.4±2.3 kg/m²,靴のサイズ:23.0cm~23.5cm)とした.測定方法:市販のスニーカーおよび婦人靴(ヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cm)の計5種類の靴をランダムに履いて,筋電計(DHK社TRAISシステム,サンプリング周波数1,000Hz)の電極を下腿三頭筋部に装着し,フォースプレート(Kistler社, サンプリング周波数100Hz)上で静止立位の状態からファンクショナルリーチテスト(以下FRT)を実施し,FRTの測定値,下腿三頭筋の筋活動量,重心動揺を同時に計測した.各計測は筋疲労などの影響が及ばないように十分な間隔を空け,自覚症状がないことを確認して行った.解析は,スニーカーおよびヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmそれぞれのFRTの測定値を比較した.FRTでの下腿三頭筋の筋活動量を比較するために,各筋電波形の計測3秒間の積算値を筋活動量とし,各被験者でスニーカーの活動量を基準にヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmそれぞれの比率を筋活動量として算定した.FRTでの前後方向の重心移動距離をスニーカーおよびヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmそれぞれの比較をした.歩行パラメーターの解析 対象:健常な女子大学生18名(平均年齢:21.1±0.9歳,身長:157.8±4.2cm, BMI:20.3±1.7kg/m²)とした.測定方法:被験者に上記5種類の靴で被験者に廊下を普段歩く速さで歩くように指示して10m歩行を行わせた.各計測は筋疲労などの影響が及ばないように十分な間隔を空け,自覚症状がないことを確認して行った.歩行速度(m/min),ストライド(m),ケイデンス(step/min)を,スニーカーおよびヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmのそれぞれについて比較した.統計学的解析はWilcoxon の符号付き順位検定にて有意水準5%で検定した.【倫理的配慮、説明と同意】学内倫理委員会で研究計画の承認を得た上で,各実験に際しては被験者に予め実験の趣旨と方法,リスクを説明し,口頭および書面による同意を得て行った.【結果】動的バランスの解析の結果,ヒール高さ10cmではスニーカーに比べFRTの値が小さかった(p<.05).FRT時,スニーカーに比べヒール高さ7cmおよび10cmはFRTでの前後方向の重心移動距離が小さかった(p<.05).FRT時,スニーカーに比べヒール高さ5cm,7cm,10cmは下腿三頭筋の筋活動量が高かった(p<.05).特にヒール高さ10cmの場合,筋活動が著明に高かった.歩行パラメーターの解析の結果,スニーカーに比べ,歩行速度は,ヒール高さが高くなるに従い遅くなる傾向であった.ケイデンスに差がなかった.ストライドはヒール高さ3cm,5cm,7cmでは約10cm短く,ヒール高さ10cmでは約20cm短かった.【考察】ヒール高さ10cmは,いずれの評価でもスニーカーに比べ差が認められた。このデザインの靴の場合,足関節を極度に底屈位にするためバランスや歩行の観点で実用性が著しく劣ると考える.ヒール高さ7cmは,FRTではスニーカーと差がなかったことから,今回の被験者のような若年者が履く場合,立って手を前方に伸ばすということにおいては一応可能である.その時の重心の前方移動距離を見ると,スニーカーに比べ小さいことから,FRT時に十分な重心移動ができず腰を引いた姿勢で無理をして手を前方に伸ばしていることが理解できる.ヒール高さ5cmは,FRTで手を前方に伸ばす範囲,その時の重心移動距離に差はない.足底圧測定と歩き心地,トレッドミル歩行の疲労解析をした先行研究で婦人靴のヒール高さ5cmを超えたところに限界があるとしている(細谷,2008).また,歩行時のエネルギーコストを比較した先行研究では,婦人靴のヒール高さは5cm位までを推奨している(Ebbeling CJ, et al, 1994).本研究の結果から若年者が履く婦人靴の実用的な許容高さとしてヒール高さ5cmは概ね妥当と考える.しかし,FRTでの筋電図から筋活動量を比較した結果,ヒール高さ5cmの婦人靴はスニーカーに比べ筋活動量が多いことから,長時間履くとスニーカーより疲れやすいことが示唆された.ヒール高さ3cmは,FRT,FRTでの重心の前方移動距離,FRTでの下腿三頭筋の筋活動量のいずれもスニーカーと差がなく,この点において最も推奨できるヒールの高さと考える.エネルギー代謝の観点からヒール高さを検討した先行研究では最適値は3cmとしている(石毛, 1961).本研究の結果は先行研究を追認する.一方,歩行パラメーターの評価ではスニーカーに比べ,歩行速度が若干遅くなり,ストライド小さく,やや小股で歩く傾向であった.ヒール高さ3cmの婦人靴は,動的バランスではスニーカー程度の性能があるが,歩行時はスニーカーよりストライドの小さな歩行になることが考えられる.【理学療法学研究としての意義】婦人靴によるけがや障害予防のためのユーザーへの注意喚起に必要な基礎的データを示すものとして意義がある.
