著者
井元 淳 甲斐 尚仁 真名子 さおり 片山 亜有 新貝 和也 千住 秀明
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.385-390, 2012-12-28 (Released:2016-04-25)
参考文献数
38

本研究では,誤嚥性肺炎発症の因子を考察し,その予防や発症後のアプローチの検討を行うため,誤嚥性肺炎患者と非誤嚥性肺炎患者の唾液分泌量と日内リズムについて明らかにすることを目的とした.対象は誤嚥性肺炎で入院となった10名(誤嚥群)と,その他の疾患で入院となった10名(非誤嚥群)の計20名(年齢87.9±7.9歳)であった.方法として唾液分泌量,摂食・嚥下能力,食事の種類,身体活動性などを評価した.その結果,誤嚥群では摂食・嚥下能力とともに身体活動性が低いことで誤嚥性肺炎のリスクが高まっていた.また唾液分泌量の日内リズムでは夜間の唾液分泌量は両群とも低下していた.以上の結果から,誤嚥群では口腔環境の不良による肺炎発症のリスクを高めていることが示唆された.本研究によって,肺炎の発症を予防するためには,唾液分泌量の増量と睡眠前の口腔ケアなどによる口腔環境の改善を図ることの重要性が示された.
著者
新貝 和也 千住 秀明
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.353-357, 2011 (Released:2011-07-21)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

〔目的〕運動時の音楽が身体に与える影響を,下肢疲労感,呼吸困難感および呼吸循環応答から検討することを目的とした.〔対象と方法〕対象は健常男性13名とし,無作為交差試験を採用した.対象者は運動負荷試験終了後,Endurance Shuttle Walking Testを音楽有り(以下音楽ESWT)と無し(以下コントロールESWT)の条件でそれぞれ実施した.〔結果〕呼吸困難感,下肢疲労感は音楽ESWTにおいて有意に低い値を示し,楽しさは音楽ESWTで有意に高い値を示した.また,運動時間の経過とともに音楽による効果が増加していた.呼吸循環応答では,VO2/Wのみ音楽ESWTで有意に高いという結果を示した.〔結語〕運動中に音楽を聴くことで,より少ない疲労感で,より楽しく長時間の運動が実施できることが示唆された.
著者
神津 玲 藤島 一郎 朝井 政治 俵 祐一 千住 秀明
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.93-96, 2007-08-31 (Released:2017-04-20)
参考文献数
7
被引用文献数
1

摂食・嚥下障害例では誤嚥,特に唾液誤嚥(不顕性誤嚥)が問題になることが少なくない.その予防のために,呼吸理学療法の一手段である体位管理が臨床的に有用であることを経験する.今回,唾液誤嚥に及ぼす体位の影響について検証を行った.重度嚥下障害例を対象に,仰臥位,後傾側臥位,前傾側臥位の各体位での唾液誤嚥の動態を喉頭内視鏡を用いて観察した.その結果,仰臥位および後傾側臥位では,唾液の著明な咽頭貯留,吸気時の喉頭侵入や呼気時の吹き出しを認めたが,前傾側臥位では咽頭貯留,喉頭侵入ともに認めなかった.唾液誤嚥の予防に前傾側臥位の有用性が示され,臨床現場における患者管理の一環として積極的に導入する価値があるものと考えた.
著者
石野 友子 北川 知佳 田中 貴子 中ノ瀬 八重 與座 嘉康 田所 杏平 三川 浩太郎 千住 秀明
雑誌
長崎大学医学部保健学科紀要 = Bulletin of Nagasaki University School of Health Sciences (ISSN:09160841)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.1-5, 2003-06

本研究の目的は,慢性呼吸器疾患患者に対するADL指導の有用性を検討することである.対象は慢性呼吸器疾患患者(12名)と高齢者(9名)で,洗濯物を干す動作を上肢挙上位と非挙上位にて行い,異なる作業方法が呼吸循環応答と自覚症へ与える影響を呼気ガス分析,Borg scaleを用いて検討した.結果,呼吸器疾患患者では分時換気量,体重あたりの酸素摂取量,Dyspnea index,上肢の疲労感において上肢挙上位が有意に高かった.一方高齢者では動作間の有意差は認められなかった.このことから呼吸器疾患の特異性が示唆され,ADL指導での工夫は有用であった.
著者
河戸 誠司 江口 瑠美 千住 秀明 濱出 茂治
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
日本理学療法学術大会 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.F0187-F0187, 2008

