著者
長谷川 直子 横山 俊一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.202-220, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
18

本稿では,学生が主体となった雑誌の出版やテレビ出演などのアウトリーチ活動から,社会がそれをどのようにとらえ,また学生自身が社会の反応をどのようにとらえたのかについて考察した.当初は授業の成果を出版することで地理学をアウトリーチする意図があった.しかし社会からは,男性的なイメージの強い地理に女子がいることの意外性から女子の側面が取り上げられ,発信した学生の中には当初の意図と違うとらえ方をされたことに対する戸惑いがあった.結果的には,その意外性から多くのマスコミに取り上げられ多くの人にアウトリーチできた.学生主体のアウトリーチは,学術的専門性とはまた別の次元でその親しみやすさ,面白さを伝えられるという点で,学問に直接的な興味をもたない人々へのアプローチを可能にする.研究者が先端的な研究内容をアウトリーチするのとは対象者・目的・内容が異なり,一つの効果的な社会へのアプローチ方法であると考えられる.
著者
長谷川 直子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b><u>1. </u></b><b><u>はじめに/目的</u></b><b><u></u></b> 演者は総合学としての地理の視点を広く社会に広める一環として、大学で実施した1授業の成果を2016年3月に出版した(お茶の水女子大学ガイドブック編集委員会編2016).この雑誌の出版をきっかけとして様々なメディアに露出する機会があった。今後のアウトリーチ活動の参考とするために、これまでに対応したメディアとのやりとりや学生主体の社会発信について報告・総括したい。 &nbsp; <br> <u>2.</u><u> メディアからの問い合わせと対応</u>&nbsp;学生によるTwitterの書き込みを日本地理学会がRetweetした。タモリ倶楽部のプロデューサーが日本地理学会のツイートをフォローしており、地理女子の書き込みを見つけた。地理に女子という存在がいるという発見と、そのフォロー数が少ないことからまだメジャーでないと認識され(メジャーなものは取り上げない主義)、タモリ倶楽部の出演の依頼があった。 タモリ倶楽部の担当者からお茶の水女子大学広報宛に2016年2月2日に出演の依頼があった。その時点で収録日は2月20日と予定しているのことだった。学生の希望を募り、出演希望の学生と制作会社とで打ち合わせが約2週間かけて行われた。雑誌の発売後3月20日頃に文京経済新聞から取材の依頼があった。販売後の反響や作成側の思い等について、演者と学生2名が取材対応され、記事は約1週間後に掲載された。 4月1日にタモリ倶楽部が放送された。放送は神回と評され、そのツイッターをまとめたサイトtogetterは放送直後に60万ビュー、(2017年1月現在70万ビュー)を越えた。その反響の大きさから、aol.news やlivedoor.newsの記事になった。「地理女子という新たなジャンルの誕生」というtogetterのまとめサイトも作られた。 5月12日に大学広報経由で東京新聞記者から取材の依頼があった。東京新聞の最終面TOKYO発に掲載する記事で、地理女子の実態を知りたいとのことだった。記者さんからの依頼で学生5名が記者さんをまちあるき案内しながら、地理の魅力等の質問に答えるという形で取材が行われ、6月23日に記事が掲載された。 6月25日、雑誌版元経由で東京FMの放送作家から取材の依頼があった。内容は学生に朝の番組クロノスへ生出演し、地理の魅力について語ってほしいというものだった。学生2名が7月15日に生放送に出演した。 &nbsp;7月21日、大学広報経由でJ-waveの放送作家から取材の依頼があった。東京の今を切り取るtokyo dictionaryというコーナーで紹介するため、演者が電話録音での取材に答え、7月28日に放送された。 9月28日、日経MJの記者から取材の依頼があった。日経MJ最終面の「トレンド」というコーナーで、最近ブームになりつつある地理女の実態やその広がりを取材したいということだった。10月22日に行われるひらめき☆ときめきサイエンスで地理女子が女子中高生をまちあるき案内するというイベントが地理女子の活動の広がりにあたるということで取材をしたいということだった。そのためこのイベントに参加する中高生と同伴者全員に許可を取り(日本学術振興会のルールによる)、取材が行われた。日経MJの記事が好評だったことを理由に、日経新聞(全国版)11月26日に縮小記事が再掲された。 