著者
永野 伸一
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌/ 日本頭頸部癌学会 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.475-479, 2004-10-25
参考文献数
5
被引用文献数
1

日本人の長い歴史性・文化性を無視し欧米から輸入された医療上の進言, 特に告知におけるマスメディア挙げての一つの図式的な世論誘導に, 医療の現場では混乱を起こしていると思う。インフォームド・コンセントを尊重するという事は, 患者さんが「死にたい」と発した時, 我々は患者さんを殺さなければならなくなる。しかしその患者さんの言葉は「本音」ではなく医師にもっと心配して欲しいという意思表示であり, 日本人特有の甘えによる屈折した表現なのである。その様な言葉を使う日本人の背景には仏教・神道を始めとする独特の宗教観があり, それは欧米のキリスト教圏の民族とは理解しえない面がある。マスコミの主導する医療上の進言は全て個人主義を目指したキリスト教圏の出来事であるが, 家族主義的ムラ社会を構築してきた日本民族は個人の確立を求めていない。死の淵に立った時, 求めるのはむしろ他者との関係であると私は考える。
著者
藤井 正人
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.390-393, 2012-12-25 (Released:2013-01-15)
参考文献数
5
被引用文献数
1

近年,中咽頭癌におけるヒトパピローマウイルス(HPV)感染が問題となっている。特に米国においては中咽頭癌の罹患率が増加しているが,その原因としてHPV陽性の中咽頭癌が増加していることが指摘されている。一方,HPV陽性の中咽頭癌はその発癌メカニズムの違いにより,生物学的な悪性度が異なることが指摘されている。今回,頭頸部癌基礎研究会において,中咽頭癌のHPV感染に関して全国レベルでの調査研究を行い,わが国の中咽頭癌症例におけるHPV感染の現状を調査した。本研究は頭頸部癌基礎研究会にて行い,2009年5月に症例の登録が開始された。HPVの検出はPCRとハイブリッドキャプチャーII法(HC2)で行った。中咽頭癌症例は157例登録され対照として正常扁桃112例が登録され解析された。対照症例のうち,HPVは1例に検出され112例は陰性であった。すなわち陽性率は0.9%であった。中咽頭扁平上皮癌の157例では79例においてPCRでHPV感染が検出されHPV感染率は50.0%であった。HPVのタイピングではHPV16が70例で88.6%を占めた。HPV感染の有無による臨床的特徴について,HPV陽性ではStage IVの割合が多く,組織学的に低分化の傾向がみられた。発生部位では側壁が92.4%とほとんどを占めた。喫煙と飲酒に関しては,HPV陽性例で非喫煙,非飲酒の割合が多かった。次にStage IIIとIVについて治療法別に予後を検討したところ全生存率でHPV陽性例が陰性例に比較して予後が良好である傾向が認められた。スクリーニングとして行ったHC2法とPCRを比較したところ感度93.7%,特異度96.2%であった。今回の研究で,わが国の中咽頭扁平上皮癌におけるHPV陽性率は50%であることがわかりその臨床的特徴も欧米で報告されているものと同様である結果となった。
著者
竹内 正樹 佐々木 健司
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.293-299, 2008-10-25 (Released:2008-11-11)
参考文献数
12
被引用文献数
1

頭頸部領域の手術では,露出部である顔面に切開を加えることも多いため,術後瘢痕を目立たなくする整容的な配慮が必要となる。切開線設定は,(1)皺線(Kraissl線)に沿わせること,(2)毛髪線や外鼻,耳介,口唇など輪郭線のある部位では,その境界線に一致させることが原則である。皮膚縫合に際しては,両方の創縁から均等に真皮を引き寄せて創縁の緊張をとる真皮縫合と縫合糸痕を残さない配慮をした皮膚表面縫合を行う。切開から縫合までの過程では,常に皮膚を愛護的に扱う操作を心がける。抜糸後はテープによる減張固定と遮光を行い,変化する瘢痕の経過観察を怠らないことが重要である。
著者
石浦 良平 飯田 拓也 柿木 章伸 安藤 瑞生 吉田 昌史 齊藤 祐毅 山岨 達也 光嶋 勲
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.76-78, 2017-04-25 (Released:2017-06-16)
参考文献数
7

