著者
服部 徹也
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.100-115, 2018-05-15 (Released:2019-05-15)

本稿は夏目漱石の講義とその書籍化『文学論』との間の変容を明らかにするため、学生の受講ノートと日記、『文学論』原稿を用いて作家出発期(一九〇四年末から一九〇五年初頭)の刊本未収録の講義内容を論じた。講義の段階では騙されることと虚構を楽しむことを類似した表現で論じ、『ドン・キホーテ』やシェイクスピア戯曲を用いて悲劇と喜劇は同型であり異なるのは観客の心理的態度であると論じる箇所があった。この未収録箇所は、情緒によって読者・観客が催眠的に物語世界にのめり込むという漱石の虚構論の根幹に関わる。漱石は講義と『文学論』では虚偽と虚構をうまく区別して定義できなかったが、『倫敦塔』では虚偽をしかけに用いつつ、虚構ならではの真偽の宙づりが効果的に用いられている。
著者
服部 徹也
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.1-16, 2016-05-15 (Released:2017-05-15)

漱石は『文学論』出版に際し、草稿『文学論ノート』、東京帝国大学講義に見られる描写論を増補している。本稿はこの描写論に作品世界への没入体験である「幻惑」が密接に関わることを示した。またこの描写論の理論的課題が視覚性の問題であることを論証し、漱石がこの課題に小説『草枕』でも取り組んでいたことを示した。漱石の描写論は視覚性の問題を探究してはいるが、『草枕』のような作品を読む際に生じる視覚性とイメージ連鎖を説明しきることはできない。読者の認知過程に多くを委ねる『文学論』は、「自己催眠的」な読者の一回的な読みによって暫定的に傍証を得るしかない理論的限界をもつ。本稿は『文学論』と『草枕』の緊張関係を読み解き、漱石が困難を冒して描写による「幻惑」とその理論化に挑んでいたことを示した。
著者
服部 徹
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.397-402, 2008-07-01

海外では,聞かれた市場で卸電力が取引されるようになって久しい.ところが,電力そのものの市場価格だけでは,必要な設備投資のインセンティブを与えられず,安定供給のための十分な設備容量の確保に懸念が生している.米国の北東部では,卸電力を調達する小売供給事業者に,あらかじめ一定の設備容量を確保する義務を課し,その過不足を調整するための容量市場が設立されている.容量市場には,設立当初から,様々な問題を指摘されてきたが,制度改革も進んでいる.本稿では,このような電力取引に伴う容量市場導入の経緯を振り返るとともに,米国北東部の事例から,その制度設計の課題について解説する.
著者
服部 徹
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.79-83, 2020 (Released:2020-08-08)
参考文献数
4
被引用文献数
1

海外では,電力市場における競争の中で収支が厳しい原子力発電に対し,政府が支援策を講じる例がある。自由な競争が行われるはずの市場において,政府が特定の電源を支援することは避けるべきと考えられているが,電力市場の制度設計が完全である保証もない。その場合,エネルギー政策の目標をより効率的に達成できる手段を政府が提供しうる可能性は否定できない。市場メカニズムを活用するメリットをできる限り損なわずに,原子力の新増設や既設炉の維持を促していくことが模索されている。
著者
服部 徹太郎 諸橋 直弥
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

申請者は,CO_2をLewis酸で活性化し,有機化合物へ親電子的に固定化する方法について研究しており,AlBr_3の存在下,トルエンのCO_2によるカルボキシル化が,過剰量のMe_3SiXの添加により著しく促進されることを見出している。本研究の目的は,本反応の反応機構を検証し,その原理を抽出して新しい高度分子変換法へ展開することであり,今年度は,下記の成果を得た。1. トルエンのCO_2によるカルボキシル化におけるシリル化剤の反応促進効果は,シリル化剤が活性種と考えられるCO_2とAlからなる錯体をよりいっそう活性化するためであることが昨年度の研究により示唆されたが,このことがIRによる活性種の分析でも支持された。また,CO_2圧下,R_3SiClとAlBr_3を反応させて得た反応混合物を用いると,窒素下でもトルエンを30%程度の収率でカルボキシル化できることを見出した。2. N-上に置換基を有するピロール類およびインドール類が,Me_2AlClの存在下に,CO_2で容易にカルボキシル化できることを見出した。3. CO_2を選択的かつ強く活性化する金属錯体を設計することを最終的な目標として,種々のモノおよびビスチアカリックス[4]アレーン類を合成し,チタンとの錯形成能を評価した。4. ケイ素上に種々の置換基を有するシリルアミンR_3SiNR'_2とAlCl_3を用いて,N-メチルピロール,N-メチルインドールを良好な収率でシリル化できることを見出した。また,シリルクロリドR_3SiClをAlCl_3,^iPr_2EtNとともに用いると,シリルアミンを用いた場合に比べて収率が向上した。5. 班員間共同研究により,1,1'-ビナフタレン-2,2'-ジカルボン酸の誘電率制御分割に成功した。