なお、文京経済新聞を除くラジオと新聞の取材はすべて、タモリ倶楽部の出演がきっかけとなっていた。 &nbsp; <br> <b><u>3</u></b><b><u>.まとめ</u></b><b></b> 雑誌を出版してもタモリ倶楽部の出演がなければその後のマスコミ取材はなかったと思われる。がタモリ倶楽部の視点が(番組の性質上)出演学生の一部にとっては違和感を感じるものであったことも事実である(真面目な「地理学」を語りたかったのにステレオタイプな「女子」の面が強調された)。そのようなことがかえって、一部の学生内に「女子」と言われることへの違和感やアレルギーを引き起こしていることも事実である。しかしこれをきっかけに、(自分が考える、社会が考える)「地理」や「女子」とはなんなのか、といった議論が学生内で起こり、それについて真剣に考えていることは、ある意味での教育にもなっていると考える。 関わった教員としては、「発信の結果起こったことを教員のせいにするのではなく、学生自身が考えて結論を出し、その結果起こったものは自らでその責任を負う」という自立性を学んでもらうところまでもって行く必要があると考えているが、その部分がまだできていないことが課題である。 &nbsp; (本研究はJSPS科研費(課題番号26560154)の成果の一部である。 &nbsp; <br> <b><u>参考文献:</u></b>お茶の水女子大学ガイドブック編集委員会編(2016)「地理&times;女子=新しいまちあるき」古今書院.128p
著者
長谷川 直子 三上 岳彦 平野 淳平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.116, 2019 (Released:2019-09-24)

1. はじめに/研究目的・方法 長野県諏訪湖では冬季に湖水が結氷しその氷が鞍状に隆起する御神渡りと呼ばれる現象が見られる。これが信仰されてきたことにより、その記録が575年にわたり現存している(石黒2001)。この記録には湖の結氷期日も含まれており、藤原・荒川によってデータベース化され(Arakawa1954)それらが長期的な日本中部の冬季の気候を復元できる資料として世界的にも注目されてきた(Gray1974)。 しかしこれらのデータは複数の出典に分かれており、出典ごとに記載されている内容が異なるものであり(表1)、統一的なデータベースとして使用するには注意が必要である。また一部の期間についてはデータのまとめ違いがあることもわかっており(Ishiguro・Touchart 2001)、このデータを均質的なデータとしてそのまま使用することは問題と考えている。そこで演者らはこのたび、諏訪湖の結氷記録をもう一度改めて検証し直し、出典ごとに記載されている内容がどのように違うのかを丁寧に検討し、それらのデータの違いを明らかにしていく。 2.諏訪湖の結氷記録の詳細 写真1:現地調査で確認した原本の例 諏訪湖の結氷記録は出典が様々であり、大きく分けると表1のようになっている。出典毎にそれぞれ、観測・記録した団体が別々のものであったり、観測者が記載したものから情報が追加されて保管されているものもある。表1に示した出典のうち一部は諏訪史料叢書に活字化されて残されているが、そこに掲載されていない資料もある。活字化されていないものについては原本に当たる必要があるが、現在ではその原本が所在不明なものもある。演者らは、活字化されていない資料を中心に、原本の所在を確認しているところである(写真1)。また世界的に広く使われている期日表は藤原・荒川のものであるが、田中阿歌麿が「諏訪湖の研究」(田中1916)の中ですでに期日表をまとめており、これと藤原・荒川期日表との照合も必要であると考えている。 3. 近年の気候変動と諏訪湖の結氷 近年、諏訪湖の結氷が稀になっていることは気候温暖化との関連も考えられ、図1に示すように気候ジャンプとの関連もみられる。これについては諏訪湖を含めた北半球での報告もされており(Sharma et al. 2016)、最近数十年に限定した詳細な検討も必要だと考えている。
著者
長谷川 直子 横山 俊一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b><u>1. </u></b><b><u>はじめに</u></b> サイエンス・コミュニケーションとは一般的に、一般市民にわかりやすく科学の知識を伝えることとして認識されている。日本においては特に理科離れが叫ばれるようになって以降、理科教育の分野でサイエンス・コミュニケーターの重要性が叫ばれ,育成が活発化して来ている(例えばJSTによる科学コミュニケーションの推進など)。 ところで、最近日本史の必修化の検討の動きがあったり、社会の中で地理学の面白さや重要性が充分に認識されていないようにも思える。