著者
斉藤 知洋
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.20-32, 2020-04-30 (Released:2021-05-11)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本稿の目的は,「就業構造基本調査」匿名データ(2007年)を用いて,シングルマザーの正規雇用就労と世帯の経済水準の関連について検討することである.傾向スコア・マッチング法を用いた統計分析より,得られた主要な知見は次の3点である.第1に,正規雇用への就労はシングルマザーの時間あたり賃金を32.0%上昇させ,相対的貧困率と就労貧困率をそれぞれ36.5%, 39.5%低減させる効果を持つ.第2に,正規雇用就労の効果には階層差が存在し,賃金と就労貧困率については低学歴層ほどその就労効果が小さい.第3に,正規雇用就労を達成したとしても,非大卒のシングルマザーはその半数以上が自身の就労所得のみでは貧困状態を脱していない.以上の結果は,シングルマザーを対象とした就労支援施策に加えて,女性が結婚や出産を通じて直面する労働市場上の不利を解消することが母子世帯の経済的地位を高めるうえで重要であることを示唆する.
著者
元治 恵子 辻 竜平 太郎丸 博 三輪 哲 田辺 俊介 長松 奈美江 脇田 彩 斉藤 知洋
出版者
明星大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、「職業に関する意識調査」を実施し、従来の職業威信スコアのバージョンアップを行うとともに、職業構造の変化に対応する、職種に加え、性別、雇用形態、企業規模などを反映した社会的地位尺度を作成した。職業威信スコアは、性、年代、学歴別では、グループ間に高い相関が見られ、時点間でも変化は見られず、スコアの頑健性と信頼性が改めて強調されることになった。しかし、性別、雇用形態、企業規模の情報が評定職業に付与されていた場合には、同じ職業であっても人々の評定に違いが見られた。多元的地位尺度を測定した職業以外に拡張し、さらに精緻化していくことが喫緊の課題である。
著者
斉藤 知洋
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.127-138, 2017-12-26 (Released:2019-01-28)
参考文献数
20

本稿の目的は,中学3年生とその母親を対象とした社会調査データを用いて,(1)中学生を含む有子世帯が相対的貧困に陥る社会経済的要因,(2)相対的貧困世帯と子どもの教育期待(将来の到達希望学歴)の関連とそのメカニズムについて検討することである. 分析の結果,得られた知見は以下のとおりである.第1に,社会階層・家族的要因として,低学歴層,世帯主が非正規雇用,子ども数が多い,母子世帯であることが有子世帯の貧困リスクを有意に高める独自効果を持つ.そして,これらの諸要因は母親15歳時の家庭の暮らし向きと現在の貧困状態の関連――貧困の世代間連鎖――を十分に説明していた.第2に,相対的貧困状態にある世帯に所属する子どもは,非貧困群と比べて高等教育への進学期待が相対的に低い傾向にあった.しかし,両者の関連は相対的貧困世帯の人的資本投資の寡少や経済的負担感を重視する経済的剥奪仮説(投資論仮説)のみでは十分に説明することができず,他の媒介メカニズムを検証する必要性が示唆された.
著者
佐々木 尚之 毛塚 和宏 斉藤 知洋 宍戸 邦章
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2023-04-01

人々のライフスタイルや価値観の変容により、社会調査をめぐる環境は著しく悪化した。本研究では、無作為抽出した対象者に対して、オンライン調査または郵送調査、配偶者票の有無をそれぞれランダムに割り当てることにより、調査モードならびに配偶者票の有無が回答に与える影響を分析する。ICTの活用を代表とする今後の社会調査の可能性を検証し、新たな調査手法導入の是非、導入にあたっての課題、状況に適した調査手法の有無を解明することを目的とする。
著者
斉藤 知洋
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.133-156, 2014-04-30 (Released:2022-03-05)
参考文献数
21

本稿の目的は、母子世帯および父子世帯出身者の教育達成過程および文化資本に着目して、家族構造間の教育達成格差が生じるメカニズムについて検討を行うことである。 全国規模の社会調査データである『二〇〇五年社会階層と社会移動全国調査』(SSM調査)を用いた多変量解析の結果、以下の点が明らかになった。(1)ひとり親世帯出身者は、二人親世帯に比べ、高等教育進学以前の教育達成段階(高校進学、高校学科)において不利を被っている。(2)しかし、高校学科と高等教育進学に対する負の効果は母子世帯のみに限定された。(3)ひとり親世帯出身者の教育達成上の不利は家庭の文化資本(文化財・親の最終学歴)が媒介要因として機能している。(4)家族構造と高等教育進学をつなぐ媒介要因として、高校のトラッキング機能が働いている。 本分析から、母子世帯および父子世帯では家庭の文化資本が寡少になりやすいことが子どもの教育達成に負の影響を与えていることが明らかになった。その要因として、ひとり親世帯における学歴階層性が挙げられ、ひとり親世帯は、子どもへの教育投資や子どもへの教育期待が希薄になりやすい独自の文化的環境をなしている可能性が示唆された。
著者
斉藤 知洋
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.44-56, 2018

<p>本稿では,「就業構造基本調査」の匿名データ(1992・2007年)を用いて,1990年代から2000年代にかけてのひとり親世帯内部の所得格差とその変容について時点間比較を行った.</p><p>分析の結果,以下の知見が得られた.第1に,有子世帯の所得格差は,過去15年間で拡大傾向にあり,とくに独立母子/父子世帯内部で所得格差が大きい.第2に,高学歴化によりひとり親の教育水準が急速に向上したものの,ひとり親世帯の低学歴層への偏りは安定的に維持されている.第3に,要因分解法の推定結果より,世帯所得の学歴間格差が独立ひとり親世帯の所得格差の拡大に寄与しているが,他の成人親族との同居はひとり親世帯の階層差を緩衝させる役割を持っていた.</p><p>以上より,ひとり親世帯内部の所得格差は階層差を伴って緩やかに拡大しており,家族・世帯の「自助努力」を強調する福祉政策は,低学歴層のひとり親世帯の経済状況を悪化させる可能性が示唆された.</p>
著者
斉藤 知洋
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.20-32, 2020
被引用文献数
1

<p>本稿の目的は,「就業構造基本調査」匿名データ(2007年)を用いて,シングルマザーの正規雇用就労と世帯の経済水準の関連について検討することである.傾向スコア・マッチング法を用いた統計分析より,得られた主要な知見は次の3点である.第1に,正規雇用への就労はシングルマザーの時間あたり賃金を32.0%上昇させ,相対的貧困率と就労貧困率をそれぞれ36.5%, 39.5%低減させる効果を持つ.第2に,正規雇用就労の効果には階層差が存在し,賃金と就労貧困率については低学歴層ほどその就労効果が小さい.第3に,正規雇用就労を達成したとしても,非大卒のシングルマザーはその半数以上が自身の就労所得のみでは貧困状態を脱していない.以上の結果は,シングルマザーを対象とした就労支援施策に加えて,女性が結婚や出産を通じて直面する労働市場上の不利を解消することが母子世帯の経済的地位を高めるうえで重要であることを示唆する.</p>