外耳道癌は稀かつ予後不良な疾患である。その危険因子として過剰な耳かきが臨床上推測されているが,統計学的に検討した報告は少ない。今回,我々は当科で加療を行った外耳道癌患者14例を対象とし年齢,性別,耳かき頻度,耳かきに使用する道具の材質,罹患側,病理組織について検討した。また,本研究に同意を得た健常人69名を対象とし,年齢,性別,耳かき頻度,耳かきに使用する道具の材質について調査し患者群と比較検討した。その結果,50歳未満の若年群における患者群と健常人群間において,有意に耳かき頻度,および硬質素材を用いる率が高かった。今回の結果から,過剰な刺激の耳かきが外耳道癌発生を誘発する可能性が示唆された。
著者
津熊 秀明 井岡 亜希子 大島 明 味木 和喜子
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.292-299, 2006-10-25 (Released:2008-04-30)
参考文献数
10
被引用文献数
4 5

2000年の全国全がん罹患数は男31.0万人,女22.2万人であった。口唇・口腔・咽頭,喉頭,甲状腺の各がん罹患数は,順に男で6,650人,3,250人,1,642人,女で2,825人,209人,6,246人であった。大阪府がん登録に基づき,頭頸部の詳細部位別罹患動向を調べた(1965-99年の5年毎の年平均および2002年)。口唇・口腔・咽頭の罹患数は,この間に男で93人から500人,女で41人から187人に増加した。男の下咽頭,中咽頭の増加が顕著であった。喉頭では罹患数が男で106人から1995-99年に197人に増加したが,その後は減少に転じた。女では26人から16人へと減少した。鼻腔・中耳・副鼻腔は男68人から59人,女45人から22人へと減少した。日本6府県市がん登録,米国白人,黒人,日系人の男女8集団において,口腔・中下咽頭がんと喉頭がん罹患率に,また,前者と食道がん罹患率に,それぞれ強い正相関を認めた。頭頸部癌の危険因子として,食道がんと同様,喫煙と飲酒習慣が重要である。
著者
中原 晋 足立 加那 鈴木 修 山本 佳史 竹中 幸則 安井 俊道 花本 敦 福角 隆仁 道場 隆博 瀬尾 雄二 礒橋 文明 吉岡 靖生 小川 和彦 猪原 秀典
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.452-457, 2015-12-25 (Released:2016-01-16)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

ルビエールリンパ節 (RLN) とは外側咽頭後リンパ節のことであり,頭頸部癌からしばしば転移をきたす。今回,RLN転移を認めた頭頸部扁平上皮癌のうち2003年から2012年の間に治療した19例について検討を行った。後発転移病変の治療として当科ではサイバーナイフ (CK) を利用することが多いため,特にその効果に着目した。CKを施行していたのは7例であり施行後の短期奏効率は100%であったが,長期においては再発や出血をきたす症例もありRLN制御率や生存率に関してはCKの効果が高いとはいえなかった。一方,RLN制御に影響を与える因子の検討では「年齢」が有意差を認め,高齢になるほど制御良好であるという結果であった。RLN転移病変に対しては全例放射線中心の治療を施行していたが,全体の2年全生存率が55%と過去の報告と同程度であり,放射線治療でも手術と同等の治療効果が期待できると思われた。

2 0 0 0 OA 形成外科総論

著者
上田 和毅
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.417-421, 2014-12-25 (Released:2015-01-08)
参考文献数
6
著者
齊藤 祐毅 三谷 浩樹 米川 博之 福島 啓文 佐々木 徹 新橋 渉 瀬戸 陽 北野 睦三 小泉 雄 植木 雄志 神山 亮介 川畑 隆之 蛯名 彩 足立 充隆 小倉 真理子 川端 一嘉
出版者
Japan Society for Head and Neck Cancer
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.74-79, 2012
被引用文献数
5

1980年1月から2010年12月までの30年間にがん研病院頭頸科で一次治療として手術を行った頭頸部原発粘膜悪性黒色腫40例の治療成績を検討した。男女比1:1,年齢は24~79歳(中央値62歳),観察期間は5~174ヶ月(中央値23ヶ月)であった。原発臓器は鼻副鼻腔:28例,口腔:9例,咽頭:3例。TNM分類(AJCC/UICC第7版)ではT3:8例,T4a:23例,T4b:9例でN0:36例,N1:4例,stage III:6例,stage IVA:25例,stage IVB:9例であった。Kaplan-Meier法による5年局所制御率,粗生存率,無再発生存率は70%,43%,29%であった。TNM分類は臨床的な予後とよく相関し,T4b,N1は予後不良であった。原発後方再発の制御が課題と考えられた。後発頸部リンパ節転移も高率にみとめ,頸部郭清が治療成績の維持に一定の効果を認めた。

