著者
松本 一穂 高野 涼 伊藤 幸男 山本 信次 原科 幸爾
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.132, 2021

<p>熊本県阿蘇地域の山地部は主に草原や人工林として利用されているが、景観や防災、水源かん養等の面からみた最適な土地利用のあり方について模索する動きが地域社会で進められている。草原は放牧・野焼きの有無や優占種の違い(ススキ,ネザサ)によって違いが見られ、人工林も管理(間伐)の程度や樹種(スギ,ヒノキ)によって林相に大きな違いが見られる。しかし、これらの植生の諸特性がその土地の多面的機能をどのように特徴づけているのかについては定量的な知見が限られている。そこで、本研究では熊本県阿蘇市・南阿蘇村内の複数の草原と人工林において土壌の透水性および保水性を調査し、植生の違いが阿蘇地域における山地斜面の水源かん養機能や防災機能に及ぼす影響について検討した。</p>
著者
深山 貴文 ⾼梨 聡 北村 兼三 松本 ⼀穂 Yamanoi Katsumi 溝⼝ 康⼦ 安田 幸⽣ 森下 智陽 Noguchi Hironori 岡野 通明 ⼩南 裕志 吉藤 奈津⼦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.132, 2021

<p>森林の地球温暖化防止機能には炭素固定機能の他、森林が放出する揮発性有機化合物がエアロゾルを生成し地球を冷却する機能がある。森林起源の揮発性有機化合物の主要成分は、イソプレン(C5H8)とモノテルペン(C10H16)であり、主にイソプレンは広葉樹林、モノテルペンは針葉樹林から気温の上昇に伴って揮発性が高まる夏に集中的に放出されることが知られている。一方、世界各地の様々な植生の森林において夏に限らず低温の時期に、これらの濃度上昇が観測された事例が報告されている。本研究では日本国内の6か所の森林において概ね月1回の頻度で3年間にわたって観測されたデータを用いて、国内においても低温期に同様の濃度上昇現象が発生しているのかを確認すると共に、この現象が発生した際の気象要因についての検討を行った。その結果、20℃未満の低温期に20回の高濃度現象が発生していたことが確認された。また、その多くがイソプレンは春、モノテルペンは秋の降雨後に発生していたことから、この現象の発生に降雨が影響している可能性が示唆された。</p>
著者
阿部 隼人 松本 一穂 谷口 真吾
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p> 本研究では沖縄島北部の亜熱帯常緑広葉樹林における炭素循環プロセス解明の一環として、地上部における枯死有機物(葉・枝・粗大木質有機物)の量と供給量、分解量について調査した。</p><p> 枯死有機物量は枯死有機物の種類とサイズに応じて調査地(0.25 ha)の全域もしくは一部区画内の枯死有機物の乾燥重量から求めた。供給量はリタートラップ法や毎木調査のほか、あらかじめ枯死有機物を除去しておいた一部区画内の枯死有機物量を再調査することで評価した。分解量は林内に設置したイタジイ(優占樹種)の枯死有機物サンプルの重量減少量から推定し、併せてこれらの微生物分解呼吸量の計測も行った。</p><p> 調査の結果、2019年6~9月における地上部の枯死有機物量は1746 g C m<sup>-2</sup>であった。また、2019年の枯死有機物の年間供給量は337 g C m<sup>-2</sup>、年間分解量は594 g C m<sup>-2</sup>(このうち、微生物分解呼吸量は465 g C m<sup>-2</sup>)であった。これらの結果から,本森林では年によっては分解量が供給量を上回るほど大きく、枯死有機物内の炭素の大部分は微生物の分解呼吸によって大気へ放出されるため、枯死有機物から土壌への炭素の移入量は非常に少ないと考えられた。</p>
著者
松本 一穂 速水 眞誉 谷口 真吾 安宅 未央子 大橋 瑞江
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>沖縄島北部の亜熱帯常緑広葉樹林では、国内最大級の土壌呼吸量が観測され、その空間変動も大きいことが確認されている。本研究では土壌呼吸量の空間変動を特徴づけている要因を解明するために、土壌呼吸量と様々な要因との関係を検討した。2018年9月に調査地(1250m<sup>2</sup>)内の9箇所において、土壌呼吸量と環境要因(地温,土壌水分,土壌密度)を調べた。また、土壌呼吸量の構成要素として、根呼吸量と微生物呼吸量を調査した。なお、土壌中の微生物呼吸量は土壌呼吸量から根呼吸量とリターの微生物呼吸量を差し引くことで推定した。このほか、これらの呼吸量の規定要因として、根量や易分解性の有機物量、基質誘導呼吸法に基づく微生物活性の指標も測定した。調査の結果、土壌呼吸量の空間変動と各環境要因との間に明瞭な関係は認められなかった。一方、根呼吸量と土壌呼吸量との間には有意な正の相関関係が認められた。リターの微生物呼吸量は一様に小さく、土壌中の微生物呼吸量は場所によっては量的に大きな寄与を示した。なお、本調査ではリターの除去によって土壌呼吸量が増加する現象もみられ、非攪乱に近い状態での検討には技術的な課題があることも示された。</p>
著者
坂本 幸志郎 松本 一穂 谷口 真吾
