著者
松井 直人
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.131, no.4, pp.1-26, 2022 (Released:2023-04-20)

室町幕府にとって、都市京都、及び京都を包含する山城一国の支配を実現することは、政権の存立基盤を維持してゆくうえで重要な意味を持った。そのため、当該地域の支配の様相を探ることは室町幕府論に不可欠な課題といえる。しかし、京都支配に比して山城国支配に関する研究は停滞著しく、基礎的な点を含め、改めて総合的な検討を行う必要がある。そこで本稿では、領域支配の担い手であった山城守護を通じた幕府の山城国支配の展開を論じるとともに、同国を拠点とした室町幕府の特質に迫ることを目指した。 本論では、幕府開創期から応仁・文明の乱前後を主な検討期間として山城守護の機構や支配方式の展開を跡づけた。14世紀中葉以降、山城国では幕府の軍事統括者であった侍所が所領問題の対処にあたっていたが、14世紀末に幕府による隣国大和国に対する統制の実現を契機に、侍所権限の分割と山城守護の新設が行われ、国内支配機構の充実が図られた。また、足利義満の権勢が確立すると、義満は将軍直臣(結城満藤・高師英)を山城守護に任じ、彼らを手足として諸勢力との取次や諸役の徴収を担わせた。その後、15世紀前半には在京大名が守護職を巡役で担当する仕組みが定着する。しかし、15世紀中葉を境に、畠山氏が独自に守護権を行使して国内支配を進めたことで、幕府による国内支配の体制は衰退へと転じた。 以上からは、①将軍の直臣か、あるいは大名かという守護就任者の属性の違いが、幕府による山城国支配の方式に大きな影響を及ぼしたこと、②幕府の山城国支配は国内寺社本所領の保護を基調とし、守護自身による恣意的な国内支配は、15世紀中葉以降に本格的に進展したことなどが明らかとなる。このような幕府の山城国支配の様態からは、公家・武家・寺社勢力が並立する同国を拠点としたことで、彼らの間の複雑な利害関係を丸抱えする形で政権を成り立たせることとなった幕府権力の特質が見て取れる。
著者
伊藤 崇倫 小林 巧 神成 透 堀内 秀人 松井 直人 角瀬 邦晃 野陳 佳織 大川 麻衣子
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.749-752, 2019 (Released:2019-12-21)
参考文献数
16

〔目的〕片脚立位動作課題を用いて,人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:TKA)後患者の膝関節周囲筋の同時収縮とバランス機能との関連について検討した.〔対象と方法〕TKA後4週が経過した9名と健常高齢者10名とした.片脚立位動作を姿勢移行時と保持時に区分し,各区間における膝関節周囲筋のco-contraction index(CI)を測定した.〔結果〕TKA群と健常群のCIの比較について,有意な差を認めた.CIとバランス機能の関連について,TKA群では移行時のCIとfunctional reach testに有意な負の相関が認められた.〔結語〕TKA患者において,姿勢変化を伴う重心移動には膝の同時収縮が影響する可能性が示唆された.
著者
堀内 秀人 小林 巧 神成 透 松井 直人 角瀬 邦晃 伊藤 崇倫 野陳 佳織
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(TKA)は,重度の変形性膝関節症(膝OA)患者に対し疼痛除去と機能改善を目的として施行される。Josephらは,内側膝OA患者が健常者に比べ歩行中における外側広筋(VL)と大腿二頭筋(BF)の高い同時収縮を報告している。また,Thomasらは,TKA後1ヶ月の患者の歩行において,健常者と比較し膝関節周囲筋の高い同時収縮を報告している。昇段動作は歩行よりも膝関節に大きなストレスのかかる動作であり,昇段動作の筋活動動態の知見を得ることは重要と考えられるが,TKA患者における昇段動作の同時収縮については不明である。本研究の目的は,昇段動作時におけるTKA後患者の膝関節周囲筋の同時収縮について検討することである。</p><p></p><p></p><p>【方法】対象は全例女性で,TKA後4週が経過した8名(TKA群:年齢69.5±6.7歳)と健常高齢者8名(高齢群:年齢66.5±4.7歳),健常若年者10名(若年群:22.9±1.6歳)とし,上肢の支持なしで一足一段での階段昇降が可能な者とした。試行動作は,開始肢位を段差20cmの階段の一段目にTKA群は術側,高齢群および若年群は非利き足を上げた肢位とし,音刺激開始後,手すりを使わず出来るだけ早く一段目に両足を揃える動作とした。音刺激は筋電計と同期されているメトロノーム機能を利用した。筋活動の測定には筋電計(Noraxon社製)を使用し,導出筋は,支持側のVL,BFとした。筋活動量の測定は,生波形を全波整流後,50msでスムージング処理を行い,移動平均幅100msでのVLおよびBFの平均筋活動量を測定し,各筋の最大随意収縮(MVC)で除し,%MVCを算出した。同時収縮は,Kellisらの方法に準じ,co-contraction index[CI:CI=VL peak時におけるBFの筋活動量/(VLの筋活動量+BFの筋活動量)]にて算出した。統計学的分析は,TKA群,高齢群,若年群の%MVCおよびCIの比較に一元配置分散分析および多重比較としてBonferroni法を用いた。有意水準は5%とした。</p><p></p><p></p><p>【結果】TKA群,高齢群,若年群の%MVCの比較について,VL,BFともに3群間に有意差は認められなかった。CIの比較について,TKA群(0.31±0.15)は,高齢群(0.18±0.04)および若年群(0.18±0.07)と比較し,有意に高値を示した(p<0.05)。高齢群と若年群には有意差は認められなかった。</p><p></p><p></p><p>【結論】本研究結果から,昇段動作において,TKA患者の術側は健常高齢者および健常若年者と比較しCIが有意に高値を示した。Hallらは,昇段動作においてACL再建患者が健常者に比べVLとBFの同時収縮が高く膝関節の安定性を高めていることを示唆した。TKA患者においても,昇段動作における膝関節の不安定性の代償として,膝周囲筋の同時収縮を高めることで関節の安定性を図っている可能性が示唆された。今後は,昇段動作の動作解析と合わせた筋活動の検討が必要と考える。</p>