一方で一般市民に地理的な素養や視点が充分に備わっていないという問題が度々指摘される。それに対して、具体的な市民への啓蒙アプローチは充分に検討し尽くされているとは言いがたい。特に学校教育のみならず、社会人を含む一般人にも地理学者がアウトリーチ活動を積極的に行っていかないと、社会の地理に対する認識は変わっていかないと考える。 <b><u>2. </u></b><b><u>サブカルチャーの地理への地理学者のコミット</u></b> 一般社会の中でヒットしている地理的視点を含んだコンテンツは多くある。テレビ番組で言えばブラタモリ、秘密のケンミンSHOW、世界の果てまでイッテQ、路線バスの旅等の旅番組など、挙げればきりがない。また、書籍においても坂道をテーマにした本は1万部、青春出版社の「世界で一番○○な地図帳」シリーズは1シリーズで15万部や40万部売り上げている*1。これら以外にもご当地もののブームも地理に関係する。これらは少なくとも何らかの地理的エッセンスを含んでいるが、地理以外の人たちが仕掛けている。専門家から見ると物足りないと感じる部分があるかもしれないが、これだけ多くのものが世で展開されているということは,一般の人がそれらの中にある「地域に関する発見」に面白さを感じているという証といえる。 一方で地理に限ったことではないが、アカデミックな分野においては、活動が専門的な研究中心となり、アウトリーチも学会誌への公表や専門的な書籍の執筆等が多く、一般への直接的な活動が余り行われない。コンビニペーパーバックを出している出版社の編集者の話では、歴史では専門家がこの手の普及本を書くことはあるが地理では聞いたことがないそうである。そのような活動を地理でも積極的に行う余地がありそうだ。 以上のことから,サブカルチャーの中で、「地理」との認識なく「地理っぽいもの」を盛り上げている地理でない人たちと、地理をある程度わかっている地理学者とがうまくコラボして行くことで、ご当地グルメの迷走*2を改善したり、一般への地理の普及を効果的に行えるのではないかと考える。演者らはこのような活動を行う地理学者を、サイエンス・コミュニケーターをもじってジオグラフィー・コミュニケーターと呼ぶ。サブカルチャーの中で一般人にウケている地理ネタのデータ集積と、地理を学ぶ大学生のジオコミュ育成を併せてジオコミュセンターを設立してはどうだろうか。 <u>3.</u><u> 様々なレベルに応じたアウトリーチの形</u> ジオパークや博物館、カルチャースクールに来る人、勉強する気のある人たちにアウトリーチするだけではパイが限られる。勉強する気はなく、娯楽として前出のようなサブカルチャーと接している人たちに対し、これら娯楽の中で少しでも地理の素養を身につけてもらう点が裾野を広げるには重要かつ未開であり、検討の余地がある。 ブラタモリの演出家林さんによると、ブラタモリの番組構成の際には「歴史」や「地理」といった単語は出さない。勉強的にしない。下世話な話から入る。色々説明したくなっちゃうけどぐっとこらえて、「説明は3分以内で」というルールを決めてそれを守った。とのことである(Gexpo2014日本地図学会シンポ「都市冒険と地図的好奇心」での講演より抜粋)。専門家がコミットすると専門色が強くなりお勉強的になってしまい娯楽志向の一般人から避けられる。一般ウケする娯楽感性は学者には乏しいので学者外とのコラボが重要となる。 演者らは&ldquo;一般の人への地理的な素養の普及&rdquo;を研究グループの第一目的として活動を行っている。本話題のコンセプトに近いものとしてはご当地グルメを用いた地域理解促進を考えている。ご当地グルメのご当地度を星付けした娯楽本(おもしろおかしくちょっとだけ地理:地理度10%)、前出地図帳シリーズのように小学校の先生がネタ本として使えるようなご当地グルメ本(地理度30%)、自ら学ぶ気のある人向けには雑学的な文庫(地理度70%)を出す等、様々な読者層に対応した普及手段を検討中である。これを図に示すと右のようになる。
著者
三上 岳彦 長谷川 直子 平野 淳平 福眞 吉美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.130, 2019 (Released:2019-09-24)

青森県十三湖は日本海に面する汽水湖で、現在は冬季に結氷することはないが、江戸時代にはほぼ毎年結氷(と解氷)し、その連続的な記録が弘前藩庁日記に1705年〜1860年の155年間にわたって残されていることが明らかになった。十三湖には、南から岩木川が流入しており、江戸時代には津軽平野で産出された米輸送の舟運に利用されていたことから、長期間の結氷解氷期日が記録されたと思われる。
著者
長谷川 直子 横山 俊一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