【目的】<BR> 電気刺激による筋力増強法は,健常者や様々な疾患にその効果を示している。近年,前田らによって考案されたHybrid法は,目的筋とは対側の拮抗筋に電気刺激を与え,その筋活動を運動抵抗として行う方法であり,従来とは異なる方法である。一方,遠心性収縮は高い筋張力が得られるため筋力増強に適している。本研究の目的は,電気刺激を目的筋である大腿四頭筋に与え,拮抗筋を求心性収縮させることで生じる遠心性収縮を利用した筋力増強法の効果について検討することである。<BR>【方法】<BR> 対象は,本研究に対して同意が得られた健常成人20名(男性11名,女性9名)とした。電気刺激には低周波治療器(パルスキュアー・プロ)を使用し,電極は非利き側の内側広筋,大腿直筋,外側広筋に貼付した。周波数は20Hz,通電・休止時間ともに10秒間の間歇通電法を用い,20分間/回,週3回,4週間とした。本法の筋力増強法は,電気刺激を大腿四頭筋に与えて膝関節を他動的に伸展させた後,随意的に屈曲させることで生じる遠心性収縮を利用した方法である(電気的遠心性筋力トレーニング:以下,EEMT)。測定項目は大腿四頭筋力および大腿周囲径(膝蓋骨上縁5.0/10.0/15.0cm),皮膚血流量,皮膚温度をトレーニング前および2,4週間後に測定した。統計処理は経時的変化を一元配置分散分析によって検定し,有意差を認めた場合はBonferroni法を用いて多重比較検定を行った。有意水準は5%未満(p<0.05)とした。<BR>【結果】<BR> 大腿四頭筋力はトレーニング前の188.3±72.0Nから2週間後に231.5±70.4N(22.9%),4週間後に271.7±73.2N(44.3%)へ有意な増加(p<0.001)を認めた。大腿周囲径は測定部位に関わらず4週間後に有意な増加(p<0.001)を認めた。皮膚血流量および皮膚温度は,どの部位においても経時的変化は認められなかった。<BR>【考察】<BR> 健常者を対象とした大腿四頭筋の筋力増強法は,電気刺激のみではトレーニング期間が4~6週間で最大筋力が約11~15%, Hybrid法では6週間で19~33%の増加率であったと報告されている。EEMTは先行研究と比較して,より短期間に効果を認め増加率も大きかった。電気刺激は速筋線維から興奮し,低頻度刺激は遅筋線維を賦活するとされており,遠心性収縮は速筋線維が優先的に動員され筋肥大しやすいという特徴がある。EEMT は目的筋に電気刺激と遠心性収縮を組み合わせて筋力トレーニングすることにより大腿周囲径も有意に増加し,効果的な筋力増強法と考えられた。また,筋力トレーニングや低周波電気刺激により循環動態を経時的な改善をみとめるとの報告もあるが,本研究の皮膚温度および血流量は大腿表面の変化を捉えているに過ぎず,今後はより詳細な検討が必要と考えられた。
著者
宮本 直美 北川 知佳 栗田 健介 岩永 桃子 力富 直人 神津 玲 千住 秀明
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D0483, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】2005年日本呼吸器学会で発表された「特発性間質性肺炎の診断・治療ガイドライン」では、呼吸リハビリテーション(以下、呼吸リハ)は運動耐容能や呼吸困難感の改善などが期待されると示されている。また、間質性肺炎は進行性で予後不良であるため、臨床上呼吸リハが遂行困難な症例も多い。今回、間質性肺炎に対する呼吸リハの効果について検討することを目的に、当院において呼吸リハを施行した間質性肺炎患者について調査検討したので報告する。【方法】平成9年8月から平成17年7月までに、当院に入院し呼吸リハを施行した間質性肺炎患者37例、65エピソード(平均年齢68±10.8歳、男性25例、女性12例)を対象とした。呼吸リハプログラムの内容は、運動療法を中心に動作コントロール指導を併せて実施した。呼吸リハ前後での呼吸困難感(MRCスケール)、身体組成、肺機能、運動耐容能(6分間歩行テスト、シャトルウォーキングテスト)、下肢筋力、ADL(千住らのスコア)を評価し、呼吸リハ実施期間、完遂状況、ステロイド投与量を調査した。【結果】呼吸リハ完遂可能であった患者(完遂群)は34エピソード(52%)、呼吸リハが遂行困難であった患者(非完遂群)は31エピソード(48%)で基礎疾患の増悪が主な理由であった。呼吸リハの実施期間は中央値で53.5日であった。完遂群では、呼吸リハ前後での呼吸困難感、肺機能(VC、MVV)、下肢筋力(n=12)で有意な改善を認めたが、身体組成に変化はなかった。また6分間歩行距離で有意な改善を認めたが、シャトルウォーキングテスト(n=10)の歩行距離に有意差はなかった。ADLでは有意な改善を認めた。ステロイド治療は10エピソードで実施されており、実施期間中の増量はなかった。【考察】今回、呼吸リハが遂行困難であった患者は全体の48%であった。これは間質性肺炎が進行性で、病状のコントロールが困難であるという本疾患群の病態の特徴を反映した結果であると思われた。しかし、完遂群における呼吸リハ前後の比較では、呼吸困難感、6分間歩行テスト(歩行距離)、下肢筋力、ADLで改善を認めており、症状安定期にある間質性肺炎患者では、薬物療法(ステロイド治療)とともに呼吸リハが有効である可能性が示唆された。
著者
横山 茂樹 千住 秀明 管原 正志 田井村 明博
雑誌
長崎大学医学部保健学科紀要 = Bulletin of Nagasaki University School of Health Sciences (ISSN:09160841)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.63-68, 2002-12