著者
飯田 修平 加藤 勝行 徳田 良英 窪川 徹 阪井 康友
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.635-641, 2022 (Released:2022-12-15)
参考文献数
15

〔目的〕新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い,学外での見学実習が不可能となったため,緊急措置として実施した学内の代替実習の教育効果を検証した.〔対象と方法〕理学療法学科1年生102名,臨床実習指導者の外部講師8名を対象に,主観的学習達成度と習得内容をアンケート調査した.〔結果〕情意領域,認知領域,技能領域での主観的学習達成度は,全て肯定的回答であった.得られた経験は,情意領域全般,幅広い分野の業務内容,動画を通した患者の接し方,症状,理学療法であった.得られなかった経験は,実際の患者とのコミュニケーション,現場実習の緊張感や雰囲気,詳細な患者状態であった.〔結語〕臨床実習を想定した学内での教育の質を向上させることが重要である.
著者
鈴木 真理子 鈴木 裕子 竹山 理恵 徳田 良英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H4P3257, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】四肢運動時において重心移動が生じるため,姿勢の調節が必要である.姿勢は,筋収縮によって発生する反作用を見越して運動調節する機構により,簡単には崩れにくいように働く.このため,予測的な姿勢調節が随意運動に先行して行われる必要がある(吉尾ら. 2007).これを先行姿勢調節機構(Anticipatory Postural Adjustments:以下APA)という.APAの先行研究では上肢外転肢位で,落下する重錘を掴む際,主動作筋に先行して対側の体幹筋が活動し,重錘を放す際,対側の体幹筋が抑制する事が明らかになっている(Alexander, et al. 2001).本研究は,上肢前方挙上時の体幹のAPAを計測し,姿勢調節におけるさまざまなstrategyを類型的に把握し検討することを目的とする.【対象・方法】対象者は健常成人24名(男性14名,女性10名:平均年齢21.8±0.6歳,身長166.6±8.2cm,体重54.5±7.8kg)とした.実験装置は,被検者が立位で肩関節を90度屈曲した肢位の手掌から40cm上方に風船を設置した.実験課題は開始肢位は両上肢を体側に下垂した開眼立位とし,風船を合図無しに落とし,被験者は肩関節屈曲運動を素早く行い,風船を把持する事とした.上記課題はフォースプレート(Kistler社製,サンプリング周波数1KHz)上で行い,課題前後の重心の軌跡を測定した.右三角筋前部線維,両側外腹斜筋,両側脊柱起立筋の筋活動を筋電計(DKH社製EMG計測システム,サンプリング周波数1KHz)にて同期して計測した.また,ビデオカメラによって矢状面の被験者の姿勢と姿勢保持のためのstrategyを観察した.解析方法は,安静立位の開始時点から三角筋の筋活動の賦活開始時点までの体幹筋の筋電図の波形からパターンに分類し,姿勢・動作との対応を探った.【説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り,対象者に研究内容を説明し,同意を得た.【結果】全被験者で,APAの出現後から上肢挙上運動開始までの間に重心が後方に移動した.重心の後方移動距離(平均±標準偏差)は(1.1±0.5cm)で,各群間で有意差はなかった(p>.05).筋電図の波形から,A群(5名),B群(10名),C群(9名)に分類した.各群の概要は以下の通りであった.A群は,三角筋が活動する100-200msec前に外腹斜筋が抑制,50-100msec前に脊柱起立筋が活性化した群である.ビデオ解析の結果,A群は立位姿勢のalignmentが比較的良好で, 課題時の重心の後方移動は全てhip strategyによって行っていた.B群は,安静立位時に外腹斜筋の筋活動が著明に認められないものである.外腹斜筋にAPAがみられず,三角筋が活動する20-80msec前に脊柱起立筋が活性化した. ビデオ解析の結果,B群10名全員の立位姿勢alignmentは概ね不良で,過半数は頚椎前彎と胸椎後彎が強く,骨盤が後傾した姿勢であった. 課題時の重心の後方移動は8名がhip strategy, 2名がankle strategyによって行っていた.C群は,外腹斜筋,脊柱起立筋にAPAがみられないものである. ビデオ解析の結果, 課題時の重心の後方移動はC群9名中, 7名がankle strategy, 1名がhip strategy,残りの1名が knee strategy によって行っていた.