1 0 0 0 OA HPVワクチン

著者
三澤 清 峯田 周幸
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.456-460, 2010-12-25 (Released:2010-12-28)
参考文献数
18
被引用文献数
1

高リスクヒトパピローマウイルス(HPV)16型,18型は,子宮頸癌やその他の悪性腫瘍の原因であることが分かり,最近の遺伝子工学の発達でHPV関連子宮頸癌を予防するワクチンが開発された。頭頸部領域において口腔内HPV感染は,oral sexによっておこりHPV関連中咽頭癌の明らかなリスクファクターになっていることが明らかになった。HPVワクチンの普及で子宮頸癌の減少だけでなく,中咽頭癌も減少するのと期待されている。本稿ではHPVとHPVワクチン接種の状況,男性への接種について最近の知見を述べる。
著者
水町 貴諭 加納 里志 原 敏浩 鈴木 章之 鈴木 清護 本間 明宏 折舘 伸彦 福田 諭
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.498-501, 2010-12-25 (Released:2010-12-28)
参考文献数
11
被引用文献数
4 1

中咽頭扁平上皮癌53例を対象にHPV感染と治療成績との関連について検討を行った。53例中14例(26%)がHPV陽性であったが,扁桃原発例に限れば19例中11例(58%)が陽性であった。HPV陽性14例中12例(86%)がHPV16陽性で,HPV18およびHPV58陽性が各1例みられた。疾患特異的5年生存率はHPV陽性例の方が陰性例に比べ有意に高い結果となった。放射線化学療法施行症例においてもHPV陽性例の方が陰性例に比べ有意に疾患特異的5年生存率は高い結果となり,HPV陽性例では11例全例局所は制御されたが,陰性例では22例中9(41%)が局所再発した。以上の結果から,中咽頭癌症例の治療成績の向上のためにはHPV感染の有無による層別化が必要であり,HPV陰性例では局所の制御が課題であると考えられた。
著者
杉山 智宣 別府 武 得丸 貴夫 山田 雅人 小出 暢章 谷 美有紀 金子 昌行
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.30-33, 2019 (Released:2019-06-29)
参考文献数
15
被引用文献数
2

頸部リンパ節腫大を契機に発見されるものの,様々な術前検査を施行しても甲状腺内に原発巣を認めない甲状腺乳頭癌症例が稀に存在する。これは甲状腺内に原発巣がないものであるか,術前検査にて描出できないほど原発巣が小さなものであるかのどちらかである。 2010年1月から2017年12月にかけて当科で手術治療を行った甲状腺乳頭癌216例のうち,術前検査にて頸部外側区域リンパ節への転移を認めたものの甲状腺内に原発と考えられる腫瘤を認めなかった5症例を対象とした。どの症例も,一次治療として甲状腺片葉切除,患側D2b郭清を施行した。5例中1例は甲状腺内に原発巣となる病変を認めなかった。3例は多発の腺内転移を認めた。 術前検査にて甲状腺内に原発巣を認めない乳頭癌症例において,根治性,機能温存の双方を考慮した場合,甲状腺内の腺内転移の有無に関わらず患側の甲状腺片葉切除も選択肢になると考えられた。

1 0 0 0 OA 頸部郭清術

著者
上村 裕和
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.346-352, 2015-10-25 (Released:2015-11-26)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

化学放射線療法による根治治療が広く行われるようになった現在でも,頸部郭清術は頭頸部癌治療において重要な役割を担っている。精度と安全性の高い頸部郭清術を行える技術を身につけておく必要があるが,その基礎として解剖学的知識は欠かせない。頸部郭清術は筋膜に囲まれる間隙に存在するリンパ節を脂肪組織等と共に摘出する手術である。筋膜は時として明確に捉え難いことがあるが,頭頸部の骨格や筋肉を理解・把握しておくことで迷走することを回避できる。これらに精通して各手術器械の適切な使用に習熟しておくことによって,安定した手術が提供できるだけでなく,腫瘍切除における困難な状況を克服することが可能になると期待される。そのような観点からは解剖学的構造に沿った合理的で鋭的な手術を行うトレーニングを積み重ねておくことは無駄にはならないであろう。
著者
浦野 誠 吉岡 哲志 加藤 久幸 堀部 兼孝 日江井 裕介 油井 健宏 岡田 達佳 櫻井 一生
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.443-447, 2014-12-25 (Released:2015-01-08)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

