著者
神津 玲 藤島 一郎 朝井 政治 俵 祐一 千住 秀明
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.93-96, 2007-08-31 (Released:2017-04-20)
参考文献数
7
被引用文献数
1

摂食・嚥下障害例では誤嚥,特に唾液誤嚥(不顕性誤嚥)が問題になることが少なくない.その予防のために,呼吸理学療法の一手段である体位管理が臨床的に有用であることを経験する.今回,唾液誤嚥に及ぼす体位の影響について検証を行った.重度嚥下障害例を対象に,仰臥位,後傾側臥位,前傾側臥位の各体位での唾液誤嚥の動態を喉頭内視鏡を用いて観察した.その結果,仰臥位および後傾側臥位では,唾液の著明な咽頭貯留,吸気時の喉頭侵入や呼気時の吹き出しを認めたが,前傾側臥位では咽頭貯留,喉頭侵入ともに認めなかった.唾液誤嚥の予防に前傾側臥位の有用性が示され,臨床現場における患者管理の一環として積極的に導入する価値があるものと考えた.
著者
朝井 政治 俵 祐一 佐々木 綾子 岡田 芳郎 夏井 一生 中野 豊 神津 玲
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D0484, 2006 (Released:2006-04-29)

【はじめに】 間質性肺炎における治療はステロイド薬を中心とした薬物療法が主体で、理学療法の適応は少ないとされてきた。しかし近年、病態の安定した本疾患患者において、運動療法により運動能、QOLが改善するという報告がみられている。今回、間質性肺炎の増悪でステロイド薬投与開始となった症例の運動機能を6分間歩行距離テスト(6MD)にて評価し、理学療法の効果を検討したので報告する。【対象】 当院呼吸器センター内科にて入院治療を行った間質性肺炎患者7名(男性4例、女性3例、平均年齢69.0歳)を対象とした。全例とも間質性肺炎の増悪にて入院となった。全例でステロイド薬が投与され、うち5名で短期間大量投与による治療(パルス療法)が行われた。【方法】 入院中に実施した6MDによる歩行距離、酸素飽和度(SpO2)の変化、呼吸困難感の変化(Borg Scale)を指標とし、ステロイド薬投与前(1回目)とパルス療法後または投与開始から2週もしくは4週間後(2回目)で比較(薬物療法効果)するとともに、2回目の結果とステロイド薬減量中に並行して一定期間運動療法を実施した後を比較(理学療法効果)し、その効果の相違を検討した。理学療法は上下肢の筋力増強、歩行・自転車エルゴメータによる運動耐容能向上を目的とした運動療法を中心に実施した。運動の負荷量は、SpO2やHRをモニタリングしながら、Borg Scaleにて3-4を目安とした。運動時間は30-40分とし、1日1回、週6日の頻度で実施した。【結果】1)薬物療法効果:1例で入院直後にパルス療法が行なわれたため、6例で検討した。1回目と2回目の比較では、2回目の6MDは全例で増加を認め、平均91.7m(25-260m)増加した。SpO2は、平均で1回目7%の低下、2回目5.6%の低下、呼吸困難感は1回目0.5-6、2回目0-3であった。2)理学療法効果:理学療法の実施期間は平均50.0日(平均実施回数30回)で、実施期間中に原疾患の悪化あるいは感染等で再増悪した症例はなかった。3回目の歩行距離は、2回目の結果からさらに平均34.3mの増加を認めた。SpO2は平均7.2%低下したが、最低値は87-92%と著明な低酸素血症は認めなかった。呼吸困難感は0-4であった。【考察】 2回目の歩行距離の著しい増加は、薬物療法による呼吸機能の改善が運動能力の向上につながったと考えられた。3回目では、さらに平均で34.3mの増加を認め,理学療法を行うことにより、薬物療法による改善に加え、さらなる運動機能の向上を期待できると思われた。 今回の結果はあくまで理学療法と薬物療法との相乗効果であるが、ステロイド長期投与の副作用による運動機能の低下予防の点からも早期からの理学療法導入により、運動機能を維持・向上していくことが重要であると思われた。
