著者
小野﨑 晴佳 小野 貴大 飯澤 勇信 阿部 善也 中井 泉 足立 光司 五十嵐 康人 大浦 泰嗣 海老原 充 宮坂 貴文 中村 尚 鶴田 治雄 森口 祐一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故により,膨大な量の放射性物質が環境中に放出された。大気中に放出された放射性物質の一形態として,「Csボール」と呼ばれる放射性Csを含む球状微粒子が注目を集めている。Csボールは2011年3月14日から15日にかけてつくば市内で捕集されたエアロゾル中から初めて発見され1),燃料由来の核分裂生成物を含む非水溶性のガラス状物質であることが明らかとなっている2)。近年の調査により,同様の放射性粒子が福島県内の土壌3)を始めとする様々な環境試料中に幅広く存在することが示唆されているが,東京を含む関東地方における飛散状況は明らかではない。そこで本研究では,SPM(浮遊粒子状物質)が捕集された関東地方の複数の大気汚染常時監視測定局でのテープ濾紙を試料4)として,放射性エアロゾルの分離を行い,その化学・物理的性状を非破壊で分析した。SPring-8の放射光マイクロビームX線をプローブとして,蛍光X線分析法(SR-µ-XRF)により粒子の化学組成を,X線吸収端近傍構造分析(SR-µ-XANES)およびX線回折分析法(SR-µ-XRD)により化学状態を調べた。 本研究でSPM濾紙試料から分離された放射性粒子は,いずれも直径1 µm前後の球形という共通した物理的性状を有していた。134Cs/137Cs放射能比(約1.0)に基づき,これらの粒子は福島第一原発2号機または3号機から放出されたと予想される。これらの性状は,先行研究1,2)で報告されたCsボールの性状とよく一致しているが,約2 µmとされるCsボールに比べて直径がやや小さい。SR-µ-XRFにより,全ての粒子から核燃料の核分裂生成物由来とも考えられる様々な重元素(Rb, Mo, Sn, Sb, Te, Cs, Ba etc.)が共通して検出され,いくつかの粒子は微量のUを含むことが明らかとなった。さらに我々は粒子から検出された4種類の金属元素(Fe,Zn,Mo,Sn)についてSR-µ-XANESから化学状態を調べたが,いずれの分析結果も高酸化数のガラス状態で存在することを示唆していた。またSR-µ-XRDからも,これらの粒子が非晶質であることが確かめられた。このように,関東地方のSPM濾紙から採取された粒子とCsボールの間に化学的・物理的性状の明確な類似性が見られたことから,我々は3月15日の時点で関東広域にCsボールと同等の放射性物質が飛来していたと結論付けた。同時にこれらの分析結果は,燃料由来の可能性があるUが事故直後の時点で関東の広い範囲にまで到達していたことを実証するものである。当日の発表では,流跡線解析による放出時間・飛散経路の推定を通じて,関東地方へのCsボールの飛散について多角的な考察を行う予定である。謝辞:SPM計テープ濾紙を提供してくださった全ての自治体に感謝します。1) K. Adachi et al.: Sci. Rep. 3, 2554 (2013).2) Y. Abe et al.: Anal. Chem. 86, 8521 (2014).3) Y. Satou et al.: Anthropocene 14, 71 (2016).4) H. Tsuruta et al.: Sci. Rep. 4, 6717 (2014).
著者
中村 建太 寺井 早紀 白井 直樹 海老原 充
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2016年度日本地球化学会第63回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.78, 2016 (Released:2016-11-09)

COコンドライト隕石は岩石学的にタイプ3に分類される炭素質コンドライトの1グループで、変成の程度に応じて、さらにタイプ3.0から3.7に細分化された分類を持つ。この岩石学的分類の違いは熱水変質の程度を示していると考えられている。しかし、元素組成と岩石学的分類の関係性は明らかになっていない。そこで、本研究では宇宙化学的揮発性元素に着目し、誘導結合プラズマ質量分析法を用いて、岩石学的分類の異なるCOコンドライト隕石中の揮発性元素の定量を行った。得られた結果より、揮発性元素組成と岩石学的分類の関係性を考察することを目的とした。
著者
鶴田 治雄 大浦 泰嗣 海老原 充 大原 利眞 森口 祐一 中島 映至
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