【考察】全被験者において重心が後方に移動しているのは,上肢前方挙上の際に,上肢の重みにより重心が前方に移動することを予測し,姿勢を保持するために無意識的に行われている.重心移動時に,各群間で筋活動が異なるのは,姿勢とstrategyの影響によると考える.まず,A群とB群においては,同じhip strategyによって重心の後方移動を行っている. A群においては外腹斜筋に抑制のAPAが生じたが,B群においては生じなかった.A群は安静立位で腹筋群を使用した良姿勢をとっており,脊柱起立筋に拮抗して外腹斜筋は抑制されたが,B群の安静立位は腹筋群をあまり使用しない不良姿勢であったため外腹斜筋に抑制のAPAが出現しなかったと考える.次に,体幹筋にAPAが生じたA・B群と生じなかったC群を比較する. A・B群はhip strategy, C群の多くはankle strategyにて重心の後方移動を行っている.よって,APAをhip strategyにて行った場合は体幹筋が, ankle strategyにてAPAを行う場合は体幹ではなく,下肢の筋活動が三角筋に先行する可能性が示唆された.【理学療法研究の意義】姿勢調節に重要なAPA出現の仕方を姿勢・動作との対応から類型的に把握することを試みたもので,パイロットスタディーとして意義がある.
著者
坂田 裕美 徳田 良英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0471, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】運動負荷後の血圧変動,疲労感を生じやすい症状などへのリスク管理が問題となる例が多い.ところで近年芳香を持つ植物から抽出した精油を使って、心身の自然治癒を高めるアロマセラピーの応用が多分野で活用されるようになった。リハ現場における匂い環境を整備することによる臨床応用の可能性を模索することを念頭に、香りのリラックス効果について運動負荷後の血圧回復の観点から検討することを目的とした。【方法】対象は既往歴の無い成人男女6 名(男性3 名,女性3 名,平均年齢:22.3±1.03 歳)とした.運動前に血圧,脈を計測し,その後運動負荷を行った.血圧・脈の測定には自動血圧計(OMRONデジタル自動血圧計:HEM-6011)を使用した.運動負荷についてはトレッドミル(CYBEX 900T)を使用した.5 分間,10km/h前後の速度で,Borg 指数13~15 程度となるよう調整した.終了後,血圧,脈を1 分間隔で5 回計測し,アンケート調査も行った.この実験をグレープフルーツの香りを与えた群(以下GF 群),ラベンダーの香りを与えた群(以下LV 群),および対照群として芳香刺激を与えない群(以下NG 群)と分け,各群日を変えて実験した.統計解析はWilcoxon 検定を用い,有意水準を5%未満とした.解析にはSPSS for Windows を用いた.【結果】1)生理的変化についての比較:収縮期血圧において,1 分後,2 分後,3 分後,4 分後についてGF 群はNG 群と比較し有意に回復速度が速かった.拡張期血圧においても,1 分後,2 分後,3 分後,5 分後について同様であった.LV 群にも低下傾向が見られ,脈の変動についても,NG 群と比較し若干低下傾向にあった.2)精神的変化についての比較:アンケート調査結果では,実験後の疲労度において調査したところ,NG 群と比較しGF 群,LV 群において有意差は見られないが(p>0.05),疲労度,気分がリラックスしている傾向が見られた(GF群<LV 群).また,アロマテラピーに肯定的な考えを持っている方が6 名中5 名であった【考察・まとめ】アロマテラピーは運動後のリラックス効果について有用であるといえる.特にLVについては精神面でのリラックス効果が得られた.GF についても,運動後の血圧を有意に低下させるなど,身体面においてのリラックス効果が得られた.リハの場面においても芳香刺激を利用することで,患者のリラックス促進効果など期待できると思われる
著者
徳田 良英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100108, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】バランスや歩行の観点で婦人靴のヒールの高さの許容範囲を身体運動学的に評価し明らかにする.【方法】動的バランスの解析 対象:健常な女子大学生7名(年齢:21.4±0.8歳,身長:157.0±3.1cm,BMI:20.4±2.3 kg/m²,靴のサイズ:23.0cm~23.5cm)とした.測定方法:市販のスニーカーおよび婦人靴(ヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cm)の計5種類の靴をランダムに履いて,筋電計(DHK社TRAISシステム,サンプリング周波数1,000Hz)の電極を下腿三頭筋部に装着し,フォースプレート(Kistler社, サンプリング周波数100Hz)上で静止立位の状態からファンクショナルリーチテスト(以下FRT)を実施し,FRTの測定値,下腿三頭筋の筋活動量,重心動揺を同時に計測した.