著者
松浦 一登 西條 茂 浅田 行紀
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.321-327, 2006
被引用文献数
4

【対象と方法】1993年~2005年に我々が行った喉頭部分切除術(PL)24例と下咽頭喉頭部分切除術(PPL)症例14例を同時期の超選択的動注化学放射線療法(iaCRT)症例17例と比較した。また1999年~2003年に放射線治療を行った下咽頭癌20例に対して喉頭温存手術が可能であるか検討した。<BR>【結果】喉頭癌でのKaplan-Meier法による疾患特異的5年生存率はPL症例が81.3%でiaCRT症例は87.5%(N.S.)であり,下咽頭癌での生存率はPPL症例が39.5%でiaCRT症例が55.6%(N.S.)であった。放射線治療を行った下咽頭癌に対して,喉頭温存手術は20例中12例で可能であると判断された。<BR>【結論】喉頭癌や下咽頭癌での喉頭温存手術の適応となる症例は放射線治療の良い適応でもある。
著者
松浦 一登
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.12, pp.1290-1299, 2013-12-20 (Released:2014-02-22)
参考文献数
27

がん治療の究極の夢は「薬」で病が治ることである. 効果を得るために治療強度を増すことはしばしば行われるが, 副作用も強くなるというジレンマがある. 近年, 分子標的薬剤など新しい創薬がなされ, 治療効果とともに新たな副作用が認められてきた. 大多数の頭頸部がん患者は, 外科治療を主とする耳鼻咽喉・頭頸部外科医によって治療がなされており, われわれは多様な有害事象をマネジメントしつつ, 標準治療を理解して完遂しなければならない. 元来は兵器であったという生い立ちを忘れて抗がん剤を用いることは, 「角を矯めて牛を殺す」になりかねず, 不必要な抗がん剤使用を避けることが何よりの有害事象対策となる. 現在, われわれが最も多く用いる抗がん剤はシスプラチンであるが, 代表的な副作用は, 腎障害と悪心・嘔吐である. 腎障害は尿細管障害が主体であり, 大量補液と利尿剤で軽減を図るが, NSAIDsを避けることやMgの補充を行うことも重要である. 悪心・嘔吐対策は, 初回からアプレピタント, ステロイド, 5-HT3拮抗剤を用いて十分な対応をとり, 患者に我慢させないことが大切である. 近年, 化学療法施行時のB型肝炎再活性化が問題となっており, ハイリスク患者には抗ウイルス薬 (エンテカビル) の予防投与が推奨されている. また, 頭頸部がんに対する分子標的薬剤 (セツキシマブ) が保険収載されたことにより, 本剤の使用が始まった. シスプラチンに比べて, 補液の管理や嘔気・嘔吐管理が格段に簡便になる反面, インフュージョンリアクションや間質性肺炎など致死的な症状が生じることがあり, われわれもこの薬剤に対する理解を深めなければならない. 現在の頭頸部がん治療では多職種でのチーム医療が必要不可欠であり, 抗がん剤の有害事象をマネジメントするにも, 担当医一人では十分な対応はできない. 看護師を含む医療従事者にも知識の共有と教育を繰り返し行い, チーム力の向上を図ることが何よりも重要である.
著者
平川 仁 鈴木 基之 西野 宏 佐藤 雄一郎 石木 寛人 篠崎 剛 海老原 充 新橋 渉 上條 朋之 岡本 牧人 別府 武 大堀 純一郎 松浦 一登
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.75-81, 2018

頭頸部癌終末期患者における症状について多施設調査を行った。根治不能頭頸部癌と診断され,癌の進行による状態悪化のために入院となった患者を対象とした。11施設から100人の患者が登録され,そのうち転院した患者などを除く72人が死亡まで観察可能であった。最終観察時における出血や滲出液を伴う自壊腫瘍を持つ症例は36.1%であった。またそれに伴う制御不能な出血を認めた症例は5例であった。1例は頸動脈破裂による急速な転機をたどった。残りの4例は出血および血圧低下による止血を繰り返し最終的に心肺停止となった。栄養経路に関して61.1%で経腸栄養摂取が可能であった。頭頸部浮腫は36.1%に認めた。喉頭発声による意思の伝達は50%で不可能であった。頭頸部癌の終末期症状は決して軽いものではない。しかしその症状・頻度,病態の理解が進み,適切な指針を今後作成できれば,患者は終末期の時間を自宅近くの医療施設もしくは自宅で過ごすことができるようになると期待される。