&nbsp;<b><u>1. </u></b><b><u>はじめに</u></b> 地理学ではある場所を訪れてその地域を現地で学び理解する巡検という活動を盛んに行う。一方観光は、同じくある地域を訪れる活動だが、増すツーリズムでは特に、その地域の風土や文化、地理を学ぶという活動に結びつかない形で行われることが多い。旅行の中に巡検的要素を入れられれば、その旅行が直接的な地理の普及につながる手段になりうるのではないだろうか。演者は昨年表参道~原宿周辺の学生向け巡検の際、当該地域に対する旅行と巡検の認識の違いについて調査し報告を行った(長谷川2015)。今回は大学の授業の中で、巡検と旅行を両方行い、その融合系としての地誌的視点を取り入れた旅行ガイドブックのサンプル作成を行ったので、その成果を報告する。 &nbsp; <b><u>2. </u></b><b><u>授業の概要</u></b> 授業はお茶の水女子大学の地理学コース向けの地理環境学演習Iという科目で、4学期制の1学期に1日2コマ(1コマは90分)連続で8週間で終了するという授業である。2コマ連続の授業の利点を生かし、現地調査を3回取り入れた。履修学生は18名であった。授業は、はじめに古今書院の巡検虎の巻(東京都地理教育研究会2002)の千駄ヶ谷から原宿のページのエリアと情報を基本として、これに掲載されている情報に肉付けする形でスポットを分担して調べて室内報告をしてもらい、後日2週かけて実際にそのエリアを巡検した(分担したスポットについて、担当学生が案内者を務めた)。その後、旅行者としてこのエリアを訪れた場合にどのようなコンセプトでどこを周りたいかを室内報告してもらい、翌週実際にその場所を訪問してもらった。最後に、巡検で学んだ地域の情報と旅行とを融合させた旅行ガイドブックのサンプルを各自が作成し、最終回の授業で発表するという形で授業は終了した。 &nbsp; <br> <u>3.</u><u> 旅行のテーマ</u> 各学生の旅行プランのテーマとしては、緑、市販のガイドブックにはあまりないところをめぐる、明治神宮と外苑をつなぐルートを作る、あえてファッションとグルメ以外を訪ねる、写真を趣味とする人向けコース、ドラマのロケ地、アート、文房具、ライダー、青山霊園へ旅行者を向かわせる試み、変わった建物巡り、アニメ、等である。緑と癒し、緑とアートなどの複合形もあった。市販のガイドブックでは定番の、買い物やおしゃれといったテーマを中心としたのは1名だけであった。この時点ですでに一般的な視点からはかなり離れていることが伺える。 &nbsp; <b><u><br>4.地誌的視点を取り入れた旅行ガイドブックのテーマ</u></b> &nbsp;学生の作成した旅行ガイドブックサンプルはそれぞれ以下のようなテーマで作成されていた(作成者の意図を説明)。1)都心の緑と癒しを求めて、2)オタク文化を訪ねて(聖地巡礼など)、3)原宿・表参道の意外な魅力発見の旅、4)日本の歴史を歩いて感じるコース、5)ブラタモリファンに捧ぐ表参道さんぽ、6)子どもと楽しむ明治神宮・神宮外苑、7)ハイセンスな街 表参道で自分磨きをしよう、8)原宿・青山 歴史と散歩の旅、9)じゃらんじゃらん千駄ヶ谷、10)月曜日に巡る美術館・アート巡り(月曜日には美術館の休館日が多いため、その日でも巡れる場所を提示)、11)ハカマイラーのための歴史散歩(青山霊園は良いスポットなのに市販のガイドブックではことごとく無視されているので、なんとか青山霊園に人を呼び込めないかという工夫の成果)、12)表参道・青山の建物めぐり(変わった建物が多い) &nbsp; <br> <u>5.</u><u>学生作成のガイドブックから見えてきたこと</u> &nbsp;学生主体の地誌的視点を取り入れたガイドブックは以下のような特徴を持っていた。 ・&nbsp;&nbsp; 地誌的視点を取り入れつつも話題となっているスポットを取り入れている(聖地巡礼、ハカマイラー、文具カフェ、ブラタモリ、パワースポットなど) ・&nbsp;&nbsp; 様々なターゲット層を扱っていた ・&nbsp;&nbsp; 財布に優しい飲食店やスイーツ店、タダで見られる場所等を選定していた(逆に今人気の高額なパンケーキ店等は一人も取り上げていなかった) ・&nbsp;&nbsp; 通常の巡検でも利用できるポイントも記載(富士塚など) ・&nbsp;&nbsp; 女性的な紙面構成(ことりっぷ的) &nbsp; (本研究はJSPS科研費(課題番号26560154)を使用した。) <br> <b><u>参考文献:</u></b> 長谷川直子(2015)旅行と巡検の違いを探るー1日巡検授業実践報告&mdash;.お茶の水地理.54.31-34. 東京都地理教育研究会(2002)エリアガイド地図で歩く東京I東京区部西.101p.