この研究の目的は,運動中において腹式呼吸による呼吸コントロールの有効性を明らかにすることである.対象は12名の健常男性とし,運動負荷は自転車エルゴメーターを用いて,Ramp負荷法によって最大酸素摂取量(maximum oxygen intake:Vo2max)の80%(80%Vo2max)まで施行した.実験条件は呼吸コントロールを行わない場合と,運動開始時から腹式呼吸を用いて呼吸コントロールを行った場合の2条件とした.呼吸代謝測定は呼気ガス分析器を用いて分時換気量(minute ventilation:VE)や体重あたりの酸素摂取量(oxygen intake/body weight:Vo2/BW),一回換気量(tidal volume:TV),呼吸数(respiratory rate:RR),心拍数(heart rate:HR)などの換気パラメータを測定した.その結果,運動中における腹式呼吸の効果としてVE減少やTV増加,RR減少が確認できた.また80%Vo2maxの運動負荷中において,運動初期にVEをはじめRR,HRの項目にCentral command説によると考えられる一時的な変化がみられた.運動時間70%以降の運動後半において,腹式呼吸によってVo2/BW増加とVE/Vo2減少という影響が出現していた.またV-slope法による無酸素性作業閾値(anaerobic threshold:AT)ポイントも,腹式呼吸により有意に高値を示しており,有酸素系エネルギーの供給が高められると考えらえた.
著者
綱分 憲明 田原 靖昭 湯川 幸一 千住 秀明 勝野 久美子
出版者
日本体力医学会
雑誌
体力科學 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.339-349, 1993-08-01

