著者
橋本 ゆかり 杉本 陽子 Hashimoto Yukari Sugimoto Youko
出版者
三重大学医学部看護学科
雑誌
三重看護学誌 (ISSN:13446983)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.31-40, 2007-03-20
被引用文献数
1

本研究の目的は, 処置前・中・後を通しての他者の関わりによって, 静脈麻酔下で髄腔内注入を受ける小児がんの子どもの認知にどのような変化があったのかを明らかにすることである. 小児がんで小児病棟に入院しており, 髄腔内注入が予定されている 3 ~11 歳の子ども 4 名に対して処置前・中・後を通して介入を行い, 得られたデータを質的に分析し, 以下の結果を得た. 1. 4 事例すべてにおいて, 子どもは眠っている間に何が行われているのかを知らなかったが, 処置前にそのことについての説明を受けたことで, 処置室入室後の麻酔導入までの間, 混乱することなく処置を受け入れていた. また, 処置後の遊ぶ様子や子どもの話から髄注の手順や内容について理解していることがわかった. 2. 4 事例すべてにおいて, 処置中, 子どもは交渉したり好きな遊びに集中したりして自分なりの対処法を選択し, 自分で乗り越えたという気持ちがあった. 3. 幼児 3 例において, 髄注の手順について断片的な理解を示していたが, 処置場面では医療者が助言することで子どもは受けた説明内容を思い出し, 混乱はみられなかった. 4. 3 歳男児は, 処置前や処置中において特に変わった様子はみられなかったが, 処置後の遊びの中で医師役のアンパンマンの手を縛ることで処置を施行できないようにし, 「またされるから」 「怖い」 など, 拒否を示す情緒反応がみられた. We conducted a study with pediatric cancer patients who received intrathecal injection under intravenous anesthesia, with an objective to elucidate how pre-, per-, and post-treatment interventions affect childrens perception of the treatment. Four pediatric cancer patients (age range 3-11 years) who were hospitalized in the pediatric ward and scheduled to receive intrathecal injection underwent pre-, per-, and post-treatment interventions. A qualitative analysis of data revealed the following findings:1. None of the four patients knew what was done to them while they were asleep under anesthesia. Following a pre-treatment intervention that informed them of the treatment, patients showed no sign of confusion in the surgery room before receiving anesthesia. Moreover, post-treatment observation of their activities and conversations suggested their understanding of the treatment and its procedures.2. All four patients chose their own means to cope during the treatment, such as negotiating with the physician or focusing on their favorite activities, and created a feeling that they underwent treatment by themselves.3. Following a pre-treatment intervention that explained procedures, three patients had fragmentary understanding. With help from healthcare professionals during the treatment, these patients were able to recall details of the explanation; they did not show any signs of confusion.4. A three-year-old male patient showed no unusual behavior during pre- or per-treatment observations. During post-treatment playtime, however, he showed emotional responses that suggested refusal of the treatment, such as tying the hands of an Anpanman doll that was in the role of a physician, in order to prevent the toy from giving him the treatment, saying, He will do it again and Im scared.Key Words: childrens perception, pediatric cancer patients, intrathecal injection, intravenous anesthesia
著者
杉本 陽子
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.2-11, 2001-06-10 (Released:2017-12-28)
参考文献数
11
被引用文献数
1

幼児期から思春期にある子どもが,生きること,死ぬこと,生命についてどのように認識しているのか,その発達的変化を明らかにするために,3歳〜15歳の子ども89名を対象に「生と死」に関する10項目について,聞き取り調査を実施した。結果は以下のようであった。1.第II年齢段階(6〜8歳)で死の概念の4構成成分「死の普遍性」「体の機能の停止」「死の非可逆性」「死の原因」すべてに60%以上の回答があり,死の概念の理解がほば獲得されるのはこの年代であった。2.死別体験のある子どもは第II年齢段階で50%となり,第III・第IV年齢段階(9〜11歳,12〜15歳)で80%を越えた。3.第IV年齢段階の女子3名が祖父母との死別体験から「生と死」についての深い思索をしたことを語り,自分の生きる意味や生き方を考えるきっかけとしていた。4.第III・第IV年齢段階の子どもは,「体の機能の停止」「死の非可逆性」「死後観」の回答の中で,死後の世界や魂といった霊的・精神的回答と「生まれ変わり思想」を特徴とした。特に第IV年齢段階で「生まれ変わり思想」が顕著であった。5.「生きている実感」は,うれしいとき,楽しいときといった「幸福感」と「生きていることの事実」を感じたときであった。6.「死の衝動」は第II年齢段階からみられ,理由は「人間関係に関すること」で,16名中12名が女子であった。
著者
本田 直子 杉本 陽子 村端 真由美
出版者
一般社団法人日本小児看護学会
雑誌
日本小児看護学会誌 (ISSN:13449923)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.44-50, 2015-07-20