著者
戸田 真夏 長谷川 直子 大八木 英夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

筆者らは、地誌学的な視点の一般への普及の手段として、地域を総合的に理解できる地誌的旅行ガイドブックを作成、出版することを目標に活動している。その基礎情報を得るため、大学生を対象として国内旅行に関するアンケート調査を行い、その大まかな結果については2014年春に報告した。それに引き続き今回は、旅行動向の男女による違いについて報告する。アンケートの有効回収数は965である。男女毎の回答数は男子が542、女子が409である。以下、主に男女差の見られた項目について示す。「鉄道」、「車」、「バイク」、「体を動かすことが好き」などアウトドア派や「アニメ好き」は男子学生が多い。一方、「写真を撮ることが好き(デジカメ所持)」、「テーマパーク好き」は女子学生が多い。「旅行好き」、「食べることが好き」は男女差なく1,2位を占める。このことから女子はイベント、思い出を求め、男子は趣味や体験重視と考えられる。日帰り旅行や国内宿泊旅行の頻度は「年1回」や「ほとんどしない」のは男子学生が多いが、「週1程度」で高頻度なのも男子学生が多い。男子学生は好きな人は沢山行くが興味のない人は行かない、と極端な違いがあると思われる。なお、「旅行好き」は宿泊も日帰りも行っている。日帰り旅行や 宿泊旅行の同行者については、「一人」は圧倒的に男子学生が多く、また「友人」も男子学生が多い。「家族」は日帰り旅行では女子学生のほうがやや多いが、宿泊旅行では男子がやや多い。女子のほうが旅行に対して受動的なのかもしれない。.旅行先を決める理由に関して、「行ったことがない」は男子が多いことから、男子はフットワークが軽いと考えられ、「日数で決める」ことが多い女子は、現実的なのではないだろうか。国内宿泊旅行の目的について、「自然の景色を求める」のは男子学生が多い傾向が見られた。旅行先を決めるきっかけは、「書籍」、「知人の話」、「趣味」、「授業」に影響されるのは男子学生が多く、「旅行ガイドブック」や「旅行会社」は女子学生が多い。旅行へ行く際の情報収集の手段については「HP」や「ネット口コミ」は男子学生が多く、「旅行ガイドブック」は女子学生が多い。ガイドブック利用冊数関しては、女子の方が利用する割合が高く、男子はまったく利用しない割合が高い。購入の有無では女子の方が購入し、男子は購入しない人が多い。また、女子学生のほうが購入費用をかけている。知っているガイドブックについては、女性ターゲットの「ことりっぷ」や「タビリエ」はやはり女子学生のほうが認知度が高い。ガイドブック購入時に重視する点では、一位の「情報が豊富」では男女差は見られないが、「かわいい」、「持ち運びやすさ」はやや女子学生が重視する傾向がある。ガイドブックの記事で重視する情報については、男子は「自然」と「宿泊」なのに対して、女子は「お土産の買える場所」と「飲食店」といった具合で違いが目立った。「ガイドブックのモデルコースを参考にするか」との問いに対しては、女子学生のほうが「参考にする」傾向がみられるものの、「かなり参考にする」人は男子学生のほうが多い結果が得られた。ガイドブックに載っていない現地での発見については男子学生のほうが重要視している傾向が高かった。筆者らが目指している地誌的説明が詳しいガイドブックに対しては、男女とも魅力は感じてくれている。 様々な質問項目で男女の違いが見られた。全体を通して、男子学生の方が能動的、女子学生の方が受動的な印象を受ける。言い方を変えると、男子学生の方が個性的な旅行を好み、女子学生の方が周囲に影響されやすいようにも思える。一方で女子学生の方がガイドブックを使う人が多いことから計画的にも思える。これらのアンケート結果の指向性に基づくと、地誌的な旅行は男子学生の方が興味を示しそうな気もするが、最後の質問で直接「地誌に特化したガイドブック」と聞くと、女子学生も興味を持っている回答結果を示している。
著者
三上 岳彦 長谷川 直子 平野 淳平 Batten Bruce
