- 著者
-
松本 龍介
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 特定領域研究
- 巻号頁・発行日
- 2007
鋼材は高強度になるほど水素感受性が強くなり遅れ破壊が起こりやすくなる. 近年, 巨大ひずみを付加し結晶粒を微細化することにより, 材料を高強度化する方法が注目されている. これらの材料では, 材料中に大量の格子欠陥(粒界, 転位)が含まれるため水素の拡散速度が遅くなり, き裂先端部等の静水応力集中部への水素の集積が遅れることが考えられる. また, 本手法で製造された材料には, 従来の材料と比べて高エネルギーの粒界が多く含まれることが分かっており, 材料に含まれる粒界特性の違いによる影響が現れることも考えられる. したがって, これまでの材料とは異なる耐水素特性が現れる可能性がある. 本年度は, 原子モデルにより理想的な粒界を取り扱い, 水素トラップ量に与える粒界特性の影響に関する解析を行った.粒界を含むα-Feでは, 粒界特性(粒界エネルギー, フリーボリューム)と水素トラップ量は対応関係にあることがわかった. すなわち, 粒界エネルギーが低い粒界は, 隙き間が少なく水素トラップ量も少ない. 逆に, 粒界エネルギーが高い粒界は, 隙き間が多く水素トラップ量も多い. つまり, 巨大ひずみを加えて作成した微細粒材料は高エネルギー粒界を多く含むため, 水素吸蔵量が多くなる. 粒界への水素トラップ量を減らすためには, 水素との親和性が低く粒界フリーボリュームを減らす元素の添加が有効と考えられる. また, 水素環境下では, 温度が高く圧力が低いとトラップされる水素原子が少なく, 温度が低く圧力が高いと水素原子は多くトラップされること, トラップされる水素原子の数は, 水素ガス圧力より温度の影響を受けやすいことがわかった.