東電福島第一原子力発電所事故直後における大気中放射性物質の時空間分布の解明のため、大気環境常時測定局で使用されている、β線吸収法浮遊粒子状物質(SPM)計中の使用済みテープろ紙に採取された放射性セシウムの分析を、これまで東北地方南部と関東地方南部の99地点で実施して、その解析結果とデータ集を2つの論文(Tsuruta et al., Sci. Rep., 2014; Oura et al., JNRS, 2015)で公開した。その後、第一原発から約4km及び16km近傍に位置したSPM局2地点(双葉、楢葉)における事故直後のテープろ紙の提供を受け、SPM中の放射性セシウムを分析した結果の概要を報告する。まず、SPM計が東日本大震災直後も正常に作動していたかどうかを調べて慎重に検討した結果、信頼できると判断した。そこで、2011年3月12-23日(楢葉は3月14-23日)の期間、1時間連続採取されたSPM試料中のCs-134とCs-137濃度を分析した。また、これらのデータを総合的に解析するにあたり、福島県のモニタリングポスト(MP;上羽鳥、山田、繁岡、山田岡など)と第一・第二原発のMPの空間線量率、気象庁のAMeDAS地点と1000hPaの風向風速なども利用した。その結果、これまでの99地点のデータだけではわからなかった、原発近傍の大気中放射性セシウム濃度の詳細な時間変化が、初めて明らかになった。原発より北西方向に位置する双葉では、Cs-137が高濃度(>100 Bq m-3)となったピークは、3月12-13日、15-16日、18-20日に6回も測定され、その多くはプルーム/汚染気塊として、さらに北西~北方へ運ばれたことが明らかになった。また、原発より南側に位置する楢葉でも、高濃度のピークが、3月15-16日、20-21日に6回測定され、その多くは、プルーム/汚染気塊として、風下側の関東地方か福島県南部に運ばれた。これらのプルーム/汚染気塊は、これまでの論文で明らかにしたプルーム/汚染気塊と良い対応が見られたが、今回の測定で新たに見つかったものも、いくつか存在した。また、近くのMPの空間線量率のピークとCs-137濃度のピークとを比較した結果、両者のピーク時間がほぼ一致し、良い対応関係が見られた。とくに、3月12日午後3時における双葉でのCs-137の高濃度のピークは、近くのMPで期間中に最大となった空間線量率のピーク時間とよく一致し、放射性物質のFD1NPP近傍での動態が、詳細に明らかになった。謝辞:2地点のテープろ紙を提供してくださった福島県に感謝します。この研究は、文科省科研費「ISET-R」と環境省推進費「5-1501」で実施中である。
著者
海老原 充
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.46, no.7, pp.428-431, 1998-07-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
4

クラーク数はアメリカの偉大な地球化学者, F.W. Clarkeの名前を冠した数値で, クラークの死後, ソ連(当時)の地球化学者フェルスマンによって提唱されたものである。本来の定義である「地下10マイルまでの岩石圏, 水圏, 気圏を含めた元素の重量%」という考えは, その後の地球化学の発展に伴って, 科学的意義を失ってきた。本稿ではクラーク数という概念や数値そのものが中学・高校の教科書ではほとんど取り上げられなくなった背景を説明し, それに変わる概念として地殻の元素存在度について解説する。
著者
小野﨑 晴佳 阿部 善也 中井 泉 足立 光司 五十嵐 康人 大浦 泰嗣 海老原 充 宮坂 貴文 中村 尚 末木 啓介 鶴田 治雄 森口 祐一
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.757-768, 2019-10-05 (Released:2019-11-07)
参考文献数
22
被引用文献数
3 2