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p>弘前藩御国日記には、江戸時代の弘前における毎日の天候が記載されている。そこで、11月〜4月の冬春季における降水日数と降雪日数から、毎年の降雪率(降雪日数/降水日数)を求めて、1705年〜1860年の長期変動を明らかにした。同じく、弘前藩日記に記載された十三湖の結氷日と解氷日から結氷期間(日数)を求めて、その長期変動特性を明らかにした。次に、冬春季における弘前の降雪率と平均気温との関係を考察するために、観測データ(AMeDAS弘前)の得られる最近数十年間について、毎年の降雪率と冬春季の平均気温との関係を分析した。</p><p>1705年〜1860年の156年間における十三湖の結氷期間と弘前の降雪率の変動傾向は、年々変動、長期傾向(11年移動平均)ともに類似している。すなわち、十三湖の結氷期間が長い年や年代は寒冷で、降雪率が高く、結氷期間が短い年や年代は温暖で、降雪率が低い。長期トレンドで見ると、十三湖の結氷期間は100日間前後で一方向の変化は見られないが、弘前の降雪率は18世紀前半から19世紀前半にかけてやや減少傾向にある。1740年代と1820年代に、結氷期間と降雪率がともに低下した時期があり、一時的な温暖期と考えられる。とくに、1810年代から1820年代にかけての降雪率の顕著な低下については、従来の研究では指摘されたことがないので、さらに分析を進めたい。</p><p>観測データ(AMeDAS弘前)の得られる1983年〜2020年の38年間について、毎年の降雪率(11月〜4月)と平均気温(12月〜3月)の関係から、両者の間に負の有意な相関があることがわかった。これにより、十三湖の結氷期間や降雪率から、弘前の冬春季の平均気温変動を復元することが可能となろう。</p>
著者
長谷川 直子 横山 俊一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100040, 2015 (Released:2015-04-13)

1. はじめに サイエンス・コミュニケーションとは一般的に、一般市民にわかりやすく科学の知識を伝えることとして認識されている。日本においては特に理科離れが叫ばれるようになって以降、理科教育の分野でサイエンス・コミュニケーターの重要性が叫ばれ,育成が活発化して来ている(例えばJSTによる科学コミュニケーションの推進など)。 ところで、最近日本史の必修化の検討の動きがあったり、社会の中で地理学の面白さや重要性が充分に認識されていないようにも思える。一方で一般市民に地理的な素養や視点が充分に備わっていないという問題が度々指摘される。それに対して、具体的な市民への啓蒙アプローチは充分に検討し尽くされているとは言いがたい。特に学校教育のみならず、社会人を含む一般人にも地理学者がアウトリーチ活動を積極的に行っていかないと、社会の地理に対する認識は変わっていかないと考える。 2. サブカルチャーの地理への地理学者のコミット 一般社会の中でヒットしている地理的視点を含んだコンテンツは多くある。テレビ番組で言えばブラタモリ、秘密のケンミンSHOW、世界の果てまでイッテQ、路線バスの旅等の旅番組など、挙げればきりがない。また、書籍においても坂道をテーマにした本は1万部、青春出版社の「世界で一番○○な地図帳」シリーズは1シリーズで15万部や40万部売り上げている*1。これら以外にもご当地もののブームも地理に関係する。これらは少なくとも何らかの地理的エッセンスを含んでいるが、地理以外の人たちが仕掛けている。専門家から見ると物足りないと感じる部分があるかもしれないが、これだけ多くのものが世で展開されているということは,一般の人がそれらの中にある「地域に関する発見」に面白さを感じているという証といえる。 一方で地理に限ったことではないが、アカデミックな分野においては、活動が専門的な研究中心となり、アウトリーチも学会誌への公表や専門的な書籍の執筆等が多く、一般への直接的な活動が余り行われない。コンビニペーパーバックを出している出版社の編集者の話では、歴史では専門家がこの手の普及本を書くことはあるが地理では聞いたことがないそうである。そのような活動を地理でも積極的に行う余地がありそうだ。 以上のことから,サブカルチャーの中で、「地理」との認識なく「地理っぽいもの」を盛り上げている地理でない人たちと、地理をある程度わかっている地理学者とがうまくコラボして行くことで、ご当地グルメの迷走*2を改善したり、一般への地理の普及を効果的に行えるのではないかと考える。