本研究の目的は、NICUに入院した早産児をもつ母親がわが子を抱いている時の思いについて明らかにし、抱くことの意味を母親の主観から検討することである。対象は早産児をもつ母親で、わが子を抱いている時の思いについて半構造化面接を行い、母親の思いの部分を抽出し、得られた内容をKJ法で分析した。その結果、わが子を抱いている母親の思いは【生きている存在であることの実感から子どもの生きる力の強さや生命力を感じた】【出産から今がつながり、わが子として存在をより近くで実感した】【身体の小さいことや未熟さから、保育器外の環境にいることや成長に心配や不安を持った】【子どもとのつながりが感じられ、母親として自分の存在を自覚した】【子どもを愛おしく思い、子どもと過ごす時間が大切だと感じた】【抱っこは成長の証と感じて前向きな気持ちになった】であった。早産児を持つ母親はわが子を抱いている時に五感で子どもを感じ取ることで相互作用が生じ、母親としての始まりを実感していた。早産児の身体の小ささや呼吸の荒さ、ぬくもりや重みなど子どもが意図して発していないものもサインとして受け取られていた。同時に、抱くことができるという状況から子どもの成長を感じ、今までもてなかった安堵感や前向きな気持ちを感じていた。
著者
杉本 陽子
出版者
飯塚市立飯塚小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

1.研究目的:通常の学級に在籍する漢字の読み書きに困難のある児童に対して,個々のつまずきに応じて継続的な支援を行うために,一斉指導の中で展開できる新出漢字の指導法を研究開発する。2.研究方法:小学校1年生で学習する新出漢字の指導を効果的に進める「指導プログラム」と指導に活用する「支援教具」を作成し,これらを活用して在籍校及び協力校で実践を行った。対象児童の学習の様子や漢字の定着度,他の児童への効果を明らかにして指導プログラムや支援教具の有効性,活用のしやすさを検証した。3.研究成果:『指導プログラム』には,読みの先行学習,ゲーム感覚で楽しく学習に取り組む活動や体全体を使って漢字を表現する活動,スモールステップのプリント学習などが含まれている。支援教具は,『イラスト付き漢字カード』『漢字カードゲーム』『漢字のにんにん体操』『大型筆順パネル』など11種類を開発活用した。その結果,漢字を覚えることが難しかった児童は,漢字クイズやゲームに夢中になりながら漢字を繰り返し見て聞いて声に出して読むうちに,読みを確かにしていくことができた。また,イラスト付きカードの絵と文字を一緒にして覚えると記憶がスムーズで,「漢字が読めるよ。わかるよ。」と嬉しそうに言って,進んで読みの練習をするようになった。書くことが苦手な児童は,漢字のにんにん体操で書き順を確かめ,体操の歌を唱えながら体で覚える方法がお気に入りの学習になった。忍者になりきって「にんにん体操,よこぼう。」と大きな声を出して学習に参加していた。読みについては対象児全員がそれぞれの目標を達成できた。書きについては,正確に覚えていない文字がある児童もいるが,どの子も全く書けない漢字はなかった。担任からは,「指導の順番や方法が提案されていたので対象児に見通しを持って支援を行うことができた」「学習面で厳しい子どもにとっても無理なく漢字を覚えることができ自信につながった」などの感想があった。年度末の定着度テストでは,研究参加校(193名)の誤答率は読み2%書き4%に対して,他校(219名)は読み4%書き7%であった。読み書き全てにおいて研究参加校の正答率が高かったことからも,指導方法や指導の順序を具体的に示した指導プログラムとその際に活用した支援教具は有効であったと考える。4.今後課題:開発した支援プログラムや支援教具は,一斉指導でより活用しやすくなるよう改良すると共に,機会を捉えて本研究の成果を発表し,多くの教師との意見交換を行いたい。