著者
矢野 雄大 朝井 政治 田中 貴子 千住 秀明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Da0987, 2012

【はじめに、目的】 呼吸器疾患患者が訴える主症状の一つに動作時の呼吸困難がある。呼吸リハビリテーションマニュアルでは患者が動作時に呼吸困難を訴えた際は、前傾座位にて肘や前腕で机などにもたれるような安楽姿勢をとることを推奨している。しかし、この姿勢の効果に関しては一定の見解が示されておらず、実際にエビデンスレベルもGrade D(Thorax;2009)である。また、屋外歩行時などに呼吸困難が生じた際に、そのような姿勢をとることは難しく、臨床的には、肘関節伸展位で体幹を支持する前傾立位をとることが多い。そこで今回、上肢支持による前傾立位を生理学的に検証するため、健常成人を対象として上肢支持による前傾立位が安静時の呼吸機能に与える影響を検討した。【方法】 対象は健常成人20名(男性14名、年齢31.2±7.4歳、body mass index(BMI) 21.5±2.2kg/m2)である。方法は各対象者に直立位、上肢支持による30°前傾立位(上肢前傾立位)の2つの肢位で、安静時の呼吸機能をスパイロメータ(DISCOM-21 FXIII,CHEST社)にて測定した。上肢前傾立位は固定型歩行器に肘関節伸展位で体幹を前傾させる姿勢とした。また体幹前傾角度は大腿骨と、股関節・肩峰を結ぶ直線のなす角を角度計にて測定し決定した。また測定中は体幹や頚部など可能な限り同一姿勢を保持するように各対象者へ事前に説明した。測定項目は肺気量分画、フローボリューム曲線、最大換気量(MVV)とした。各姿勢で2回の測定を同日内に行い、最良値を採用した。測定姿勢の順番は、封筒法により無作為に決定した。姿勢別の各測定値の解析にはデータの正規分布の有無により、対応のあるt検定、Wilcoxonの符号付順位検定を使用した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には事前に研究に関する十分な説明を行い、同意を得た上で研究を実施した。またデータはすべて暗号化し、個人を特定できないように配慮した。【結果】 姿勢の違いにより有意差のあった項目は、肺活量(VC;直立位 4.13L vs 上肢前傾立位 4.22L)、予備呼気量(ERV;1.93L vs 2.30L)、予備吸気量(IRV;1.62L vs 1.26L)、最大吸気量(IC;2.18L vs 1.92L)、努力肺活量(FVC;4.13L vs 4.24L)、一秒量(FEV1;3.41L vs 3.52L)、最大呼気流量(PEF;7.59L vs 7.86L)、50%肺活量時の流速(V50;3.91L vs 4.37L)、最大換気量(MVV;122.5L vs 128.6L)であった。また一回換気量(TV;0.59L vs 0.66L)、一秒率(FEV1%;82.8% vs 83.6%)でも上肢前傾立位で高値となる傾向を認めた。【考察】 直立位に対して上肢前傾立位では、ERVが有意に高値、かつTVも高値となる傾向を示し、その結果VCも高値となった。またFEV1や中枢気道の流速であり努力依存性のPEF、末梢気道の流速である努力非依存性のV50など呼気に関わる気量と流速も同様に上肢前傾立位で有意に高値を示した。これは体幹前傾姿勢と上肢による支持による効果であると考えられる。体幹前傾姿勢では胸郭の前後方向への重力作用が増加し、高肺気量位の呼吸となることが報告されており、より呼気を促すことが可能となると考えられる。さらに上肢支持が加わる効果として、外腹斜筋の活動量を高め下部胸郭の収縮を促すことが可能となることや、大胸筋なども呼気筋として動員することが可能となるとの報告がある。