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>沖縄島北部の「やんばる」と呼ばれる地域の亜熱帯常緑広葉樹林は、生物多様性の高い生態系として知られている。本研究ではやんばるの森林において、植物が生産する有機物量(純一次生産量,NPP)を積み上げ法に基づいて評価した。NPPは一定期間における植物の成長量と枯死脱落量、被食量の和として求められる。本研究では2013, 2016, 2019年に琉球大学与那フィールド内の調査地(2500m<sup>2</sup>)において毎木調査を行い、各年のバイオマス量を見積もり、それらの差から成長量を求めた。また、調査地内の6箇所のリタートラップで採取したリターと虫糞から、それぞれ枯死脱落量と被食量を求めた。調査の結果、2016~2019年の間には台風攪乱等による樹木の先折れによって成長量は負の値(-61.5 g C m<sup>-2</sup> yr<sup>-1</sup>)を示した。枯死脱落量と被食量はそれぞれ350,27 g C m<sup>-2</sup> yr<sup>-1</sup>であった。その結果、NPPは315 g C m<sup>-2</sup> yr<sup>-1</sup>であると見積もられた。これらの結果から、本森林では年によっては植物によって生産された有機物の殆どが枯死脱落したり被食されることで、植物自身の成長が低く抑えられていることが分かった。</p>
著者
牧田 直樹 大橋 瑞江 渡邉 直人 遠藤 いず貴 暁 麻衣子 矢原 ひかり 谷川 夏子 片山 歩美 久米 朋宣 松本 一穂
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>森林生態系の炭素循環を評価する上で、土壌呼吸の約半分を占める有機物分解呼吸の特性を正確に理解することは重要である。本研究では、リター基質の菌根菌種特性及び分解時間に対する変化が分解呼吸にどの程度影響を与えるかを評価するため、枯死細根の初期形質および呼吸速度・分解率・形態特性の変化を調査した。マレーシア・ランビル国立公園において、外生菌根種、内生菌根の単子葉類種(ヤシ科)と双子葉類種の計3タイプの枯死細根をメッシュバッグに詰めて土壌に設置し、18ヶ月の間に定期的に回収した。枯死根の残存重量は時間経過と共に低下し、それらの分解速度は種タイプによって異なった。枯死根における規定温度での呼吸速度は、分解進行に伴い上昇傾向がみられた。以上より、分解呼吸のパターンは時間経過に伴う基質の変化に特徴付けられ、それらの呼吸速度の強度は種特性によって規定されることが示唆された。</p>
著者
深山 貴文 高梨 聡 北村 兼三 松本 一穂 山野井 克己 溝口 康子 安田 幸生 森下 智陽 野口 宏典 岡野 通明 小南 裕志 吉藤 奈津子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>フィトンチッドとも呼ばれる森の香り物質は、主にゴム様の香りのイソプレン(C<sub>5</sub>H<sub>8</sub>、以下ISO)と、樹脂香のα-ピネンに代表される複数のモノテルペン(C<sub>10</sub>H<sub>16</sub>、以下MT)からなる。ISOは主に広葉樹、MTは針葉樹の葉から大量に放出され、その量は人為起源の揮発性化合物より多いため、地球のオゾンやエアロゾルの原因物質として非常に重要であるが観測例は少ない。本研究では、2015年12月から2018年12月までの3年間、森林総合研究所(KHW、YMS、FJY、API、SAP)と琉球大学(OKI)の全国6林分の微気象観測タワーサイトにおいて230回、日中の森林大気中のISOとMT(主要8種の合計)の採取を実施し、濃度の季節変動特性と気温-濃度関係の評価を行った。ISOはコナラ-アカマツ林のYMS、MTはスギ-ヒノキ林のKHWで最大値が観測され、主要樹種が放出源となっていると考えられた。全サイトで最高気温が観測された8月のMT濃度は高かったが、亜熱帯のOKIは8月、暖温帯のYMSとKHWは5~6月、冷温帯のFJY、API、SAPは7月にピークが観測された。この違いは、亜熱帯のOKI以外ではMTが冬季に葉内に蓄積され、北方ほど放出開始直後の高放出の時期が遅れて生じている可能性が考えられた。</p>
著者
谷口 真吾 上原 文 松本 一穂
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>【研究目的】リュウキュウコクタン(<i>Diospyros ferrea</i>)の繁殖枝に環状剥皮と摘葉を施し、繁殖資源の配分を繁殖モジュール単位で検証した。【方法】供試木は樹高5.0m、胸高直径18cmの40年生雌株2個体である。開花期である2018年5月中旬に繁殖枝の無剥皮区と剥皮区に摘葉処理する(摘葉しない0%摘葉区、葉数の50%摘葉区、葉面積の50%摘葉区、100%摘葉区)の8処理区を設けた。幼果実のステージである同年6月下旬、繁殖枝を覆うチャンバーの中で安定同位体である13CO2を無剥皮区と剥皮区の0%摘葉区にそれぞれ同時に発生させ、トレーサー実験法により光合成産物の転流を追跡した。さらにトレーサー実験後から果実の成熟段階(7月上旬、7月下旬、8月下旬)に応じて繁殖枝をサンプリングし、処理区ごとに葉、枝、果実の可溶性全糖を定量した。【結果と考察】果実の高さは無剥皮区、剥皮区とも0%摘葉区が最も高く、100%摘葉区は最も小さかった。13Cは無剥皮区の100%摘葉区における果実と枝に高濃度に検出された。この結果、無剥皮区では0%摘葉区から100%摘葉区への光合成産物の転流が認められた。この転流現象とともに、定量した可溶性糖の動態と果実サイズの変動を考察する。</p>
著者
遠藤 いず貴 石井 伸昌 大橋 瑞江 松本 一穂 内田 滋夫
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.321-329, 2017