全国高校体育大会の女子バレーボール準優勝チーム (1988.10) 及び優勝チーム (1989.8) の九州文化学園高校選手計24名の体格, 身体組成, VO<SUB>2</SUB>max及びO<SUB>2</SUB>debtmaxを測定した.また, 同時に11ケ月間のトレーニング効果について5人を対象に検討した.得られた結果の概要は次の通りである.<BR>1.身長及び体重の平均値は, 168.3±5.22cm, 59.82±4.93kgであった.<BR>2.皮脂厚和 (8部位) の平均値は, 109.1±20.72mmであり, 一般高校生のおよそ82%であった.<BR>3.%Fatの平均値は, 17.9±3.19%で一般高校生のおよそ77%であり, LBM及びLBM/Htの平均値はそれぞれ49.03±3.64kg, 29.13±1.95kg/mであった.<BR>4.体重当たりのVO<SUB>2</SUB>max及びO<SUB>2</SUB>debtmaxの平均値は, それぞれ45.7±3.35m1/kg・min, 94.8±14.79m1/kgであった.<BR>5.同様に測定した長崎県内ベスト4チーム選手値の平均は, %Fatで22.0±3.66%, VO<SUB>2</SUB>maxで42.4±5.30m1/kg・min, O<SUB>2</SUB>debtmaxで70.5±10.27m1/kgであった.<BR>6.高校トップレベルチーム選手は, 県高校ベスト4チーム選手に比べ, %Fatは有意に低く, VO<SUB>2</SUB>max及びO<SUB>2</SUB>debtmaxは有意に優れていた.<BR>7.%Fat及びVO<SUB>2</SUB>maxは, 我が国の大学, 実業団あるいは全日本レベルとほぼ同等値であった.<BR>8.11ケ月間のトレーニングにより, VO<SUB>2</SUB>max (m1/kg・min) で有意な向上が見られ, その伸びはおよそ8%であった.なお, %Fat, LBM及びO<SUB>2</SUB>debtmaxでは, 有意な差は見られなかった.<BR>以上のことから, 九州文化学園高校チーム選手は, 全国インターハイで優勝, 準優勝という成績を収めるに必要な優れた身体組成, 有酸素的体力及び無酸素的体力をトレーニングを通して有していた.また, 資質に恵まれた選手が多く入部することも高い競技力に貢献している.
著者
千住 秀明 平山 ふみ
雑誌
理学療法 = Journal of physical therapy (ISSN:09100059)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.226-232, 2005-01-15
参考文献数
14
被引用文献数
1
著者
矢野 雄大 朝井 政治 田中 貴子 千住 秀明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Da0987, 2012

