著者
小口 高 早川 裕弌 佐藤 英人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.57, 2010

<B>I.東京大学空間情報科学研究センターの概要</B><BR> 東京大学情報科学研究センター(Center for Spatial Information Science;以下,CSISと記す)は,1998年に発足したGISの研究組織であり,地理学,都市工学,経済学,土木工学,電子工学,情報工学といったGISに関連した多分野の研究者で構成されている.CSISは,1988年に日本学術会議が議決した「国立地図学博物館」(仮称)設立の勧告に対応し,地図学博物館の研究部門を具現するものとして設立された.同時に,大学に所属する機関として,大学院生や学部生の教育にも積極的に関与してきた.<BR> 現在CSISは,文部科学省が認定した共同利用・共同研究拠点になっており,全国のGIS関連の研究者に共同研究の仕組みを提供している.具体的には,GISのデータをCSISが多数収集して「研究用空間データ基盤」を構築し,その利用を,研究者による申請と共同研究審査委員会による承認を経た後に可能としている.CSISがデータを収集・購入する際には,データの提供元と覚え書きを交わすことによって,全国の研究者がデータを利用する可能性を確保している.この仕組みにより,個人がデータを入手する際の経済的な負担や手間を軽減できる.<BR> 上記のような利点のために,CSISの研究用空間データ基盤は全国の多数の研究者によって利用されてきた.研究用空間データ基盤は,デジタル地図情報の集積ともみなされ,ある意味ではCSISが地図学博物館の所蔵部門としての役割も果たしていることを意味している.<BR><BR><B>II.研究用空間データ基盤の概要</B><BR> 2010年1月現在,CSISの研究用空間データ基盤には次のデータが収録されている.<BR>・数値地図(各種),細密数値情報[国土地理院提供]<BR>・工業統計[経済統計情報センター]<BR>・国勢調査(各種),事業所・企業統計,住宅・土地統計調査など[(財)統計情報研究開発センター]<BR>・気象庁天気図,アメダス観測年報,1 km メッシュ気候値,世界気象資料など[(財)気象業務支援センター]<BR>・パーソントリップデータ[複数の都市交通計画協議会と札幌市]<BR>・Zmap-TownII[(株)ゼンリン]<BR>・国勢調査地図データ[(株)パスコ]<BR>・GISMAP(各種)[北海道地図(株)]<BR>・CityScope首都圏データ[(株)インフォマティクス]<BR>・ライフマップル[(株)昭文社]<BR>・東京23区中古マンションデータ[(株)リクルート]<BR>・地価公示・地価評価データ[(有)RITS総合研究所]<BR>・東京都都心部標高データ,東京地名データ,東京市大字界ポリゴンデータ ,天保14年天保御江戸絵図データ [研究者による独自作成]<BR><BR><B>III.研究用空間データ基盤の活用状況と今後の展望</B><BR> CSISの研究用空間データ基盤を利用して共同研究を行った人の数は,平成16年度には37機関の87名(延161名)であったが,平成20年度には86機関の291名(延325名)に増加した.利用者の多くは大学の研究者で,シニア,中堅,大学院生を含む若手を含んでいる.このことは,研究用空間データ基盤が,日本のGIS研究の発展に重要な役割を果たしていることを意味している.<BR> CSISでは今後,道路に関するデータや高解像度の地形データなどを研究用空間データ基盤に追加し,その利用を一層促進していく予定である.また,データの更新を通じて,異なる時期のデータが蓄積されていけば,地域における新旧の状況を比較するような研究の発展にも寄与するであろう.<BR>
著者
青木 久 岸野 浩大 早川 裕弌 前門 晃
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

津波石とは,津波により陸上に打ち上げられた岩塊のことである.先行研究によると,宮古島や石垣島をはじめとする琉球列島南部の島々には,過去の複数の津波によって石灰岩からなる巨礫,すなわち津波石が打ち上げられていることが報告されている.本研究では,津波によって陸上に打ち上げられた津波石のうち,海崖を乗り越えて海岸段丘上に定置している津波石に焦点をあてて野外調査を行い,過去に琉球列島南部,宮古諸島と八重山諸島に襲来した津波営力の違いについて考察を行うことを目的とする.本研究では,宮古諸島に属する宮古島・下地島,八重山諸島に属する石垣島・黒島の4島を調査対象地域として選び,宮古島東平安名崎海岸,下地島西海岸,石垣島大浜・真栄里海岸,黒島南海岸において,津波石の調査が実施された.これらの海岸では琉球石灰岩からなる海崖をもつ海岸段丘が発達し,段丘上や崖の基部,サンゴ礁上に大小様々な津波石が分布する.各海岸の背後には,岩塊が供給されうる丘陵などの高台が存在しないため,段丘上の岩塊は津波によって崖を乗り越えた可能性が高いと判断し,本研究では3 m以上の長径をもつ巨礫を津波石とみなした.津波石の重量(W)と海崖の高さ(H)に関する以下のような調査・分析を行った. Wを求めるため,津波石の体積(V)と密度(ρ)の推定を行った(W=ρgV,gは重力加速度). Vは津波石の長径と中径と短径の計測および高精細地形測量(TLSおよびSfM測量)による3D解析を併用し求められた.ρは弾性波速度の計測値から推定された.Hはレーザー距離計を用いて計測された.津波石は,宮古島ではH=17 mの段丘上に14個,下地島ではH=10 mの段丘上に1個,石垣島ではH=3 mの段丘上に4個,黒島ではH=3~4 mの段丘上に6個,計25個が確認された.段丘上の津波石が津波によって崖下から運搬されたと仮定すると,W・Hは津波石の鉛直方向の移動にかかった仕事を示すことから,津波石を崖上に運搬するのに必要な津波営力(運動エネルギー)の指標となる.さらに各島のW・Hの最大値は,各島における過去最大の津波を示すと考え,それらの値を比較してみると,その大小関係は下地島≧宮古島>石垣島>黒島となった.この結果は,過去に宮古諸島に八重山諸島よりも大きな津波が襲来したことを示唆し,石垣島周辺で最も大きい津波が襲来したとされる1771年の明和津波とは異なっている.
著者
早川 裕弌 松多 信尚 前門 晃 松倉 公憲
出版者
日本地形学連合
雑誌
地形 (ISSN:03891755)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.21-36, 2013-01-25

Recession rates of four waterfalls formed by the surface deformation of the Chelungpu Fault at the time of Chi-Chi Earthquake on September 21, 1999 in central Taiwan were measured in the field and assessed with an empirical model of waterfall erosion. The model represents the balance between the erosive force of streams versus bedrock resistance with relevant environmental parameters of discharge (drainage area and precipitation), waterfall form and bedrock strength. The recession rates of three waterfalls increased from the first 6 years to the following 4 years. This increase in the recession rates basically corresponds to the changes in environmental factors including precipitation increase and waterfall width narrowing. The recession rate of another waterfall decreased, but this can be explained by artificial modification of riverbed. The recession rates are very high comparing with waterfalls in other places, probably due to large amount of hard gravels transported on the weak bedrock from the upstream areas.