- 著者
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松本 至巨
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
- 巻号頁・発行日
- vol.74, no.4, pp.202-216, 2001-04-01 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 41
- 被引用文献数
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本稿は東京中心部の緑地を対象にして地形景観,水文景観,植生景観を調査し,これらの諸要素と形成年代を関連させて緑地の自然的景観の地域的特徴を考察した.各緑地の自然的景観を現地調査した結果,自然斜面や原生樹木が武蔵野台地の斜面に残存していた.一方,低地には人工的に造られた景観がみられた.自然的景観から求めた「自然残存度」は台地で高く,低地で低くなっていた.緑地の形成年代を考察すると,低地における緑地の大部分は関東大震災後や第二次世界大戦後に都市的土地利用を改変したり水域を埋め立てた造成地に新たに造られた公園が多く,緑地内部の自然的景観も人工的に造られたと考えられるものが多数を占めていた・それに対し台地の緑地としては,江戸時代に成立した神社と寺院が卓越しており,長い歴史を持っ自然的景観が残存していた.しかし北部の谷中と南部の三田では,樹林や湧水の有無により自然的景観に差異がみられた.台地に分布する緑地には,自然残存度の高い景観と人工的に造られた自然的景観が混在していた.このように東京中心部における緑地内の景観の地域的特徴は,地形・水文・植生といった自然的景観によって規定されていることが明らかになった.