【はじめに、目的】 呼吸器疾患患者が訴える主症状の一つに動作時の呼吸困難がある。呼吸リハビリテーションマニュアルでは患者が動作時に呼吸困難を訴えた際は、前傾座位にて肘や前腕で机などにもたれるような安楽姿勢をとることを推奨している。しかし、この姿勢の効果に関しては一定の見解が示されておらず、実際にエビデンスレベルもGrade D(Thorax;2009)である。また、屋外歩行時などに呼吸困難が生じた際に、そのような姿勢をとることは難しく、臨床的には、肘関節伸展位で体幹を支持する前傾立位をとることが多い。そこで今回、上肢支持による前傾立位を生理学的に検証するため、健常成人を対象として上肢支持による前傾立位が安静時の呼吸機能に与える影響を検討した。【方法】 対象は健常成人20名(男性14名、年齢31.2±7.4歳、body mass index(BMI) 21.5±2.2kg/m2)である。方法は各対象者に直立位、上肢支持による30°前傾立位(上肢前傾立位)の2つの肢位で、安静時の呼吸機能をスパイロメータ(DISCOM-21 FXIII,CHEST社)にて測定した。上肢前傾立位は固定型歩行器に肘関節伸展位で体幹を前傾させる姿勢とした。また体幹前傾角度は大腿骨と、股関節・肩峰を結ぶ直線のなす角を角度計にて測定し決定した。また測定中は体幹や頚部など可能な限り同一姿勢を保持するように各対象者へ事前に説明した。測定項目は肺気量分画、フローボリューム曲線、最大換気量(MVV)とした。各姿勢で2回の測定を同日内に行い、最良値を採用した。測定姿勢の順番は、封筒法により無作為に決定した。姿勢別の各測定値の解析にはデータの正規分布の有無により、対応のあるt検定、Wilcoxonの符号付順位検定を使用した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には事前に研究に関する十分な説明を行い、同意を得た上で研究を実施した。またデータはすべて暗号化し、個人を特定できないように配慮した。【結果】 姿勢の違いにより有意差のあった項目は、肺活量(VC;直立位 4.13L vs 上肢前傾立位 4.22L)、予備呼気量(ERV;1.93L vs 2.30L)、予備吸気量(IRV;1.62L vs 1.26L)、最大吸気量(IC;2.18L vs 1.92L)、努力肺活量(FVC;4.13L vs 4.24L)、一秒量(FEV1;3.41L vs 3.52L)、最大呼気流量(PEF;7.59L vs 7.86L)、50%肺活量時の流速(V50;3.91L vs 4.37L)、最大換気量(MVV;122.5L vs 128.6L)であった。また一回換気量(TV;0.59L vs 0.66L)、一秒率(FEV1%;82.8% vs 83.6%)でも上肢前傾立位で高値となる傾向を認めた。【考察】 直立位に対して上肢前傾立位では、ERVが有意に高値、かつTVも高値となる傾向を示し、その結果VCも高値となった。またFEV1や中枢気道の流速であり努力依存性のPEF、末梢気道の流速である努力非依存性のV50など呼気に関わる気量と流速も同様に上肢前傾立位で有意に高値を示した。これは体幹前傾姿勢と上肢による支持による効果であると考えられる。体幹前傾姿勢では胸郭の前後方向への重力作用が増加し、高肺気量位の呼吸となることが報告されており、より呼気を促すことが可能となると考えられる。さらに上肢支持が加わる効果として、外腹斜筋の活動量を高め下部胸郭の収縮を促すことが可能となることや、大胸筋なども呼気筋として動員することが可能となるとの報告がある。本研究でも、上肢前傾立位では腹圧を高めやすく、かつ高肺気量位となった結果、ERVやFEV1、PEF、V50などが増加し、それらの呼気能力の向上によりVCやFVCにも増加が生じたと推察される。また上肢支持による前傾立位により最大の換気容量の指標であるMVVが増加するとされているが、本研究でも同様の結果が得られた。これには一回の換気能力の向上が影響していると考えられる。以上より、健常成人では上肢支持による前傾立位では呼気を中心として換気能力を向上させることが示唆された。今後の課題としては、静的な状態での呼吸機能の変化が、運動後など動的な状態にも影響するかを検討していく必要がある。また、健常成人での変化が、慢性閉塞性肺疾患患者などでも同様に認められるかを検証することが求められる。【理学療法学研究としての意義】 臨床的に頻繁に用いられる上肢支持の前傾立位を生理学的に分析し、効果を明らかにすることで、呼吸困難からの回復に有効な安楽姿勢であると明らかにする。
著者
森下 志子 森下 一樹 森田 正治 宮崎 至恵 甲斐 悟 中原 雅美 渡利 一生 松崎 秀隆 吉本 龍司 村上 茂雄 千住 秀明 高橋 精一郎
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.D1179-D1179, 2005