本研究でも、上肢前傾立位では腹圧を高めやすく、かつ高肺気量位となった結果、ERVやFEV1、PEF、V50などが増加し、それらの呼気能力の向上によりVCやFVCにも増加が生じたと推察される。また上肢支持による前傾立位により最大の換気容量の指標であるMVVが増加するとされているが、本研究でも同様の結果が得られた。これには一回の換気能力の向上が影響していると考えられる。以上より、健常成人では上肢支持による前傾立位では呼気を中心として換気能力を向上させることが示唆された。今後の課題としては、静的な状態での呼吸機能の変化が、運動後など動的な状態にも影響するかを検討していく必要がある。また、健常成人での変化が、慢性閉塞性肺疾患患者などでも同様に認められるかを検証することが求められる。【理学療法学研究としての意義】 臨床的に頻繁に用いられる上肢支持の前傾立位を生理学的に分析し、効果を明らかにすることで、呼吸困難からの回復に有効な安楽姿勢であると明らかにする。
著者
朝井 政治 神津 玲 俵 祐一 宮崎 哲哉 中村 美加栄 藤島 一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.424, 2003 (Released:2004-03-19)

【はじめに】 高齢者に対する呼吸管理を行う機会が増加する中,気管内挿管下に人工呼吸管理を行った症例のうち,抜管後新たに嚥下障害や排痰困難をきたすことを経験する。このような症例では,誤嚥や分泌物の自己喀出に難渋し,離床やADLの改善に支障をきたす場合が少なくなく,臨床上大きな問題となる。 今回,人工呼吸管理後に新たに嚥下障害を呈した症例の臨床的特徴について報告する。【対象・方法】 対象は1999年4月から2002年3月までに当院にて気管内挿管,人工呼吸管理となり,理学療法が処方された187症例のうち,脳血管障害,精神科疾患,重度の痴呆,神経筋疾患および頚髄損傷,一度も抜管に至らず気管切開となったもの,を除いて,抜管ができた55例(平均年齢72.2±12.3歳,男性43例,女性12例)とした。方法は,カルテから,嚥下障害の有無を調査し,嚥下障害を呈した症例の1)患者背景,2)人工呼吸管理,3)気道分泌物貯留,4)嚥下機能評価結果,について調査した。なお,嚥下障害の有無については,問診と身体所見,および主治医や担当看護婦からの情報,嚥下機能評価の結果より判定した。【結果】 嚥下障害を認めた症例は55例のうち4例(7%)であった。以下に各症例の臨床的特徴を示す。症例1:77歳,男性。肺炎,肺結核後遺症。挿管2日。予定外抜管あり,鎮静なし。分泌物貯留中等度。症例2:84歳,男性。急性肺水腫,心不全,肺炎,腎不全。挿管5日。予定外抜管なし,鎮静5日。分泌物貯留多量。症例3:84歳,男性。塵肺,COPD,喘息。挿管8日。予定外抜管あり,鎮静7日。分泌物貯留多量。症例4:73歳,男性。肺炎,間質性肺炎。挿管24日。予定外抜管あり,鎮静22日。分泌物貯留多量。 上記症例では,後期高齢者,予定外抜管の経験,鎮静が行われていた症例がそれぞれ3例で,いずれの症例でも分泌物の貯留を認め,抜管後の経口のみによる栄養摂取困難と診断された。残る51例の平均年齢は71.6歳,挿管期間平均6.9日,鎮静28例,予定外抜管5例であった。【考察】 今回,人工呼吸管理後に新たに生じた嚥下障害の頻度と臨床的特徴を調査した。その結果,中枢神経疾患や神経筋疾患,精神科疾患など嚥下障害のリスクを有さない症例で,抜管後に嚥下障害を呈した症例は7%と必ずしも多くなかった。しかし,嚥下障害を認めた4例はいずれも経口からの摂食は困難であった。人工呼吸管理に至るような重症の急性呼吸障害を呈した症例では,critical illness neuropathyやmyopathyを呈する場合があると報告されている。上記4症例を細かく比較してみても,一定の傾向は認められず,特に原因と考えられるものがなかったことから,この状態にあったことも予想された。これは回復に長い期間を必要とするため,人工呼吸器離脱直後だけでなく,継続的,かつ注意深いサポートが必要と考えられた。