症例は40代,女性。右耳内違和感を主訴に受診。術前約20ヶ月の間に,頻回に再発を繰り返す右外耳道腫瘤に対して計6回の生検が施行された。1~4回目では粘液を有する炎症性肉芽様組織と病理診断し,経過観察をされていた。経過中に耳下部腫脹は認めなかった。5回目の生検で悪性腫瘍の可能性を疑い,その後CTで右耳下腺に腫瘍が存在することが判明し,外耳道を含む拡大耳下腺全摘術が施行された。手術検体の病理組織像では,耳下腺上極に発生した低悪性粘表皮癌が上方に進展し,軟骨部外耳道の「サントリーニ裂溝」を穿通して外耳道へ進展していた。本例は,臨床的および病理学的に終始外耳道病変と認識されていたことで,生検組織を長期間にわたり奇異な粘液性上皮構造を含む炎症性肉芽と判断し,耳下腺腫瘍の存在を早期に認識することが困難であった。まれではあるが,本例の様な耳下腺腫瘍の非定型的な外耳道方向への進展形式について注意を払うことが必要と思われた。
著者
松浦 一登 西條 茂 浅田 行紀
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.321-327, 2006
被引用文献数
4

【対象と方法】1993年~2005年に我々が行った喉頭部分切除術(PL)24例と下咽頭喉頭部分切除術(PPL)症例14例を同時期の超選択的動注化学放射線療法(iaCRT)症例17例と比較した。また1999年~2003年に放射線治療を行った下咽頭癌20例に対して喉頭温存手術が可能であるか検討した。<BR>【結果】喉頭癌でのKaplan-Meier法による疾患特異的5年生存率はPL症例が81.3%でiaCRT症例は87.5%(N.S.)であり,下咽頭癌での生存率はPPL症例が39.5%でiaCRT症例が55.6%(N.S.)であった。放射線治療を行った下咽頭癌に対して,喉頭温存手術は20例中12例で可能であると判断された。<BR>【結論】喉頭癌や下咽頭癌での喉頭温存手術の適応となる症例は放射線治療の良い適応でもある。
著者
白井 克幸 横尾 聡 中野 隆史 大野 達也 齋藤 淳一 武者 篤 阿部 孝憲 赤羽 佳子 小林 なお 小林 大二郎 近松 一朗
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.25-29, 2019

重粒子線治療は良好な線量分布を持ち,高い生物学的効果を有している。従来X線抵抗性と考えられている頭頸部非扁平上皮癌(腺様嚢胞癌,腺癌など)や,粘膜悪性黒色種,骨軟部腫瘍に対して,優れた局所制御率が報告されている。本邦の重粒子線治療施設は5施設と世界最多であり,その治療技術や研究開発において指導的役割を果たしている。これまでは重粒子線治療は単施設による報告に限られていたが,2014年より日本炭素イオン線治療臨床研究グループ(J-CROS)が組織され,多施設共同臨床研究を通じて頭頸部腫瘍に対する重粒子線治療の包括的な有効性や安全性が報告されてきた。これまで重粒子線治療は先進医療として行われてきたが,これらの本邦からのエビデンスをもとに,2018年から頭頸部悪性腫瘍(口腔・咽喉頭の扁平上皮癌を除く)が保険適用となっている。今回の総説では,頭頸部腫瘍に対する重粒子線治療の概要,これまでの治療成績ならびに今後の展望について概説する。
著者
林 明照 丸山 優 酒井 敦子 稲見 浩平 岡田 恵美 原田 孝
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.287-292, 2008-10-25 (Released:2008-11-11)
参考文献数
12