<p>TRU廃棄物の地層処分生物圏評価において,気体の<sup>14</sup>Cの植物体への移行が考慮されていない。気体の混合に寄与する風を評価するため,2つのイネ科植物群落の3測定高で風速を測定した。両群落のバイオマスは同じだったが,群落-2に比べて群落-1の草丈は78%であり,群落密度は2倍だった。群落上に対する群落内の風速は密な群落(群落-1)で制限された。群落密度が群落内の気体の滞留および植物への<sup>14</sup>Cの移行に影響することが示唆された。</p>
著者
日暮 悠樹 谷口 真吾 松本 一穂
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.234, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

【研究目的】亜熱帯広葉樹林の天然下種更新地での微地形の違いが更新実生の動態に及ぼす影響を4成長期間、継続的に調査した。【方法】調査地は、沖縄島北部の70年生常緑広葉樹林(2011年10月に4.8haを皆伐)と伐採地に隣接する残存林である。調査は、残存林内の林床と伐採面の微地形(凹、凸)ごとの林床に実生調査プロット(凹斜面16㎡、凸斜面16㎡、林内12㎡)を設置し、2012年から2015年までの成長期ごとに林床に発生した実生をナンバーリングした。【結果と考察】更新実生の凹斜面での出現種数は成長期ごとに増加し、遷移後期種の定着が年々増加した。凹斜面の成長期ごとの出現本数は凸斜面に比べて1.3から1.9倍多かった。一方、更新実生の凸斜面での出現種数は4成長期とも凹斜面よりも多かった。凸斜面の出現本数は4成長期とも凹斜面、林内よりも少なかった。凹、凸斜面における更新実生の平均樹高は成長期ごとに常に凹斜面が凸斜面よりも高かった。また、凸斜面は凹斜面に比べて、更新実生の成長が遅い傾向であった。この結果、凹斜面は凸斜面に比べ、遷移後期種が新規に加入、定着後に成長しやすい環境であると推察された。
著者
谷口 真吾 日暮 悠樹 松本 一穂
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.524, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

【研究目的】林冠が閉鎖した亜熱帯常緑広葉樹林の林床における天然下種更新(前更更新)の実態把握と前更更新由来の実生の動態を調査し、林分の後継樹としての消失種、加入種、生存種の生活史特性を考察した。【方法】調査林分は4.8haの皆伐地に隣接する70年生常緑広葉樹林である。伐採地の林縁から林内に直線距離で30m以上入った斜面上部と中腹部の林内に10×10mの毎木調査プロットを3区設置し上層木の胸高直径、樹高の計測と個体識別を行った。実生調査プロットは毎木調査プロットに近隣する林床に1×1mのプロットを12㎡設置した。皆伐から2成長期経過後の2013年から2015年まで成長期ごとに林床に生育する実生をナンバーリングし、加入種と消失種の動態と定着実生の成長量の変化を調査した。【結果と考察】3成長期とも加入種、消失種はそれぞれ10種以下で変動した。上層木の構成種と林内に更新した前更更新実生の種組成は類似度が高かった。新規の加入種は被食散布型の種子をもつ樹種が多かった。台風攪乱による林冠層の葉量の低下に起因する林内の光環境や林床の水分状態の変化が加入種、消失種の動態に影響を及ぼすことが推察された。
著者
飯田 真一 太田 岳史 松本 一穂 中井 太郎 KONONOV Alexander V. MAXIMOV Trofim C. VAN DER MOLEN Michiel K. DOLMAN Albertus J. 矢吹 裕伯
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.109-121, 2016

シベリアのカラマツ林を対象として林床面上および林冠上において渦相関法を適用し,下層植生および全生態系からの蒸発散量を計測した。そして,これらの旬積算値の年々差を評価した。その結果,旬蒸発散量の年々差は全生態系で-11.0 mm~9.5 mm,下層植生で-2.4 mm~4.7 mmと見積もられ,この値は月蒸発散量の平均値の20~30%に相当しており,本林分では顕著な旬蒸発散量の年々差が発生することが明らかとなった。この要因を検討するため,Penman-Monteith式の放射項と移流項の年々差との相関を解析したところ,本林分の低い乖離率を反映して,蒸発散量の年々差は移流項の年々差によって説明されることが分かった。そして,移流項の年々差を生じさせる要素としては,飽差の差異とそれに伴う表面コンダクタンスの変化が重要である。