各計測は筋疲労などの影響が及ばないように十分な間隔を空け,自覚症状がないことを確認して行った.解析は,スニーカーおよびヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmそれぞれのFRTの測定値を比較した.FRTでの下腿三頭筋の筋活動量を比較するために,各筋電波形の計測3秒間の積算値を筋活動量とし,各被験者でスニーカーの活動量を基準にヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmそれぞれの比率を筋活動量として算定した.FRTでの前後方向の重心移動距離をスニーカーおよびヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmそれぞれの比較をした.歩行パラメーターの解析 対象:健常な女子大学生18名(平均年齢:21.1±0.9歳,身長:157.8±4.2cm, BMI:20.3±1.7kg/m²)とした.測定方法:被験者に上記5種類の靴で被験者に廊下を普段歩く速さで歩くように指示して10m歩行を行わせた.各計測は筋疲労などの影響が及ばないように十分な間隔を空け,自覚症状がないことを確認して行った.歩行速度(m/min),ストライド(m),ケイデンス(step/min)を,スニーカーおよびヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmのそれぞれについて比較した.統計学的解析はWilcoxon の符号付き順位検定にて有意水準5%で検定した.【倫理的配慮、説明と同意】学内倫理委員会で研究計画の承認を得た上で,各実験に際しては被験者に予め実験の趣旨と方法,リスクを説明し,口頭および書面による同意を得て行った.【結果】動的バランスの解析の結果,ヒール高さ10cmではスニーカーに比べFRTの値が小さかった(p<.05).FRT時,スニーカーに比べヒール高さ7cmおよび10cmはFRTでの前後方向の重心移動距離が小さかった(p<.05).FRT時,スニーカーに比べヒール高さ5cm,7cm,10cmは下腿三頭筋の筋活動量が高かった(p<.05).特にヒール高さ10cmの場合,筋活動が著明に高かった.歩行パラメーターの解析の結果,スニーカーに比べ,歩行速度は,ヒール高さが高くなるに従い遅くなる傾向であった.ケイデンスに差がなかった.ストライドはヒール高さ3cm,5cm,7cmでは約10cm短く,ヒール高さ10cmでは約20cm短かった.【考察】ヒール高さ10cmは,いずれの評価でもスニーカーに比べ差が認められた。このデザインの靴の場合,足関節を極度に底屈位にするためバランスや歩行の観点で実用性が著しく劣ると考える.ヒール高さ7cmは,FRTではスニーカーと差がなかったことから,今回の被験者のような若年者が履く場合,立って手を前方に伸ばすということにおいては一応可能である.その時の重心の前方移動距離を見ると,スニーカーに比べ小さいことから,FRT時に十分な重心移動ができず腰を引いた姿勢で無理をして手を前方に伸ばしていることが理解できる.ヒール高さ5cmは,FRTで手を前方に伸ばす範囲,その時の重心移動距離に差はない.足底圧測定と歩き心地,トレッドミル歩行の疲労解析をした先行研究で婦人靴のヒール高さ5cmを超えたところに限界があるとしている(細谷,2008).また,歩行時のエネルギーコストを比較した先行研究では,婦人靴のヒール高さは5cm位までを推奨している(Ebbeling CJ, et al, 1994).本研究の結果から若年者が履く婦人靴の実用的な許容高さとしてヒール高さ5cmは概ね妥当と考える.しかし,FRTでの筋電図から筋活動量を比較した結果,ヒール高さ5cmの婦人靴はスニーカーに比べ筋活動量が多いことから,長時間履くとスニーカーより疲れやすいことが示唆された.ヒール高さ3cmは,FRT,FRTでの重心の前方移動距離,FRTでの下腿三頭筋の筋活動量のいずれもスニーカーと差がなく,この点において最も推奨できるヒールの高さと考える.エネルギー代謝の観点からヒール高さを検討した先行研究では最適値は3cmとしている(石毛, 1961).本研究の結果は先行研究を追認する.一方,歩行パラメーターの評価ではスニーカーに比べ,歩行速度が若干遅くなり,ストライド小さく,やや小股で歩く傾向であった.ヒール高さ3cmの婦人靴は,動的バランスではスニーカー程度の性能があるが,歩行時はスニーカーよりストライドの小さな歩行になることが考えられる.【理学療法学研究としての意義】婦人靴によるけがや障害予防のためのユーザーへの注意喚起に必要な基礎的データを示すものとして意義がある.