【はじめに】シャトルウォーキングテスト(SWT)は慢性呼吸不全患者(COPD)を対象に開発された運動負荷試験である。そのプロトコルは標準化されており,その結果から運動処方を具体的に行うことが可能であるという特徴がある。健常者に用いられる運動負荷試験として20mシャトルランニングテストがあるが,元来,スポーツ選手の全身持久力を評価するために開発されたため,最初のステージで,予測最大酸素摂取量が24.5 ml/kg/minと設定されており,運動負荷が大きいという問題点を抱えている。SWTはCOPDを対象に開発されたものであるため,プロトコルが緩やかであり,走行困難な者でも実施可能である。しかし,SWTでの運動負荷の予測式はCOPDを対象としたものであり,健常者には当てはまらない。そこで本研究では健常者を対象にSWT中の酸素摂取量を測定し,その結果から予測式を算出することを目的とした。<BR>【対象】長崎県I町在住で,町が主催する健康教室へ参加した整形外科的疾患のない25名を対象とした。年齢は26~78(平均54.17±17.76)歳,男性5名,女性20名であった。<BR>【方法】測定は,身長,体重,握力,SWT歩行距離および運動終了時の実測酸素摂取量(実測peakV(dot)O<SUB>2</SUB>)を実施した。SWTは標準プロトコルに従って測定し,酸素摂取量は携帯型呼気ガス分析装置(MetaMax2,CORTEX)を用い,ブレスバイブレス方式で記録した。呼気ガス分析より得られた実測peakV(dot)O<SUB>2</SUB>とSWT歩行距離の関係を検討するために単回帰分析を用いて予測式を作成した。<BR>【結果】実測peakV(dot)O<SUB>2</SUB>とSWT歩行距離との関係は,実測peakV(dot)O<SUB>2</SUB>=0.030×SWT歩行距離+7.397(R<SUP>2</SUP>=0.841、p<0.01)となり,高い相関関係が認められた。実測peakV(dot)O<SUB>2</SUB>の予測式を作成する上で,年齢その他の要因の関与は認めなかった。SWTプロトコルにおいて,上記予測式を基にした各レベルの予測peakV(dot)O<SUB>2</SUB>は,レベル1では7.697~8.297ml/kg/min,レベル2では8.597~9.497 ml/kg/minとなり,最高レベルであるレベル12では34.097~37.997 ml/kg/minと算出された。<BR>【考察】上記予測式の結果をMETsに換算すると,レベル1~12は2.1METs~10.9METsとなる。これをトレッドミルでの運動負荷試験として広く利用されているBruceプロトコルと比較すると,最大のレベルは3~4段階程度に相当する。Bruceプロトコルは,運動強度の増加が段階ごとに2~3METsと比較的大きく,日常的にトレーニングを行っていないものでも3段階までは到達可能である。今回の結果により,SWTでの運動負荷は,日常的にトレーニングを行っていない健常者に対する最適な運動負荷量を設定できるものと考える。
著者
竹本 泰一郎 千住 秀明 和泉 喬 門司 和彦 太田 保之 中根 允文
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

火山噴火災害の健康影響を把握し,継続的な健康管理にサーベイランスシステムを構築することを目的とした。長崎県雲仙普賢岳噴火の被災地である島原市と深江町で継続的に現地調査を行い、下記所見を得た。1)被災地の小中学生では噴火後「外で遊ぶことが減った」「テレビをみる・ゲームをする」など屋内の生活行動が増え、「夜中に起きる」「寝る時間が遅くなった」「朝起きるのがつらい」といった生活時間の変化も高頻度であった。「風邪を引きやすい」「咳・痰が出やすい」「喉が痛い」といった火山噴出物に由来する自覚症状も高頻度であった。また、これらの生活行動の変化・自覚症状が学校や家庭の避難で増強されていたことも特徴的であった。2)地域住民についてのアンケート調査では「眼の症状」が最も高頻度で、次いで「咳・痰の症状」であった。これらの有訴率は壮年期の女性、被害が大きい地区、避難住民で高かった。噴火活動の鎮静化とともに皮膚粘膜の刺激症状が低下したが、「咳・痰」「喘息」「呼吸困難」など呼吸器に関する症状は遷延化する傾向が認められた。3)スパイログラムによる呼吸機能検査では県内の非被災地に比べ閉塞性障害の頻度が高かった。4)避難住民に関する全般的健康調査(GHQ)では、壮年期の男女にストレスが強いこと、精神的健康度に頻回の避難、通院、自営業従事などが関わっていることが示唆された。以上の結果は、火山噴火の健康影響が火山噴出物による直接影響とともに避難・移住による生活環境や生業活動の変化をも包含していることを物語っている。
著者
佐藤 紀美子 北川 知佳 佐藤 豪 神津 玲 千住 秀明
雑誌
長崎大学医療技術短期大学部紀要 (ISSN:09160841)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.97-100, 1991-03-30

本研究の目的は,家事動作の作業強度を定量的に把握し,退院指導に役立てることである.対象は健常主婦9名で,方法は心拍数を連続測定し,家事動作の方法と開始・終了時間を記録させた.作業強度は,安静座位時心拍数を100とし,その増加で示した.その結果,心拍数増加が被験者間で相違の大きい作業(掃除・洗濯等)と小さい作業(食事後片づけ・買物・食事準備等)に分けられた.心拍数が高い時間帯は,掃除や洗濯を含む複数の作業の同時進行が多かった.以上より家事動作の運動量を軽減する為に,掃除・洗濯を他作業から分離することや,心拍数増加が被験者間で相違のある作業は,増加の低い作業方法を選択する等の指導の必要性が示唆された.