著者
松井 徳光 大杉 匡弘
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.101, no.11, pp.833-838, 2006-11-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
15
被引用文献数
6

古来より味噌は麹カビを用い, 耐塩性酵母および耐塩性乳酸菌の働きで造られてきた。筆者らは, 子嚢菌類 (麹カビ) とともにいわゆる真菌類の主体をなす担子菌類 (きのこ類) がアミラーゼ, プロテアーゼ, 乳酸脱水素酵素, アルコール脱水素酵素を有することを見出だし, きのこを用いるワイン, ビール, 清酒などの製造も試みておられる。さらに, きのこには抗ガン作用や抗血栓作用などもあり, 機能性食品素材としても注目される。筆者らは, 食品素材としてのきのこに着目し, 機能性食品の開発を主目的として大豆素材の特性を活かしながら, 機能性に優れ独特の風味を有するきのこ味噌 (無塩味噌, むしろ味噌様食品と呼ぶべき食品) の製造を試みられた。知恵と経験を活かしながら, 今迄にない食品素材と微生物組み合わせることによって, 新しい風味を呈し種々の疾病予防に効果を示す発酵食品の製造が可能の好例として大いに参考になるものと思われる。
著者
辰巳 桃子 鮫島 由香 松井 徳光
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.329-334, 2019-10-05 (Released:2019-10-11)
参考文献数
12

低温(5℃)条件下で甘酒により挽肉を発酵させ,タンパク質の分解の程度を調べたところタンパク質の分解は緩やかであった。そこで,より早く食肉を軟らかくでき,甘酒で発酵させることの有効性を明らかにするため,酵素活性に影響を与えることが予測される,米麹の保存状態(冷蔵・冷凍)や甘酒の塩分濃度によるプロテアーゼ活性への影響について検討した。米麹のプロテアーゼ活性は冷蔵・冷凍ともに保存期間の経過につれて増加傾向が見られ,冷凍保存した米麹は著しい品質劣化もなかった。甘酒に食塩を添加することで酵素反応温度55℃で行ったものはプロテアーゼ活性が増加した。食塩を添加した甘酒で発酵を行う方が調理への汎用性が高いことが推察されたため,今後,実際に食肉の発酵を行う5℃においての食塩添加による有効性を明らかにする必要がある。
著者
西田 菜津美 鮫島 由香 田畑 麻里子 松井 徳光
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.80-84, 2015-07-31 (Released:2018-03-15)

一般的に,ヨーグルトの物性及び風味は凍結保存を行うことで変化する.しかしながら,ヨーグルトにきのこ麹を加えることで,ヨーグルトの物性や風味,乳酸菌の生菌数は維持された.
著者
松井 徳光
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.169-175, 2016

血栓症やガンなどの疾病は完治させることが難しく,医食同源・予防医学の観点に立ち,毎日の食生活からの発症を防ぐことが望ましいと考えられる.古来から現在に至るまで,清酒,ビール,ワインなどのアルコール飲料は,酵母のアルコール発酵によってつくられている.しかしながら,きのこにアルコール脱水素酵素や乳酸脱水素酵素が存在していることを発見し,アミラーゼ,プロテアーゼ,凝乳酵素の存在も確認した.多くのきのこに線溶活性および抗トロンビン活性が認められ,心筋梗塞や脳血栓などの血栓症予防に効果を示す機能性食品の開発を目指す研究を行った.酵母の代わりにアルコール脱水素酵素を有するきのこを用いてアルコール発酵を行い,機能性を有するワイン,ビール,清酒の生産を試みた.さらに,乳酸脱水素酵素,凝乳酵素,アミラーゼ,プロテアーゼなどが存在するきのこを用いて発酵を行い,新たな機能性を有するチーズ,味噌,発酵大豆,発酵梅,発酵豆乳,発酵肉などを調製した.その結果,これらの発酵食品中には,線溶活性,抗トロンビン活性,抗酸化活性が認められた.
著者
鮫島 由香 澤 菜穂 田畑 麻里子 松井 徳光
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.100-103, 2017 (Released:2019-09-05)
参考文献数
8

鰹出汁を用いてスエヒロタケ Schizophyllum commune (NBRC4928)の菌糸体を培養したところ,マルト培地で培養した菌糸体と比較して抗酸化活性が高かった.鰹出汁培地で培養した菌糸体中にエルゴチオネインの生産が確認された.エルゴチオネインの収量は乾燥菌糸体1 gあたり1.01 mgであり,培地1 L当たりの生成量は12.9 mgであった.鰹出汁培地を用いた場合では乾燥菌糸体1 gあたりの収量は少なかったが,培地1 Lあたりの収量は生成する菌糸体が比較的多かったため従来報告されている収量より高かった.
著者
田畑 麻里子 福田 祥子 大杉 匡弘 佐藤 美次 山川 友宏 波多野 健二 野池 利彰 松井 徳光
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 : mushroom science and biotechnology (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.159-163, 2008-12-31
被引用文献数
1

担子菌で豆乳を発酵させることによって,うまみ成分に富み,高い生理活性を示す新規な機能性発酵豆乳の開発を試みた.担子菌はスエヒロタケ(Schizophyllum commune)を用いた.豆乳タンパク質の分解についてSDS-PAGEで観察したところ,培養1週間目には豆乳のタンパク質バンドは消失し,新たなバンドが現れた.遊離アミノ酸濃度を測定したところ,最も高いアミノ酸濃度を示したのは培養3週間目であったが,全遊離アミノ酸に対するうまみ系アミノ酸の割合が最も高いのは培養4週間目であった.シュウ酸,リンゴ酸,コハク酸,ピログルタミン酸などの有機酸の濃度は低く,発酵中に変化し,一定ではなかった.抗酸化活性,抗トロンビン活性はスエヒロタケで発酵させることで増加し,また発酵時間の経過とともに強くなった.
著者
松井 徳光 田畑 麻里子
出版者
武庫川女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ヤマブシタケは小さめの粒度、シイタケは大きめの粒度で、生理活性やイソフラボン濃度、核酸濃度が高くなることが判明した。また、マウスを用い発酵黒大豆が安全であることを明らかにした。発酵することで新たな機能性が付加され、また、スエヒロタケにおいて抗酸化活性が著しく高値を示す味噌を作成することができた。さらに、アレルゲンタンパク質の低下も観察され、機能性を有する黒大豆味噌の試作に成功した。スエヒロタケで発酵させた発酵黒大豆中に、エクオールを検出することができた。つまり、腸内の乳酸菌でなければ作ることができないと考えられてきたエクオールを、担子菌発酵で製造することの可能性を示唆した。
著者
松井 徳光 田畑 麻里子
出版者
武庫川女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本応募研究課題の主要な実験内容は、食肉を発酵する担子菌のスクリーニングを行い、心筋梗塞や脳血栓などの血栓症を予防する担子菌由来および発酵作用によって生じる抗トロンビン活性、線溶活性、抗酸化活性および免疫力を高めガンを予防するβ-D-グルカンなどを有する機能性食肉を製造することである。研究の結果、食肉の発酵にはスエヒロタケが適しており、発酵に伴って肉懸濁液中のトリグリセライド量が減少し遊離脂肪酸が増加していること、トータルコレステロールおよび遊離コレステロールも減少の傾向を示したこと、それぞれの発酵期間後に独特の風味を呈することなど、機能性のみならず、新しい加工食品として有効であることが示唆された。さらに詳細な実験が必要であるが、本研究で、担子菌で食肉を発酵させることによって、脂肪分やコレステロールが分解できることが明らかとなり、担子菌による食肉の発酵は、より健康的な食肉の製造に適していることを確信した。