Three radioactive microparticles were separated from particles on filter tape samples collected hourly at a suspended particulate matter (SPM) monitoring site located at ∼25 km north of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant (FDNPP), after the hydrogen explosion of reactor 1 on 12th March 2011. The 134Cs/137Cs radioactivity ratios of the three radioactive aerosol particles showed that they were derived from the FDNPP reactor 1, rather than reactors 2 or 3. The physical characteristics of these particles with < 10 μm in diameter and non-uniform shape are clearly different from those of radioactive particles generated by the hydrogen explosion of the FDNPP reactor 1. A significant amount of Cl was detected by energy dispaersive X-ray spectrometery. Synchrosron radiation microbeam (SR-μ-) X-ray fluoresence (XRF) analysis showed that these particles contain a series of heavy elements related to the nuclear fules and their fission products with a non-homogeneous distribution within the particles. In addition, the SR-μ-XRF identified trace amounts of Br in these particles; the element has firstly been found in radioactive particles derived by the FDNPP accident. In contrast to the hydrogen explosion-generated radioactive particles containing Sr and Ba, both of which are easily volatile under a reduction atmosphere, these elements were not rich in the particles found in this study. By the SR-μ-X-ray absorption near edge structure analysis and SR-μ-X-ray powder diffraction, it was found that these particles consist of an amorphous (or low crystalline) matrix containing metal elements with chemical states in a comparatively high state of oxidation or chloride. Based on these physical and chemical characteristics and a trajectory analysis of air parcels that passed over the SPM monitoring site, we concluded that these radioactive particles were generated and emitted into the atomosphere at the time of seawater injection for cooling the reactor after the hydrogen explosion.
著者
海老原 充 榊田 星史 泉 徳和
出版者
石川県立大学
雑誌
石川県立大学年報 : 生産・環境・食品 : バイオテクノロジーを基礎として (ISSN:18819605)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.23-30, 2008-03-31

環境問題の影響は、人間生活のみならず多くの動植物にも及び、様々な動植物種が絶滅の危機に瀕している。2003年に絶滅した日本産のトキをはじめとして、鳥類も例外ではない。こういった絶滅危惧種、あるいは生物資源の維持にためには、性的単一形が多く見られる鳥類の性別鑑別技術が欠かせない。本研究では、これまで鳥種別の条件にて行われることが多かったダチョウ、エミュー、ヒクイドリ、レアなどの走鳥類(平胸類)の雌雄鑑別を同一の条件で行える技術を確立するとともに、より簡便な羽軸からの安定したDNA調製を試みた。ダチョウ4個体、エミュー44個体、ヒクイドリ5個体、レア4個体、合計57個体から羽軸を採取しDNAを調製後、PCRによる雌雄鑑別を行ったところ、50個体において可能であった。雌雄鑑別が困難であった7個体中5個体は、同一個体の異なる羽軸を用いて再度DNAを調製することで雌雄鑑別が可能であった。さらに、雌雄鑑別に用いた性染色体特異配列kWl由来のPCR増幅物は、ヒクイドリ科に属するヒクイドリとエミューにおいてのみ、Z染色体上で重複が起きていることが観察された。これにより、ヒクイドリ科に属するヒクイドリとエミューのkW1配列は、系統分類上、ダチョウ科やレア科と分岐したのちに重複が起きたこと、さらに鳥類の性決定はZ染色体の発現量の影響を受けることから、性決定候補遺伝子探索のマーカーになる可能性が示唆された。
著者
大浦 泰嗣 本田 雅健 海老原 充
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, pp.157, 2009

Gibeon鉄隕石中の宇宙線生成安定核種<SUP>45</SUP>Scを放射化学的中性子放射化分析法にて定量した.本研究では0.0064ppbまでの<SUP>45</SUP>Scを定量することができた.ブランク値は0.001ppb以下であると見積もられる.<SUP>45</SUP>Sc濃度は宇宙線生成核種<SUP>4</SUP>He濃度と高い相関があり,Gibeon以外の鉄隕石で観測されている相関とよく一致した.Gibeon鉄隕石では,希ガス同位体を用いて2つの異なる宇宙線照射年代が観測されている.照射年代の異なる破片を分析したが,<SUP>4</SUP>He濃度との相関に系統的な相違は見られなかった.よって,Gibeon隕石で観測される短い照射年代は希ガスの損失によるものではないと結論できる.
著者
鈴木 健介 林 隆一 海老原 充 宮崎 眞和 篠崎 剛 富岡 利文 大幸 宏幸 藤井 誠志
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.169-174, 2014 (Released:2015-02-11)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