演者らはこのような活動を行う地理学者を、サイエンス・コミュニケーターをもじってジオグラフィー・コミュニケーターと呼ぶ。サブカルチャーの中で一般人にウケている地理ネタのデータ集積と、地理を学ぶ大学生のジオコミュ育成を併せてジオコミュセンターを設立してはどうだろうか。 3. 様々なレベルに応じたアウトリーチの形 ジオパークや博物館、カルチャースクールに来る人、勉強する気のある人たちにアウトリーチするだけではパイが限られる。勉強する気はなく、娯楽として前出のようなサブカルチャーと接している人たちに対し、これら娯楽の中で少しでも地理の素養を身につけてもらう点が裾野を広げるには重要かつ未開であり、検討の余地がある。 ブラタモリの演出家林さんによると、ブラタモリの番組構成の際には「歴史」や「地理」といった単語は出さない。勉強的にしない。下世話な話から入る。色々説明したくなっちゃうけどぐっとこらえて、「説明は3分以内で」というルールを決めてそれを守った。とのことである(Gexpo2014日本地図学会シンポ「都市冒険と地図的好奇心」での講演より抜粋)。専門家がコミットすると専門色が強くなりお勉強的になってしまい娯楽志向の一般人から避けられる。一般ウケする娯楽感性は学者には乏しいので学者外とのコラボが重要となる。 演者らは“一般の人への地理的な素養の普及”を研究グループの第一目的として活動を行っている。本話題のコンセプトに近いものとしてはご当地グルメを用いた地域理解促進を考えている。ご当地グルメのご当地度を星付けした娯楽本(おもしろおかしくちょっとだけ地理:地理度10%)、前出地図帳シリーズのように小学校の先生がネタ本として使えるようなご当地グルメ本(地理度30%)、自ら学ぶ気のある人向けには雑学的な文庫(地理度70%)を出す等、様々な読者層に対応した普及手段を検討中である。これを図に示すと右のようになる。
著者
横山 俊一 長谷川 直子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b><u>1. </u></b><b><u>はじめに</u></b><br><br>娯楽指向の一般の人たちへ地理的視点を広めるには、世の中で広く受け入れられている地理コンテンツを活用するのが得策であると考える。そこで演者らは、一般普及に効果のある地理コンテンツの形式や現状について調査してきたが<sup>*</sup><sup>1</sup>、日常的に見られるテレビ番組や雑誌など一般社会での地理的コンテンツへのニーズは潜在的に存在していることが確認できた。そのようななか、比較的安価な値段でコンビニなどで販売されているペーパーバック書籍に注目した。本発表ではこれまでに確認できた地理的な内容を含んでいると考えられるペーパーバック書籍を中心に、その特徴について報告する。<br><b><u>2. </u></b><b><u>コンビニペーパーバックについて</u></b><b></b><br>コンビニペーパーバックは多くの種類が販売されているが、当初人気マンガの廉価版としてはじまった。1冊500円程度の値段で手軽に購入できることから売り上げも伸び、マンガ以外のアイドルなどの芸能関連、マニアックな歴史ものなど種類も増えていった。そのようなことか様々な出版社からペーパーバック書籍が販売されることとなり、地理的コンテンツを含んだペーパーバックも出版されるようになった。特にD社の地図帳シリーズは1シリーズで40万部を売り上げ学校教員も参考として購入している<sup>*2</sup>。地理的コンテンツを含んだペーパーバックを多数出版しているD社であるが、ここ数年は文庫や新書の販売にシフトしている。<br><b><u>3.</u><u> 方法</u></b> <br>これまにコンビニで販売されたペーパーバックの中から地理的コンテンツを含んだものがどれくらい出版されているのかを各出版社のwebサイト、出版年鑑などから調査しており、書籍のタイトルに「地図」「地名」「地理」というキーワードのあるもの、またそれに近い地理的な要素となる単語を含むもの(都市、都道府県、日本、世界、紀行、鉄道)を基準として実物の書籍の確認を行っている。