陳旧性顔面神経麻痺において,口角や鼻唇溝,頬部の形態と動きを再現するいわゆる「笑いの再建」にあたり,当施設では再建の目標と患者のリスクや希望,笑いの形態を考慮したアルゴリズムに沿って術式を選択している。第一選択は神経血管柄付き遊離筋肉移植による一期再建であり,ドナー部は大腿二頭筋短頭のほか,広背筋や腹直筋を用いる。ハイリスク例やマイクロサージャリーを希望しない症例には,第二選択として島状側頭筋弁移行術(lengthening temporalis myoplasty)を行う。三叉神経支配であるため,笑いの質はやや劣るが,術後リハビリで健側とある程度の同調が得られ,また,顔面交叉神経移植術の併用も一法である。第三選択は大腿筋膜移植によるmuscle bow traction法であり,簡便で低侵襲な動的再建法である。下口唇麻痺には先天麻痺に用いられる筋膜移植法を併用してバランスをとる。
著者
大江 祐一郎 神前 英明 松本 晃治 清水 猛史
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.478-482, 2017-12-25 (Released:2018-01-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1

唾液腺導管癌は局所再発や遠隔転移を生じやすいが,再発・転移例に対する確立した治療法はない。また,アンドロゲン受容体(AR)の発現が高率に認められる特徴を有する。今回,唾液腺導管癌の局所再発・多発骨転移に対し,抗アンドロゲン療法が奏功した1例を経験したので報告する。症例は64歳,男性。右顎下腺癌T3N2bM0に対し手術加療を行い,唾液腺導管癌と診断され,病理学的にARの過剰発現を認めた。術後に化学放射線療法を施行したが,6ヶ月後に局所再発を認めた。17ヶ月後には多発骨転移が出現し,ビカルタミド(80mg/日)内服投与を開始した。腰痛に対して30Gy/10Frの緩和照射も行った。ビカルタミド投与6ヶ月後のPET-CTで局所の腫瘍は消失し,7ヶ月後の腰椎造影MRIでも大部分で腫瘍の造影効果が消失した。遠隔転移から1年経過し,乳房腫脹を認めているが,その他大きな副作用はない。AR陽性の唾液腺導管癌に対して,抗アンドロゲン療法は有用な治療選択肢の一つである。
著者
槇 大輔 大上 研二 戎本 浩史 酒井 昭博
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.8-11, 2019 (Released:2019-06-29)
参考文献数
7

頭頸部癌治療が完了し癌を克服した患者(Cancer survivor)においては,癌治療後のQOLすなわちQuality of Survival (QOS) が重要となる。当院で取り組んでいる頭頸部癌支持療法のうち,嚥下機能評価と肩関節リハビリテーションについて紹介する。 当院では頭頸部癌再建手術において医師だけではなく摂食・嚥下障害認定看護師を中心としたスタッフが術後の摂食状況の確認や食形態の調整を行っている。周術期の嚥下機能評価や摂食機能療法に関するケア基準の導入によって術後経口摂取までの期間短縮や段階的な食事形態のアップが可能となった。 また,頸部郭清術後のshoulder syndromeを軽減するために,術直後の肩関節の機能や術式に合わせてエクササイズの方法と強度を設定し,セルフトレーニングを自宅でも継続できるよう取り組んでいる。予防的頸部郭清においてLevelⅡB領域の郭清を省略することによって,術直後の肩関節機能とQOLが改善した。
著者
真栄田 裕行 又吉 宣 安慶名 信也 上里 迅 金城 秀俊 鈴木 幹男
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.280-284, 2018
被引用文献数
1

固有鼻腔に発生した平滑筋肉腫の一例を経験した。症例は60歳の女性である。初診時の主訴は右鼻閉および鼻出血であった。初診時所見では右鼻腔内に,固有鼻腔を占拠する表面平滑で赤白色の充実性腫瘤が認められた。腫瘤は易出血性であったため外来での生検は施行されなかったが,肉眼および画像所見より悪性腫瘍が予想されていたため,安全域を十分に確保できる拡大デンケル手術が施行された。術後の免疫組織学的検査により平滑筋肉腫と診断された。切除断端は陰性であった。また術後のアジュバント治療として放射線全量照射70GyおよびVAC療法(vincristine 1.5mg/m<sup>2</sup>,cyclophosphamide 1,200mg/m<sup>2</sup>,actinomycin-D 1.35mg/m<sup>2</sup>)を7クール施行された。現在治療後約5年が経過したが,再発転移は認められず,また整容的にも患者共々満足できる結果が得られた。