骨肉腫は骨原発の悪性腫瘍として最も多いが,頭頸部領域に生じる骨肉腫は全体の10%以下と比較的まれである。今回,われわれは下顎骨に発生した骨肉腫を6例経験したので,文献的考察を加えて報告する。治療法は6例全例で手術が施行され,4例は手術療法単独,2例で導入化学療法が併用された。導入化学療法が併用された2例においてはいずれも化学療法の効果は認められなかった。諸家の報告と同様に,初回治療で切除断端陰性の症例では長期生存が得られていた。頭頸部原発骨肉腫の治療の中心は外科的完全切除であるため,手術時期を逸することがないよう,導入化学療法の適応に関しては慎重になる必要があることが示唆された。
著者
海老原 充
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
地球化学 (ISSN:03864073)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.107-114, 1998-08-25 (Released:2016-12-25)
参考文献数
6
被引用文献数
1
著者
鶴田 治雄 大浦 泰嗣 海老原 充 森口 祐一 大原 利眞 中島 映至
出版者
日本エアロゾル学会
雑誌
エアロゾル研究 (ISSN:09122834)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.244-254, 2017-12-20 (Released:2018-01-12)
参考文献数
18
被引用文献数
2

The spatio-temporal distributions of atmospheric 137Cs concentrations in and around the Fukushima prefecture just after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant (FD1NPP) accident were retrieved, by measuring radionuclides in suspended particulate matter (SPM) hourly collected on used filter-tapes of operational air quality monitoring stations. Analyzing a published dataset of radiocesium (134Cs and 137Cs) at around 100 SPM monitoring sites, 10 radioactive plumes/polluted air masses in which the maximum 137Cs concentrations were higher than 10 Bq m-3 were found in the period of March 12–23, 2011. In these plumes, 5 plumes were transported to the eastern and/or central parts of the Fukushima prefecture, and another 5 plumes were transported to the Kantou area located more than 100 km south of the FD1NPP, respectively. In the period, the maximum 137Cs concentration of about 575 Bq m-3 was observed in the east coast of the Fukushima prefecture on the evening of March 12, 2011, after a vent process and the hydrogen explosion of Unit 1. Furthermore, high 137Cs concentrations of around 10 Bq m-3 were found in the northern part of the FD1NPP on the morning of March 21 when a strong northerly wind began to blow. These results indicate that further study is expected on the relationship between the release of radionuclides and the events happened in the reactors of the FD1NPP, and on the effects of the vertical structure of the atmosphere on the surface concentrations of radionuclides.
著者
平川 仁 鈴木 基之 西野 宏 佐藤 雄一郎 石木 寛人 篠崎 剛 海老原 充 新橋 渉 上條 朋之 岡本 牧人 別府 武 大堀 純一郎 松浦 一登
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.75-81, 2018

頭頸部癌終末期患者における症状について多施設調査を行った。根治不能頭頸部癌と診断され,癌の進行による状態悪化のために入院となった患者を対象とした。11施設から100人の患者が登録され,そのうち転院した患者などを除く72人が死亡まで観察可能であった。最終観察時における出血や滲出液を伴う自壊腫瘍を持つ症例は36.1%であった。またそれに伴う制御不能な出血を認めた症例は5例であった。1例は頸動脈破裂による急速な転機をたどった。残りの4例は出血および血圧低下による止血を繰り返し最終的に心肺停止となった。栄養経路に関して61.1%で経腸栄養摂取が可能であった。頭頸部浮腫は36.1%に認めた。喉頭発声による意思の伝達は50%で不可能であった。頭頸部癌の終末期症状は決して軽いものではない。しかしその症状・頻度,病態の理解が進み,適切な指針を今後作成できれば,患者は終末期の時間を自宅近くの医療施設もしくは自宅で過ごすことができるようになると期待される。