著者
松下 隆志
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.71-91, 2011-12-26

1990年代のロシアでは,欧米諸国に遅れる形でポストモダニズムが流行した。ロシアのポストモダニズムは,元来アメリカの後期資本主義の発展を受けて形成されてきたものであるこの思想を,コミュニズムの文脈に置き換えて解釈する独自のものである。イデオロギーの集積から成るソ連社会を実質 を欠いた空虚な存在とみなすロシアのポストモダニズムは,実際にソ連崩壊を経験した新生ロシアにおいて大きな影響力を持った。文学の領域においても,ポストモダニズムはロシアの伝統的なリアリズムを超克する新しい潮流としてポストソ連文学のもっとも先鋭的な部分を代表するものとなったが,保守的な作家や批評家には大きな反発を引き起こした。このように1990年代には賛否両論喧しかったポストモダニズムだが,ソ連崩壊から時間が経つにつれセンセーショナルな性格は弱まっていった。結果として,2000年代以降のロシア文学はリアリズムの復興,若い世代の作家の台頭,政治性の高まりなど,より多様な展開を見せており,ポストモダニズムもそうした多様性のなかの一潮流として看做されるようになっている。 本論では,このように90年代のトレンドであったポストモダニズム文学が2000年代以降どのような展開を見せているかを,パーヴェル・ヴィクトロヴィチ・ペッペルシテインПавел Викторович Пепперштейн(1966-)の小説『スワスチカとペンタゴン』《Свастика и Пентагон》(2006)を取り上げて考察する。ペッペルシテインはロシアのポストモダニズムの先駆的存在であるアート集団「モスクワ・コンセプチュアリズム」に属するアーティスト・作家であり,『スワスチカとペンタゴン』は探偵小説のロジックとポストモダニズムの哲学をミックスさせたユニークな作品である。第一節では,作品分析の下準備として,ソ連崩壊後の90年代にロシアにおいてポストモダニズムと探偵小説が果たした役割を概観する。第二節では,2000年代以降の文学的 動向を視野に入れながら本作品の分析を行う。第三節では本作品に仕掛けられたトリックを解明し,ペッペルシテインの創作において「解釈」が持つ重要性を考える。
著者
中井 義明 大橋 淑宏 江崎 裕介 石塚 洋一 松下 隆 伊藤 博隆 馬場 駿吉 平川 勝洋 原田 康夫 菊屋 義則 岡崎 英登 黒川 道徳 二宮 優子 村上 譲 伊東 一則 深水 浩三 大山 勝 松根 彰志 飯田 冨美子 小川 敬 大堀 八洲一 花田 武浩
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.33, no.Supplement5, pp.655-673, 1990-10-15 (Released:2011-08-10)
参考文献数
12

漢方製剤である麻黄附子細辛湯の通年性鼻アレルギーに対する効果を検討した。漢方の古典の記載に忠実に基づいた製法により得られたエキスを含む細粒剤と, それまでの経験に基づいた製法により得られたエキスを含む散剤の比較試験を実施した。有効率 (著効+有効) は散剤投与群で63.5%, 細粒投与群で76.7%と, 両群とも良好な結果であり, 統計学的に差は認められなかった。各症状の改善率において, 細粒投与群が散剤投与群より鼻汁, 鼻閉症状に高い効果を示したが, 統計学的な差は認められなかった。細粒剤といわゆる抗アレルギー剤の有効率を比較すると, くしゃみ発作および鼻汁は同程度の効果が, 鼻閉については優る効果であったと考えられる。副作用については, 散剤投与群で6.2%, 細粒剤投与群で5.1%の症例に認められたが, いずれも症状は軽微であり, また臨床検査値にもなんら異常は与えなかった。
著者
渡部 欣忍 新井 通浩 竹中 信之 松下 隆
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.993-996, 2013-10-25

大規模コホート研究を含む臨床研究の結果では,低出力超音波パルス(LIPUS)照射による遷延癒合・偽関節の治癒率は67~90%と報告されている.しかし,①偽関節が萎縮型である,②骨折部に不安定性がある,③主骨片間の間げきが8~9mm以上である,という特徴をもつ遷延癒合・偽関節にはLIPUSの効果が低い.これに該当する遷延癒合・偽関節に対しては,LIPUSは偽関節手術後の補助療法として使用するのがよいと考えている. 現行の健康保険制度では,骨切り術や骨延長術に対してはLIPUSを術直後から使用することができない.ランダム化比較臨床試験の結果では,LIPUS照射により延長仮骨の成熟が促進されることが証明されている.骨延長術の術後早期からLIPUSが保険適用されることを期待する.
著者
坂井 恵子 奥山 治美 島崎 弘幸 片桐 雅博 鳥居 新平 松下 隆 馬場 駿吉
出版者
Japanese Society of Allergology
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.37-43, 1994-01-30 (Released:2017-02-10)
被引用文献数
1

血漿総脂質とリン脂質におけるリノール酸の割合がアトピー患者の方が同年齢の健常者より有意に多く, オレイン酸は少なかった. トリアシルグリセロール(中性脂質)分画ではn-3/n-6比がアトピー患者で有意に低かったが, n-6系列のγ-リノレン酸やアラキドン酸の割合は両群間に有意な差が認められなかった. 以上の結果より, アトピー患者でデルタ6-不飽和化酵素活性が低下している根拠はみられなかった. むしろ, 身体のアレルギー反応性を抑制するには食事脂質のn-3/n-6比を上げることが有効である可能性を論じた.