それらの編著者、出版社、総ページ数、出版年、サイズ、価格等をデータベース化している。<br><b><u>4.</u><u> 結果</u> </b><br>タイトルは表1にあるように「地図」あるいは「地図帳」となっているものが圧倒的に多い。これは演者らがこれらの出版社の編集者に聞き取りを行ったときにも、「地理」というよりも「地図」といったほうが一般受けがいいと言われたことと矛盾しない。ペーパーバックの著者名は◯◯地理研究会や◯◯地理学会といったものもが多く一見アカデミックなものとなっているが、これらのほとんどは学術団体ではなくライター集団が名乗っている名前である。1冊のみ地理学者が監修した本がある。<br><b><u>5.</u></b><b><u> 考察</u></b><b> </b><b></b><br>D社の№16-23の地図帳シリーズは40万部を売り上げたということからも、地理の一般への普及手段としてペーパーバックは見逃せない。そしてこの地図帳シリーズの購入者として、学校教員も多いということからも地理教育の面からも重要である。地理学研究者の書籍の多くは専門分野のフィードバックであり、専門書やさらに平易に記した新書などが中心である。これは自らか学ぼうとする人や知的好奇心の強い一般の人には非常に有効である。しかし自ら学ぶ意欲の少ない人を対象とした場合、その取っ掛かりには限界がある。そこでコンビニを中心として販売されているペーパーバックをもちいることで地理の一般普及が進んでいくのではと考える。
著者
長谷川 直子 宮岡 邦任 元木 理寿 大八木 英夫 谷口 智雅 戸田 真夏 山下 琢巳 横山 俊一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100036, 2013 (Released:2014-03-14)

2013年春の日本地理学会において、地理学の社会的役割を考えるというシンポジウムが開催された。発表者の何人かは、一般の人に地理学的な視点(広い視野、総合的な視点、現象間の関係性を理解する)がないことが問題であると指摘していた。それでは一般の人にそのような視点を持ってもらうためにはどうしたら良いか。具体的に何か作成し、普及できないか。そのような視点に立ち、筆者らは2013年春から研究グループを立ち上げて活動を開始している。地誌学的な視点の一般への普及の手段として、地誌学の視点から地域を理解する教材を子供向け(義務教育における副読本や教員向け実践実例集等)と大人向け(旅行ガイドブック)に作成できないか考えた。現在市販されているガイドブックを地誌学の視点から眺めると、単なるスポット・事象の羅列になっており、スポット間の関係性や、スポット・事象がそこに存在する理由などの地誌学的説明が見られない。旅行ガイドブックにこれらの説明をうまく入れられれば、旅行者がガイドブックを読むことで地誌学的視点が身に付くようになるのではないかと考えられる。そして、観光ガイドブックにどのように項目を取り上げ、地誌学的な記載をするかについて、検討を行った。
著者
南 和彦 長谷川 直子 福岡 修 宮島 千枝 角田 玲子 深谷 卓
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.112, no.7, pp.550-553, 2009 (Released:2010-10-26)
参考文献数
11
被引用文献数
3 4

頭頸部進行癌で皮膚浸潤を呈した症例では出血, 疼痛, 感染などを伴い, 著しくQOLを損なうが, 有効な治療手段がないのが現状である. 特に腫瘍の皮膚浸潤による自壊, 出血例では止血に難渋することが多く, 輸血を必要とすることもある.今回, われわれは皮膚科領域で使用されてきたMohs軟膏を使用した処置を頭頸部癌皮膚浸潤2症例に適応した. この治療法は病変を化学的に固定することで, 腫瘍出血, 疼痛, 感染, 滲出液を制御するとされる. 実際, いずれの症例においても出血と疼痛を制御し, QOLの改善に有効であった.Mohs軟膏による処置は頭頸部癌の皮膚浸潤および皮膚転移を伴う症例における局所合併症の制御目的に非常に有用な治療法と考えられる. 頭頸部癌進行例のQOLの改善目的にMohs軟膏を使用して局所合併症を制御し得た2症例を経験したので若干の考察とともに報告する.